マスコミで医師強制配置論が花盛りですが、強制配置のネックは、
憲法第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
この「公共の福祉」は法律解釈でもかなり厳格なものがあり、
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医師は国家が養成しており、医療は公共の福祉のために必須のものであり、医師の配置は憲法22条に反しない
しかし正面から突破しないとしても側面からジワジワ包囲網を敷き、実質的に憲法22条を回避する手段を取ることは十分考えられます。その手法を取っても異論は出るでしょうが、異論を封じ込めるためにマスコミを使って盛んにプロパガンダしているのが今の状態と考えています。最後は正面突破されて強制配置されるよりはマシだろうの落しどころの選択枝も考慮に入れながらの可能性もあります。
強制配置を行なう上で行政が注意しないといけないのは、
- 強制配置されるのはあくまでも医師だけで、他の国民は無関係である
- 医師が一斉に団結しないようにする
- 研修病院の募集定数を研修医数に極力近づける
- 研修医の募集配分を厚生労働省が握る
この研修医に対する強制配置の巧妙なところは管理しているのが総枠規制だけで、研修医個人の志望は見掛け上は尊重されるところです。これなら憲法22所に抵触しないかと思われます。さらに研修医以外の医師からも大きな反論は出にくい構図になっています。猫の手も借りたい医療機関にとって、前期ももちろんですが後期研修医であれば、強制計画配置されれば異存などあろうはずもありません。当然ですが勤務する医師たちも歓迎します。研修医とそれ以外の医師は分断されコントロールできるわけです。
さらにこれだけではコントロールのきめ細やかさに欠けると考えたのか、さらなるエッセンスを盛り込む算段がなされているように感じています。強制色をなるべく薄めるために、強制配置ではなく「医師の自治」による「自主的配置」の体裁をとる方策です。医師の自治の小道具は日医以下の医師会になります。日医が医師の自治のための団体足りうるかについては、とくに勤務医からの猛烈な反発があるでしょうが、世間の常識的には医師を代表する団体です。さらに好都合な事に日医の力の凋落は著しく、行政優位で十分にコントロールできる代物になっています。
そんな日医のグランドデザイン2009に興味ある提案が書かれています。
現行制度では各臨床研修病院が研修単位になっているが、改革案では地域医療研修ネットワークを研修単位とする。研修医は初期研修の1 年間、出身大学が所在する都道府県の地域医療研修ネットワークに所属し、都道府県内で施設間をローテーションして、地域医療の全体像を経験する。
地域医療研修ネットワークは都道府県単位で設置し、都道府県医師会、大学、臨床研修病院、行政、住民代表で構成される(図1-2-10)。医師を育成していくためには、医学教育的な見地だけではなく、地域社会の理解と合意も重要であるからである。
現状、地方病院における指導体制が、都市部の病院に比べて、脆弱であることが背景にあることからローテーションは研修医だけではなく、指導医も対象とする。また、研修医の具体的なローテーションは、大学病院と大学病院以外の病院での研修とを必ずセットで行う。
ここの図1-2-10を示してみると、
並べるだけなら医師会や大学、研修病院代表が多そうで「医師の自治」で運用されそうに見えますが、注意して欲しいのはまず研修医の意思はここで消されています。さらにこの五代表の関係が微妙で決して、
こうはなりません。医師会、大学、研修病院の関係は同床異夢ですらなく、あえて構図にすれば、-
都道府県医師会 vs 大学
このネットワークの優秀な点は応用範囲が広いことです。このネットワークのメリットをもう一度まとめておくと、
- 医師の配置を決めるのは行政も含めるが、あくまでも「医師の自治」による自主的配置である
- 配置の実権を行政が握れる
- 医師個人の意思を抹消できる
- 医師側からの提案であるから国民世論も歓迎する
勤務先病院の網羅に強制を行なえば問題が生じます。あくまでも勤務先病院が自主的にこのネットワークに参加する形態を取らなければなりません。もちろんここですべての医療機関が参加する必要性はなく、目標は主要病院すべて程度になります。方策としてありそうなのは、
- ネットワーク参加による診療報酬上の一時的な優遇。
- 何らかの資格試験を設け、その資格のための指定条件をネットワーク参加に絡める
- 研修医の募集定員と密接にリンクさせる
それと勤務医に対するネットワーク効果としては、都道府県間の調整も行なう事も念頭にあると考えます。現行の医師派遣システムは、
現在の勤務医についてはどうかですが、徐々に制限がかかって行く進行を考えます。計画配置のためには状態の固定化と、統制された異動が必要です。ネットワーク傘下に入った医師の異動は最初は届出制ぐらいでしょうが、次に異動に委員会の承認が必要になり、最終的には事実上委員会の指令で異動が行なわれるステップが踏まれると考えます。いわゆる徐々に慣らして行くみたいな感じです。
この提案による日医のメリットは何になるかになります。小さくは現日医幹部の現世的利益がありますし、確実に享受されるかと思います。またこの勤務医の強制配置に次に来る施策が日医にとってメリットがあります。強制配置が実行されれば少なくない勤務医が開業に逃げる可能性がありますが、逃げ出せないように開業制限の方向性が当然のように出てきます。
開業制限もまたこのシステムの応用範囲に収まります。さらに開業制限で医師会がイニシアチブを回復できれば、現在の医師会員に歓迎されないはずはありません。医師会がイニシアチブを取れなくても開業を制限できるというだけで日医にとって、胸を張って会員に説明できる事柄になります。またここで恩を売っておけば、強制配置が日医が守るべき擁護者である開業医に及ぶのを防げるの計算もあるかと思います。どう転んでも損が無いのが日医です。
行政も日医を小道具として活用する一方で、勤務医と開業医を分断できますから満足できる展開です。さらに言えばこのネットワークを全国に張り巡らせ、維持管理運用するためには当然のようにこれを統括する新たな立派な機関が必要です。さらにさらにですが、医師不足状態が続いている間はその運用で、行政だけではなく政治でも様々なメリットを期待できます。
今日はいつもにも増して夢の無い話でしたが、現時点ではそんな可能性があるとだけしておきます。