日医の強制配置論

日医会長の御主張

4/2付m3.comに、

てな記事が出ています。リンク先を読める人は読んでもらえれば有り難いのですが、読めない人のために概略だけ説明すると、日医主導で医師強制配置を推進するとの意思表示です。

その上で「(センターが実現すれば)臨床研修医、中堅、ベテランの医師の配置調整を、大学や行政と連携しつつ、プロフェッショナル・オートノミ―に基づき、日医が主導できる」との見通しを語った。

この「センター」が何かと言えば、

同センターは、厚生労働省の「地域医療支援センター」や大学の臨床研修センターなどを発展的に1つの組織にまとめたもの

ぶっちゃけた話、日医版医局ぐらいの解釈で宜しいようです。でもって厚労省とも手に手を取り合っての構想もあるようで、

今後は、地域医療支援センターの充実と、国による医師派遣を現状の大きな柱として、日医の提案実現を目指す考えを示した。

日医会長の主張を読み直すと必ずしも厚労省と密接な協力関係を目指しているわけでもなさそうで、

  1. 当面は国による医師派遣システムと協力する
  2. 最終的には日医版医局が医師派遣を取り仕切る
最後に少し笑ったのは、

かつて、医師会が適正配置に向け地域に作っていた協議会が、公正取引委員会から排除命令が出された経緯に触れ、「(協議会がなくなり)ひずみが生まれた。行政と話しながら適正配置をどうするか議論する」と述べた。

だいたいこんな感じのお話です。


日医が医師を強制配置する方法を真面目に考えてみる

日医会長は日医が作った日医版医局で勤務医人事から、開業医配置まで御支配されたいように聞こえます。開業医の件はとりあえず今日は置かせて頂いて、勤務医の方に絞らせて頂きます。日医が独自に行うのであれば、基本的には厚労省の協力は得られないと見ます。ここで言う「協力」とは法改正とかのレベルです。

そうなると強制配置は現行法の枠組みで行われる事になります。現行法の枠組みとなると、日医は如何なる権限を持って医師に強制配置を命じる事が出来るかです。まさかと思っていますが、従来の医局人事的なものをそにまま移植するなんて構想は無いと信じたいところです。あれでも日医会長ですから、そんな痴人の夢みたいな考えは微塵ももっておられないと思う事にします。

では現行法で任意の地域への勤務命令を出すとなると・・・一番シンプルには日医が構想する「センター」が勤務医を雇うことです。でもって医師の派遣業務はできませんから、出向の形式で病院に業務命令で配属させるです。雇えば業務命令が発動できますから、これが最も無難かと存じます。無難とは思いますが、一番ターゲットになりそうな前期研修医終了後の医師数を考えても年間8000人弱います。一体どれだけ日医で雇うつもりだろうが出てきます。

当然ですが日医版医局以外の病院就職をどうするかがあります。この道を封じないと好き好んで日医版医局に就職したい医師がどれほど出てくるかは大いに疑問です。この手のものはm3記事にある

現在、都道府県医師会が持つドクターバンクとの連携の意向も示し、「ドクターバンクが設置されている都道府県は20あまり。設置していない自治体は、ぜひ置いてほしい」と要望した。

これと同じで地方僻地の需要が高く、供給医師数が少ないと僻地への片道切符になるのは現実です。つうか希望者が出た途端に奪い合いになって囲い込み状態になります。ただm3記事のこの部分でわかるのは、日医は網羅的独占を狙っていなさそうだと言うところです。網羅的独占であれば都道府県のドクター・バンクなど無用の代物に過ぎないからです。


そうなると日医が構想しているのは有料職業紹介事業になるのかもしれません。ただなんですが、有料職業紹介所は医師を雇用する必要はなくなりますが、一方で医師への強制権は有しません。あくまでも仲介ですから、就職を希望する医師がいて、そこに就職先病院を提示しても、医師が断ればそれで終わりです。これでは日医主導もクソもありません。有料職業紹介事業者は既設のものが活発に活躍していますから、使い勝手が悪ければ日医版を利用しなければならない必要性はありません。

もう少し実現可能なものは・・・有料職業紹介所と日医加盟の合せ技です。日医に加盟させる事によって暗黙の強制権を持たせ、あくまでも任意で有料職業紹介事業として配置を行うです。ただなんですが、そんなに回りくどい事に何故に参加しなければならないかの基本的な疑問があります。


日医への絶望感

私も日医会員です。これは開業時の様々な手続き上の問題で、地区医師会に入会しようと思えば日医も同時加入がルールだからです。もうすぐ10年になりますが、曲がりなりにも中に入ってわかったのは、開業医にとっては地区医師会はそれでも利用価値はあります。しかし日医はさしての存在感も有り難味もある組織ではありません。入らなくても良いのなら経費節約のために明日にでも脱退したいぐらいです。

実際に入っている開業でさえそうですから、勤務医にとってはもっと有り難味のない組織であるのは周知の事です。そんなに有り難味のある組織なら勤務医も雪崩を打って入会しているはずだからです。確かに勤務医会員はそれなりにいますが、殆んどは医師会とのお付き合いで何人かを入会させているところが多いかと思っています。心の底から入りたいと思って入会されている勤務医の実数は数えない方が宜しいかと思っています。

そこまで医師にとって有り難味のない組織が主導する強制配置組織、それも任意で医師を集める構想に何の意味があるのかと言うところでしょうか。日医構想が実現するぐらいなら、厚労省がこれまでに企画してきた官製医局構想はもうちょっと成果をあげたはずです。厚労省と日医の差は「カレー色のウンコ」と「ウンコ入りのカレー」ぐらいしか差がないと思われているからです。「カレー色のウンコ」が成功しないものが「ウンコ入りのカレー」にしたら人気沸騰なんて思う医師はまずいないかと存じます。


日医構想に現実味を帯びさせるなら、日医を弁護士会同様にギルド組織に改編するのが先ず第一歩です。第一歩と言いながらこれだけで途轍もない関門であるのは言うまでもありません。その上で、勤務医の人事権を特別立法を行って網羅的に掌握する必要が次にあります。これまた途轍もなく高いハードルであり、それこそ憲法問題にも容易に発展します。

そこまでの事をやろうと思えば日医は厚労省と密接な関係を構築する必要があります。密接とは曖昧すぎる表現で、日医が厚労省の外局の一つになるぐらいの関係です。そうでないと厚労省がわざわざ日医の権限拡大ために大汗をかく理由が皆無だからです。厚労省とて同じ大汗をかくのなら、わざわざ日医のために行うのではなく、医師強制派遣機構でも作って運用するだろうからです。

ま、日医的には厚労省が真綿で首を締めるように医師強制派遣制度を構築しようと目論んでいるぐらいはわかるでしょうから、そこに一枚噛ませて欲しいぐらいが関の山と見ています。つうか、そこにさえ噛む事ができないのであれば、ますます地盤沈下が進む懸念です。ここも懸念していてくれればまだしも前向きですが、日医執行部の天下り先にしたいぐらいであっても私は不思議とは思いません。それぐらい日医は信用も信頼もされていないです。


私も日医会員であり高い会費を払ってますから、日医には「いちおう」しっかりして欲しいの願いはあります。しかし日医は現在の組織形態、組織運用に何の疑問も持っていないのが現実です。日医を頂点とする医師会出世双六は上るのが大変なだけに、上るほど既得権意識が濃厚になります。また上るほどさらに出世したいのモチベーションがなぜか高まるらしく、その頂点に居る日医執行部の感覚は空恐ろしいほどです。

医療は確実に大きな曲がり角を迎えています。大袈裟に言えば危急存亡の時ですが、そういう非常時に動脈硬化が進行し、その自覚症状すら感じない日医が君臨しているのは大いなる不幸と思っています。もっと深刻なのは個人単位では悪人が居るわけでなく、むしろ親切な善人が多いと感じています。なんとなく状況として、

この言葉を思い出しています。