またぞろ日医が医師全入論を唱えておられるようです。それに因んで、これまでも何回かやった医師会ワールドの焼き直しを今日はさせて頂きます。
日医改革と言えば良く出てくるのが日医会長直接選挙論。もちろん99.9%の日医会員には無縁のものですが、末端会員が実際に参加できる選挙はどこにあるかです。これも常識的なんですが医師会組織は、
区医師会は都及び政令指定都市に存在しますが、煩雑になるので以下は原則的に郡市医師会に含める事にします。それぞれの医師会は建前上は別法人として独立していますが、内実は矢印通りのピラミッド組織となっています。末端会員が選挙として参加できるのは、郡市医師会の会長及び理事選出のみとして良いかと思います。他は地域柄にもよるでしょうが私は見た事も聞いた事もありません。では郡市医師会の会長及び理事選が華々しく行われるかと言えば、これも実質的には無いとして良いと思っています。まず理事(役員と同じです)はなり手をかき集めるのに四苦八苦状態のところが大半かと見ています。建前上は立候補なんですが、実態は
- 理事にやりがいを感じている人
- 回り持ちで義務をこなしている人
では会長はどうかと言うと、これは「理事にやりがいを感じている人」がほぼ年功序列で就任されます。対立候補が立つなんて事はまず滅多に無く、理事同様に信任投票が関の山です。郡市医師会も大小がありますが、大と言っても何万人も会員がいるところは無いはずで、せいぜい数百人から多くて千人規模ぐらいかと思っています。それぐらいの規模で熾烈な選挙戦なんて起こりようがないと言うか、起これば人間関係にヒビが入りますから無風で終始するぐらいのところです。
狭い世界の役員選出ですから回り持ちの無風になるのは理解できるのですが、これが医師会員の持つ実質の選挙権のすべてです。郡市医師会の上部機関にあたる事になる都道府県医師会、さらに日医役員の選出のための投票権は、ほぼ無風で選ばれた郡市医師会理事のみが選ぶ事が出来ると言うか、そこから多段でさらに選出された者のみが手にする事ができるシステムです。
日医まで続く医師会役員の選出の基礎はほぼ無風で選ばれる郡市医師会理事にまず限定されますが、建前はともかく後は推薦につぐ推薦が繰り返されていく事になります。推薦条件は
-
どれだけ雑巾がけを行ったか
- 月2回、区医師会の定例理事会への出席
- 理事は担当部署の市医師会の会議に出席
- さらに担当によっては県医師会への会議にも出席
- もちろん担当部署の区医師会の委員会にも出席
会議に出席しレポートを書き、朗読するのはルチーン業務ですが、もちろん実務もあります。医事紛争が起これば医師と患者側の両方の話しを聞き仲裁に当たり、仲裁でケリがつかなければ弁護士を立てるとか、保険会社と賠償金をどうするかもお仕事です。会報もまた理事が原稿を集め、編集し、印刷会社に依頼し、会員に配布の担当になります。区医師会主催の医療講演会みたいなものも演者の依頼から、会場の手配、ポスターの作成、これの貼付場所の決定、もちろん当日の司会や会場整理までお仕事です。会計担当ともなると・・・そりゃ大変そうです。
理事もペーペーから幹部級まで格付けがあるのですが上になるほど業務が増え、とりあえずのトップの会長となると眩暈がしそうなスケジュールをこなされています。なぜにこんなところまで出席されているか意味不明の会議が多数てなところです。実感としてこれでよく本業に支障が出ないものだと感心します。これも少々忙しくともそれに見合うお手当があれば「仕事である」と言えない事はありませんが、これまた実質として手弁当です。つまりはある種のボランティアです。
一概に言えませんが、こういう理事の業務を10年ばかりペーペーから幹部級まで立派に勤め上げると、年功序列で医師会長の声もかかり、さらには上の医師会から「功績」を認められて昇進の「推薦」を得られていくみたいなシステムと思ってもらっても、そんなに間違いではないと思っています。
どんな組織であっても新人としての下積み時代はあります。下積みの経験を重ねないといきなりトップになっても実務など出来ないからです。たとえば私が開業した翌年ぐらいでいきなり「区医師会長よろしく」とされても途方に暮れるしかありません。ですから困らないように先に様々な実務を経験し、身に付させているシステム自体は理解できない事はありません。
ただですが根本のところで非常な違和感があります。下積みの雑巾がけを好きな人は限られます。雑巾がけに励むのは平たく言えば将来の立身出世のためです。どこまで立身出世を期待するかは別として、下積みの雑巾がけをクリアしないとその世界で生きていけない切迫感が最大のモチベーションと思っています。医師だって必ずしも楽しくない研修時代を耐え忍ぶのは、一人前になって活躍する日を夢見るからです。
では医師会はどうかです。郡市医師会なんて完全に開業医のための互助組織です。町内会とか、自治会と同様で、あった方が良いだろうぐらいは共通認識としても、そこでの立身出世を期待する人間は限られます。別に医師会業務が仕事では無いからです。本業はあくまでも診療所経営であり、その余力の一部を回り持ちで医師会に向けるのは「仕方がない」ぐらいの位置付けです。医師会で立身出世をしなくとも痛くも痒くもないってなところでしょうか。
そういうところで雑巾がけに熱中できる人は限られるのは自然の流れと考えます。
医師会において雑巾がけ過程をクリアする事は、ある種の資格試験じゃないかと思っています。実態として誰でも手を挙げれば雑巾がけに参加出来ます。手を挙げなくとも回り持ちで嫌でも回ってきます。そういう意味での門戸は広いですが、資格試験自体は長くて厳しいものです。誤解無い様にお断りしておきますが、雑巾がけに励まれている方が誰しも医師会での立身出世のみを期待している訳ではありません。ビックリするほどピュアに地域医療のため、医師会のためと尽力されている方の比率が非常に高いのには逆に驚かされるぐらいです。
ただ長くて厳しいが故に、クリアする事は無意識でも末端会員と別の感覚を自然に持たれる感じがあります。特権意識とはチト違う感じで、う〜ん、そうですねぇ、あえて喩えれば運転免許みたいなもので、持っているからと言って自慢するようなものではありませんが、無ければクルマが運転できないぐらいの感じです。郡市医師会レベルではそういう意識より、資格会員をなんとか増やそうのベクトルが強そうで目立ちませんが、都道府県以上になると資格会員の活躍場所になりますからドンドン濃くなるぐらいの感じです。
そういう推薦による多段階選抜の頂点が日医執行部であり、日医会長であると見ています。
雑巾がけ資格試験をクリアされた方は、現在の医師会システムを積極的に肯定されています。これがまあ、何の疑問もなく心の底から無邪気に肯定されているので対応に困るぐらいです。たぶん雑巾がけ資格試験が長く厳しいが故に、ようやく取得された資格にある種の誇りを持たれ・・・ちょっと違うなぁ。誇りみたいな仰々しいものじゃなくて、もっと単純に資格の前提として「それがなぜ」なんて考える余地はない感じの方が良さそうな気がします。
そういうシステム肯定も郡市医師会レベルならさして問題ないと思っています。藤堂府県医師会なんて出席した事も無いので実情はまったく存じませんが、都道府県レベルでもさほど問題でもない気がします。都道府県以下のレベルの医師会の仕事は、ベッタリの地域のお世話であり、政治的と言っても自治体レベルの行政との折衝が関の山だからです。そういうレベルでは雑巾がけによる資格・経験はプラスに働く部分は少なくないと思うからです。
一番の問題は日医でしょう。日医が担当するのは国レベルとの交渉です。たとえを議員にすると判りやすいのですが、市町村議会議員(及び都道府県議会議員)と国会議員ではやってる事の差に明瞭に差があります。もう少し言えば国会議員で、
こんな過程の人物は非常に稀だと思っています。つうか、そういう過程を国会議員に条件として求めません(除く大阪市長)。つまりは地方自治と中央では求められる人材の質と能力で相違する部分が大きいからだと考えています。ですから雑巾がけ資格でも都道府県医師会まではデメリットよりメリットさえあるとも見れますが、日医ではデメリットが大きくなると考えています。相手の質が全然違うからです。医師会には
- 雑巾がけ資格者
- その他
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郡市医師会・・・雑巾がけ資格試験場
都道府県医師会以上・・・雑巾がけ資格者専用機関
タッチしたいのなら雑巾がけ試験に合格するのが必要条件です。雑巾がけ試験は別の角度から見ると、現システム肯定教習場でもあります。現在のシステムに疑問を抱き改革なんて志を抱けば、資格は年月で得られても昇進はかなわず、発言力も持てないぐらいです。
こういう強固な組織防衛システムでも平穏な時代であれば支障はありません。しかし今は激動の時代です。10年先の医療がどうなっているかを確実に予測できる者など、どこにもいないかと思っています。それはともかく、資格者にならないと医師会では事実上発言権はありません。当然ですが私にもまったくありません。ここで変わり者がいて勤務医でありながら発言権を得ようと思えばどうなるかです。
とりあえず雑巾がけ試験のクリアは非常に困難であるのは誰でもわかります。開業医が試験に挑めるのは診察時間以外にフリータイムを確保しやすいからです。勤務医が真昼間に行われる医師会の会議に毎週のように出席するのは非常に困難です。夜の会議だって容易ではありません。さらに異動があります。勤務医のキャリア評価は異動があっても確保されますが、医師会の雑巾がけ試験の評価は基本的に郡市医師会です。異動のたびに医師会的なキャリアは振り出しに戻りかねません。
勤務医でも評議員とかに名を連ねている方はおられますが、あれは特別枠に過ぎず、無資格者ですからある種のオブザーバー程度の実権しかないとしても宜しいかと存じます。
医師会に入会するとは
- 日医
- 都道府県医師会
- 郡市医師会
次にメリットとして、日医会長は会員全員による直接選挙を認めるべきです。完全な直接選挙が嫌ならば、せめて党首選ぐらいの権限を認めるべきでしょう。たとえば自民党の党首選では党員票(換算票)と議員票の合計で争われます。そこぐらいまで門戸を開かないと勤務医が医師会にわざわざ入会する気さえ湧かないと言うところです。
しかし仄聞するところによると、そういう気は毛頭ないようです。雑巾がけ非資格者に口を出させるのは「トンデモナイ」であり、現システムは「完成された芸術品である」と信じて疑わないようです。口を挟みたければ「雑巾がけの門戸は開いています」ぐらいでしょうか。言うまでもないですが雑巾がけ資格試験を受けるためには郡市医師会までのセット入会は必須であり、こんな「当たり前」の事は議論にすら値しないです。
日医が医師全入論を唱えだしている理由はなんだろうです。もちろん建前上は医師会は医師を代表する組織であると自負されているでしょうし、医師であれば勤務医だって当然入会すべきと考えてもおかしいとは言えません。その延長線上で単なる理想論を述べているだけの可能性はまずあります。もしそうであっても、日医が主張すれば下部組織も何らかの反応を行なわないとならず、理事の皆様におかれましては会議が増えて大変だと思います。
ここでなんですがポーズだけなら、そのうち医師全入アクション・プログラムみたいなものが諮問委員会みたいなところから答申されて、そのうちウヤムヤになるのがオチですが、さらなる具体的な計画が進んでいる可能性が噂されています。その理由が逆説的なのですが、勤務医にとっては何の魅力もない現在の医師会体制を堅持したまま全入論を唱えている点です。
つまりは嫌でも何でも弁護士会同様にギルド的組織に衣替えする計画です。ただしこれには法律改正が必要になります。法律改正と言っても、監督官庁にとっては医師が一枚岩に団結されるのは間違っても歓迎しません。そんな事をされるぐらいなら、今のままの方が百倍マシです。そんな厚労省をウンと言わせる裏交渉の進展です。
厚労省の賛同がないと法律的ギルド組織への転換は夢物語ですから、日医が出す条件としては、手も足も縛って頂き、首輪を付け鎖を繋いでもらうぐらいは条件として必要です。簡単には厚労省の子会社、下請け、事実上の一部局みたいな地位になるぐらいです。まあ、そんな話があるのか、ないのか、あってもどれだけ進んでいるのかは外部からは窺いようもありません。
あえての憶測を重ねれば、病院経営者サイドの団体は医師への労基法適用除外とか、医師の強制計画配置とかを医療基本法を作る事によって正面突破を行うと公言(事情でソースが提示し難いのですが断片がメディファックスにあります)されているようですから、その辺との動きの兼ね合いと言うか主導権争いの一面かもしれません。
どうにもキナ臭そうな話ですが、もう裏では既定路線としてかなりの段階まで進み、それが実現する前提で日医の生き残り戦略と言うか、存在位置の確保なんて戦略構想で動いているのでしょうか。どうなっている事やらです。