横浜市救急医療センターとは
- 夜間急病センター
- 救急医療情報センター
指定管理者制度(していかんりしゃせいど)とは、それまで地方公共団体や外郭団体に限定していた公の施設の管理・運営を、株式会社をはじめとした営利企業・財団法人・NPO法人・市民グループなど法人その他の団体に包括的に代行させることができる(行政処分であり委託ではない)制度である。
どうにも「委託でなく代行である」と言われてもどう違うか良く理解できないのですが、おそらく委託より裁量権が広いんだろうぐらいに解釈しておく事にします。それでもってその横浜市救急医療センターにドタバタ騒動が起こっているようです。事の発端は2006.2.7付神奈川新聞より、
横浜市救急医療センター(中区桜木町)の指定管理者候補に同市内の病院でつくる「市病院協会」(荏原光夫会長)が決定したことをめぐり、同市内の開業医らが中心の「市医師会」(今井三男会長)が医師派遣に「協力できない」と反発している。「病院」と「開業医」の対立を受けて、市会委員会では6日、医師の人員確保や選定方法に疑問を呈する指摘が相次いだ。
同センターは1981年に夜間急病センターとして開設され、市が医師会の協力を得て「市救急医療財団」(現・市総合保健医療財団=今井理事長)を設立した経緯がある。センダー運営はこれまで医師会員の派遣などで成り立っていた。
ところが、今回の指定管理者選定では同財団は次点となった。医師会が開業医ら約2千人を擁するのに対し、病院協会は115の病院が加盟する。
どうもなんですが、病院協会と医師会が指定管理者指定を巡って争い、医師会側が負けるという事が起こったようです。指定管理者は公募で行なわれるようですから、条件が良ければ病院協会が勝っても不思議ないのですが、これまで運用してきたとの自負のあった医師会がある程度怒るのはあるかもしれません。この後に医師会が協力したかどうかは分からないのですが、この経緯も伏線にはなっていると考えます。
医師会に勝った病院協会ですが、ここが不祥事を引き起こします。2008.9.12付神奈川新聞から、
横浜市は十二日、市救急医療センター(中区)を管理運営する市病院協会の指定管理者を取り消すことを決めた。市の補助金不正受給をはじめとする一連の不祥事で、同協会は市に指定管理者の辞退を申し入れていた。市は同日開かれた市会常任委員会で報告したが、各委員は融資審査会に市職員が参加していた経緯などを重視。「不正を見逃した」などとして、市側の責任を追及する声が相次いだ。市側は「チェック体制が不十分だった」などとして謝罪した。
新たな指定管理者は来年七月までに決まる見込みで、それまでは同協会が管理運営を続ける。
市によると、病院協会は病院情報システム更新事業などで執行額を水増し請求し、約五百七十万円を不正に受給した。
どんな内容の不正受給なんですが、横浜市会議員の広報紙から引用してみると、
市の調査で、病院協会は2003〜06年度にかけて、市民向けの医療機関情報を掲載したホームページの更新や治療計画書の普及・作成システム開発などをめぐって、市の補助金約550万円を不正に受給したことが発覚。
また、同協会が指定管理者になっている市救急医療センター(桜木町)の研修室改修工事が、同協会と「一心同体」とする神奈川健康福祉経営協同組合(健福協)を経由して発注され、発注額の1割が健福協に入るなどの不正が明らかになりました。さらに、同協会の会計担当理事の塩原和夫氏が理事長をやっている病院が、看護師宿舎として市から無利子融資を受けたマンションが健福協の倉庫に使われていたことなども発覚しました。
よくある古典的な手法ですが、病院協会もそれを行なったようです。結果として、
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市救急医療センター(中区)を管理運営する市病院協会の指定管理者を取り消すことを決めた
横浜市は二十六日、市救急医療センター(同市中区)の指定管理者の再公募について、「応募がなかった」と発表した。「医師不足」が主な理由という。市健康福祉局は「今後のスケジュールは未定だが、早急に対処したい」と説明している。
市は今後、問い合わせをした事業者などを中心に聞き取り調査を行い、応募がなかった原因を分析。その上で、市の選定委員会を開き、再々公募を行うか、特定の事業者を指定する非公募とするかを審議する。
補助金不正受給事件による市病院協会の指定管理者取り消しで市は十月、医師会や救急告示病院など約二百の事業者に文書などで通知したが、応募はゼロだった。複数の事業者が医師不足に加え、「患者数が減った場合のリスク分担が不明確」と指摘したことから、年間の患者数が2%以上減った場合、減収分を市が負担するなど公募条件を変更。十二月三日から二十五日まで再公募に臨んだが、応募はなかった。
再公募しても誰も応募者がなかったということです。再公募と言うからには最初の公募もあったのですが、その時の理由として二つあげられています。
- 医師不足
- 患者数が減った場合のリスク分担が不明確
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年間の患者数が2%以上減った場合、減収分を市が負担
委員の一人は「2%が妥当かどうか不明」と指摘。市側も「数字に特に根拠があるわけではない」と説明
オイオイと言いたくなるような話ですが、2008.12.2に行なわれた第2回選定委員会議事録には、
こう書かれているのはもしかして「ドンブリ勘定」の疑念が出てきます。この辺はマスコミの編集権の問題も絡んできますが、判断が微妙なところです。とにもかくにも応募者ゼロのため横浜市が取った対応は、2/24付神奈川新聞(Yahoo版)より、
横浜市は二十三日、市救急医療センター(同市中区)の指定管理者が再公募でも応募がなかったことを受け、補助金不正受給問題で指定管理者の取り消し処分が決まっている市病院協会を二〇〇九年度末まで管理者とする方針を明らかにした。今年七月に予定していた処分実施を延期し、「不適当」と認定した事業者に業務を継続させる極めて異例の措置。市の見通しの甘さや、ずさんのそしりを免れない対応に、市会からは責任を厳しく追及する声が上がっている。
市は引き続き指定管理者選定を急ぐが、三月上旬に第三回市救急医療センター指定管理者選定委員会を開催。再公募でも応募がなかった原因を検証したうえ、センターへの指定管理者制度導入の継続が妥当かどうかや、市の直営(業務委託)にすることも含め運営方法を再検討する。
病院協会の補助金不正受給を理由に指定管理者の取り消し処分を行なったものの、誰も新たに指定管理者に名乗り出るものが無かったため、
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今年七月に予定していた処分実施を延期し、「不適当」と認定した事業者に業務を継続させる極めて異例の措置
ずさんのそしりを免れない対応
ここまで言うのはどうかと外野にいる者は思います。病院協会が指定管理者の取り消し処分を受けた理由は補助金不正受給ですし、この辺は感覚なんでしょうが、あの時点で取り消し処分は「重すぎた」と言うことでしょうか。たしかに厳重注意ぐらいに留めておけば、公募しても応募がないと言うドタバタ騒ぎはなかったでしょうが、それで良かったのかの問題は出てくるように感じます。
横浜市の計算違いは、2006年時点では医師会と病院協会が全面対決するほど人気があったはずの横浜市救急医療センターの指定管理者が、たった2年で誰も引き受けたがらないものに変質した事です。強いて横浜市の不手際を上げるとすると、この2年の変化を洞察する事が出来なかった事になります。それと記事情報だけでは判然としないのですが、公募のハードルになっているのは、
- 医師不足
- 患者減のリスク分担
ただ収支決算も平成19年度のものが横浜市救急医療センター事業概要の52ページにあるのですが、
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収入の部:4億9783万7548円
支出の部:5億358万7273円
収支差額:△574万9725円
医師の手配に四苦八苦した上に赤字確実の指定管理者に誰も手を挙げなかったと受け取る事が出来ます。この赤字額も実に興味深い金額でして、病院協会が記事情報で確認できる補助金不正受給額の
約五百七十万円を不正に受給した
これにほぼ匹敵します。ここからは完全に憶測なのですが、病院協会が医師会に喧嘩を売ってまで指定管理者の座を奪ったのは、こういうカラクリによる旨みを計算した可能性を考えます。2006年当時が黒字会計であったのかどうかは不明ですが、赤字であってもその他のメリットがあれば経済的に引き受けるメリットが生じます。その前の医師会の時にはどうであったかなんて調べようがありませんが、何かあったから病院協会は2006年に指定管理者を獲得したとも考えられます。だからこそ医師会も激怒したと言うわけです。
ところが補助金不正受給が表沙汰になれば、当然のように補助金運用の厳格化が行われ、補助金運用による旨みが消えうせた事は十分考えられます。つまり厳格化により、横浜市医療センターの指定管理者になっても表も裏もない赤字事業の請負になってしまったとの考え方です。赤字事業の請負となれば、慈善事業みたいなものですから、医療経営の厳しい中で手を挙げるものなど誰もいなくなったと考える事もできます。
もちろん真相は不明です。