のぢぎく県の募集要項

ネタ枯れなのでリサイクルでお茶を濁します。2008.9.30付「のぢぎく県の新制度」で一度触れたお話ですが、当時の報道記事を2008.9.27付読売新聞・兵庫より、

新人医師採用へ特典 県が新制度

地方勤務後、最先端機関へ

 深刻な医師不足に悩む県は、後期研修(専門医)を終えた新人医師を対象に、地方勤務後に、高度医療機関で働くことができる〈特典〉を盛り込んだ新たな採用制度を始める。県内の県立病院は医師不足に伴う入院・外来患者数の減少で、昨年度決算は45億円の赤字を計上するなど、厳しい経営状況が続く。県は「専門の医療設備が充実した職場は、若い医師たちにとって魅力的に映るはず」と来年度の勤務を見据え、10月から募集をする。

 県立柏原病院では2004年度に43人いた医師が今年度は20人に減少するなど、県北部の医師不足が顕著という。

 採用はこれまで病院単位が中心で、特にへき地の県立病院には人が集まらない状況が続いていた。新制度では、後期研修を修了し、県内の医療機関での勤務を希望する医学部卒業後6年目以降の医師(定員は30人程度)を募る。

 期間は4年間で、最初の2年はへき地を含む公立病院での勤務になるが、残りの2年は災害医療センター神戸市中央区)やこども病院(同市須磨区)、がんセンター(明石市)など、県が指定する最先端医療機関での勤務が認められる。また、県は、研修・研究費の負担も検討している。

 県によると、県の病院事業は、769億円の累積赤字を抱え、貯金に相当する内部留保残高は約5億円と、ピーク時(2002年)の20分の1になるなど危機的状況に陥っている。

 県医務課(078・362・3243)の担当者は「地方勤務はしんどいだろうが、高度医療機関で勉強できるのは価値がある。大勢の応募があれば良いが……」と話している。

去年もあんまり応募はないと予想していましたが、結局応募は1人だったそうで、募集期間の延長が行われています。今日は兵庫県HPにある平成22年度 兵庫県地域医師の募集についての応募条件を見直しながら、なぜ「1人」しか応募がないのかの原因を探るという「無駄」をしてみたいと思います。


まず募集要項の冒頭の誘い文句です。結構重要なところで、ここだけ読んでそれ以外の条件を検討するかどうかの判断がなされるところです。

 兵庫県では、深刻な問題となっている公立病院等の医師不足を解消し、救急医療をはじめとする地域医療を守るため、県内の公立病院等に勤務する医師を以下の要領で募集しますので、皆様のご応募をお待ちしています。

かなりの方々は瞬間的に「僻地で救急」のフレーズが頭に閃き、その瞬間に以下の条件は読まずにページを閉じられるかと思います。それでも挫けずに読み続けるのは、ブログの種にしようと言う特殊なマニアと、

  1. 僻地で救急を是非やりたい
  2. 僻地で救急に従事する代わりにペイが欲しい
この2種類の医師が読むと推測されます。次は募集人数ですが、

募集診療科・募集人数

  1. 募集診療科




  2. 募集人数(採用予定人数)


      30人程度

あえて気になるのは「30人」の根拠です。もし30人がそろえば僻地とは言え少しは余裕がある労働環境が実現するのか、単純に病院の定数に30人足りないだけなのかです。これも詳しくは知らないのですが、但馬の医療確保対策協議会報告書があり、その3ページに


2004.4 2005.4 2006.6
185 177 164 21


2006年6月時点で2004年4月時点より21人減っていますし、現在これが持ち直したとは聞いた事がありません。そうなると県立病院も合わせた欠員の補充と考えるのが妥当になります。

採用予定時期・勤務期間・勤務先

  1. 採用予定時期 


      平成22年4月1日


  2. 勤務期間


      4年間。ただし、本人の希望があり、勤務成績が良好な場合はさらに4年間継続して勤務できる。


  3. 勤務先


    1. 採用後1〜2年目:県が指定する公立医療機関等(県内の医師不足地域等において政策医療を担う中核的な病院等)
    2. 採用後3〜4年目:県が指定する高度医療機関(うち1年は県外・海外の医療機関も可)


        注1 いずれの場合も、県職員の身分を持ったまま、指定された医療機関で勤務する。
        注2 4年間終了後、さらに勤務を継続した場合の勤務先も同様。
        注3 勤務期間終了後も県内勤務を希望する場合は、相談に応じる。
  4. 選考方法


      応募書類審査及び面接

この点はまえにやったのでアッサリ流しますが、読んで目に付く点は、この応募で県職員になると人事権は県にあると言う事です。県職員なら人事権は県にあるのが常識と思われるかも知れませんが、ここの説明は省略します。また4年間の期限を過ぎた後に勤務を希望すれば採用は絶対続きますが、高確率で5年目以降は僻地に逆戻りと言うか、片道切符の固定であろうとも読み取ります。都市部の県立病院の人事権の問題が絡むと言うことです。

身分・勤務・待遇等

  1. 身分


      県正規職員


  2. 勤務時間


      週40時間勤務(別途平日及び土・日・祝祭日の宿日直有)


  3. 待遇等
    1. 給与


        派遣先の病院の規定に基づき支給(給与の決定に当たっては県の給与水準との均衡を考慮)

          (参考)年間給与の概算

          10,000,000円程度(平成21年4月現在、但馬・丹波・淡路地域の地域手当、初任給調整手当、期末勤勉手当を含んだ額。その他諸手当(宿日直手当、扶養手当、通勤手当、住居手当等)あり)


    2. 研究・研修費の助成


        採用期間中、研究・研修のための経費について実績に応じて助成する。

        対象経費:学会・研究会等会費・参加費・参加旅費、専門医受験費用、医学学術データベースアクセス料、医学関係図書購入費

        上限額:50万円/年


    3. 宿舎宿舎の利用が可能(一部自己負担有)

「週40時間勤務」なんて微笑ましい事が書いてありますが、ここは名目上の勤務時間の合計である事は言うまでもありません。そんな冗談はどうでもよいのですが、やはり「僻地で救急」と言う条件ですから給与は気になります。参考給与の概算はやたらゼロが並んでいますが、1000万円です。のぢぎく県の公立病院の給与が安いのも良く知っていますが、

    但馬・丹波・淡路地域の地域手当
ここまで入って年間1000万円です。1000万円と言う金額は大金ですが、この程度の金額なら「僻地で救急」をやらなくとももらえます。つまり金額的には魅力が殆んど無いものです。別に比較と言うわけではありませんが、北海道ぐらいになればこの2〜3倍は期待できます。冒頭の応募条件を読んで、なお応募を検討しようかと思った医師は、
  1. 僻地で救急を是非やりたい
  2. 僻地で救急に従事する代わりにペイが欲しい
こうとしましたが、ペイを求めるタイプの医師はこの時点で他を当たります。そうなれば残る医師は「僻地で救急を是非やりたい」に限られるかと思われます。そういう医師がいないとは言いませんし、現実に「1人」応募があったわけです。ただ後29人も出現するかと言われればチト疑問です。これに類似の制度はあちこちの自治体や病院で行なわれており、あえてのぢぎく県の制度に応じてもらうには「僻地で救急を是非やりたい」に加えて「のぢぎく県で是非働きたい」も必要だからです。

それと地域手当から働く病院も推測できます。県立病院と公立病院が候補に上がりますから、僻地病院として、

    県指定公立医療機関:県立柏原、県立淡路、公立豊岡、公立八鹿、公立日高、公立出石、公立梁瀬、公立和田山、公立香住、公立浜坂、公立村岡
    県指定高度医療機関:県立がんセンター、県立姫路循環器病センター、県立粒子線医療センター、県立こども病院、災害医療センター
県外やましてや海外の医療機関への派遣は県が支度してくれると思えず、あくまでも自力でのものと考えるのが妥当です。それと気になったのは、
    採用期間中、研究・研修のための経費について実績に応じて助成する
特典だと思うのですが、この「地域医師」以外の現在踏ん張っている今いる医師にはこの恩恵は無いのでしょうか。招く医師も大切ですが、それ以上に大切なのは今頑張っている医師たちです。今頑張っている医師たちがまた減れば、30人募集して1人しか応募の無い「地域医師」の募集枠だけ増える事になります。そこの視点を欠いたら、たとえ集められてもそれ以上に欠け落ちる危険性さえあります。


正直なところこの条件で30人も集めようと言うのは、現在の医師不足の現状から非常に厳しいと思います。よく「1人」でも応募があったものだと感じます。なぜ集まらないかの理由などは至極簡単で、もっと条件の良い就職先が「おいで、おいで」して待っているからです。県が盛んに強調する高度医療機関で勤められる特典も、たとえば姫循では、

医師(常勤医)募集

内科・外科・麻酔科・脳神経外科・高齢者脳機能治療室・循環器内科・心臓血管外科・神経内科

がんセンターでは、

医師募集

兵庫県立がんセンターでは下記のとおり、医師(正規または専攻医)を募集しています。

1 診 療 科: 消化器内科、乳腺科、婦人科、麻酔科

粒子線医療センターはよく存じませんが、こども病院なら神戸大学医局に入局すると言う手もあります。まあ、前のエントリーでも指摘があった、やる気は無いけど、金をかけずにポーズのためだけにやっているというのも頷けないこともありません。もう一つ、今さらどうしようもないのですが、自治医大卒業生の長年の冷遇のツケも確実に払わされています。そのツケをお座なりの募集で払おうとするのはかなり難しい様に感じます。



最後にこの募集要項が魅力的になる可能性をあえて考えます。この医師の身分は、

    県正規職員
今でも県正規職員としての医師はもちろんいますが、従来の県正規職員の医師とは意味合いが少々違います。従来の県正規職員の医師はあくまでも医局人事でたまたま「県正規職員」であるだけの事で、下手すると自分の身分がどうなっているか把握していない医師すらいます。つまり名目は県正規職員であっても公務員意識は皆無に等しいと考えています。

ところが今回は正真正銘の県正規職員です。つまり本当の地方公務員としての県正規職員です。もう少し言い換えれば、普通の公務員感覚として働く県正規職員で良いのであれば、「僻地で救急」であろうと「並みの給与」であろうと話は変わる部分が多少あるんじゃないかと思います。また「遅れず、休まず、仕事せず」の「三ず」を体現しても、県正規職員ですから、

    4年間。ただし、本人の希望があり、勤務成績が良好な場合はさらに4年間継続して勤務できる。
何を書こうが、4年どころか定年まで当然勤務できます。勤務の継続を希望する県正規職員をこの程度の理由で解雇など出来るわけがありません。そこまで考えると、山鹿市の奨学金の時に考えた、高齢国試合格者なんかには魅力的かも知れません。そこで私ものぢぎく県民ですから、冒頭のキャッチフレーズを再考してみると、
     医師の過剰労働に喘いでいる方に、のぢぎく県から新しい提案「公務員としての医師ライフ♪」です。公務員はきっちり働き、きっちり休むのが身上で、過剰労働の防止には県と官公労のダブルチェック機構が働いています。もちろん今回募集の公務員医師も同じです。人間らしい医師ライフを送るなら公務員医師と言う選択をのぢぎく県は自信を持ってお勧めします。

     この公務員としての医師ライフは、医師としての熱いハートを持ちながら、年齢故に理由無き冷遇をされている国試高齢合格者の皆様にもお勧めです。研修は終わったものの不安定な地位の勤務場所よりも、寄らば大樹、安定と安心が持ち味の公務員医師はあなたのライフプランにピッタリです。定年まで確実な勤務保証が約束されます。

      それと今回だけの豪華特典で、2年間の地方病院勤務の後は、ドド〜ンとのぢぎく県が誇る高度医療機関勤務がお約束されます。それだけではありません。特典期間中は研究費も手厚い助成があります。

     こ〜んな、こ〜んな、お得な公務員医師を、のぢぎく県は太っ腹、なんとなんと30人も募集します。早い者勝ちでですから、お問合せの電話は今すぐお願いします。
これぐらいにすれば、あと5人ぐらい騙されないかな・・・