どう取るか

10/15付けYOMIURI ONLINEより、

医師の人材派遣を拡大、民間参入は排除…厚労省方針

 深刻化する医師不足に対応するため、厚生労働省は15日、医師ら医療従事者の人材派遣をへき地以外の病院にも拡大する方針を決めた。

 同日、労働政策審議会の部会で了承された。ただし、同部会でも民間派遣業者の参入を懸念する声があがったことから、地域医療を担う人材確保に必要と判断された病院に限り、都道府県を通じた派遣を認めることにした。厚労省は今後、政令を改正し、年内にも実現する見通しだ。

 労働者派遣法では、医師や看護師ら医療業務の人材派遣は禁止されており、元の病院に在籍したまま、別の病院で勤務することは違反に当たる。ただ、これまでも、産前産後や育児、介護中などで休業している医師の代替要員やへき地の病院に勤務する場合に限り例外として認められていた。今回は、この例外をさらに拡大する。医療機関からの派遣の要請を受け、都道府県に設置された医療対策協議会が必要と認めた場合、都道府県内の主要な医療機関から人材を確保して派遣するという仕組みになる。

 これまでの労働政策審議会の部会では、日雇い派遣の急増など派遣を巡る問題が山積する中、労働側の委員から「医療の安全を確保するため、派遣元を医療機関のみに限定して、民間企業参入を認めないようにすることが必要」などという意見が出ていた。そのため、厚労省は、派遣元を医療機関のみに限定する方針だ。

(2007年10月15日13時42分 読売新聞)

おそらくですが、緊急臨時的医師派遣システムの整備拡充の一環と見ています。壊してしまった医局による医師派遣制度では僻地医療が維持できなくなったので、都道府県内の主要な医療機関、すなわち統制の利く、公立病院や日赤などの準公立病院の医局化を構想してのものではないかと推測されます。

ここで

    民間参入は排除
とありますが、理由としては、
    「医療の安全を確保するため、派遣元を医療機関のみに限定して、民間企業参入を認めないようにすることが必要」
となっており、建前としては理解できない事はありません。では万々歳かといえば、少し引っかかるようにも感じます。民間業者の参入が善とは言い切れませんが、これを排除すれば代わりに国による独占統制になります。勤務医として公立病院でキャリアを積もうと思えば、オマケとして漏れなく僻地勤務義務を課せられると読めます。従来の医局人事の代役に過ぎないと見れないこともありませんが、国が一元管理という辺りに不気味なものを感じざるを得ません。

命令指示系統は記事によると、

    医療機関からの派遣の要請を受け、都道府県に設置された医療対策協議会が必要と認めた場合、都道府県内の主要な医療機関から人材を確保して派遣するという仕組み
都道府県に設置された医療対策協議会の上部機関には地域支援中央会議が頑張っていますから、仕組み的には厚生労働省による人事一元管理に見えます。そんなに国による統制を嫌わなくても良いという意見もあるでしょうが、私的には居心地の悪い構想です。国の管理となれば、医師人事は医師でなく役人の管理になるところがどうにも居心地が悪い感覚です。この管理が行なわれて次に行われそうなことは、
    待遇の一元化
派遣先ごとに給与が著しく異なれば、これはこれで問題になります。一元化が高い基準でそろえられたら問題は少ないのですが、誰が考えても低い水準で統一基準が作られるだろうと考えられます。主要な医療機関はその最も低い水準に給与は引き下げられ、僻地派遣の時には気持ちだけの僻地手当がつくかつかないかです。可能性としては「地方の財政事情に配慮」して全く同じにする意見が支配的になる可能性もあります。

さらに一元化して、とくに県内に有力私立病院がない所では、地域事情として更に引き下げられる可能性が生じます。医師の給与を下げることについては誰一人反対しませんし、看護師以下になってもさしての異論が出ないからです。某県の鼻息の荒い地域では、「医師に付け上がらせるな」の声が大きいとも聞いた事がありますので、要求すれば派遣される医師への優遇など論外と考えているところも少なくないかとも考えます。

昨今、医師の待遇について優遇論が一部でも出てきているのは、医師不足で優遇しないと医師が「確保」できないからです。それが要求すれば湧いて来るシステムに戻ればどうなるか、だいたい想像がつきます。そういう意味では、競争相手として民間業者が存在すれば、バランスが取れるかとも思うのですが、どんなものでしょうか。

もっとも国家統制医局になった時に、どれほどの医師が集まるかが一つの問題です。また既存の医師も派遣命令にどれだけ従うかも見ものです。国や自治体が思うほど、公務員である事に医師は重きを置きませんから、「嫌だ!」と感じれば去っていきます。現在でも都道府県の主要な医療機関といえども、溢れるほど医師を抱えているわけではなく、むしろ医師不足にピーピー言っているところが多いので、病院自体がホイホイと派遣命令に従うかも興味があります。

これは根本的な疑問ですが、都道府県の主要な医療機関も余剰な医師を抱える体制になっていません。派遣するには余剰な医師が本来必要なんですが、経営上の縛りは大きく、雇えない体制です。派遣するほどの医師を雇えば、人件費がかさみ、放漫経営の謗りを受ける事になります。また殆んどの都道府県、市町村でそんな余裕を示せる財政力があるところはありません。あるとしたら東京都ぐらいでしょうか。

大学医局が余剰医師を抱えられたのは、無給の医師を抱え込めるシステムがあったからです。良いシステムとはいえませんが、そういうカラクリで派遣する医師を抱えられ、さらに学位などのニンジンをぶら下げて拘束してきた側面があります。国家統制医局にそこまでの事が出来るかは興味のあるところです。

民間参入排除をどう取るかですが、厚生労働省による医師人事統制達成のためのステップに見えます。民間搾取と較べてどうかは何とも言えませんが、並立すればお互いに牽制が生じます。それが独占となれば・・・制度に枠を作るのはお手盛りで成功したようですが、マグネットホスピタルと構想を紙の上に書いただけでは薄給・僻地勤務付で医師が集まるか疑問です。

なんと言っても何回かこの手の派遣計画を読みましたが、前提として医師が主要医療機関にどんな条件でも厭わず集まってくるとなっており、集める努力は病院であり、集まった医師を自由に配置するのは官僚としています。医師が集まってくるように予算をかけるとは読んだことがありません。

取り上げるほどの話題ではなかったかもしれませんが、現在の情勢で国家統制医局に派遣病院を維持するほどの医師が集まるか、それどころかそういうシステムに変更したとき、現在の在籍医師がどれだけ目こぼれするか、またしてもやってみたら誰もいなくなったとなる様な気がしてなりません。ま、そうなっても想定外の事態で誰も責任を取らないのだけは間違いありませんが・・・。