10/16付けAshahi.comより
救急延命、中止に指針 本人意思不明なら医療チーム判断
2007年10月16日06時03分日本救急医学会は15日、救急医療の現場で延命治療を中止する手順を示した初のガイドライン(指針)を決めた。治療しても数日以内に死亡が予測される時、本人の意思が明らかでなく、家族が判断できない場合、主治医を含む「医療チーム」で延命治療を中止できるとしている。終末期医療をめぐるあり方には、日本医師会が「尊厳死」を容認する報告をしているほか、今春、厚生労働省の検討会が指針をまとめた。しかし、終末期の定義や人工呼吸器を外す手続きを具体的に定めた指針は学会レベルとして初めてとなる。
学会は、2月に公表した指針案について、会員や国民から意見を募り、寄せられた207件の意見や提言をもとに一部を修正し、この日、大阪市であった評議員会で賛成多数で承認された。救急の現場では、本人や家族の意思確認ができずに延命治療が続けられるケースがある。しかし、医師の判断で人工呼吸器を外した結果、刑事責任を問われることがあり、「ルールづくりが必要」という声が上がっていた。国も指針づくりに乗り出し、延命治療の中止をチームで判断することを求めた。ただ、患者の意思を基本とし、終末期の定義や中止容認の条件などは先送りした。
学会の指針では、終末期を「突然発症した重篤な疾病や不慮の事故などに対して適切な医療の継続にもかかわらず死が間近に迫っている状態」とし、具体的には、脳死と診断されたり、人工呼吸器などに生命の維持を依存し、移植などの代替手段がなかったりするなど四つの状態を挙げた。
一方、末期がんなど慢性疾患で入院している患者は対象に含まない。
終末期と判断した後は、家族らが(1)治療を希望(2)延命措置中止を受け入れる(3)意思が不明確、あるいは判断できない(4)本人の意思が不明で、身元不詳などの理由で家族らと接触できないに分け、(1)以外は、人工呼吸器の取り外しや薬剤をやめる際の手続きを定めた。(4)の場合も、医療チームで治療中止を判断。チームで結論が出なければ院内の倫理委員会で検討するとした。
指針作成にあたり、刑法学者らからも意見を聞いた。学会特別委員会委員長の有賀徹・昭和大教授は「延命治療を中止した際、司法の介入を招く事態も起きている。だが、ガイドラインに沿って判断すれば、法的にとがめられるはずがないと考えている」と話した。
これについては日本救急医学医会より救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)が発表されており、これも参照しながら記事を読んでみたいと思います。
気にかかる部分として、
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終末期の定義や中止容認の条件などは先送りした
(1)終末期の定義とその判断
救急医療における「終末期」とは、突然発症した重篤な疾病や不慮の事故などに対して適切な医療の継続にもかかわらず死が間近に迫っている状態で、救急医療の現場で以下1.〜4.のいずれかのような状況を指す。なお、以下1.〜4.の判断については、主治医と主治医以外の複数の医師(以下、「複数の医師」という)により客観的になされる必要がある。すなわち、死が間近に迫っている状態で、
- 不可逆的な全脳機能不全(脳死診断後や脳血流停止の確認後なども含む)と診断された場合
- 生命が新たに開始された人工的な装置に依存し、生命維持に必須な臓器の機能不全が不可逆的であり、移植などの代替手段もない場合
- その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を継続しても数日以内に死亡することが予測される場合
- 悪性疾患や回復不可能な疾病の末期であることが、積極的な治療の開始後に判明した場合
私が素直にガイドラインを読む限り、終末期の定義は具体的に書かれています。これを「先送りにした」と記事ではなっていますが、これはどういう事なのでしょうか、このガイドラインは9/26に発表されている案なので、記事によるガイドラインでは削除されたのでしょうか。しかし記事にある、
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終末期を「突然発症した重篤な疾病や不慮の事故などに対して適切な医療の継続にもかかわらず死が間近に迫っている状態」とし、具体的には、脳死と診断されたり、人工呼吸器などに生命の維持を依存し、移植などの代替手段がなかったりするなど四つの状態を挙げた
なお、このガイドラインでいう「終末期」については、通常の医療現場における慢性疾患を含む一般的な終末期医療について言及しようとするものではなく、われわれ日本救急医学会会員が救急医療を展開する場において遭遇する症例の終末期という位置付けです。つまり、本ガイドラインは日本救急医学会会員に向けての提言です。
つまりこのガイドラインはすべての病気の終末期について定義したものではなく、救急現場での日本救急学会員に対しの終末期の定義であるということです。当然の事ながら、日本救急医学会が終末期のすべてを定義づけるはずも無く、これからも救急医学会が単独で行なうこともありません。それを、
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終末期の定義や中止容認の条件などは先送りした
終末期の定義の部分には私は異論はありません。専門医になれば細かな異論は出てくるかもしれませんが、ここは異論無しとしておきます。少し問題にしておきたいのは終末期の定義にあてはまった患者の延命措置への対応です。これは4つに分かれています。
1)家族らが積極的な対応を希望している場合
家族らの意思が延命措置に積極的である場合においては、あらためて「患者の状態が極めて重篤で、現時点の医療水準にて行い得る最良の治療をもってしても救命が不可能である」旨を正確で平易な言葉で家族らに伝達し、その後に家族らの意思を再確認する。
再確認した家族らの意思が、引き続き積極的な対応を希望している時には、その意思に従うのが妥当である。結果的に死期を早めてしまうと判断される対応などは行うべきではなく、現在行われている措置を維持することが一般的である。家族らが積極的な対応を希望する場合でなければ、複数の医師、看護師らを含む医療チーム(以下、「医療チーム」という)は、以下(2)[イ]−2)〜4)を選択する。
2)家族らが延命措置中止に対して「受容する意思」がある場合
家族らの受容が得られれば、患者にとって最善の対応をするという原則に則って家族らとの協議の結果により以下の優先順位に基づき、延命措置を中止する方法について選択する。
上記1.、2.の順で、家族らの総意としての意思を確認した後に、医療チームは延命措置中止の方法として[ロ]の内から適切な対応を選択する。なお、本人の事前意思と家族らの意思が異なる場合には、医療チームは患者にとって最善と思われる対応を選択する。
- 本人のリビング・ウイルなど有効なadvanced directives(事前指示)が存在し、加えて家族らがこれに同意している場合はそれに従う。
- 本人の意思が不明であれば、家族らが本人の意思や希望を忖度し、家族らの容認する範囲内で延命措置を中止する。
3)家族らの意思が明らかでない、あるいは家族らでは判断できない場合
延命措置中止の是非、時期や方法についての対応は、主治医を含む医療チームの判断に委ねられる。その際、患者本人の事前意思がある場合には、それを考慮して医療チームが対応を判断する。これらの判断は主治医、あるいは担当医だけでなされたものではなく、医療チームとしての結論であることを家族らに説明する。この結果、選択されて行われる対応は患者にとって最善の対応であり、かつ延命措置を中止する方法[ロ]の選択肢を含め、家族らが医療チームの行う対応を納得していることが前提となる。
4)本人の意思が不明で、身元不詳などの理由により家族らと接触できない場合
延命措置中止の是非、時期や方法について、医療チームは慎重に判断する。なお、医療チームによる判断や対応は患者にとって最善の対応であることが前提である。
誤解して欲しくないのですが、粗探しでケチをつけようと言うわけではありません。非常によく研究されたガイドラインと思っています。それをよりよく運用してもらうためへの提言ぐらいに考えてもらえればと存じます。
1)〜4)までの分類がなされていますが、要点は、
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本人の意思が確認できないので、家族の意思に従う
これが親族という考え方になると突然広大な範囲になります。良く使われる親族の範囲に血族6親等、姻族3親等があります。ここまでを家族と考えればどうなるか、医療関係者ならお馴染みの「遠い親戚」が登場してきます。遠い親戚もいつも問題になるわけではありませんが、時に大きな混乱のタネになる事があります。
問題となる時の遠い親戚は遅れて登場してきて、しばしば巨大な発言力を有します。その強さは近親者と医師の間で築いていた合意事項をしばしば白紙に戻すほどの事があります。白紙に戻っても、もう一度合意を取り付ければよい様なものですが、遅れてきますから白紙に戻せない事があります。
白紙に戻せなくとも、近親者の合意を取り付けているのですから、法的に問題は無いと考えたいのですが、最悪の場合、すべてが終わってから白紙に戻す事がありえます。終わったら白紙に戻せないはずですが、延命措置中止に当っての合意自体を後日に白紙に戻してしまう事があります。もっとも後日、白紙に戻すのは遠い親戚だけではありませんけどね。
後日に白紙に戻すとはどういう事かですが、
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延命処置中止は不本意であり、医療側の説明が足りなかった
ガイドラインは法的な裏付けはありませんが、訴訟においては重視されます。よく検討されたガイドラインと思いますし、これに従えば訴訟でも責任は負わされないとも思います。ただ訴訟自体は回避できるかどうかは何とも言えません。説明が足りているかどうかを客観的に証明するものが無く、主観のみで判断されます。さらに後日に思い直して「説明不足」と感じても訴訟理由には十分です。
ガイドラインではカルテ記載の詳細さを強調していますが、できるものなら録音や録画もしておいた方が、防衛的にはより望ましいかと考えます。