東京ハブ機能説

えっと、経済ではなく医療と言うか医師数のお話ですから誤解無い様にお願いします。首都圏の医療事情には極めて疎いのですが、東京ととくに周辺の関東圏は東京からの医師派遣のハブ機能に頼っている点が多いのじゃないかと考えたりしています。私がせいぜい知っているのは神戸ですが、ここは京大からの派遣医師が多いところです。歴史的には神戸市役所と神戸大医学部が大喧嘩したためとされていますが、神戸の大病院である中央市民病院も基本は京大系列と聞きます。こんな感じで東京と周辺が結びついているのだろうです。

前にやった病院医師数のデータのリサイクルですが、

研修制度 全国比(%) 旧(1996-2003)
現(2003-2010)
1年目 3年目 5年目 増加数 全国比(%)
旧時代 17.2 12.8 13.9 1461 11.1
現時代 15.2 17.6 15.2 4031 20.6


これにらみながら考えていたのですが、旧時代も現時代も1年目医師である研修医の数はそんなに変わりはありません。そいでもってとくに旧時代の研修医はほぼ全員が医局人事ルートに乗っていたかと思います。旧時代の3年目、5年目と減っているのは東京以外の病院への異動が行なわれた結果ではないかとも解釈できます。

さて現時代ですが1→5年目の医師数はほぼ同じです。流出入はあるにせよ、5年目までは医師数は1年目の研修医数と相関しています。ただなんですが、現時代の方が旧時代より東京の医師数増加ペースが2倍程度になっているのがわかります。この増えた分はどう考えるべきかです。至極単純に6年目以降の医師が東京の病院に流れ込んでいるの解釈もアリかと思います。

そう結論しても良いのですが、私は別の解釈もありそうな気がします。現研修医制度導入後、医局人事の低下は起こっています。落ちているところはかなり落ちていると聞きます。落ちる原因としてとりぜず入局者数の減少による派遣するタマの枯渇です。もちろん医師意識変化もありますが、タマ数だけなら東京はマスの統計では満ちたりています。これは想像ですが、東京ではかなり大学医局は元気なんかじゃないかです。

医局が元気であればいくら東京でも非医局員が病院に就職するのは容易ではなくなります。もちろん東京はパイがデカいので選り好みしなければ、どこかには潜り込めるとは思いますが、それでも選り取り見取り状態ではないかとも思います。何が言いたいかですが、東京に就職している医師で医局経由の比率がかなり高いのではないかです。


たいした考察ではありませんが、医局人事がかつて物凄いところに派遣病院を持っていた理由の一つにポスト問題があります。医師が病院に就職すると言っても、病院が雇える医師数には定員があり、それ以上は雇ってくれないのです。またポストは数の問題だけでなく肩書きの問題にも連動します。医局人事と言えども医師の経験年数に応じたポストを用意する必要があり、なおかつ医師の経験年数による組み合わせも重視されます。

この辺のポスト問題で医局人事の悲喜劇が様々にかつては生れた原因の一つなんですが、昔でも遠方の聞いた事も無い病院に赴任するのは誰でも嫌でした。この嫌という意志をある程度まで押さえ込んでいたのが医局人事です。ここでなんですが、東京の大学医局に属している医師なら、出来れば東京都内の病院を先ず希望するかと思われます。とくにある年齢になれば住居も家族も抱えますから、ごく自然な希望です。

ほいじゃ、東京都内にポストがあればどうなるかです。ごく自然に都内の病院に医師は派遣されるかと思います。これはかつての人事力の低下とも相俟ってごく普遍的に起こるものと考えます。ポストが増える病院は、これまた当たり前ですが経営が安定している病院です。不安定な病院が従来以上にポストを増やす事はそうはないとするのが自然です。


この仮説が正しければ、現研修医制度施行後に東京都内の有力病院のポスト数がかなり増えたんじゃなかろうかです。ポストがなければ希望しても就職は出来ません。つまり東京の医師(医局所属医師とした方がわかりやすいかもしれません)は、都内で異動を繰り返せる状態が高くなったです。そりゃ、都内で異動が済むのなら医局所属医師も基本的にHappyでしょう。

東京も交通が発達しているので、行政区分的な都内だけではなく、○○都民とも言われる埼玉南部、神奈川県の横浜あたり、千葉の北西部ぐらいは広義の都内として異動圏内として認められているのかもしれません。医師不足地域として知られ、研修医獲得戦でも苦戦を強いられている埼玉だって、千葉だって現研修医制度になってからは統計上では医師獲得の勝ち組です。また神奈川県の医師数が増えているのも事実です。

これは埼玉、千葉、神奈川の魅力が増したと考えるよりは、東京からの派遣圏内にそれぞれの一部が組み込まれたからではないでしょうか。そう考えると説明しやすい現象はあります。

  1. 神奈川、埼玉、千葉は現研修医制度の勝ち組には属すが、増加しているのは東京派遣圏内に留まり、その他の地域には恩恵は乏しい
  2. 東京からの派遣圏内から外れた栃木、群馬、茨城などは東京からの派遣医師の穴埋めに四苦八苦している
  3. どうも東京はさらに広い範囲に派遣範囲をもっていたようで、そこも東京撤退の影響を深刻に受けている
東京の吸引力は全国的に見ても圧倒的なんですが、言うまでもなく近いところほど影響を受けます。それが関東圏の東京以外の医師不足につながっていると見ても見過ぎとは必ずしも言えないかと思います。ところが推測テンコモリですが、東京の医師数、これは東京の病院に勤務している統計上の医師数でなく、いわゆる医局などに属している東京所属の医師数自体は言うほど現研修医制度時代になっても著しく増えていない可能性を考えています。端的には1年目医師数です。

旧時代は東京からハブ機能による再分配がかなり広い範囲で行われていたのだろうと考えます。これも今となっては理解するのが難しくなっているかもしれませんが、1990年代ぐらいまでは各大学医局は派遣病院の獲得合戦に火花を散らしていました。自分の医局の医師を派遣するジッツと称される陣取り合戦に明け暮れていました。これは都道府県内だけではなく、都道府県外にも広く行われていました。

東京は日本一の人口を抱える一方で、日本一の医学部数があり、さらに東京にあると言う立地から多くの医局員を抱えています。医局員を抱えると言う事は派遣病院の確保も重要です。これは単なる派遣数の確保と言うだけでなく、ポスト(肩書き)数の確保としても重要とされていたぐらいの説明で良いでしょうか。1990年代ぐらいはこれに飢えて日本中で漁りまくっていたです。


一旦派遣先を獲得すると維持するのが至上命題になります。東京は集まる医師数も多いだけに、派遣範囲も広かったと考えています。派遣先を維持するために、それこそお膝元の東京をある程度犠牲にしても維持していたんじゃないかです。これが研修医制度が変わってから流れが変わったです。現研修医制度の影響は種々にありますが、医局の権威が衰え、一方で医師のQOML意識が高まったは確実にあります。QOMLは現研修医制度だけが原因ではありませんが、現研修医制度時代になってから高まったのは間違いありません。

その結果として東京のハブ機能としての影響範囲が変わったと見ます。つまりは地元重視とQOML重視です。無理して医局員も嫌がる遠方の派遣病院を維持するよりも東京の病院に派遣を絞っていこうです。これは東京のハブ機能がそこまでに留まるようになったためと見るのが正しい気がしています。おおよそで言うと埼玉県南部、千葉県北西部、神奈川県京浜地区ぐらいでしょうか。そこまでに縮小してしまったです。


一方で東京の派遣から外された地域は苦しいと思います。その県に所属(定着するの方が良いかな)する医師数は旧時代と変わらないのに、東京からの派遣分がゴッソリ抜けてしまったからです。穴埋めしたくとも、無い袖は振れないのでアップアップの状態になってしまうです。関東に較べて関西の方が比較的マシなのは、関西においてハブ機能を担っている京大が京都にあり、さらに京都府大まである点かもしれません。そんなに京都に就職できる病院がテンコモリある訳でないので、京都以外への派遣数はそんなには影響を受けなかったからじゃないかです。それと京大と言っても一つですし。

医師だって医療から離れればごく普通の市民です。住みやすい所に家族との生活基盤を築き、生活基盤から通える範囲の就職場所を望みます。それが東京で起こっているだけの話の様な気がします。この仮説がもし正しければ関東の医師数はどうしようもないかもしれません。たぶんですが、もし住めるのなら東京と言う人間は多いはずです。医師の経済力なら東京に住む事ぐらいは可能です。他の県がこの点を争うのは無謀でしょう。なにせ目の前に東京があるのが関東です。

これを小手先の政策で呼び込もうと思っても、東京にキャパシティがある限り対抗しきれません。たとえば茨城の医師不足も深刻ですが、東京よりも茨城の方が住むための魅力が富む県に変えられるかと言えば、誰しも首を傾げると思います。茨城は茨城で魅力はあるでしょうが、東京に対抗して独自の繁栄を謳歌出来るようなものにするのはほぼ不可能です。

別に茨城だけでなく、大阪だって基本的に同じ関係です。大阪が辛うじて成立しているのは東京からの距離と、文化・歴史的背景ぐらいでしょうか。それさえ交通網の発達により地盤低下しているのは周知の通りです。関東各県はなおさらと言うところでしょうか。ほいじゃ、いつ東京のキャパシティが充足するかですが・・・私が生きている間には無理そうな気がします。もう一つあえて指摘おけば、東京の地位は特殊です。東京に医師が多くなっても基本的に社会問題として扱われる可能性は低いです。

ま、全部仮説ですからその点はお間違いのないようにお願いします。