ネット医師には有名な病院ですが、まずは病院HPから病院の特色を御紹介します。
本院は、病床数460床、診療20科、平均在院日数15日の急性期病院であり、宮崎県北部医療圏と日向入郷医療圏の2つの医療圏の二次・三次救急医療を担っています。
東の海岸部から西の九州中央山地の山懐まで、宮崎県北部地域は、県土の41%を占める広大な医療圏であり、、およそ25万人(宮崎県人口の22%)の人口を抱えています。
大部分が、山間・中山間地域であるこの地域は、県下でも高齢化が著しく、高齢者特有の心臓病や脳血管障害等の急性疾患症例のほとんどを本院で受け入れています。
また、小児科や産婦人科をはじめとした、この圏域の絶対的な医療機関の不足とも相まって、救急医療件数は、年間1万件にも達し、その4分の1が救急車による受け入れです。
さらに、本院は、県北地域で唯一の病理部門と放射線治療部門を完備した「がん拠点病院」であり、各診療科で悪性疾患の手術症例や化学療法症例も多くなっております。
また、循環器センター(循環器科・心臓血管外科)、脳血管センター(神経内科・脳神経外科)、救命救急センター(救急初療室・救急病棟・HCU・ICU)、消化器センター(内科、外科)、周産期センター(小児科・産婦人科・眼科)においては、診療科の垣根を越えたカンファレンスや回診、診療を行っています。
特色を拾ってみますが、
- 病床数460床、診療20科の規模の病院である
- 医療圏人口は25万人である
- 二次・三次救急を行なっている
- がん拠点病院であるだけでなく、次の5つのセンターがある
年度 | H.17 | H.18 | H.19 | H.20 | H.21 | H.22 |
収支差 | 4億1000万 | 4億9100万 | 3億3400万 | 2億8300万 | 9700万 | 1600万 |
凄い、凄い、地方公立病院で黒字なんだと驚いたら、黒字なるのは「平成22年度」すなわち来々年度の事であり、平成19年度(昨年度)は3億3400万円の赤字です。これがまだ決算が出ていない平成20年度に2億8300万の赤字に減少し、来年度はさらに赤字幅が減少して9700万になり、平成22年度には黒字なるという予想であることが分かります。何か赤字公共施設の建設前の需要予測のように見えてしまいした。ちなみに収支改善の度合いは、
年度 | 改善額 |
H.17→H.18 | 8100万 |
H.18→H.19 | 1億5700万 |
H.19→H.20 | 5100万 |
H.20→H.21 | 1億8600万 |
H.21→H.22 | 1億1300万 |
是非全国の公立病院は視察に訪れるべきかと思います。もちろん平成22年度に計画通り達成されたらです。それでもって現在の医師数も職員数一覧にあり、
-
医師数61、非常勤(研修医等)6
- 循環器センター(循環器科・心臓血管外科)
-
循環器科3人、心臓血管外科4名
- 脳血管センター(神経内科・脳神経外科)
- 救命救急センター(救急初療室・救急病棟・HCU・ICU)
-
救命救急科2名、(麻酔科3名)
- 消化器センター(内科、外科)
-
消化器外科2名、(内科は確認できず)
- 周産期センター(小児科・産婦人科・眼科)
-
小児科6名、産婦人科6名、(眼科は休診中)
最も多い消化器病疾患患者に迅速かつ的確に対応するため、外科および消化器内科の専門医をひとつにまとめ
おそらく一つにまとめた頃には内科医もいたと思うのですが、今は不在となっています。それと救命救急センターの所属に麻酔科は入っていない事になっていますが、これも紹介に、
麻酔科は当病院の手術症例の麻酔管理だけでなく、集中治療室、ハイケアユニット、救命救急センター病棟における重症患者管理、および入院患者の疼痛管理を行っています。
院内では麻酔科と救命救急科はチーム医療を実践しています。
こうなっているので含めています。
ここでちょっと麻酔科に注目して見ます。2003.1.10西日本新聞からです。2003年といえば平成15年なんですが、
四百六十のベッドと県北部で唯一の救命救急センターを備える中核病院から、日下を含む麻酔科医五人が一斉に去った。前代未聞の事態だった。
それでもって当時の麻酔科医は、
麻酔科は全員が大分医科大出身だった。
2003年当時は麻酔科医が5人おり、それがすべて大分医大出身で会った事がわかります。ちなみに現在は3人で、
こうなっています。一斉辞職の後も関係はどうやら改善しなかったようです。2003年に麻酔科医が一斉辞職した原因として、延岡病院に救命救急センターと集中治療室(ICU)が新設されたのは一九九八年。麻酔科がしわ寄せを受け始めた。大病院であれば専門医が担当するICUの当直を、麻酔科医が毎日交代でこなした。一刻を争う重症の急患を少人数で担う現場は極度の緊張を強いられる。
救命救急センターとICUの負担が一斉辞職の引き金になったようです。現在の救命救命センターは救急科2名と麻酔科3名で、人員は合わせて5名であり、基本構図は変わっていない事が確認されます。それでも負担は解消されているかどうかですが、県立延岡病院の中期経営計画に、
県北地域唯一の中核病院として、民間病院での対応が困難な高度医療や救急医療に対する水準を維持・向上させるため、医師の増員、確保に努めます。
こうなっており、さらに、
高度医療や救急医療の機能の充実を図るため、HCU(ハイケアユニット)の増床、SCU(脳卒中専用集中治療室)の設置や適正な病床配置に取り組みます。
あんまり負担は変わっていないようにも見えます。
麻酔科で寄り道しましたが、こういう延岡病院に新たな問題が出てきているようです。2/8付宮崎日日新聞ですが、
延岡病院医師確保問題
■“患者不在”の派遣協議労働環境整備難航
3月末までに医師6人が退職の意向を示している県立延岡病院(楠元志都生院長)の後任医師確保が難航している。背景には、同病院の過酷な労働環境に対する派遣元の医局の不満や、医局の複雑な内部事情がある。医師がいなくなれば最も困るのは患者だが、派遣協議は医師が働く環境整備に議論が集中し、“患者不在”のまま進んでいる。
医師が退職すれば、4月以降、同病院では腎臓内科と神経内科が休診に追い込まれる。腎臓内科の患者は、心臓、肝臓病などとの合併症患者がほとんど。年間の患者数約200人のおよそ7割が救急患者だが、休診になればこの受け入れが完全にストップする。
県北地区にはほかに対応できる病院がないため、急患は宮崎市や県外の病院に約2時間かけて搬送されることになる。延岡市腎臓病患者会の岩田数馬会長(55)は「(医師不在で)どんな状況になるか非常に不安だ。万が一という事態があり得る」と懸念する。
神経内科では、年間約250人に上る脳梗塞(こうそく)患者に対応できなくなる。このため、両内科に入院している患者約40人は、3月末までに宮崎市などの病院への転院を余儀なくされる。
両内科には、延岡病院を関連病院と位置づける宮大医学部に4つある内科の医局が医師を派遣してきた。医師確保について、ある医局関係者は「内科全体で前向きに話し合っている。早く結論を出したい」と説明する。
しかし、派遣協議は難航。延岡市内には深夜帯(午後11時―午前7時)に軽症患者を診る医療機関がなく、本来は重症の救急患者が対象の同病院の当直医が受け入れているため、夜間当直を輪番で担う医師の負担が重いことも一因だ。近年は新医師臨床研修制度の影響で同病院の医師総数が減っていることから、医師1人当たりの当番回数が増え、昨秋には、宮大が医局に戻す予定の腎臓内科医が過労で倒れた経緯もある。
内科医局関係者は「延岡病院は労働環境が悪く、10年前から県や病院に待遇改善を求めてきた。が、聞き入れてもらえなかった。それでも医師を派遣してきたが、今は誰も行きたがらない」と明かす。
ただ、当の内科医局が医師を相次いで引き揚げたことが労働環境悪化につながっている事実もある。同大は今回の6人中3人のほか、昨年4月以降だけでも消化器系内科医1人と腎臓内科医1人を大学に戻したため、消化器系内科は休診となった。
後任医師が決まらない一方で、内科医局は民間病院には医師を派遣している。ある関係者は「大学内のほかの医局や、ほかの大学の医局なら、民間病院の医師を減らしてでも医師不足の公立病院に派遣させる」と内科医局の対応に納得がいかない様子だ。
既にアルバイト医師の派遣、医療秘書採用などで医師の負担軽減策を図っている県病院局は「九州内の大学に独自に医師派遣を要請しているが、厳しい状況。あとは(宮崎)大学からの返事を待つだけだ」と同大の対応を見守っている。
とりあえず6人の医師が辞職の意向を示し、その後任が見つからないの話のようです。腎臓内科と神経内科がこの影響で休診になるみたいですが、神経内科は3名で、腎臓内科は診療科紹介にあげられていませんが、内科の紹介に
腎 臓 病:松本
こうなっており、他の内科所属の医師の専門が、呼吸器、アレルギー、血液となっているので新聞記事にある腎臓内科は松本医師であったと考えられます。他の内科医師も腎臓内科担当だった可能性は否定できませんが、もし1人なら、
腎臓内科の患者は、心臓、肝臓病などとの合併症患者がほとんど。年間の患者数約200人のおよそ7割が救急患者だが、休診になればこの受け入れが完全にストップする。
年間患者数の表現が実人数なのか延べ人数なのかの判断が微妙ですが、延べ人数なら救急以外の受診患者が年間60人ほどになり、かなり少ない印象になります。成人の腎臓内科も実感が乏しいところなんですが、実人数として月に1回受診したとしたら延べ2400人となり年間の一般外来数は720人ほどになります。ただ延べ人数が2400人とすれば救急受診は1700人程度となり、1日平均4.6人となりこれは目の眩む数字になります。
腎臓内科の救急受診となれば透析が必要になる事が多いとも考えられ、診療は長時間化が余儀なくされるだろうからです。門外漢なのでどっちとも結論がつき難いのですが、負担が大きかったのは間違いないようで、
昨秋には、宮大が医局に戻す予定の腎臓内科医が過労で倒れた経緯もある
この倒れた腎臓内科の関連しそうな経緯は、
昨年4月以降だけでも消化器系内科医1人と腎臓内科医1人を大学に戻したため
これも確実とは言えませんが、昨秋に倒れて引き上げになったと考えられる腎臓内科医がそうであったとすれば、二人体制が松本医師一人になり、そして誰もいなくなったと考えられるかもしれません。
上述した延岡病院の経営改善計画に大きな支障を生じそうな事態ですが、記事の取り上げ方は趣深いものがあります。
医師がいなくなれば最も困るのは患者だが、派遣協議は医師が働く環境整備に議論が集中し、“患者不在”のまま進んでいる。
視点の置き方の違いでしょうが、確かに患者は医師がいなければ必要な治療を受けられずに困ることになります。これは医師と患者の関係だけを見ればそうなりますが、医療は医師と患者だけで成立しているわけではありません。患者にとって医師が必要なように、医師にとっても労働環境の整備は必要です。医師だからと言って無限の労働に応え続けることは不可能だからです。継続して患者に医療を提供できる環境整備を求めます。
環境整備は医師の健康のためだけと言う短絡的な見方もあるかもしれませんが、医師の健康を保たずして患者の診療など出来ないと言っても良いかと思います。つまり、
この2つはまったく別の次元で存在する事でなく、表裏一体のものであるという事です。医師の健康が保てない労働環境の下で「患者不在」フレーズ一つですべてを押し潰すのは少々違和感を感じます。この労働環境については
内科医局関係者は「延岡病院は労働環境が悪く、10年前から県や病院に待遇改善を求めてきた。が、聞き入れてもらえなかった。それでも医師を派遣してきたが、今は誰も行きたがらない」と明かす。
医師は10年間労働環境の改善を訴え、10年間「患者のため」に耐えてきたが限界と悲鳴を上げているとしてよいかと思います。10年間の派遣医師数の変化をすべて確認できませんが、麻酔科一斉辞職騒動の記事に2003年時点の延岡病院の医師数が掲載されています。
常勤医六十七人の約二割が研修医
2003年時点ではおそらく53人の常勤医と14人の研修医であったのが、2008年時点でも61名の常勤医と6名の研修医体制を維持しています。さらにこの61名の常勤医には、去年4月から宮崎大が引き上げたとされる「消化器系内科医1人と腎臓内科医1人」は含まれていないと考えるのが妥当で、去年の4月時点では63名の常勤医と6名の研修医の69人体制であったと考えられます。「患者不在」にならないように大学は医師を派遣しながら10年越しの交渉を続けていたと見ることも可能です。
昨日今日の問題では無い事が確認されますが、今年は10年越しの改善協議に埒が明かない事に大学側が業を煮やし、「引き上げ」の最後通告付で交渉に臨んだ事が窺えます。それでも派遣協議の状態は、
派遣協議は難航
病院及び県側の姿勢は文字通りの十年一日の態度であったと考えて良さそうです。この場合、「患者不在」の責任は大学側と病院・県ではどちらが大きいと言えるでしょうか。大学側にまったく「患者不在」の責任が無いとは言えませんが、病院・県側にまったく責任が無いとは言えないかと考えます。少なくとも同等、私は医師ですから病院・県側の方が責任が重いと感じられます。宮崎日日新聞が小見出しで、
■“患者不在”の派遣協議労働環境整備難航
こうしていますが、これはかなり一方的な見解ではないかと感じてなりません。
それと「派遣協議は難航」と言う事は、病院・県側はあくまでも現在の労働環境の下で医師は働いてもらうとの態度を示していると考えるのが妥当です。つまり「嫌なら辞めろ、代わりは幾らでもいる」としていると考えても良いかと思います。それでも少しは危機感はあるようで県病院局のコメントには、
県病院局は「九州内の大学に独自に医師派遣を要請しているが、厳しい状況。あとは(宮崎)大学からの返事を待つだけだ」と同大の対応を見守っている。
ディスポの様にいつまでも、劣悪な労働環境の下で医師を使い潰していく経営方針が続くか注目されるところです。最後にこのコメントも興味深いものがあります。
ある関係者は「大学内のほかの医局や、ほかの大学の医局なら、民間病院の医師を減らしてでも医師不足の公立病院に派遣させる」と内科医局の対応に納得がいかない様子だ。
「ある関係者」が誰であるかは不明ですが、コメントの内容及びわざわざ掲載されるところから、病院・県側の関係者もしくは大きな影響力を持つ人物の発言と考えます。典型的な公尊民卑の思想ですが、時代が変わったことを御存知ないようです。かつては勤務医の誰もがそういう思想を当然であるとし、医師としての待遇よりも公立病院勤務の方をステータスとしていた時代もありましたが、既にグラグラに揺らいでいます。公尊民卑に胡坐をかいても医師は湧いてきません。
もう一つ、医局人事の力の凋落も「ある関係者」はまったく見えていません。これは医局により温度差がかなりあるのですが、新研修医制度施行前から医局人事の民主化は確実に進んでいました。民主化とは派遣病院の選択に医局員の意向を反映させるというものです。それでも新研修医制度施行前は医局員の希望と派遣病院のポストの調整が必要でした。そこに新研修医制度が始まり、医局員の減少が著明になると事態はさらに変わります。
医局が派遣できる医師の数が減ると、次に必然として起こるのは派遣病院の取捨選択です。取捨選択されるときに年長の医師ほど公尊民卑の思想は残っていますが、逆に若くなるほど気にする条件でなくなります。つまり公立とか民間の看板に関係なく、医師として働きやすい病院が選ばれる時代に確実に変化していると言う事です。旧態依然の公尊民卑の思想と、医局命令は天の声で運営していては大学医局から医師がいなくなるのが今の時代です。
そういう気風に変化している中で、公立病院だから黙っていても医師が湧いてくるとか、大学医局は無条件に公立病院を優先して医師派遣を行なうものである、みたいな認識で物事を考えていたのでは情勢は悲観的です。地方公立病院から医師がいなくなり機能不全を起しているところは日増しに増えています。癌治療の総本山である国立がんセンターでも慢性的な麻酔科医不足に悩んでいます。心臓疾患の総本山である国立循環器病センターでも麻酔科医の大量辞職が話題になりました。延岡病院と気持ちだけ条件の近い、舞鶴市民病院や銚子市民病院がどんな有様になっているかも参考になると思います。
さらに現在では悪事は本当に一夜にして千里を走ります。延岡病院は6人の医師の辞職に騒いでいるようですが、残りの医師が磐石だと勘違いしない事をご忠告しておきます。6人は氷山の一角であり、辞職希望予備軍はその数倍はいると考えたほうが良いかと思われます。漫然と公尊民卑の態度で終始していれば、五月雨式に医師の辞職が続いていく可能性はかなり高いとしておきます。
先ほど悪事千里を走るとしましたが、延岡病院の騒ぎを知れば、水面下で残っている医師にアプローチをかけてくるところも出てくる時代です。立場を変えて見れば延岡病院は草刈り場に見える人も世の中にはいると言う事です。まあ、「ある関係者」が当局側の代表的な考えであるとなれば、事態が破局になるまでひたすら「なぜだ」と言いながら手を拱くだけでしょうし、破局となっても手を拱くだけかもしれません。