地域医療振興協会の不思議な人事

基本的に昨日の話の続きで、焦点を横須賀市民病院小児科に当ててみます。まず基本情報なのですが、市町村が開設する病院の役割は指定管理者制度は地域医療に何をもたらすのかです。これを書いたのは横須賀市職員労働組合・書記長であるのだけは注意が必要ですが、考察部分はともかくデータ部分は信用できると考えます。嘘をつく必要のない部分だからです。

このレポートが書かれたと言うか医師数のデータの時期ですが、

4月時点で

こうなっています。地域医療振興協会(以下「協会」とします)が横須賀市民病院の指定管理者になったのが平成22年4月ですから、レポートの「4月」は平成22年4月であると考えられます。昨日と重複しますが、この時点の医師数について、

  • 4月時点で呼吸器内科が3人減で0、消化器内科が1人減で3人、循環器内科が1人増で5人、神経内科が2人減で0、血液内科が1人増で2人、脳神経外科が2人減で1人、形成外科が1人増で2人、リウマチ科が1人増で1人、小児科は5人減し5人増の総入れ替え泌尿器科は1人減で0、耳鼻咽喉科は1人増で3人、麻酔科は1人減で2人、トータルでは5人減ですが、非常勤医師での外来診療が多くなっており常勤換算すれば5人減では収まりません。そして、呼吸器内科、神経内科脳神経外科泌尿器科では入院の停止となりました。
  • 市民病院の産婦人科は、3人の日大医局からの派遣医師で分娩等を行っていました。今回の指定管理者移行をきっかけとしてこの3人とも市民病院を10月に去ることとなり、今後は日大からの派遣はなされません。地域医療振興協会横浜市立大学からの派遣を希望していると伝わってきていますが、実現の見込みは立っていません。

この異動についてguri様から指摘がありました。

>横須賀ではかき集められた小児科医5人の再現が具体的に可能なのか

実際にはかき集めることはできなかったんですね。
横須賀市民病院の小児科スタッフ
http://www.jadecom.or.jp/jadecomhp/yokosuka-shimin/html/shinryolist/index_14.html魚拓
横須賀市立うわまち病院の小児科
http://www.jadecom.or.jp/jadecomhp/uwamachi/html/shinryolist/index_5.html魚拓
は兼任ですから。

リンク先を確認してもらえばわかるのですが、横須賀市立うわまち病院の小児科にはスタッフとして15人の小児科医がいるのですが、そのうち5人が横須賀市民病院と重複しています。非常勤医として兼任するのはよくありますが、常勤医として兼任するのは個人的に余りありません。もっとも全然ないわけでもなくて、医師の名義貸しが問題になった時に、非常勤医なのに常勤医として届けた事があったのは覚えています。

まさにどうなっているのだろうです。医師の人事を確認するのは厄介で、レポートにある人事異動が常勤医を指しているのか、非常勤医も含んでいるのかが判然としない部分があります。あれこれ調べてみたのですが、確証はなく傍証ばかりしか出てきませんでしたが紹介してみます。


傍証1:ホームページ

横須賀市民病院の医師紹介には常勤とも非常勤とも書かれていません。病院のスタッフ紹介の体裁は病院ごとにバラバラで、

  1. そもそもスタッフ紹介がないところ
  2. 常勤医だけ紹介
  3. 常勤医と非常勤医を区別して紹介
  4. 常勤医も非常勤医も区別なく紹介
この4パターンぐらいは確実にあります。横須賀市民病院はどうかになるのですが、常勤医がいなくなった診療科が参考になります。上記レポートでは呼吸器内科、神経内科泌尿器科産婦人科の常勤医が平成22年4月の時点でゼロになったとしていますが、現在も同様にゼロで、さらに産婦人科は診療科紹介からも消滅しています。

常勤医がゼロの呼吸器内科、神経内科泌尿器科にはスタッフ紹介はなく、外来表にのみ医師名が存在します。外来表の医師は非常勤でしょうから、横須賀市民病院HPの医師紹介の原則は常勤医のみと考えて良さそうです。そうなればHP上に紹介されている小児科の5人の医師は常勤医である事になります。

横須賀うわまち病院はどうかになりますが、HPをみればお判りのように横須賀市民病院のHPの体裁に非常に似ています。どちらも協会のHPで同じテンプレから作られたと考えて良いかと思います。そうであれば横須賀うわまち病院の医師紹介も横須賀市民病院と同様に常勤医のみの紹介である可能性が高いと類推されます。


傍証2:横須賀うわまち病院小児医療センター

このセンターの概要は平成22年6月1日付横須賀市立うわまち病院小児医療センターについてで紹介されています。ここで注目したいのは、

小児科専門医 9名

こう紹介されているところです。リンク先を確認して欲しいのですが、実際に氏名付きで紹介されている小児科専門医は10名です。ただ10名中1名は非常勤となっており、この1名はスタッフ数のカウントには入っていないようです。これは横須賀うわまち病院の医師の数え方の原則を示していると考えられます。


傍証3:小児科部長の肩書き

横須賀うわまち病院小児科筆頭医師の肩書きは、「小児科部長、小児医療センター長兼任」です。この部長先生は平成22年6月1日付横須賀市立うわまち病院小児医療センターについてでは、小児医療センター長として小児科専門医研修コースの小児科プログラム責任者ともなっています。筆頭であればそれぐらいの肩書きがあっても不思議ないのですが、横須賀市民病院でも「診療部長」なんです。

横須賀市民病院の診療部長ですが、これは役職部長の診療部長ではないようで、どちらかというと年齢部長の肩書きのようですが、それでも非常勤医には通常はこういう肩書きは付かない事が多いと見ます。非常勤医でも肩書きがありますが、その場合は「顧問」とか「名誉○○」で常勤医のライン上の肩書きが付く事はあまり聞いた事がありません。


傍証4:小児科部長先生に注目

個人的に何の恨みがあるわけではないので、名前はリンク先で確認お願いします。2011.5.19付レジナビには横須賀うわまち小児科の「臨床研修プログラム責任者/小児医療センター長」として紹介文を書かれています。実は横須賀うわまち病院所属ならあちこちに名前がググれます。

問題なのは横須賀市民の方ですが、これがなかなか見つからなかったのですが、J-Globalに拡張型心筋症により心不全症状が進行した先天性サイトメガロウイルス感染症の1例が掲載されています。これが2011.4.17付けです。ペーパーの内容は今日はともかくで著者(所属機関)が注目されます。是非リンク先を確認して欲しいのですが、そこに7人の医師の名前があるのですが、全員が横須賀うわまち病院と横須賀市民病院所属となっています。7人のうちには部長先生以外にも横須賀市民にスタッフ紹介されている医師もおられる一方で、横須賀うわまち病院だけのスタッフもおられます。

J-Globalからもう一つですが、糖尿病および重症膵炎を発症した小児メタボリックシンドロームの一例が掲載されています。これも2011.4.17付けです。これの著者(所属医療機関)ですが、今度は全員横須賀うわまち病院所属となっています。なんとも不思議な感じがします。


傍証5:外来診療表

横須賀市民病院の外来担当表の小児科がチョット面白いことになっています。

診察
午前2診 担当医師 担当医師 担当医師 担当医師 担当医師 担当医師
午後専門 ※月曜診療なし:午後専門受付時間は12:30-14:00 予防接種
予約制
乳児健診 未熟児外来
神経外来
心臓外来
アレルギー外来
休診


長くなるので引用しませんが、横須賀うわまち病院の外来担当表の小児科もやや不思議で、横須賀市民病院ほどではないですが、かなり交替制のコマが目立つ事に気付かれると思います。この辺は診療科の方針もあるのでなんとも言えませんが、横須賀市民病院で5人、横須賀うわまち病院に至っては15人のスタッフがいるのですから、もうちょっと固定枠(担当医師名明記)が多くなるのが普通です。

ちなみに横須賀市民病院の小児科スタッフをごく簡単に紹介しておくと、

肩書き 卒業年次 専門 資格
診療部長 平成2年 小児科一般、小児循環器 日本小児科学会専門医、小児循環器暫定指導医、PALS faculty、NCPR instructor
なし 平成8年 小児科一般、アレルギー 日本小児科学会専門医
なし 平成16 or 17年 小児科一般 PALS provider
なし 平成19年 小児科一般
なし 平成7年 or 平成12年 小児科一般、小児循環器 日本小児科学会専門医、PALS provider


ごく素直に見て、心臓外来とアレルギー外来は固定されても良さそうな気がしますが、そうなっていないのが確認できます。たまたまの同姓同名説もゼロとは言えませんが、医籍検索で確認する限り、2人は可能性はありますが、3人はとりあえず1人のみでした。



もっともなんですが、横須賀市民の小児科医が本当に常勤医かどうかは不明です。常勤医らしいの傍証があるだけで、実は全員非常勤医の可能性もあるわけです。ホームページの傍証も必ず常勤医を書かなければ法律違反となっているわけではなく、ホームページを掲載する側(協会)の思惑で、小児科だけ非常勤医であるがスタッフとして紹介しているはアリなわけです。ズルではありますが法に触れているわけではありません。

ちょっと光が丘病院の話に触れておきますが、Sakino様から協会が事業継承するにあたり打ち出した条件の一端があります。

ちなみに、練馬区の担当課長が、特別委員会で挙げてみせた数字は、小児科常勤15,産科医常勤5という数字です。

もし15人の小児科医で横須賀うわまち病院で15人常勤、横須賀市民病院で5人の常勤のマジックを協会が実現しているのなら、同様の手法で光が丘病院のスタッフ充実を図る事も可能になります。さすがに横須賀うわまち病院の15人がそのまま光が丘病院の15人をそのまま兼任するとは思い難いですが、首都圏には協会の直営病院や指定管理病院がありますから、適当に兼任させれば帳簿上の人数は調達可能と見れるからです。


蛇足のようなついでですが、横須賀うわまち病院の小児科部長は、勤務医の労働環境の改善に前向きに取り組んでおられるようです。これも横須賀市立うわまち病院小児医療センターについてからですが

主治医一人に責任と業務負担がかかる主治医制を改革。綿密なカンファレンスと回診による情報共有で、チーム制で診療を行う。それにより、休暇や休養の時間が医員それぞれに与えられるようになる。On duty の間は責任をしっかり果たし、off はしっかり取る。「疲れ果てた「主治医」一人が24 時間365 日患者のそばにいるより、絶えず120%の力でぶつかってくれる「良い」医師たちが「主治医チーム」として、そばに絶えずいてくれるほうが、患者へ良い医療が提供できる」これが、当科のポリシーです。

また小児科医のQOL を改善するプロジェクトチームによる小児科医に必要な労働基準法の知識があります。ここにもプロジェクトチームの一員として名を連ねられております。なかなか立派な見識をもたれた医師のように見えますが、実情はどうなっているのだろうと小首を傾げています。