踏み倒し問題3

人気が出ないシリーズですが、個人的には関心が強いので続けます。

これはmoto様のコメントですが、踏み倒し問題の論議の方向性として、

  1. 具体的な回収ノウハウ
  2. 行政による整備
この二つを分けて考えるべきだというお話がありました。分けてというより段階の問題の気もするのですが、「具体的な回収のノウハウ」は現行法内でどれだけ回収可能かの手法論であり、「行政による整備」は厚生労働省が重い腰を上げて公式の検討会を始めてますから、現行法では無理ないし事実上困難なものに対する整備を行うものと考えます。とりあえず年間推定500億円ですから、現行法内での対処だけでは難しそうな気がします。

現在の踏み倒し者に対する最終対策は、

    善管義務を果たす → 自治体が強制徴収を行なう
これが法を読む限りの奥の手になっていますが、地方公立病院なら経営者が自治体ですから、強制徴収権を自治体が行使するにしても、自治体規模によるでしょうが、病院事務が引き続き行なう様な気がします。それと強制徴収と言っても具体的に何が出来るか書いてないのでわかりませんが、税金の滞納のように家財道具の差し押さえまでできるのでしょうか。

出来るかもしれませんが、どうもそういう実力行使を行なう前に、医療機関善管注意義務並みの手順を尽くすがまたある様な気がします。厚生労働省の説明によれば、内容証明付郵便により支払い請求を行い、これに応じなければ自治体による強制徴収の申請が出来るようですが、申請がどれだけ容易に受理され、強制徴収権がどれほど速やかに行使されるか不明です。

さらにですが、強制徴収権の執行を委ねられれた自治体にしても、人手と経費を費やしても自治体の懐には1円も入ってこないのです。自治体病院ならそれでも広い意味の収入になりますが、これが民間病院なら本当に出費だけです。自治体病院も収入になるとは言え、回収までの必要経費は、

  1. 病院の善管義務遂行経費(内容証明郵便1220円、その他経費)
  2. 自治体の強制徴収権施行経費
この二つを合算しても足が出れば前向きの姿勢になると思えません。つまり奥の手を使おうにもコスト・パフォーマンスが大きな壁になります。保険法の一部負担金の位置づけは民事での債権扱いで、借金と同じですから、貸主は回収費用と貸付金のバランスの上でしか動けない側面があります。

酔生夢死様から頂いた2/22付け新日本海新聞ですが、

 未収金は県立中央病院(鳥取市)が約八千五百万円、厚生病院(倉吉市)が約二千万円。近年は一年間で合わせて二千万円程度の未収金が生じている。

 診療科別では、件数では内科、金額では産婦人科が最も多い。支払わない理由として、生活の困窮や医療費自己負担増の影響のほか、払える能力がありながら払っていない人もいる。

 産婦人科では、通常分娩(ぶんべん)で約三十万円の自己負担となるため、病院側は患者が「出産一時金を受けてから払う」と言って退院することを認めていたが、そのまま払わないケースがあった。

 坂出徹病院事業管理者は「未収金は経営上非常に大きな問題だ。裁判所に支払い督促の申し立てをして最終的には強制執行にかける」と述べたほか、債権回収専門の弁護士事務所への委託やクレジット決裁の導入などを検討していることを明らかにした。

これを読むと

  • 強制徴収を行なうには「裁判所に支払い督促の申し立てをして最終的には強制執行にかける」必要がある
  • 患者が「出産一時金を受けてから払う」と言って退院することを認めていたが、そのまま払わないケースでも事実上何も出来ない
強制徴収のためには裁判所を通しての法的手続きが必要で、手続きのために法律関係者の助力が必要となれば、回収経費がまたかさむ事になります。それと話は飛びますが、「出産一時金を受けてから払う」と言って払わなくとも、詐欺罪にすらならない事がここに示されています。

鳥取県の対応は保険法の強制徴収権の行使の具体化の話でしたが、一部負担金は債権なので、事実上機能していない自治体による強制徴収の道ではなく、病院が自前で取り立てる方策をのぢぎく県の姫路循環器センターは行なっているようです。

姫路循環器病センターのお知らせです。
未収金収納事務委託について

県立病院における医療費の未収金の収納事務を以下のとおり専門事業者に委託しました。
1 委託した事業者

(1)事業者名 ニッテレ債権回収株式会社

(2)住  所 東京都港区芝浦3丁目16番20号

(3)参  考

当該事業者は、債権管理回収業に関する特別措置法 (平成10年法律第126号:「サービサー法」)に基づく「債権回収会社サービサー)」として法務大臣の許可とともに、医療費や住宅家賃など売掛債権の「集金代行業務」の兼業承認を受けており、県営住宅の料金収納事務も受託しています。
2 委託する業務

発生から1年以上経過した未収金の支払案内や収納事務

サービサー法に基づく集金代行業務として行います)
3 業務開始日

平成19年5月1日

こちらの方が実効性はありそうな気がしますが、踏み倒し金の問題は大口もありますが、小口も多いところが問題です。鳥取の例にあった分娩料金踏み倒しも、言ってみれば35万円であり、小額とは言えないものの、経費をかけて取り立てるのに美味しい商売とは思いにくいところがあります。なんと言っても一部負担金には金利がつかないですし、請求し続けていても3年で時効ですからね。

もうひとつ具体的な提案として支払いのクレジットカード化があります。Rina様からのコメントですが、

クレジットカードでの支払いにしたらどうでしょうか。
ホテルの予約をするときに、クレジットカードで「支払い保証」をし、実際に宿泊しなくても、一泊分の料金は、クレジットカードから徴収する、という仕組み(予約の契約)があります。これと同様に、必ず料金を回収できる方法として、クレジットカード番号を控え、初診のときに、支払いがされない場合には、クレジットカードにチャージされる、という支払いに関する契約書を結ぶ、という方法はいかがでしょうか。
いまどきクレジットカードをもっていない人はいないと思いますし、クレジットカードの支払いが遅れると、クレジットヒストリーに傷がつくことも消費者は承知していると思います。

クレジットカードの問題点は手数料になります。踏み倒し予備軍の患者だけにクレジットカードを使えれば良いのですが、当然ですがすべての患者の支払いに使われます。病院は赤字経営のところが多く、黒字病院でも利益率は2%に及ばないとなっています。そこにクレジットカード導入となると、わずかな収益を食い潰す可能性が大です。

病院の経営を考えるとクレジット使用時には、どこかのディスカウント店のように、現金とクレジットの二重価格が必要なんですが、それがはたして出来るかが問題です。ここは踏み倒し金とクレジット手数料の比較が必要ですが、感触的にはトントンか、足が出そうな気がするのですが、詳しい数字は手許ではわかりません。

ふと思ったのですが、一部負担金があくまでも医療機関と患者の債務債権関係であるなら、不払いとなれば金利をつけたらダメなのでしょうが、サラ金並みの金利がつけば債権市場での商品性もつきますし、回収コストの回収にもつながります。本当に払えない人は速やかに保険組合に減免申請を行なえばよく、減免申請をして審査中は金利を停止すれば弱者にも目配りとなると思います。

もう一つはこれも一部負担金は借金ですから、踏み倒せば金融機関のブラックリストに収載するのも一つの手段です。現行法では無利子で3年で時効で、実質的にペナルティ無しですから、普通の借金の踏み倒しと同様のペナルティを課せば、払えるのに払わない人への抑止力にはなると思います。

つらつら見ると、やはり現行法での対処には無理がありそうな気がします。現行法では基本的に患者が一部負担金を確信犯として踏み倒す事を想定していませんからね。