桑名の小児救急

6/25付Asahi.com MY TOWN三重より、

小児の2次救急 休日と夜間中止

 桑名市の小児医療が危機を迎えている。同市で唯一、夜間・休日の小児の2次救急患者を受け入れている山本総合病院の小児科常勤医が2人から1人になり、救急患者や入院患者の受け入れができなくなるためだ。当面は近隣の病院に協力を求めて対応する。

 同病院には7月、三重大学医学部から後任の小児科医が赴任するが、妊娠中のために救急対応ができず、8月中旬から産休に入る予定だという。小児科部長の川崎肇副院長1人では救急や入院の対応は難しいことから、7月から夜間・休日の2次医療の受け入れを中止。8月中旬からは入院の受け入れも中止する予定だという。

 同病院では2008年7月からの1年間も小児科の常勤医が1人になった。当時は県立総合医療センター(四日市市)に勤務していた三重大学の小児科医が交代で救急態勢を補った。同病院の奥村秀郎事務長は「大変厳しい状況になった。これまでも色々やりくりして小児2次救急を維持してきたが、今回の事態は非常に残念だ」と話す。

 同市では、夜間・休日の1次救急医療は桑名医師会などが運営する応急診療所が担っており、現在、同医師会が近隣の県立総合医療センターや四日市市四日市病院、海南病院(愛知県弥富市)などに2次救急や入院受け入れの協力を要請している。

 桑名医師会の伊藤勉会長は「話を聞いたときは衝撃的だった。早く市民病院と統合した新病院として、三重大からきちんと医師を派遣してもらえる態勢にするべきだ」と指摘する。当面の運用については「1次救急はこれまで通り応急診療所で受け入れ、2次救急も近隣病院の協力態勢を整えて市民に不安がないように努力する」と話す。

 同医師会は29日に記者会見を開き、今後の対応を説明する予定だ。(姫野直行)

桑名市は医療圏としては北勢保健医療圏に属しています。地図で示すと、


この医療圏の人口は合計で84万人ぐらいのようで、主な都市の規模をアラアラにピックアップすると、圏域人口はそれなりなんですが、中核都市と考えられる四日市市でようやく30万人規模ですから、中規模都市の連合地域ぐらいの医療圏に見えます。それでもって山本総合病院とは懐かしい名前が出てきました。1年ほど前に桑名市民病院の話を取り上げた時に出てきた名前です。

桑名市民病院も御多分に漏れず経営問題があり、再建のための外部委員会が設けられ桑名市民病院あり方検討委員会答申書が出されています。その時の方針が現在234床の規模を400床に拡張しようと言うものでした。とはいえこの医療圏の病床数は医療計画上では過剰だそうで、民間病院と合併して増床する計画が答申されています。

この合併相手として白羽の矢が立てられたのが山本総合病院です。2008.12.25付朝日新聞より、

桑名市民病院と山本総合病院(桑名市)の統合問題で、水谷元市長と山本総合病院の栗田秋生理事長が24日、統合協議をいったん白紙に戻すことで合意した。ただ、来年以降、両病院に市や医師会なども加えた新たな協議の場を設置することを決め、両病院の統合にも含みを残した。

ちなみに山本総合病院は桑名市民病院を上回る349床の病院です。


この北勢保健医療圏の小児救急の現状なんですが、平成21年7月付三重県「公立病院等の再編・ネットワークのあり方について」に現状が示されています。この医療圏はさらに3つに細分して考えるようで、

地区 所属市町村 地区人口 15歳未満人口 小児二次救急
桑名 桑名市いなべ市桑名郡員弁郡 220474 31730 山本総合病院
四日市 四日市市三重郡 369937 55051 市立四日市病院、県立総合医療センター
鈴鹿 鈴鹿市亀山市 249284 38361 鈴鹿中央総合病院


このうち桑名地区は、

小児二次救急については、山本総合病院が拠点病院として受け入れを行っているが、小児科医の不足により救急体制の維持が困難な状況となっている。

鈴鹿地区は、

小児二次救急については、鈴鹿中央総合病院が拠点病院として受け入れを行っているが、医師不足の影響を受け、深夜帯の受入が休止されている状況にある。

桑名地区の山本総合病院の状況は朝日記事が伝えていますので置いておいて、鈴鹿中央総合病院の小児科は常勤2名、嘱託医1名の構成になっています。嘱託医とされている医師は、前副院長のようで時間外の二次救急に関しては戦力外とさせて頂いてよいかと思われます。


どうも桑名市を含む北勢保健医療圏で小児の二次救急を行っている医療機関はこの4医療機関しかないようで、鈴鹿中央総合病院が深夜帯の受け入れ中止、山本総合病院が二次救急自体を休止したと解釈して良さそうです。ここで気になったのは、4医療機関がどういう体制で二次救急を行なっていたかです。北勢保健医療圏は3つの地区に分けられているとしましたが、4医療機関同士は輪番制なのかどうかです。

平成21年7月付三重県「公立病院等の再編・ネットワークのあり方について」にはこういう模式図が提示されています。

どうもなんですが、桑名、四日市鈴鹿の3地区内で二次救急医療は基本的に完結させる構想と見えます。模式図だけでは「どうもそうらいしい」の域に留まってしまうので、平成19年9月付総務省行政評価局「小児医療に関する行政評価・監視結果報告書」を参考にして見ます。

総務省資料によりと小児救急医療圏と言うのが二次医療圏とは別に設定されているのが確認できます。まったく別ではないのですが、二次医療圏と同じであったり、さらに細分化されていたり、場合によっては他の二次医療圏と重なったりみたいな設定のようです。ほいでもって、北勢保健医療圏は桑名、四日市鈴鹿の3つの小児医療圏に分かれるともなっています。ここの個所を引用しておくと、

桑名、四日市鈴鹿の小児救急医療圏なんですがいずれも「整備済」となっています。また共通して小児救急医療拠点病院運営事業が行われているとなっています。平成21年7月付三重県「公立病院等の再編・ネットワークのあり方について」の引用部分をよくよく見れば山本総合病院も鈴鹿中央病院も「拠点病院」となっています。この拠点病院は小児救急医療拠点病院運営事業が適用されていると考えるのが妥当です。

では小児救急医療拠点病院運営事業とはどんなものかですが、

小児救急医療拠点病院は、小児救急医療に係る休日夜間の診療体制を常時整えるものとし、原則として、初期救急医療施設及び救急搬送機関から転送された小児重症救急患者を必ず受け入れるものとする。

そうなると桑名地区の山本総合病院も鈴鹿地区の鈴鹿中央病院も「拠点病院」であり、総務省資料では「整備済」となっていますから、24時間365日の小児二次救急として稼動していたとして良さそうです。



そこまで考えて読むと記事の面白さが滲んできます。

  • 同市で唯一、夜間・休日の小児の2次救急患者を受け入れている山本総合病院の小児科常勤医が2人から1人になり、救急患者や入院患者の受け入れができなくなるためだ。
  • 小児科部長の川崎肇副院長1人では救急や入院の対応は難しいことから、7月から夜間・休日の2次医療の受け入れを中止。8月中旬からは入院の受け入れも中止する予定だという。

正直なところ、これまで2人でやれてこれた事に驚きを覚えます。
    桑名医師会の伊藤勉会長は「話を聞いたときは衝撃的だった。早く市民病院と統合した新病院として、三重大からきちんと医師を派遣してもらえる態勢にするべきだ」と指摘する。
ありゃ、統合の話は未だに燻っていたようです。統合の計画は上述しましたが、
    234床(桑名市民病院)+349床(山本総合病院)= 400床(新桑名市民病院)
でもって現在の桑名市民病院の小児科医数は1名です。まあ、山本総合病院と統合すれば「1 + 1 = 2」になるかもしれませんから、「従来通り」24時間365日の小児二次救急を「行うに足る」小児科医が得られるとの御見解でしょう。

桑名医師会は三重大に期待しているようですが、三重大に小児科医どころか医師が余っている話もあまり耳にしません。今回の山本総合病院への人事は、新桑名市民病院の建設が遅れていると言うよりも、桑名地区に小児科医を派遣する余力が失われた、もしくは拠点病院を維持しない方針の表れと取った方が良さそうな気がしないでもありません。

言ったら悪いですが2人で24時間365日の体制なんて、桑名市医師会長が勤務医時代ならともかく、現在では小児科であっても敬遠されます。いや小児科医でなくとも敬遠されるかと思われます。ま、この程度の問題は桑名だけの話ではないでしょうが、なんとなく桑名でクローズアップされるあたりに、そこはかとないおかしみを感じます。