3人では無理だが、3人なら余裕

まず3人では無理なお話を7/25付北海道新聞より一部引用

 救命士は八人いる現状でも救急車二台に常時一人ずつ配備するにはぎりぎりで、九月末には六人に減る。その他の隊員も不足し、同署は「同時多発や大きな事故・災害だと、出動要請に応じ切れなくなる可能性もある」と話す。市内の医療体制縮小から、本年度、重傷患者は札幌などへ搬送しており、一件当たりの出動時間が延びたのも不安材料だ。

夕張関連のニュースですが、救急車に乗る救命士が6人に減って運用できなくなるお話です。夕張の救急隊は2台体制のようで、1台につき3人では到底運用は不可能であるとの内容です。もっともなお話で、夕張の救急隊の勤務シフトはわかりませんが、例えば8時間毎の3交代なら連日勤務にしないと維持できません。

救急隊は当然ですが24時間365日体制でなくてはなりませんから、1週間の勤務時間は168時間になり、どんなシフトを敷こうが1人当たりの勤務時間は56時間になります。週に16時間づつ必然的に超過勤務が生まれ、1ヶ月で64時間以上、おそらく70時間程度の超過勤務が物理的に必要です。こういう体制では救急隊が維持できなくなるのは誰が考えてもわかりますし、過重労働による疲労が蓄積すれば、生死に関わるような判断ミスが生じる可能性が非常に高くなります。

救急隊員は一般的に頑健ですが、有限の短期間ならともかく、長期にこの体制を要求されたら大きなトラブルを起すか、過重労働に耐えかねてさらなる救命士の離職を招く危険性が高くなります。もちろん夕張市もこの事態を放置する気は無く

 これを踏まえ夕張市は道や国と協議の上、十月一日付で五人の採用を目指す。救命士や隊員の有資格者の応募は見通しが厳しいため、経験は問わない。ただ採用が未経験者のみだと消防学校に半年間通う必要があり、その間、三十三人体制が続く上、今後、退職者が出ないという保証もない。

この記事の中にある33人とは、もともと49人いた消防隊員が離職により16人も減った状態の事を指しています。夕張は御存知の通り、市として使える自由な予算はほぼゼロなので、消防隊員を雇うのにも国や道の許可が必要です。それでもなんとか5人の増員の許可を取り付けたようですが、

    有資格者の応募は見通しが厳しいため、経験は問わない。ただ採用が未経験者のみだと消防学校に半年間通う必要があり
救急車1台につき3人体制は長期に続く可能性が強いことを示唆しています。夕張の6人の救急士が燃え尽きないように祈るばかりです。

次は3人なら余裕のお話です。7/24付のこれも北海道新聞です。

高度小児医療21病院で 道が素案 札幌除く12圏域医師3人以上配置

 道は二十三日、医師不足が深刻化している小児科医療の重点化計画の素案を明らかにした。道内を十三の医療圏に分け、三人以上の小児科医を配置し、高度な小児科医療を行う拠点とする「重点化病院」の候補として砂川市立病院、市立室蘭総合病院など二十一病院を挙げた。八月以降、各地域の意見を聞いた上で、十月をめどに重点化計画を策定する方針だ。

 道内の小児科医師数は年々減少傾向にあり、労働環境の悪化や診療科の縮小が深刻化している。このため医療圏ごとに、入院や救急医療が可能な重点化病院を定め、そこを中心に医師を派遣するなどして、地域内の病院が連携して医療体制を維持していくのが狙い。

 道によると、重点化病院の選定は、小児科診療が充実している札幌圏を除き、現時点で小児科の二次救急を行っている十二の医療圏ごとに行う方針。

 選定基準は《1》三人以上の小児科常勤医が勤務《2》小児科二次救急医療を実施《3》入院診療を提供《4》新生児医療などを実施−など。今後、地域の意見を聞きながら医療圏ごとに、最大二カ所の重点化病院を定める考えだ。

記事の内容の解釈になりますが、『三人以上の小児科医を配置』と書いてあるのは現時点で3人以上いない(つまり2人以下)なので3人以上に増やすと意味なのか、重点化病院に選定された病院の小児科医をなんとか『三人以上』に維持するのかのどちらかです。普通に解釈すれば、2人以下なので3人以上にすると考えたいところですが、現在の医療情勢、とくに厳しいとされる北海道なら3人以上を維持するのかも知れません。

この記事にある『高度な小児科医療』の内容が気になります。小児科であっても『高度』を意味するものは様々です。幸い記事には『高度』が具体的に書かれています。重点化病院の選定基準として、

  1. 三人以上の小児科常勤医が勤務
  2. 小児科二次救急医療を実施
  3. 入院診療を提供
  4. 新生児医療などを実施
おっと、ここで『三人以上』の謎が解けました。3人以上とは現在3人以上の小児科医がいるところの意味のようです。そうなると残りの選定基準は重点化病院に指定されるための条件と考えた方が良さそうです。3人も小児科医がいるのですから『入院診療の提供』はわかりますし、『二次救急医療』は言われなくてもやっていそうな気はします。

ただニ次救急医療と言っても『医療圏ごとに、最大二カ所』となっていますし、重点化病院以外に小児の二次救急医療を行なえる病院が豊富にあると思えません。どっちかと言うとそこしか無いところも多いんじゃないでしょうか。最大2ヶ所の医療圏なら年間の半分、1ヶ所なら24時間365日になります。3人では相当な負担である事は夕張の救急士と同様です。

また重点化病院には『新生児医療』が加わっています。新生児医療もやり方でピンキリなのですが、3次救急とまでいかなくとも2.5次救急まで行なうと相当な負担です。実感として新生児医療を行なうだけで小児科医3人でも手薄なぐらいです。これを最悪24時間365日のニ次救急を3人で行ないながらやるわけですから、相当厳しいと言えます。

でも記事の内容的には普通に読めば『3人もの』大量の小児科医を動員しての充実した救急拠点の整備のように読めます。やや似たようなことをのぢぎく県北部で行なっていたと思いますが、のぢぎく県北部では7人の小児科医を動員しながら1年で4人が逃散し、残り3人になった時点でニ次救急や新生児医療から部分撤収をせざるを得ない状態に追い込まれています。北海道ではのぢぎく県北部で機能麻痺が起こりかけた3人を最低条件にしているようです。

北海道の小児科医はのぢぎく県の軟弱な小児科医よりよほど頑健なんでしょうね、もちろん夕張の救急士よりも。