日大光が丘病院問題・協会専務理事のお言葉

11/22付池尻成二のブログ「地域医療振興協会のこと」より、地域医療振興協会専務理事山田隆司氏の発言を引用します。なお発言内容は練馬区議である池尻氏が聞き取ったもので、

メモを中心に、お話の様子を紹介します(不正確な部分があるかもしれませんが、大要は違っていないはずです)。

3つの部分に分割して紹介し内容を分析してみます。


第1部

 協会は免税措置を受けた公益法人。病院運営事業をしながら上がった収益で医師確保のままならない公的病院や診療所に代診を派遣したり、お手伝いしている。全国で50を超える施設を運営しているが、半分くらいは実際にへき地にある。ここにいる医師は全部集めても50数名。これだけのネットワークで他の支援は不可能。このほか、県ごとに卒業生が50人近く育っており、その中で力を合わせようと言ってくれる人を中心に、100床、200床のへき地の中核病院、基幹病院を運営している。そのうち研修型管理病院が6つ(横須賀うわまち、北社会保険大村市民病院など)。これらがあるおかげでグループ全体の医療が支えられている。光が丘は一方で地域のために医療をしっかりやるのは当然だが、へき地医療に貢献するドクターを育てる、部分的には支援することをめざしている。

 光が丘病院は、非常に準備期間が短い。信念を持ってやっている限りは必ずや北社保のレベルには十分に行くのではないかと思っているが、今いる職員、医師の方で少しでも一緒にやってみようという方がいらっしゃればぜひ一緒にやりたい。

ここで個人的に意味が取りにくかったは、

    ここにいる医師は全部集めても50数名
何回か読み直したのですが、「ここは」は山田専務理事が勤めてられる台東病院の医師数ではないと考えてよさそうです。地域医療協会の専属医師が50名ほどと考えて良さそうです。50名余りで50ヶ所の施設を運営できるはずもありませんが、地域医療運営協会所属でない医師が勤務することによって成立していると考えて良さそうです。

もちろん地域医療振興協会は基本として受託運営ですから、すべてを直轄の専属医師で構成する必要はありませんが、

    このほか、県ごとに卒業生が50人近く育っており
ここが個人的にはもっとわかりにくかったと言うか、あさっての方向に考えて理解するのにエラく時間がかかりました。わかってみれば何事も単純なのですが、「卒業生 = OB or OG」であり「OB or OG = 自治医大卒業生」で良いはずです。自治医大設立以来の卒業生が各都道府県に50人ぐらいはいるはずであり、自治医卒の医師にも協力を強力に要請できる関係があると仰られているで正解だと思います。

地域医療振興協会(協会)の持ち駒医師は、

  • 直轄50名余り
  • その他の自治医卒のOG or OB(都道府県ごとに50人弱)と密接な協力関係
自治医大の卒業生の結束は非常に固いと聞いた事がありますが、協会からの要請が大きな影響力がある事が確認できます。「そうだろうな」とは思ってはいましたが、協会専務理事の要職にある者が公言できるのですから、本当に強いと解釈して差し支えなさそうです。


第2部

Q.台東病院は総合診療科を柱とした病院。総合診療は協会の理念とする医療と見受けられる。一方、光が丘は中核的で専門的な医療機関として誘致され、運営してきた経過がある。整合性は?

A.大きな病院では総診でやれるわけがない。ただ、今は大学病院でさえ総合診療部を置いている。北社保もうわまちも、救急と総診が基幹。光が丘であっても、主体は救急と総診だ。光が丘でやるとしても救急と総診がいちばんのキーになると思っている。

「うわまち」とは前にも取り上げた横須賀うわまち病院の事ですが、横須賀うわまち病院の小児科はホームページによると15人の小児科を抱える大所帯です。ここには小児医療センターが設立され紹介には、

近年、小児医療は専門分野が細分化してきています。しかし、こども達の生命および心と身体の健康を守るためには小児科の様々な専門分野を統合し、内科系外科系を問わず総合的に診療を行うことが必要です。そこで当院は小児科医療の様々な部門を統合し総合的な診療を行う部門として「小児医療センター」の設立をいたしました。

「小児医療は専門分野が細分化」している事は否定しませんが、成人分野とはちょっと傾向が違うところがあります。細分化された専門分野の「専門医でござい」と頑張れる病院はそうはありません。正直なところ大学病院とか、こども病院クラスの小児三次救急病院ぐらいです。これは今でもそんなに変わっていないと思っています。小児科である程度確立しているサブスペは新生児科ぐらいじゃないでしょうか。

これは小児科のサブスペの需要がさしてないと言うのが一つの理由になっていると考えています。私も一応は血液腫瘍をサブスペをしばらくやってましたが、勤務時代に聞いた話では、兵庫県の小児白血病発症患者は年間20人ぐらいだった記憶があります。そんなものの数ですから、ちょっとした病院でも内科がサブスペがずらりと並ぶのに対して、小児科は通常一つになるわけです。

二次救急以下の大部分は、小児の事ならとりあえず「何でも屋」の側面があります。当然ですが基本とするサブスペがあるので得手不得手はあるにせよ、ほんの2〜3人の小児科医でカバーしてしまいます。1人医長であってもあんまり率は変わりません。つうか、それが普通の形態です。

横須賀うわまち病院も陣容からして三次的なレベルもかなりカバーしていると推察しますが、主体は二次救急と考えて良いかと思いますから、かなりのサブスペも研修できて、なおかつ一般小児科もカバーできるぐらいの意味合いに受け取ります。自慢じゃありませんが、小児科医は小児分野なら今だって基本は総合医です。


ここでポイントは「小児科分野の総合診療医(小児科医)≠ 総合診療医」である事です。小児科医だって成人分野を診察する事はありますし、私だって今でもホソボソとはやっていますし、勤務医時代は内科当直として時間外診察をやっていました。ただその程度の力量で「総合医でござい」と自負している小児科医は稀かと考えています。言ったら悪いですが、たかだか「なんちゃって内科医」に過ぎません。

ですから専務理事が言う「総診」とは、現在妙に持ち上げられている内科を中心に幅広く診療すると言われている総合医と解釈するのが妥当です。小児科医から言わせると「なんちゃて小児科医」程度のものですが、小児も診察する事がある内科医ぐらいと見て良いかと思います。

ここも日大時代の様に小児科医をそろえられるのであれば、わざわざ「総診」なんて言葉を出す必要はなく、素直に小児科医が診察すれば良いだけです。それを

    光が丘であっても、主体は救急と総診だ
ここの「総診」は内科主体でなんでも診察する総合診療医を指すと私は解釈します。つまりは小児科医をそろえる事は非常に難しいと言っているに過ぎないと考えます。まあ、現実にも協会であっても難しいのですけどね。そうそう今でも日大光が丘病院小児科は、

小児総合診療科

こうなっています。


第3部

Q.4月以降も同程度の水準の医療を行うと区は言っている。言うは易し。医師、看護師を質量ともに確保できるか。最終的な配置の想定、4月の時点での確保の見通しは?

A.正直言って、今いらっしゃるスタッフの皆さんに地域を継続する思いがあるんだったら一緒にやってほしい。出発点でその人たちが少しでもいれば全然状況が違う。あとは我々としては、過渡的なところであれば、北、うわまち、場合によっては奈良も含めて支援できるところがあれば数十人の医者が数カ月の間、医師確保ができるまでサポートすることは不可能ではない。

 小児救急についても、総合医が診る。病院に振るか自分で処置するか。8割9割は自分で処置できる。入院は10人に1人、送り先さえあれば怖いことはない。光が丘がプライマリーを中心にやってきたのであれば、総合医も含めて、いるスタッフで受けられる病気は受けます、重症なものは転送しますという態勢を機能させることが大切。正直、こういう状況では初めて。全力を挙げて協力したい。

こっちの方が総合医の役割がはっきりしています。

    小児救急についても、総合医が診る。
な〜んか、最悪小児科医は1〜2人程度、もしくはゼロみたいな感触さえ抱きます。これも面白いのですが「4月以降も同程度の水準の医療を行うと区は言っている」に対し山田専務理事が明言した内容は、
    8割9割は自分で処置できる。入院は10人に1人、送り先さえあれば怖いことはない。
山田専務理事もどれほど認識されておられるかわかりませんし、色んな思惑があっての発言と考えますが、年間の小児救急だけでも8000人を超えています。そのうち1〜2割が処置できないとなると年間で1000人以上がお手上げになる事になります。チト多すぎる様に感じないでもありません。

私のような開業医レベルで自分のところで処置できずに他院に送る患者の数は、完全に専門外のものを除くと1000人に1人ぐらいでしょうか。多く見積もっても1000人に2人までいかないと思います。病院であってもほぼ同様かそれ以上として良いと考えます。気張って言うほどのものではありませんが、99%レベルではなく、もう一桁少ない99.8%とか99.9%ぐらいは自院で処置可能です。それが協会による運営ではもう二桁程度は下がって8〜9割としています。

どうしてもあんまり好意的な解釈になっていないのですが、どうも現時点のプランとして、とにかく小児救急は4月以降も継続するが、動員できるのは総合診療医、つまりは「なんちゃって小児科医」主体であり、それでもってカバーできるのは8〜9割程度であると明言されているわけです。ただ譲渡直後の4月から一定の時期は頑張るつもりもあるようで、

    過渡的なところであれば、北、うわまち、場合によっては奈良も含めて支援できるところがあれば数十人の医者が数カ月の間、医師確保ができるまでサポートすることは不可能ではない
「北、うわまち、場合によっては奈良」だってあり余る小児科医がいるわけではないでしょうから、外形上は小児救急を保ちながら、なんちゃって小児科医によるものに移行し、徐々に縮小の方針であるとも読む事はできます。協会も経営は大変シビアと聞きますから、病院経営全体からすると、そうなっても不思議はないかと存じます。


発言者の立場

山田氏は協会専務理事の要職におられます。協会内の発言力は知る由もありませんが、協会中枢の意見は十分に知る立場におられると思います。それと話した相手が問題の渦中にある練馬区議会議員です。そうなると話した内容は山田氏個人の見解とか見通しではなく、協会の決定事項のうち、公言しても良い範囲を話されたと考えるのが妥当です。

そうなるとこれは既に決定事項と考えて良いかと思われます。「そうしたい」レベルの話ではなく「そうする」レベルの話だと言う事です。それと協会の今回の問題に対する基本的なスタンスも窺えそうな部分はあります。

    正直、こういう状況では初めて。全力を挙げて協力したい
山田氏の実感はそうなんでしょうが、あくまでも日大に突然見放された光が丘病院を「頼まれて」援助するです。ただ急場の事なので十分な対応は必ずしもできないと考えても良さそうです。現実もそうだと思いますが、ポイントは練馬区との関係です。協会は練馬区に頼まれて善意で応援しているもので、練馬区の要求に対しても実現する様に努力はするが、急場の事であり必ずしも実現できない部分があるのは「当然である」です。

死んだ子の歳を数えるようなものですが、結果論として練馬区はもったいない事をしたような気がします。もちろん4月以降は蓋を開けてみないとわかりませんし、長い目で見ると「これで良かった」になるかもしれませんが、少々先行きは不透明な気がします。