本田先生と栗橋病院・追補編

土曜日に同じネタを書いたのですが、急ぎすぎて細かな計算ミス、検証不足が多々あり追補編とさせて頂きます。

本田宏先生

本田氏は医療崩壊の言葉が流布されだした頃より小松秀樹氏と共に名を知られるようになられた人物ぐらいに記憶しています。本田氏は医療制度研究会も主宰されていますが、それよりも精力的な講演活動は有名です。一度だけその講演を聞く機会がありましたが、実に立て板に水の流暢なものであったと記憶しています。内容については講演相手をお考えになられてか、私的には記憶するほどの内容もありませんでしたが、その啓蒙活動は敬意に値するものと思っております。

そんな本田氏が勤務医されているのが済生会栗橋病院です。どういう肩書きであるかですが、日経メディカルブログ:本田宏の「勤務医よ、闘え!」には、

89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

「11年7月から現職」と言うのが済生会栗橋病院院長補佐になります。これは現在の栗橋病院の病院概要にも掲載されています。ここでよく判らないのが院長補佐と言う余り馴染みのない役職です。経歴を見ると副院長を10年間勤められた後に院長補佐になられています。本田氏は1954年生まれとなっていますから、2001年に副院長に昇進された時が47歳、その10年後の57歳の時に院長補佐です。

あくまでも推測ですが、馴染みの薄い役職名はしばしばライン外の時があります。一種の名誉職に近い感じで、役職として序列は高いが実権は少ないみたいな感じです。新撰組がわかりやすくて、局長の近藤勇の次は副長の土方歳三がラインで、総長と言う重々しそうな役職の山南敬助には実権がなかったみたいな感じです。これが栗橋病院ではどうであるかは、外部からは窺い知る事はできません。

これは法務業の末席様の見解ですが、

労基法の上での「使用者」の定義は、労基法10条に規程があります。

                  • -

第十条  この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

                  • -

条文中の「事業主のために行為をするすべての者」については、労働条件の決定や労務管理を行うこと、あるいは業務命令の発出や労務管理を行うすべての者、と解釈するのが一般的です。
厚生労働省労働基準監督局編「労働基準法」など)

当直当番のスケジュール表作成や学会出張の許諾など、院長補佐として勤務医師の労務管理に関与しているなら、本田宏先生は疑いなく労基法上の「使用者」にあたります。

ここは管理者、つまり経営サイドの立場におられるのではないかと推測しておきます。


社労士総研プロジェクト

本田氏の著書の一つに医療現場の労務管理に対する研究−勤務医等の過重労働を中心に−があります。「社労士総研 研究プロジェクト報告書」となっており平成24年に刊行発表となっています。内容についてはリンク先を読んで頂きたいのですが、なかなかの労作と感じております。前回も取り上げましたが、報告要旨には、

具体的には、医師の当直業務が実態に反して労働時間としては扱われておらず、割増賃金が支払われていないこと、そして、そのまま日直に入り、32時間を超える連続した長時間勤務が恒常化している実態などが浮かび上がり、憂慮すべき問題であると指摘できる。そのために、当直時間の扱いの見直し等を含めた労働基準法を遵守する姿勢を病院側に強く促すことが必要であると考える。

労基法と当直問題についての詳細な研究もあり、当たり前ですが本田氏は医師の労基法問題についても十分な知識をお持ちである事が確認できます。引用部分のうちとくに、

    そのために、当直時間の扱いの見直し等を含めた労働基準法を遵守する姿勢を病院側に強く促すことが必要であると考える。
ここについては深い意味が込められていると私は存じます。私も泥縄ながら労基法についての少しは噛らせて頂きました。そこで分かった事として、労基法は確かに労働者を守る法律であるのは間違いないのですが、労働者自身がこれを活用する意志、いや意志だけでなく具体的なアクションを起さないと守ってくれないと言う事です。じっと耐えて待っていれば、いつか白馬の騎士に乗った労基署が助けてくれるという事は「そうそうはない」です。

また現実的にアクションを起しても、高確率でその職場の居心地は悪くなります。いくら法に基づく権利の要求と言ったところで、経営者と感情的な対立関係になるのを防ぐのは難しく、実際にアクションを起すのはかなりの犠牲を時に払わされることが決して少なくないと言う事です。その辺がブラック企業の温床でもあるのですが、これ以上は突っ込むのは控えておきます。


オピニオンリーダーとしての本田氏

本田氏が医療問題でのオピニオン・リーダーの1人である事はそんなに異論はないかと思います。医療問題について各種の提言を積極的に行われている事も周知の事です。上記で紹介した社労士総研のプロジェクトもその一つかと存じます。提言は何のために行われるかと言うと

    実現させるため
時に実現不可能の提言をされる方も世の中にはおられますが、本田氏をそういう輩と同類と見なしては失礼も度が過ぎます。あくまでも実現が可能なもの、これも今すぐでなくとも実現させるべき事を提言されていると信じております。そういう実現させるべき提案ですが、これも大雑把に言うと2つぐらいに分類できるかと考えています。
  1. 社会を動かさないと実現できないもの
  2. 本田氏の努力でも実現が可能なもの
ここで社労士総研プロジェクトの報告要旨をさらにまとめてみます。
  1. 医師の当直業務が実態に反して労働時間としては扱われておらず、割増賃金が支払われていないこと
  2. そのまま日直に入り、32時間を超える連続した長時間勤務が恒常化している実態
この2つについては本田氏が勤務されている栗橋病院での改善が可能なものです。本田氏はタダの労働者である勤務医ではなく、院長補佐とと言う管理者サイドに属しておられるからです。少なくともタダの勤務医が改善を訴えるよりスムーズかつ効果的な改善がなされやすいと考えます。つうか、本田氏がいても改善されなければ、いったいどこの病院なら改善されるかぐらいのお話と思います。

勤務医の労働問題、とくに当直問題に関するお話は既に啓蒙段階を終えつつあると私は思っています。啓蒙が広まれば次に行わなければならないのは実践です。具体的にどういうアクションを起し、どういう手法で取り組んでいけば成果が得られるかです。栗橋病院は、そういう意味で非常に有利な条件をお持ちです。院長補佐と言う要職にあの本田氏がおられるからです。


割増賃金問題の検算

病院の給料を知る事は案外難しいところがあります。基本給が幾らで、賞与が幾らで、当直料がいくらなんて情報はそうは簡単に入手できません。ところが幸いな事に栗橋病院は公開情報でかなり詳しいところまで知る事が出来ました。まず基本給と賞与ですが、済生会HPにある栗橋病院後期臨床研修募集がかなり参考になります。表にして提示します。

経験 基本給 賞与 賞与・当直料を
含む年総額
うち年間当直料 時間給
(推計)
3年次 37万6040円 165万4576円 920万円 303万2944円 2480円
4年次 50万2650円 221万1660円 1100万円 272万0540円 3335円
5年次 53万9480円 237万3712円 1200万円 315万2528円 3559円


5年次で年総額1200万円は判りましたが6年次以降はどうなんだですが、医師転職支援センターにこうあります。

給与 1000万円 〜1200万円 経験・スキルにより考慮
10年目標準給与 1200万円

どうもなんですが、後期研修医である5年次から経験10年目まであんまり給料は変わらないようです。ですので5年次モデルで考えてみます。 医師転職支援センターにはこうともあります。

夕診・夜診 25000円/回
夜間当直 3回/月 別途支給25000円/回
日当直 25000円

ここの読み方として、平日当直は2万5000円、日曜祝日の全日当直は5万円と受け取ります。問題は夕診・夜診とはなんぞやです。栗橋病院の外来診療日程表を確認しても夕診・夜診のスケジュールはありません。そうなるといわゆる救急部門であると考えるのが良さそうです。この救急部門の勤務体制は5/10付FNNニュース深刻化する医師不足、首都圏の救急医療の現場に密着しましたによると、

  • 埼玉県済生会栗橋病院の「地域救急センター」は、入院や手術を必要とする救急患者に、24時間対応している。
  • ここでは基本的に、当直の医師が1人で、救急搬送と夜間の救急外来の両方に対応している。

こうなっていますから当直勤務であると考えられます。もう一つ言えそうなのは「夕診・夜診」当直とは別に夜間当直が3回あると言う事です。FNN記事にある地域救急センターは栗橋病院広報誌によると栗橋病院の併設施設であり、病院本体の当直が必要であるぐらいに思われます。

この救急への勤務がFNN記事にあるように本当に当直勤務であるかどうかの補強資料に医師求人ナビがあります。まず勤務内容ですが、

勤務内容 救急外来 ◎救急車14〜15台程度(夜間7〜8台)◎内科・外科の2診体制◎常勤Drオンコール有り◎インセンティブ:救急車3,000円/1台、入院3,000円/1名

どう読んでも救急外来への求人です。でもって、

勤務体系 日当直

非常勤が当直勤務なら常勤も当直勤務と見なすのが妥当かと存じます。問題は夕診・夜診の2万5000円は一体なのか、別なのかです。これについての参考情報は医師employmentがあります。これには救急専門医の募集が掲載されているのですが、

当直 1回あたり35000円 / 月2回程度 17:00〜翌10:00

救急専門医が夕方より翌朝まで当直しても3万5000円ですから、救急専門医以外なら2万5000円とするのが自然と考えられます。結局のところ栗橋病院の当直は、

  1. 本院 3回
  2. 地域救急センター 回数不明
これぐらいであるらしいです。地域救急センターの当直ですが、栗橋病院自体は50〜60人程度の医師がいます。センター当直は1人とFNN記事にありますから、ここは月に1回と考えたいところです。そうなると全部で4回ですから1ヶ月の当直料は10万円ぐらいが平均となります。やっとこさ1ヶ月の当直回数と当直料が推測できたので計算してみます。

分類 金額
年間当直・時間外手当 315万2528円
平均 月間当直・時間外手当 26万2711円
月間実当直料 10万0000円
月間時間外手当 16万2711円

時間外手当相当分は平均で月間16万2711円になる事がわかります。ではこの金額がどれほどの時間外勤務時間に相当するかですが、とりあえず時間外手当の割増率を示します。基本給からの時間給は上で計算した通り3559円ですから、
時間外手当 割増率 時給
時間外割増 25% 4199円
深夜割増 50% 5039円
休日割増 35% 4535円
休日深夜割増 60% 5374円

時間外勤務の割増平均が幾らになるかの推測資料がないのですが、30%で4679円になります。これを少しだけ切り上げて4700円(32%)として計算してみると34.6時間になります。4回の当直のうち1回は夕診・夜診であり、この時間帯は募集要項にも10台程度の救急車が来るとなっています。それ以外にも救急車以外の受診はあり、全時間帯が時間外勤務に該当すると考えるのが妥当です。この時間を仮に15時間とすれば、残りの残業時間は19.6時間です。 この19.6時間ですが時間外勤務は当直時間帯のみ発生する訳ではありません。当直でない勤務日にも当然発生します。医師employmentに救急専門医の残業時間が記載されており、

残業 月20時間程度

どうも救急医以外も残業は月に20時間程度のようです。


栗橋病院がキチンと残業代を払っていたらのシミュレーション

少し驚くような勤務体制が築かれている事がわかります。

  1. 当直日以外の残業時間は1ヶ月で20時間程度
  2. 夕診・夜診当直はオールナイトだが、残りの本院当直3回は完全な寝当直
確かに地域救急センターの当直と言う名のオールナイト勤務は辛そうですが、月に1回のその日さえ頑張れば後はほぼ9時5時ぐらいでトットと帰れる事になります。5時に帰れる根拠としては、地域救急センターにはバックアップとし各診療科のオンコール体制が敷かれている(これの時間外手当の件は今日はあえて置いておきます)となっており、これだけの救急を行われているわけですから、そこからの呼び出しだけで月に最低10時間ぐらいは時間外勤務があると考えるからです。

さすがは本田先生のお膝元病院と感心します。感心するんですが引っかかる点があります。本院当直と考えている夜間当直3回です。3回と言う回数自体はまったく問題は無いのですが、ちょっとした算数をやってみます。栗橋病院は50〜60人の常勤医がいます。そうですねぇ、このうち35人を当直実戦力と考えて見ます。そうなるとそう当直コマ数は105回になります。

当直コマ数が105回もあれば3人当直と言う事になります。それも寝当直が3人です。4人目になる夕診・夜診当直がオールナイトで半殺しになっているのを傍目に、3人も本院で寝当直をやっていらっしゃるわけです。これってかなり珍妙と思わないでしょうか。300床を越える病院ですから、寝当直であっても内科系・外科系の2人当直制を敷いても構わないのですが3人目は誰なんだの世界です。ここまで考えるとFNN記事の

ここでは基本的に、当直の医師が1人で、救急搬送と夜間の救急外来の両方に対応している。
理由は、慢性的な医師不足にある。

現実妥協的には悪くない勤務体制ですが、これも現実を考えると「そりゃ、いくら医師がいても足らんだろう」の感想になります。結論的にはごくごくありきたりのサービス残業と言うか、感触的には結構払っていない感じが強そうです。


栗橋病院は医師を集める気があるのだろうか?

FNN記事を読むと栗橋病院が医師不足であるとの印象を抱きそうですが、理想はともかく現実的と言うか相対的にそんなに医師が不足しているかチト疑問を抱きます。これは医師でないと判り難いかもしれませんが、済生会HPにある栗橋病院後期臨床研修募集に、

関連施設 東京女子医科大学

まあ、研修医については、

当院単独では不可能なプログラムについては、東京女子医科大学との連携により、スムーズなプログラム達成を導く。又、大学とは一味違った地域医療の特長を随所に散りばめたプログラムとなっている。

栗橋病院では足りないところを女子医大が連携して補うの趣旨ですから、ここはまだ良いかもしれません。ただ臨床研修のところになると、

 当院は全国に80ある済生会病院の1つで、東京女子医科大学特定関連病院という特徴を有しています。そのため常に最新医療を導入する姿勢を持ち続け、診療と共に臨床研究にも力を注いでおります。また、常勤医師はすべて大学からの派遣となっており、出身大学や診療科という垣根もなくチーム医療を心がけております。 

このアピール文は正直なところ非常な違和感があります。

    出身大学や診療科という垣根もなく
実態については存じ上げませんし、実態はそうなのかもしれませんが、この文章に直接係るところが問題で、
    常勤医師はすべて大学からの派遣となっており
「大学からの派遣」は当然の事として女子医大であるのは一目瞭然で、そういうところで「出身大学の垣根が無い」と言われても素朴に疑惑を抱きます。いくら病院の当事者が「そうである」と力説されても、こりゃ事実上の女子医大関係者御用達病院と読めてしまうです。そんなところにわざわざ冷飯を食いに行かなくても、首都圏に他の選択枝は幾らでもあるみたいな感じです。


それでも研修医はまだ良いとしましょう。常勤医募集はどうなんだになります。ここもまた微妙なお話ですが、病院が医師が公募すると言うのはそれだけで医師が足りない証拠と読み取ります。足りている病院は栗橋病院が書いているように関連大学医局からの派遣医師で充足し、それ以上の公募などしないからです。また少数の不足なら、公募せずにうちうちで集めます。つまりHPになりに公募を出すような病院は相当追い詰められていると読むわけです。

そういう意味で栗橋病院も医師の公募を行っているので医師不足が深刻と見れない事もありませんが、医師の募集要項も微笑を誘うものとなっています。

当院は東京女子医科大学の特定関連病院として位置づけられ、勤務医はすべて東京女子医科大学からの派遣職員となっております。 しかし、当院で勤務を希望される方はご相談に応じますので、ご遠慮なく、

「ご遠慮なく」と言われても、これを読んで「いっちょう、栗橋病院に勤めてみるか」なんて気が湧くかは正直なところ疑問です。ゴチゴチの女子医大のジッツに、はぐれ者の医師が紛れ込んでも、どういう待遇が待ち受けているか医師なら誰でも想像が付くと言うところです。それでも「あえて」の医師はゼロとは言いませんが、栗橋病院も首都圏に位置しており、無理に栗橋病院を選択しなくとも他の病院の選択は幾らでもあると言うところです。

つまり本気で医師を女子医大以外からも広く集める気があるのか相当疑問の姿勢と考えられます。


感想

本田氏の講演は1回しか聞いた事がなく、また記憶もおぼろげなのですが、本田氏は日本の医師不足をさかんに強調され、

    「だから医師を大増員すれば、すべて解決♪」
私がこれを聞いたのは政府が医師が「余っている」から「足りない」に政策変換する頃だったので、ごく素直に本田氏の主張にうなづいた事を白状しておきます。あれからもう何年になるのでしょうか、さして関心の深い人物でないのであんまり情報を集めてはいませんが、未だにあんまり変わらない主張の印象が濃いところです。やがて医療政策は本田氏の主張に近いものになり、医学部定員の大幅増となって現在に至っています。

この定員増のペースは非常なものですが、大幅に増えた定員を見ながら新たな懸念が出てきています。非常に単純な懸念で、増やすのは良いが、増やした分を食わすことが出来るのかです。これには目に見える前例があります。歯科医と弁護士です。どちらも大量増産を行った結果、余るどころのお話でなくなったのは周知の事です。この前例に対する見解はどうなんだです。

今は変わっているかもしれませんが、かつての本田氏は無駄な公共事業(とくに道路だったかな?)をセーブすれば予算なんて幾らでも湧いて来るとされていました。これも聞いた時に「ウンウン」と思った事を白状しておきますが、ちょっと単純すぎるんじゃないかです。仮に無駄な公共事業費を削減出来たとしても、それがゴッソリ医療に回る保証はどこにもないと言ったところです。それこそ年金もありますし、国の借金返済なんかもかなりの優先事項になります。現在ガリガリ削られている国家公務員の給与を戻す方向に使われても不思議ありません。公務員にも生活があります。


本田氏に向けられている最大の疑惑は本田氏が経営者サイドの人間である事です。お前も経営者だろうと言われればそうですが、経営者でも大手と零細ではかなり立ち位置が違います。本田氏は経営者として労働者を使う立場の人間であると言う事です。経営者の感覚で言えば、売上とか収益は最重要事項です。そりゃそうで放漫経営をやらかせば、自分だけでなく従業員も路頭に迷わせます。

そのために感覚はドライでシビアなところが求められます。医療で最大の支出は人件費です。本田氏が経営者として「医師が足りない」と強調されれば、

    同じ人件費でたくさんの医師を雇いたい
こう考えているんじゃないかも疑惑を抱かれ始めているとすれば良いでしょうか。経営のもう一つの柱である収入については、皆保険制度下では伸びるどころか抑制政策が続くのは必至です。医師を増やしてたくさん雇っても、増えた分だけの収入が賄えるかはかなり疑問です。極度に不足しているところは別ですが、そうでないところは医師を増やした分の収入を賄うのは容易でないといったところです。

栗橋病院の経営成績の一部が公開されていますから引用しておきますと、

指標 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23
入院患者数(人/日) 299 283 274 274 271 276 275
外来患者数(人/日) 966 927 802 760 709 731 681
病床利用率(%) 97.7 92.4 89.4 89.0 88.1 89.6 88.1
平均在院日数(日) 13.76 13.36 13.63 13.39 13.48 13.60 13.60


しかし凄ぇな、2005年には栗橋病院の病床利用率は97.7%もあった事がわかります。これが2011年には88.1%まで低下はしています。この表から何が読み取れるかと言うと、栗橋病院が収入を増やせる余地は、
  1. 2011年段階で88.1%まで落ちている病床利用率を2005年並の97.7%まで引き上げる
  2. 2005年段階から横這いの平均在院日数を減らす
つまり病床回転をもっと良くしながら病床利用率を極限まで高めるです。病院収入は「入院 >> 外来」ですから、入院部門をフル回転させる事が経営の要点であり、またフル回転させた上限が収入限界でもあると言う事です。それ以上は収入は増えず、その収入内でしか医師も雇えないです。アラアラに言えば1割〜2割弱程度の収入増の余地があるわけですが、それ範囲でしか医師も含めたスタッフは雇えないです。

ここも経営者サイドの見方を書いておくと、収益はべつに人を雇うために存在しているのではありません。増やしただけ収益を食い潰しますから、儲かっても同じ人数でなんとかなるのなら増やしません。増やすからには、増やすのに見合った収益を期待できる時になります。少なくとも足が出そうなら、余ほどの理由が無いと増やさないのが経営者です。

現在の収入でテンコモリの医師を雇いたい、たとえば栗橋病院の医師数を2倍にしたいとなれば、必然的にセットで人件費の削減、つまりは給与の大幅な引き下げが必要になると言う事です。最近の医師世論で医師大幅増員政策に対して必ずしも反応が良くないのは、余りにも単純な算数的事実に気が付いているからです。収入面のセットを考えないと自分のクビを絞めている側面が確実にあるぐらいのところでしょうか。もちろん「医師は儲け過ぎ、年収300万円でも文句を言うな!」の意見もありますが、それはそれで長くなるので今日は置いておきます。

経営と言う面から時間外手当、とくに当直勤務時間内の時間外手当をキッチリ払えば奈良県知事じゃありませんが、「病院経営なんて成り立たない」のは現実ではあります。だから奈良県知事は「医者には不用」と最高裁まで頑張られた訳です。奈良県知事は医師にとってはヒールですが、それでも立ち位置がはっきりしたヒールです。本田氏はベビーフェイスの発言を盛んに行われていますが、お膝元は手付かずに見えます。

それにしても思ったのは、なぜに本田氏は院長補佐としてFNNの取材を受けたのだろうです。あんな取材がなければ栗橋病院の実情なんてわざわざ調べる気も起こらなかったのですが、不思議な感覚と思っています。まさに「キジも鳴かずば撃たれまい」てなところです。