産経らしい記事

6/18付産経新聞より、

生活保護受給者囲い込み 大阪・西成区の3診療所が“営業活動”

 生活保護受給者が患者の大半を占める大阪市西成区内の3つの診療所の職員が、過去に受診した受給者宅を訪問し、再来院を呼び掛けるような“営業活動”をしていたことが17日、関係者への取材でわかった。来院患者には飲料を無料提供するサービスも行っていたという。こうした活動は、営利目的の医療活動を規制する医療法に抵触する恐れがあり、大阪市保健所は、医療機関による「受給者囲い込み」の実態について調査を進めている。

 生活保護受給者の医療費は全額公費で賄われるため、本人に負担感はなく、医療機関には確実に受診料が入るメリットがある。だが、医療扶助は生活保護費全体の約5割を占めており、保護費増大の中で著しく財政を圧迫している。

 関係者によると、西成区の3診療所では最近まで、患者数を確保するため、過去のカルテを調べて受給者宅を戸別訪問。「悪いところはないですか」「最近来ていないが、どうしていますか」などと来院を促していた。内部では「キャッチ」と呼び、事務担当職員が行っていたという。

 昨年秋ごろまでは、専用のコインを入れるとジュースやコーヒーが無料で飲める自販機を診療所内に設置。診療所側は受診した患者にコインを渡し、事実上受診の“謝礼”として飲み物を提供していた。

 市保健所や関係者によると、3診療所は西成区内にある2つの医療法人が経営しており、生活保護受給者が全患者の9割以上を占める。2法人の理事長は別人だが、職員の人事交流や一括採用を行っており、系列病院のような一体的な経営になっているとみられる。

 市保健所は今年4月下旬、外部情報に基づき3診療所を訪問したが、自販機はすでに撤去されていた。診療所側からは「近畿厚生局に指導されたため撤去した」と説明を受けたという。近畿厚生局は「個別事案における指導内容は公表できない」としている。

 3診療所は、いずれも産経新聞の取材に「応じられない」としている。

 市保健所では昨年12月、「生活保護取扱」と表記したのぼりを立てたり、ビラを配ったりした西成区内の別の診療所に対し、医療法の広告規制に逸脱したとして指導した例がある。

最近ホットな生活保護者バッシングの一環の記事と受け取ります。叩かれたのは生保患者を診療している医療機関です。行った事は

  • 過去のカルテを調べて受給者宅を戸別訪問。「悪いところはないですか」「最近来ていないが、どうしていますか」などと来院を促していた。
  • 昨年秋ごろまでは、専用のコインを入れるとジュースやコーヒーが無料で飲める自販機を診療所内に設置。診療所側は受診した患者にコインを渡し、事実上受診の“謝礼”として飲み物を提供していた。

こういう行為が悪質極まると報道しているわけです。ただよくよく読むとそんなに悪質かと疑問です。ちょっと書き換えてみます。
     ○○村で長年に渡って地域の健康を守るために活動している△△医師は、診療所を受診する患者だけに留まりません。カルテをチェックし、受診が途切れている患者が見つかれば、職員を直接患者宅まで訪問させ「悪いところはないですか」「最近来ていないが、どうしていますか」の声掛け運動も続けています。そこで異常を訴える患者がおればさらに診療所のクルマでの送迎までも行っています。

     また受診した患者にはコーヒーやジュースを振る舞い、時に世間話に花を咲かせる事も珍しくないと言います。△△医師は「ここの住民は遠慮深い人が多いので、病状をこちらから尋ねたり、診察室でリラックスしてもらう事が大事なのです」。村のかかりつけ医として、これからも活動を続けていくとしています。
こういう行為は一般的には「美談」として扱われますが、産経記事に依れば患者囲い込みのための悪質行為としている事になります。コーヒーやジュースの「謝礼」にしても、小児科医ならよくやる手法として、シールを配ったりアメ玉を配るところもあります。そういう行為も受診の「謝礼」として悪質と報じている事になります。

まあ飲み物の提供はあんまり好ましくないかもしれませんが、小児科のアメ玉やシール、成人診療科でも「美味しい水」ぐらいの提供を行っているところは珍しいとは言えません。ここはどの辺りまでが許容される行為なのかは、チト微妙と言うか長くなるので今日は保留とさせて頂きます。ここも話を広げれば、無料の送迎バスはどうなるんだみたいな話まで広がるからです。公営バスであっても公費で医療機関の経営のために便宜を計っているみたいな解釈も出てくるからです。

それと生保患者だから悪質に決め付けるのも問題です。生保患者以外ならOKなんてのも、かえって問題がこんがらがりそうな気がします。また、もしもそうやって呼び出した患者の中に、それで命が助かったみたいなケースが存在していれば、どうするんだみたいな話も出てきます。



この記事の最大の問題点は、

    受診を促され受診した患者の多くは、本来受診など不要であった
これの取材が見事に抜けている事です。ここを手抜きして、患者への受診呼びかけを安易に「囲い込みだ」と一般論化してしまっているからトンチンカンになるです。患者宅に呼びかけても、本来必要な受診であれば問題になりにくいです。飲食物の謝礼も同一線上で、不必要な受診、つまり診療所が儲けるためだけに、病気でもない患者を受診させた事実の上でなら「謝礼」になりますが、そこの事実提示が行われていないので歪んだ形の一般論になります。

もちろん患者の全員を調べ上げるのは難しいでしょうが、そういう時の手抜きの常套手法があります。これもよくある手で街角取材みたいなやり方です。あれは記事の趣旨に合う発言をしてくれる通行人を見つけ「市民の代表的な意見」として紹介するものです。これも最近はさらなる進化を遂げて、出てくる通行人が同一人物である事が多いとか、子どもが芸能事務所所属なんてのもあるとの指摘もあります。

今回は新聞記事ですから、そういうテレビの手法は使えないとしても、患者インタビューぐらいは行うべきでしょう。そこでとくに必要も無いのに受診している話を聞き取り、

    オレ以外にもたくさんいるで、タダでコーヒー飲めるし。
こういうコメントをせめて付け加えるです。これもあんまり好ましい手法とは言えませんが、それでも今回の産経記事より形だけでも裏を取っていますから、少しはマシになります。読む方も「他の患者もきっとそんなのが多いのだろう」になり、記事の
     市保健所や関係者によると、3診療所は西成区内にある2つの医療法人が経営しており、生活保護受給者が全患者の9割以上を占める。2法人の理事長は別人だが、職員の人事交流や一括採用を行っており、系列病院のような一体的な経営になっているとみられる。

     市保健所は今年4月下旬、外部情報に基づき3診療所を訪問したが、自販機はすでに撤去されていた。診療所側からは「近畿厚生局に指導されたため撤去した」と説明を受けたという。近畿厚生局は「個別事案における指導内容は公表できない」としている。
ここの部分が「やはり怪しい事をやっているんだ」につながります。ところが手抜きしまくったがために、後半の疑惑部分があんまり生きずに、前半の「不正らしい」事実部分が浮き上がり
    その行為のどこが悪質なんだ!
こうなってしまうと言う事です。



ま、あれでしょうね。記者なりデスクの発想として、とにかく生保関連を叩けば誰もが拍手喝采する旬の話題として「この程度で必要にして十分」と判断されたとは思います。その手の雑さは見慣れてはいますが、余りにも手抜きし過ぎと感じます。言ったら悪いですが、大阪のそれも西成の生保医療ビジネスは、掘り下げればもっと凄いのが出てくるはずです。

でもそっちの方はきっと怖くて触れられないのだと想像しています。だからお手軽な方に向かったと理解していますが、お手軽であっても手抜きの裏さえ取るのをサボると、スカなら良いですがかえって別の面で悪影響が出る記事の見本の様に思います。


個人的な意見ですが、この診療所の行為はある意味生保患者にとってはとっても有り難い存在であったはあり得ます。生保を維持するためにもっとも手っ取り早い手法は、「働きたくとも病気で働けない」です。そのためには定期的な受診記録が必要です。これはプロ生保の基本中の基本です。それでも人は様々で、受診するのさえ面倒と言うか、忘れる人もいます。

面倒がる人や、忘れている人を定期的にカルテでチェックしてくれた上に、自宅まで訪問してワザワザ呼び出してくれるのですから、こんなに有り難いサービスはないかもしれません。さらに、

“営業活動”を行っていた診療所。軽ワゴン車などで受給者を送迎していたという=大阪市西成区

送迎付ですから至れり尽くせりです。産経には「もちろん」期待していませんが、そういう切り口で取材すれば全然違う記事が出来たのにと惜しまれます。でもそんな手間はかけないだろうなぁ。。。