平成24年5月19日付関電「今夏の需給見通しと節電のお願いについて」から見るのですが、今日のお話の前提として、
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関電資料の信憑性は論じない
電源 | 2011 | 2012 |
原子力 | 337 | 0 |
揚水 | 448 | 223 |
他社・融通 | 522 | 644 |
火力 | 1415 | 1472 |
水力 | 225 | 203 |
合計 | 2947 | 2542 |
これを見てパッと思うのは、需要の減る夜間の電力を活かせないかです。サマータイムとか、操業のシフトとかです。いろいろ昨夏の東電管内でやっていました。ここも先にネタばらしになりますが、ここに蓄電池の話を絡めようが最初の構想でした。さて注目点は揚水発電量の減少で昨夏より半減で実に225万kWの減少です。もう一つ関電資料を示します。
- 夜間の余剰電力を利用してポンプアップする
- 昼間にポンプアップした水を利用して水力発電
- 揚水発電時間の延長
- 揚水時間の減少
揚水ポンプの出力のマックスが486万kWですからポンプがフル稼働して10.3時間で満水になると計算できます。昨夏は揚水時間が16.2時間ありましたが今夏は11.6時間です。表を見ればお判りのように揚水発電が終わり、揚水が始まってもポンプがフル稼働できるまで今夏のデータを参考にすれば3時間程度必要です。また揚水発電が始まる1時間前ぐらいからポンプのフル稼働のための余剰電力は失われます。
グラフからの目分量ですが今夏のポンプのフル稼働時間は実質8時間程度で、これは揚水発電量が3500万kWから2768万kWに減少したのにほぼ一致します。そうなると仮に夜間、とくに20時〜24時ぐらいの夜間の節電を強化すればどうかです。机上論なんですが、
- 発電時間が2時間程度減少
- 揚水量が3500万kWにフルチャージされる
ちなみに大飯の2期の原発が動くと235万kWの発電量になりますが、この発電量は下のグラフのベースラインを押し上げます。グラフからの目算ですが、7時と23時の揚水ポンプがフル稼働に出来ます。さらに8時、20時、21時の揚水発電が不要になり、一部を揚水ポンプに回せます。結果として、
- フル稼働換算で2時間程度の揚水ポンプ作動時間が伸び、フルチャージの3500万kWに近くなる。
- 揚水発電時間を3時間程度短縮でき、毎時390万kW(166万kW増加)のピーク時供給増が可能になる。
- 結果として原発分235万kW + 166万kW = 400万kWの供給増加が期待できる。
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夜はテレビなどダラダラ見ずに早く寝ましょう♪
関電の電力事情が厳しすぎてオマケになってしまいましたが、一つ注目したい数字があります。今夏の予想でも
ポンプアップ電力 | 揚水発電 | 差し引き |
3955万kW | 2768万kW | 1187万kW |
表にするほどのものではありませんが、結構ロス(3割程度)があるわけです。ロスの分はポンプアップのための揚水モーターの効率、さらに水力発電の効率もあるとは思います。これを蓄電池に置き換えればもう少し改善しないかです。そのためにはそんな巨大な蓄電池が実用化されているか、充放電効率はどうか、価格はどうかがポイントになります。
あくまでもザラっと調べた範囲ですが蓄電池の大型化が進んでいるようです。どれぐらい大型化し実用実績があるかですが、広瀬誠(Makoto Hirose)のblog「NAS電池の価格が判明 300万KWで6500億円程度か」に、
日本ガイシがUAEのアブダビに輸出する30万KWのNAS電池集積体の輸出価格が約650億円であることから、単純に10倍すると300万KWで6500億円とみて大きな間違いはあるまい。100万KWの原発1基が5000億円から6000億円程度だから、後は経産省や電力会社の決断一つである。
30万kWとはなかなか凄いのですが、実用化の限界がこの程度か、さらなる大型化が可能かですが、日本ガイシ より、
メガワット規模の電力貯蔵システム。定格出力 × 6時間相当のエネルギーを貯蔵することが可能です。複数のNAS電池モジュールを直並列化することで大容量化が容易に果たせます。
さらなる大型化は「容易」となっています。充放電効率になりますが日本ガイシより、
約75%
これは揚水発電とドッコイドッコイです。とりあえず「揚水発電 → 蓄電池」この置換はあまり意味がなくなります。値段についてはUAEへの30万kWが広瀬氏の情報で650億円となっています。もう一つ参考情報があって平成21年2月付資源エネルギー庁「蓄電池技術の現状と取組について」にはNAS電池の価格として、
kW単価:24万円
kWh単価:2.5万円
UAEが30万kWで650億円ですから1kWあたり21.7万円になります。UAEが少し割安なのは大量購入により割引きがついたのか、ドル建て契約だったのが円高で目減りした可能性は考えられます。ではkW単価とkWh単価の違いですが、資源エネルギー庁資料には六ヶ所村のプラント価格が参考にあげてあり、34MWのNAS電池の電池容量が244.8MWhであるとしています。これは定格出力が34MWで、7.2時間放電すれば延べ244.8kWになると考えます。電池価格の見方として
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kW単価 = 電池価格 / 定格出力
kWh単価 = 電池価格 / 電池容量(総蓄電量)
もう一つ重要な点は耐用年数で、チト古いのですが平成16年4月22日付電源開発株式会社「蓄電池導入による風力発電出力平滑化」に、
耐用年数 15年
そんなものと言えばそんなものですが、導入価格と較べるとどんなものでしょうか。これも参考なのですが平成16年時点のNAS電池のkW単価が76万円、kWh単価が10.6万円となっていますから、5年ほどでかなりコストダウンしているのが確認できます。それでも高いですが、1/5まで安くなっているのはたいしたものです。
ついでですが大容量蓄電池にレドックスフロー電池(RF電池)と言うのがあり、どうも機能的にはNAS電池同様のものがあるようです。価格はNAS電池の半額ぐらいになるようですが、レアメタルのパナジウムを使う点と、2012年4月17日付住友電工プレスリリースに、
横浜製作所における大規模(メガワット級)蓄発電システムの実証運転について
これは1000kW級のもののようですが、「実証実験」段階と言う事でNAS電池より実用化が半歩ぐらい遅れているようです。
タラタラと泥縄式の知識を書き連ねましたが、蓄電池もメガワットどころかギガワット対応の時代が近づいてきているようです。価格も普及に連れて更なるコストダウンが期待できます。あくまでも資源エネルギー庁の目標ですが、2030年には現在のさらに1/10を目指しているようです。コストが1/10まで無理でも1/5になれば、例えば関電の揚水発電量を置換しても2000億円ぐらいになります。
3750万kWはデカ過ぎるので原発1基程度、100万Kwを6時間放電として600万Kwぐらいの規模を考えれば現価格で2000億円ぐらい、これが1/5に下がれば400億円ぐらいになり、1/10なら200億円です。新たな電源を開発した訳ではありませんが、夜間の余剰電力の有効利用の観点からは有用です。その分の新電源開発が不要になり、発電した分の販売率も向上します。
もちろんですが、既存の揚水発電装置は破棄する必要はありません。ただ揚水発電にしろ純粋の水力発電にしろ新たな建設適地は殆んどなくなっています。そういう意味で蓄電池による充電システムを採用する余地はあると思います。脱原発にしても原発に置き換わる新たな電力源を開発するのは容易ではありませんから、今ある分を可能な限り有効に使うは大事な事だと思います。
それとこれは電力会社だけではなく、企業サイドにとってもメリットがあるように思えます。現実に導入しているところも出つつあるようです。家庭は・・・試算するのが面倒なのでやめますが、価格が現在の1/5、いや1/10になれば導入は急速に進むかもしれません。