インフルエンザ対策

週明けまで大型連休を続けるつもりだったのですが、やはり取り上げておく事柄ですので上げておきます。

GW中にもう少し動向が固まると予想していた新型インフルエンザですが、まだ何とも言えない部分を残しながら続くようです。そうであれば真剣にインフルエンザ対策を考えないといけないのですが、ちんけな診療所レベルでも容易なものではありません。開業小児科なんて普段から「発熱外来」ですし、GW中にハワイに行っていた患者もおられます。知っている限りメキシコはいなかったと思いますが、ハワイは何人かは知っています。

連休も終わりですから、何かを指標にして対策を考えないといけないのですが、国立感染所研究所の5/5付新型インフルエンザA(H1N1)の患者に対する医療機関における感染症対策を参照してみると冒頭に、

本文書は、現時点で新型インフルエンザA(H1N1)の確定患者、およびそれが疑われる患者などからの医療関連感染(院内感染)をできるだけ防止するための、暫定的な手引きである。今後、知見が積み重なるに従って改訂される可能性がある。

改訂は当然重ねられるはずですが、今のところ公式の最新版のようです。全部は長いので「勧告」部分だけ順番に抜粋すると、

すべての医療機関において、すべての外来患者に対する何らかのスクリーニングを行う。最近の渡航歴、あるいは発熱や咳などのインフルエンザ様症状を指標とし、医療機関の入り口に近いところでその有無をチェックする。

ひぇ〜、いきなり

    すべての医療機関において、すべての外来患者
当然ですが「すべての医療機関」となればうちのしけた診療所も該当します。
    医療機関の入り口に近いところでその有無をチェックする
「入り口に近い」と言われても、診療所なんて普通は入り口から直で待合室です。うちだってそうです。そうなれば入り口の外でチェックする必要がありますが、そこは公共スペース(通路)ですからまず難題です。

新型インフルエンザが疑わしい患者(インフルエンザ感染を思わせる症状があり、かつ海外から帰国後10日以内の人)は別室に誘導を開始

ここの解釈が微妙ですが、どうも現在の疑わしい患者の定義は2つのようで、

  1. インフルエンザ感染を思わせる症状
  2. 海外から帰国後10日以内の人
この2つをともに満たす患者は「疑い」とするようです。症状に関して言えば小児科では見分けは正直なところ不可能です。小児科的に翻訳すれば、
    海外旅行帰りの発熱患者すべて
こうせざるを得ないと考えます。とりあえず日本人同士のヒトヒト感染は無いと言う前提で勧告されているようですが、来週中にもこれは変わる可能性はあり、変わったら発熱患者すべてになる事が予想されます。

ここまでの業務に従事するスタッフは、常時サージカルマスクを着用していることが望ましい。もちろん、すでに判明している他の感染症に対する経路別予防策(接触・飛沫・空気)は継続する。

これも小児科診療所的に翻訳すれば、

    入り口のところにマスクを着けたスタッフが頑張って、発熱と海外旅行帰りを問診し別室に誘導する
この後に「疑い」該当患者を別室にと言われても、別室は一つしかありませんし、そこも幅1m奥行き2m弱程度しかありませんから、2組(親子で4人)も入れば超満員です。これも困った。

誘導を開始する時点で、スタッフは接触・飛沫・空気予防策のすべてをとることを開始する。具体的には、ガウンと手袋、ゴーグルまたはフェイスシールド、N95マスクを着用する。患者にはサージカルマスクを着用させる。

ここまではそれでも何とかなるかと思いましたが、この勧告はちょっと今日に実現するのは無理です。N95マスク、手袋ぐらいまでならともかく、ガウンやゴーグルは今朝の時点ではどうしようもありません。だいたい「誘導する時点」と表現は入り口から診察室や受付、別室がそれなりに離れている想定の様な気がしますが、町医者の待合室なんて数m単位ですべてが存在しますから、ゴーグルやガウンを入手しても、

    入り口のところにマスク、ゴーグル、ガウン、手袋を着けたスタッフが頑張って、発熱と海外旅行帰りを問診する
朝から診察終了まで1人は常に頑張らないといけません。これはかなり厳しいと言うか、何週間か単位で続けるのはどうかの問題は当然あります。

別室は陰圧個室であることが望ましいが、外来領域にそのような場所を有している施設は少ないと思われるので、他の患者がいる領域からなるべく離れた個室、屋外の開放空間などを使用する。

屋外の開放空間は屋上だとか、駐車場の仮説待合室を想定しているようにも思えますが、当然ですがありません。入り口の前で待ってもらったら診療所に関係のない人間も通りますし、インフルエンザ疑いでない患者も通ります。う〜ん、どうしよう。

以後、患者が検体検査を受け、新型インフルエンザが否定されるまで、接触・飛沫・空気予防策を継続する。新型インフルエンザ感染が確認された場合は、もちろんそれらの経路別予防策を継続する。

簡易検査キットで陰性ないし、B型判定までを目安にしても、A型など出ようものなら発熱外来です。どうしようかな???。以下は入院対策なので略しますが、勧告を読む限り町医者の診療所では対策は無理と考えたほうが良さそうです。そうなるとこの勧告に副った対応としては、

    GW中に海外旅行に行かれ、発熱した患者は受診できませんから「発熱相談センター」にお電話ください
こういうポスター(医師会から配布済み)で選別するしかありませんが、ポスターを読まずに入る患者も少なくありませんから、その時は新型インフルエンザで無い事を祈りましょう。もしそうだったら・・・地雷を踏んで休診になりますね。




と、ここまで下書きだったのですが、今朝見ると5/6付け追加情報として国内医療機関における新型インフルエンザ(A/H1N1)診断の流れ Ver.1が掲載されてましたので紹介しておきます。まず冒頭部に、

 新型インフルエンザ(A/H1N1:以下、新型インフルエンザとする)は、2009年5月5日現在、国内での発症者は確認されていない。しかし、検疫通過時点では症状がなく、その後国内で発症する可能性は否定できない。

 そこで、Ver.1では、「国内発症者なし」あるいは「発症者が少数」時点での国内医療機関における診断の流れにつき記載するものであり、疑似症例発生に伴う積極的疫学調査ならびに感染拡大防止策に関しては、それぞれのガイドラインを参照のこと。なお、各自治体の体制に応じて、既に診断の流れを決めている場合は、それを優先とする。

余談なんですが、「各自治体の体制に応じて、既に診断の流れを決めている場合」の神戸の場合ですが、

 新型インフルエンザを疑う患者の「患者振り分けシステム」について行政が修正案を持ってきましたが、あまりにも問題点が多すぎるし、複雑過ぎるため、協力病院が公表されない中での医師会員への周知や運用は困難であるとの結論に達しました。本来このシステムが神戸市行政(予防衛生課)内部の運用システムであって、このままを医師会員に伝えてもあまり意味はなく却って混乱を招くとの見解で一致し、連休明けにも医師会員向けのシンプルな振り分けシステムを公表することになりました。従来の「患者振り分けシステム」はその時点で破棄していただくようお願いします。

地域によっては混乱もあるようです。続いて要旨を順番に見ていきます。

新型インフルエンザを疑う症状を有する患者が電話連絡なく医療機関を受診することがないように、十分に情報を徹底させる。

診療所クラスでなくとも入り口にポスターを貼るのが精一杯と思います。後は行政・マスコミのお仕事ですが、GW中にどれぐらい効果的に広報できたかはどうだったでしょう。「都道府県が定める発熱外来あるいは感染症指定医療機関」の対応はここでは省略して、

都道府県が定める発熱外来あるいは感染症指定医療機関」以外の医療機関では、

  • 電話連絡があり、渡航歴や患者との接触歴・症状から新型インフルエンザを疑った患者には、「都道府県が定める発熱外来あるいは感染症指定医療機関」を示し、電話連絡した上で受診するよう伝える。
  • 都道府県が定める発熱外来あるいは感染症指定医療機関」が不明な場合は、最寄りの保健所もしくは発熱相談センターに問いあわせ、電話連絡してきた患者に、適切な医療機関の情報を提供する。
  • 電話連絡なく受診した患者で、渡航歴や患者との接触歴・症状から新型インフルエンザを疑った患者については、当該医療機関で診察・検査を実施するのではなく、速やかに「都道府県が定める発熱外来あるいは感染症指定医療機関」に搬送できるよう最大限の援助を行う。

だいたいそんなものかと言う内容ですが、一つだけ気になったのは、

    速やかに「都道府県が定める発熱外来あるいは感染症指定医療機関」に搬送できるよう最大限の援助を行う
これって救急隊での搬送を意味するのでしょうか。自家用車で受診していればそのまま指定医療機関に行ってもらうで良いでしょうが、徒歩で受診された場合に「搬送」するには救急隊ぐらいしか思い浮かびません。それと保険診療上、これは紹介受診になるのでしょうか。紹介なら紹介状が必要なんですが、あれは紹介先が回答を書いてくれないと査定で削られるのですが、書いてくれるのでしょうか。

十分な情報提供をしていても、突然、連絡なしに新型インフルエンザを疑う症状を有する患者が受診する場合を想定し、すべての医療機関で玄関への掲示、受付での症状の確認を徹底させる(感染拡大防御策を講じずに、長い間、待合室で待っていることがないように、十分に注意する)。

やっぱり気になるのは「そういう患者」が受診した時の接触者の扱いです。どこかに書いてあったかな??。




ついでに5/6付け厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部の国内未発生期における発熱外来を置かない医療機関への発熱患者の受診についても紹介しておきます。

 新型インフルエンザ患者の国内発生に備え、関係者との情報共有や発熱外来の設置など、医療体制の確保等について対応いただいているところですが、海外発生期(国内未発生期)における発熱外来を置かない医療機関への発熱患者の受診について、下記の通り、基本的な考え方をまとめましたので、所管の全医療機関にご周知いただきますようお願いいたします。

  • まん延国への渡航歴や患者との接触歴が認められる発熱患者が、発熱相談センターを通じずに発熱外来を置かない医療機関を受診したり、電話による相談があった場合には、まず発熱相談センターに電話で相談し、必要に応じて紹介される適切な医療機関を受診するように勧めること。

  • 発熱相談センターの指導に従って発熱者が発熱外来を置かない医療機関に受診した場合は、患者にマスク等を使用するように指導するなど、感染予防に必要な指導を行った上で、当該医療機関が診察すること。

これも「国内未発生期」とわざわざ狭く限定していますが、「発生」したらまた変わるんでしょう。情報は小まめに追わないとすぐに置いていかれそうですし、置いていかれて対応をミスったら・・・おお怖い。