読売以外の各社が一斉に報じていますが、どこも似たり寄ったりの内容なので1/19付時事通信から引用します。
公判前、裁判員に取材=読売新聞、記事を掲載−奈良
奈良地裁で23日に始まる警官発砲事件の裁判員裁判を前に、読売新聞が裁判員に選任された女性を取材し、18日付朝刊(奈良版)に記事を掲載していたことが19日、分かった。裁判員法は公判終了まで裁判員への接触を禁じており、同紙は19日付朝刊に「チェックミスで掲載した」などとする謝罪記事を掲載した。
読売新聞は18日付奈良版で、2003年に窃盗容疑で逃走中の車に警察官が発砲し、助手席に乗っていた男性が死亡した事件の裁判員裁判に関して、17日に行われた裁判員選任手続きの記事を掲載。裁判員に選ばれたという女性の居住地の自治体名、職業、年齢のほか、感想を掲載した。
同紙によると、奈良地裁から18日、奈良支局に対して「裁判員法に抵触する」と抗議があったという。同地裁は「正式に抗議するかどうか検討している」としている。
同紙は19日付朝刊で、「記者が17日午後、選任手続きに訪れた裁判員候補者に連絡先などを尋ね、手続き終了後、別の記者が電話で取材し、チェックミスで掲載しました」などとする記事を掲載。大阪本社広報宣伝部は「裁判員法の規定は知っていたものの、法の趣旨を十分に理解していませんでした。誠に遺憾で、関係者におわびします」としている。
ちょっと出遅れたので
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18日付朝刊(奈良版)に記事を掲載
「付審判」初の裁判員 警官発砲で死亡 23日初公判
不起訴になった警官の発砲の是非を市民が裁く異例の裁判が23日、奈良地裁で始まる。公務員の職権乱用をめぐる付審判(ふしんぱん)は過去に20件あるが、裁判員裁判で審理されるのは初めて。警官の治安を守る行為はどこまで認められるのか。殺意の有無も争点となっており、裁判員は重責を担う。
以下もあるのですが省略します。おそらく読売も似たような内容の記事を掲載していたのでしょうが、取材に当たった記者は恒例の当事者と言うか裁判員の声が記事に欲しくなったのだと推測します。そこで時事記事にあるように、
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記者が17日午後、選任手続きに訪れた裁判員候補者に連絡先などを尋ね、手続き終了後、別の記者が電話で取材
何人も、被告事件に関し、当該被告事件を取り扱う裁判所に選任され、又は選定された裁判員若しくは補充裁判員又は選任予定裁判員に接触してはならない。
102条1項は裁判員である間は「何人」も接触が禁じられ、102条2項は元裁判員には「職務上知り得た秘密を知る目的」で接触するのを禁じていると読めば宜しいかと存じます。それにしても102条1項で家族との接触がどうなっているか気にはなるのですが、施行規則を読んでもよくわかりませんでした。たぶん別に規定があるんだと思っています。
少なくとも赤の他人である記者が接触して裁判の話を聞くだけで、明らかな違反だろうと考えられます。読売は、
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裁判員法の規定は知っていたものの、法の趣旨を十分に理解していませんでした。誠に遺憾で、関係者におわびします
それにしてもですが、裁判員法の守秘義務を裁判員が「犯したら」の罰則がズラズラ並んでいます。簡単に拾い上げておくと、
- 裁判員等に対する請託罪等
- 裁判員等に対する威迫罪
- 裁判員等による秘密漏示罪
- 裁判員の氏名等漏示罪
- 裁判員候補者による虚偽記載罪等
- 裁判員候補者の虚偽記載等に対する過料
- 裁判員候補者の不出頭等に対する過料
(裁判員の氏名等漏示罪)
第百九条
検察官若しくは弁護人若しくはこれらの職にあった者又は被告人若しくは被告人であった者が、正当な理由がなく、被告事件の裁判員候補者の氏名、裁判員候補者が第三十条(第三十八条第二項(第四十六条第二項において準用する場合を含む。)、第四十七条第二項及び第九十二条第二項において準用する場合を含む。次条において同じ。)に規定する質問票に記載した内容又は裁判員等選任手続における裁判員候補者の陳述の内容を漏らしたときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
罰則が生じるのは、「検察官若しくは弁護人若しくはこれらの職にあった者又は被告人若しくは被告人であった者」であり、なおかつ漏らしてはいけないものは、「質問票に記載した内容又は裁判員等選任手続における裁判員候補者の陳述の内容」となっています。
有名になった「裁判員等による秘密漏示罪」にしても裁判員が漏らすと罪になりますが、この辺は医師の医療情報に近い感じもあります。ここで専門資格職である裁判官にはそれでも良いと思いますが、法律の素人にこれを求めるのは厳しすぎるの声は裁判員制度が検討される時からありました。聞き出した方も102条1項には違反にはなるのですが、1/18付朝日新聞より、
102条に違反しても罰則はないが、裁判員が23日から始まる公判の前に外部の人と接触したことを地裁が重視し、交代を検討する可能性もある。
結局のところ読売記者の思いつきは「拙かった」「ちょっとミステイク」程度レベルのお話と言う事です。違反であるが罰はないです。個人的には相手を裁判員である事を知った上で、関った裁判の内容を故意に聞きだそうとして者にも罰則はあっても良さそうな気がします。な〜んか類似の話が医療でもあった様な気がします。
私も順番が来たら裁判所の呼び出しがあるかもしれませんし、うまく断りきれなかったら裁判員をやらざるを得なくなる可能性は有ります。私でなくとも奥様とか、うちの職員にも可能性はあります。その時には裁判員であるときも、その後も一切マスコミの「マ」の字を聞いただけでシャットアウトにした方が無難そうです。
なんと言っても、相手が「ついで」にでも聞きだした事を記事にされただけでも守秘義務違反で罪に問われるわけですし、聞き出した記者の方は何の罰則もないわけで、くわばら、くわばらです。
ま、私が裁判員法を見る限り、裁判員が訴訟の秘密を知る以前に「何人」かに接触しても、これも罰則はなさそうです。これで一度選出されて交代になっても裁判員の義務を一度は果たした事になるような気がしないでもありません。自信はないですけどね。読売の取材を受けてしまった裁判員が訴訟に参加できなくて悔しいと思うのか、ラッキーと思うのかは個人の信条次第というところでしょうか。
たとえ悔しくとも民事までは争わないだろうなぁ。