新知識♪

と言いながらネタが無いので昨日の反芻なんですが、労基法37条は改訂されたようです。私も昨日タマタマ調べなおして発見しただけなんですが、再掲しておきます。

労基法第37条

 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

これについては法務業の末席様から補足コメントが入り、

月60時間超での時間外労働について50%増し以上の率で割増賃金を支払え、という労基法37条での規定は、本年(平成22年)4月1日からの改正部分です。なお、一定の中小零細企業については、適用が猶予されています。
(県立病院は改正法通り本年4月1日の残業分からから適用されます)

なんと今年の4月から適用になっているようです。労働債権の時効は2年ですから、今からでも「もらっていないかも?」と思われる方は証拠物件の確保に動かれる事をお勧めします。


でもこれは重いですね。通達や省令が軽いとは言いませんが、法改正されたのですから非常に重いと言って良いと思います。ちょっとここで時間外労働の労基法的整理をしてみたいと思います。時間外労働の労基法的な大原則は、

労基法32条

 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

  1. 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

非常に明快な条文です。1日の上限労働時間は8時間であり、1週間の上限時間は40時間までと厳格に定められています。後は季節変動に対してのものとか、変形労働時間に対してのものとか色々あるのですが、これが大原則であり、経営者であればこれを守るように勤めなければならず、違反すれば罰則が用意されており、さらに監視するために労働基準局まで設置されています。

大原則として違法と言っても、業務の都合により時間外労働が必要な事はありえます。そのための例外規定が設けられています。

労基法第36条

 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。

  1. 厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。
  2. 第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。
  3. 行政官庁は、第2項の基準に関し、第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

んんん、なんとなくなんですが、ここも前と違っているような気がします。私の記憶もアテにならない事が多々あるのですが、36条2項以降は前に無かったと言うか、違っていたように思います。確認してみるとやはり今年4月に改正されたようです。こうなれば話はワープ(我ながら古い)しますが、改正された36条関連で調べるともっと面白い事が書かれています。

平成21年5月29日付基発第0529001号「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」をチョット長いですが引用します。まず冒頭部なんですが、

労働基準法の一部を改正する法律(平成20年法律第89号。以下「改正法」という。)については、平成20年12月12日付け基発第1212001号により通達したところであるが、改正法による改正後の労働基準法(以下「法」という。)、労働基準法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第113号。以下「改正省令」という。)による改正後の労働基準法施行規則(以下「則」という。)及び労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準の一部を改正する告示(平成21年厚生労働省告示第316号。以下「改正告示」という。)による改正後の労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年厚生労働省告示第154号。以下「限度基準」という。)の内容等は下記のとおりであるので、これらの施行に遺漏なきを期されたい。

「なるほど」と言いたいところですが、私も2行も読まないうちに吐き気を催しました。そこで噛み砕いてみます。こういうのを読むときには括弧を外すと少しはわかりやすくなります。

労働基準法の一部を改正する法律については、平成20年12月12日付け基発第1212001号により通達したところであるが、改正法による改正後の労働基準法労働基準法施行規則等の一部を改正する省令による改正後の労働基準法施行規則及び労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準の一部を改正する告示による改正後の労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準の内容等は下記のとおりであるので、これらの施行に遺漏なきを期されたい。

つまり

    労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準の内容等は下記のとおりである
こう書かれている事になります。ここも少しだけ難解なんですが、36条1項では「その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」となっているだけで、具体的には36条2項の
    厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。
ここに書かれている「基準」に関する通達になります。まず趣旨です。

 長時間にわたる時間外労働の抑制を図るために厚生労働大臣が定めている限度基準においては、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わざるを得ない特別の事情が生じた場合に限り、特別条項付き協定を締結することによって限度時間を超えて時間外労働を行うことができることとされている。しかしながら、時間外労働は本来臨時的なものとして必要最小限にとどめられるべきものであり、特別条項付き協定による限度時間を超える時間外労働は、その中でも特に例外的なものとして、労使の取組によって抑制されるべきものである。

 このため、労使の努力によって限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を引き上げること等により、限度時間を超える時間外労働を抑制することとしたものであること。

実は個人的には相当難解な文章です。時間外労働時間は労働省告示第154号により定められ、これも有名になった限度時間の表ですが、

期間 限度時間
1週間 15時間
2週間 27時間
4週間 43時間
1箇月 45時間
2箇月 81時間
3箇月 120時間
1年間 360時間


さらに
    臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わざるを得ない特別の事情が生じた場合に限り、特別条項付き協定を締結することによって限度時間を超えて時間外労働を行うことができることとされている
これは具体的には労働省告示154号3条にある、

 労使当事者は、時間外労働協定において一定期間についての延長時間を定めるに当たっては、当該一定期間についての延長時間は、別表第1の上欄に掲げる期間の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる限度時間を超えないものとしなければならない。ただし、あらかじめ、限度時間以内の時間の一定期間についての延長時間を定め、かつ、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情が生じたときに限り、一定期間についての延長時間を定めた当該一定期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を定める場合は、この限りでない。

これに基く特別条項付き協定の事を指すと考えられます。ここまで読めばこれ以上の時間外労働を行う協定は結べそうにないのですが、現実には年間1000時間を越える36協定が結ばれています。これは平成11年3月31日基発第169号に根拠があるそうですが、それとの整合性はどうなっているのだろうと言う事です。私の知る範囲では、特別条項付き36協定を上回る、さらに破格の36協定は今でも認められているようです。

ここでなんですが、36条3項には

    第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。
ここ自体はおかしなものでなく、36条2項に定める厚生労働大臣の限度基準を守るように「しなければならない」であり、その基準が平成21年5月29日付基発第0529001号「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」と思うのですが、年間1000時間以上はどうなるんだになります。やはり今でも生きていると解釈しなければならないようです。

ここで36協定は届出制であり、届出制においては、書類の不備が無ければ事実上フリーパスであるとされています。ただ36条4項にこうあります。

    行政官庁は、第2項の基準に関し、第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
ここも通達により具体的に書かれており、「限度基準の遵守、助言及び指導」として、

 法第36条第3項の規定に基づき、労使当事者は、時間外労働協定を締結する際には、その内容が限度基準に適合したものとなるようにしなければならないこととされており、法第36条第4項の規定に基づき、労働基準監督署長は、限度基準に適合しない時間外労働協定の届出がされた場合にその是正を求めるなど限度基準に関し、労使当事者に対し、必要な助言及び指導を行うことができることとされている。

 このため、特別条項付き協定において限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率が定められていないなど特別条項付き協定が限度基準に適合していない場合には、労働基準監督署長による助言及び指導の対象となるものであること。

ここも素直に解釈すると、

  1. 36協定を結ぶにあたり36条2項で厚生労働大臣が限度基準を示す
  2. 労使は36条3項で限度基準を守らなければならない
  3. 労基署は36協定の内容に対し指導及び助言ができる
ただしなんですが、私も法律文を読みなれていると言い難いところがあります。36条3項は「ならない」になっていますが、36条4項は「できる」と表現されています。こういう表現の差は文学的表現でなく、強制力の差を表しているとされます。36協定の基本が届出制で変わっていないのであれば、

改正前
    届出者:「チワー、36協定の届出です」
    労基署:「書類に不備はありまへんな。では受理させて頂きますわ」
改正後
    届出者:「チワー、36協定の届出です」
    労基署:「ありゃ、限度基準を越えてまんがな。もっと短こうせんといけまへんな」
    届出者:「ほいでも、労使で合意してまっせ」
    労基署:「ほな、しゃ〜ないな。受理させて頂きますわ」
これぐらいに変更されたのかもしれません、実態は知りませんけどね。それでも少なくとも37条に1ヶ月で60時間を越える分の時間外労働には5割以上の割増率が必要なのは法に明記されていますし、そういう割増率を設定する目的は通達に、

使用者に対し経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制するという割増賃金の機能を踏まえ、法第36条第2項において、限度基準で定めることができる事項として、割増賃金の率に関する事項を追加したものであること。

きっちり払ってもらうのが通達の趣旨を遵守する事になります。新知識として皆様覚えておきましょう。