趣味的学習

まず12/8付NHKニュースから、

残業代未払い 東大に是正勧告

東京大学が、医学部附属病院などに勤務する看護師や事務職員らに対し残業代を支払っていないなどとして、ことし3月までの6年間に8回にわたって労働基準監督署の是正勧告を受けていたことが分かりました。

是正勧告を受けていたのは、東京大学医学部附属病院や医科学研究所など大学にある4つの組織です。大学によりますと、附属病院に勤務する医師や看護師、それに大学の事務職員ら、延べ、およそ700人に対して、残業代の割り増し賃金を支払わなかったり、規定を超えた時間外労働をさせたりするなど、労働基準法に違反しているとして労働基準監督署から是正勧告を受けていたということです。是正勧告は、大学が法人化して労働基準法の適用対象となった平成16年度以降、ほぼ毎年行われ、ことし3月までにあわせて8回にわたっています。このうち残業代などの未払い賃金は、総額でおよそ9700万円に上り、大学は是正勧告を受けて全額を支払ったとしています。東京大学本部広報課は「故意に残業代を支払っていなかったわけではなく、時間外勤務の一部を自己研さんの時間と考えるなどしていたため結果的に未払いになった。勧告を受けるたびに会議などの場で再発の防止を呼びかけてきたが、徹底できていなかった。今後はこのようなことがないようにしたい」と話しています。

もう一つニュースを紹介しておきます。12/7付スポニチより、

京都府医大 残業代3億円支払わず

 京都府医大京都市上京区)が付属病院の医師ら約500人に、大学法人化以降の残業代計約3億円を支払っていなかったとして、京都上労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが7日、大学への取材で分かった。

 大学によると、医師と同病院の間で時間外労働に関する協定がなく、2007年12月と09年10月に当直手当以外の賃金が支払われていないとして是正勧告を受けた。大学側は08年4月の法人化以降の時間外労働のうち、約1億6000万円をすでに支払い、残りも本年度中に支払うという。

 大学は「09年12月に時間外労働に関する規約をつくり、現在は適正に支払っている」としている。

妙な符号の一致を感じたのは、

東大 京都府医大
大学が法人化して労働基準法の適用対象となった平成16年度以降 大学側は08年4月の法人化以降


気になるのは、法人化してから労基法の適用になり、労基署の摘発につながったとしている点です。調べてみると思いの外に煩雑だったので、エントリーにして趣味的に勉強して見ます。とりあえずなんですが、行政改革庁の資料と思われる我が国の国家公務員制度の概要には、
ここに書かれている労働三権を補足しておくと、
    団結権:勤労者がその労働条件を維持・改善するために組合を組織する権利
    団体交渉権:労働組合が使用者と労働条件について交渉する権利
    争議権:団体交渉の裏づけとして、ストライキなどを行う権利
ただこれだけでは労基法との関係は正直なところ不明です。今日知りたいのはとくに国家公務員(国立大学病院)と労基法との関連ですから、これでは何の足しにもなりません。そこで国家公務員法で調べてみると、

第十六条

 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)、労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、船員法(昭和二十二年法律第百号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、じん肺法(昭和三十五年法律第三十号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和四十二年法律第六十一号)並びにこれらの法律に基いて発せられる命令は、第二条の一般職に属する職員には、これを適用しない。

読み難いのですが、必要な部分だけピックアップすると

    ・・・(前略)・・・労働基準法・・・(中略)・・・これらの法律に基いて発せられる命令は、第二条の一般職に属する職員には、これを適用しない。
「第二条の一般職」とは何ぞやになるのですが、これは長いので条文は全部引用しませんが、第2条2項に

一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。

特別職とは大臣とか国会議員を想定してもらうとだいたい間に合うのですが、その他の国会公務員には労基法を適用しないとなっています。それでは無制限に労働させられるかと言えばそうではなく、

第三条

 一般職に属する職員に関しては、別に法律が制定実施されるまでの間、国家公務員法の精神にてい触せず、且つ、同法に基く法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法及び船員法並びにこれらに基く命令の規定を準用する。但し、労働基準監督機関の職権に関する規定は、一般職に属する職員の勤務条件に関しては、準用しない。

  1. 前項の場合において必要な事項は、人事院規則で定める。

ここはたぶんですが、労働条件の基本は労基法を準用しても、その労働条件の監視は労基法に基くものではなく、人事院規則に基く、平たく言えば労基署の監督を受けないと読んでも良さそうです。実はこれだけでも判り難いのですが、労務安全情報センターの公務関係職員と労働基準法の適用と言うのが参考になります。ここも但し書きに、

複雑で、専門家も「即答は・・・どうも」という場面もある--〔公務関係職員と労働基準法の適用〕

こうされておられるので、ケースバーケースが細かくありそうですが、国家公務員の一般職関係の部分を引用してみます。













職員の種類 適用の有無 職権の行使 根拠条文
現業及び特定独立行政法人の職員以外の職員
  1. 適用なし
  2. 国公法の精神に抵触せず、かつ、同法に基づく法律又は人事院規則定められた事項に矛盾しない範囲内において準用される。ただし、労働基準監督機関の職権に関する規定は準用されない。

  • 国公法附則第16条
  • 国公法第1次改正法附則第3条
現業の職員
  1. 全面的に適用あり
  2. 国労法第37条で適用を排除しない国公法の規定及びこれに関連する人事院規則の規定は労基法に優先する。
労働基準監督機関
特定独立行政法人の職員
  1. 全面的に適用あり
  2. 国労法第37条及び独立行政法人通則法第59条で適用を排除しない国公法の規定及びこれに関連する人事院規則の規定は労基法に優先する。
労働基準監督機関


「な〜るほど」と言いたいところですが、ここは大雑把に理解する事にします。労基法が適用され、労基署の監督を受ける国家公務員は、この2つの職員であるらしいと言う事です。ここも国労法(国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律)なるものが出てきてややこしいのですが、

国労法第2条

 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

  1. 特定独立行政法人 独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第2項に規定する特定独立行政法人をいう。
  2. 国有林野事業 国有林野事業(国有林野事業特別会計において事務を取り扱う治山事業を含む。)及びこれに附帯する事業をいう。

昔々に三公社五現業として社会で覚えたものの現代版ぐらいに理解しても間違い無さそうです。ここまで調べて特定独立行政法人化した旧国立大学附属病院が労基法の適用を受けるのは確認できます。ちなみに四現業と言いながら林野事業しかないのは、もともと四現業とは郵便、国有林野、印刷、造幣であったのが、国有林野以外が法人化したため、実態として現業は林野しか残っていないようです。

ちっとも大学病院に行きつかないのですが、相談の広場の公務員と労働基準法についてにこんな回答が寄せられています。

極めて大まかな捉え方で述べると、国家・地方公務員の事務系職員には適用がなく、現業職(旧・郵政省外務職員、旧・四現業職員、国公立病院の看護師、市町村の上下水道局職員等)には適用があります

どうも現業職ならば国家公務員でも労基法の適用は受けそうな感じがしますが、国公立病院の看護師についてはwikipediaに異なる記載があります。

公務員については、看護師や保育士、消防士など、行政の出先機関で働き事務職でないため「現場」労働者というイメージがあるが、現業職には含まれない。 区分の理由について公権力の行使の有無が説明されるが、看護師や保育士の行使する業務上の権限と、ごみ収集作業員や学校給食調理員が業務上行使する権限との差異はつきつめると不明確であり、現業職と非現業職に明確で合理的な区別はなく、法律で「技能労務職」と定義された職種に限定される。

看護師は現業職には含まれないとしています。どういう事だろうととりあえず現業職の公式呼称であるらしい技能労務職を調べてみると、OKwaveたまに耳にする技能労務職とは?の回答に、

「技能労務職」は、公務員の職種の一つで、行政職(事務職)や技術職(専門職)に当たらないものです。主に現場の業務に就く、ブルーカラーの公務員が属する職種ということができます。

気持ち怪しげなソースも無いとは言えませんが、情報を見る限り公務員には、

こういう分類があるようで、看護師は専門職に入り現業職にはどうやら該当しないようです。看護師もそうなら医師もそうであると考えた方が良く、旧大学病院を含む病院事業も、どうやら旧三公社五現業に入ってなさそうです。そうなると法人化前の大学病院の職員の労基法の待遇は、技術職として国家公務員の一般職と同じ待遇であった可能性はあります。つまり労基法の枠外であったと言う事です。

正直なところ、この結論には全然自信が無いのですが、ご存知の方がおられればよろしく「正しい見解」をコメント下さい。



さて東大病院の評価も少しぐらいはしておいた方が良いでしょうから、先日の法務業の末席様の分類を少し改訂して参考にして見ます。

法務業の末席様の分類(H.22.12.9改訂版)
ランク 経営者評価 三六協定 割増手当 法令違反の可能性
A ホワイト 限度時間内で締結 全額支給 なし
B ライトグレー 限度時間を超えて締結 全額支給 安全配慮義務
C ダークグレー 未締結 全額支給 労基法32条、35条
D ブラック 未締結 理屈を捏ねて一部支給ないし不払い 労基法32条、35条、37条
E ブラックホール 限度時間内で締結 限度時間以上はサービス残業として不払い 労基法32条、35条、37条


東大病院の36協定の内容は存じませんが、D分類からE分類になりそうですねぇ。