ネット選挙運動の備忘録

ウェブサイト

参議院選挙は別の面からするとネット選挙元年にもなったわけです。選挙運動をやる気はなかったので、選挙期間中はほぼ遠慮していたのですが、遠慮していて良かったと今さら思った次第です。

公選法142条の3の3項

ウェブサイト等を利用する方法により選挙運動のために使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。以下同じ。)その他のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に必要となる情報(以下「電子メールアドレス等」という。)が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければならない。

メアドはツイッターなどのメイル機能でも良いみたいですが、うちのブログはメアドを書いていません。もし選挙運動をやっていれば公選法違反に該当した事になります。ここもコメ欄に書き込めるじゃ・・・ダメかな? たしか有料ならメイルを送れる機能があった気もするのですが、それぐらいではどうなんでしょうねぇ。怪しそうな事は手を出さないのが吉と言うところです。


誹謗・中傷

個人でのネット選挙運動も「○○候補を応援しましょう」ぐらいのものなら平和で良いのですが、ちょっと気になったのがスズカン殴打事件の時です。これは御存知の人も多いとは思いますが、私が把握した範囲の概略を書いておきます。

  1. 当時の情勢はスズカン候補と無所属候補が東京選挙区の最後の椅子を争っているとされていた
  2. スズカン候補が街頭演説中に突然殴打されるという事件が起こった
  3. これに対し「自作自演じゃないか」「あの候補は殴打される所業をしている」などの反応が一斉に溢れ出た
  4. さらに「原発事故時のSPEEDIの公表云々の責任があるから当然」の書き込みが溢れた
個人的には選挙運動中に候補者が公然と殴られる事に驚いたのですが、もっと驚かされたのはスズカン候補への非難がワラワラと出てきたことです。ネットですし、無所属候補の支持層から出ても不思議とは必ずしも言えないのですが、こういう反応は公職選挙法としてどうなんだろうです。

公職選挙法235条2項

当選を得させない目的をもつて公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に関し虚偽の事項を公にし、又は事実をゆがめて公にした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。

どうにもこれに該当する部分が多そうな気が私はしました。ここも実は微妙で、本当に虚偽ないし事実を歪めているかまでは、スズカン候補の事を良く存じません。もし摘発され刑事訴訟に至るような事があれば、被告人は「虚偽でない」事を存分に主張されれば良いと思いますが、もう一つあります。

刑法230条

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

これは実際に適用されるのはなかなかハードルが高いのは良く知られていますし、さらに

刑法230条の2 3項

前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

「公選による公務員の候補者」・・・これは今回であれば参議院候補者で良いのでしょうか。要するに真実であれば公職選挙法違反も刑法も回避できるぐらいで宜しいようです。たぶんと言うか「なんとなく」に過ぎませんが、今回のツイッターなりに溢れていたスズカン殴打事件に対する反応に対して、積極的な捜査の手が及ぶ可能性は低いと思っていますが、厳密に照らし合わすと宜しくない気もしました。私は気をつけておきたいと思います。


メイル

最後に前にやった選挙メイル戦術考の補足です。まずメアドが個人情報に該当するかどうかですが、まず総務省資料より、

 保護法では「個人情報」を、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と規定しています(第2条第2項)。

 メールアドレスには、個人情報に該当するものとしないものがあります。記号を羅列したもの(例えば「0123ABCD@soumu.go.jp」)のように、それだけでは特定の個人を識別できない場合には、個人情報には該当しません。しかし、特定の個人の氏名を記載したもの(例えば「〔氏名のローマ字記述〕@soumu.go.jp」)のように、特定の個人を識別できる場合には、個人情報に該当します。

 なお、保護法では、「他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別できることとなるもの」(第2条第2項)も個人情報としています。このため、記号を羅列したメールアドレスであったとしても、例えば、それがある省のある職員のメールアドレスであって、当該省の職員であれば職員名簿等により誰のメールアドレスなのか分かるような場合には、そのようなメールアドレスは、個人情報であるといえます。

 ただし、メールアドレスから直ちに特定の個人を識別することが難しい場合であっても、メールアドレスは、各個人にとって私信を受け取るなどのためのインターネット上の住所とも言うべきものであり、慎重かつ適正に取り扱う必要があることに変わりはありません。

玉虫色と言うかケース・バイ・ケースとしているのが確認できます。ほいじゃ当人に無断で収集したメアドに送信した場合ですが、

特定電子メールの送信の適正化等に関する法律 3条1号

あらかじめ、特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者又は送信委託者(電子メールの送信を委託した者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る。)をいう。以下同じ。)に対し通知した者

別に公職選挙法に基づかなくとも迷惑メイル防止条例で禁じられている行為である事がわかります。ただどうもですが迷惑メイル防止条例では禁止は謳っているものの故意性とか悪質性が加わらないと具体的な罰則は規定されていないようです。ここから考えると、迷惑メイル防止条例では本人の同意の無いメイル発信を罰則無しで単に禁じているだけですが、公職選挙法ではこれが厳しくなり、具体的な罰則が付くと解釈するのが宜しそうです。

この公職選挙法違反にしても、これが捜査の対象になり刑事告訴され有罪となっても候補者への連座制は適用されません。つまりは公職選挙法違反レベルにおいても微罪扱いとすれば言いすぎでしょうか。国政選挙となれば全国が捜査対象になりますから、この程度の違反なら捜査の手は及ばないと見越しての選挙戦術もアリなのかもしれません。せいぜいあっても注意ぐらいで済む計算なのでしょう。それでも投票前に報道されても当選された訳ですから、やはり勝てば官軍と言うところなのかもしれません。


選挙前に「調べておけ」と言われそうなんですが、まあ、後からでも知っておいて損は無いと言うぐらいの備忘録とさせて頂きます。