選挙メイル戦術考

公選法の規定

選挙運動にネットが使えるようになり、さらにメイルでの選挙運動も可能になったので、さぞかしスパムもどきのメイルが来るかと思っていたら、案に相違して一通も舞い込みません。どうやらこれには理由があるようでまず、

公選法 第142条の4 2項1号

あらかじめ、選挙運動用電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を選挙運動用電子メール送信者に対し通知した者(その電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した者に限る。) 当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した電子メールアドレス

選挙運動でメイルを送れる有権者は、

    その電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した者に限る
自分が選挙事務所なりに「メイルを下さい」と言ったものだけが受信できるのが大原則のようです。私はそんな事を頼む気もありませんから、もしメイルが舞い込めば明らかな公選法違反行為になります。もう一つ、

公選法 第142条の4 2項2号

前号に掲げる者のほか、選挙運動用電子メール送信者の政治活動のために用いられる電子メール(以下「政治活動用電子メール」という。)を継続的に受信している者(その電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した者に限り、かつ、その通知をした後、その自ら通知した全ての電子メールアドレスを明らかにしてこれらに当該政治活動用電子メールの送信をしないように求める旨を当該選挙運動用電子メール送信者に対し通知した者を除く。)

ここが2項1号とどう違うのかわかり難いのですが、どうやら選挙前から既に候補者からの政治活動メイルを受信していた者の事を指すようです。それでも条件は、

    その電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知した者に限り
さらにがありまして、

公選法 第142条の4 4項

選挙運動用電子メール送信者は、次の各号に掲げる場合に応じ、それぞれ当該各号に定める事実を証する記録を保存しなければならない。

  1. 第二項第一号に掲げる者に対し選挙運動用電子メールの送信をする場合 同号に掲げる者がその電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知したこと及びその者から選挙運動用電子メールの送信をするように求めがあつたこと又は送信をすることに同意があつたこと。
  2. 第二項第二号に掲げる者に対し選挙運動用電子メールの送信をする場合 同号に掲げる者がその電子メールアドレスを当該選挙運動用電子メール送信者に対し自ら通知したこと、当該選挙運動用電子メール送信者が当該電子メールアドレスに継続的に政治活動用電子メールの送信をしていること及び当該選挙運動用電子メール送信者が同号に掲げる者に対し選挙運動用電子メールの送信をする旨の通知をしたこと。

要するに有権者が候補者に対し「メイルを送ってくれ」の記録を、キチンと残しておく事を候補者に義務付けているぐらいとすれば良さそうです。これに違反した者は

公選法243条 3項の3

次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

 3号の3 第143条の4第2項(同条第3項において読み替えて適用される場合を含む。)又は第5項の規定に違反して選挙運動用電子メールの送信をした者

送信を担当したものも公選法違反になりますが、刑事罰が確定すると候補者も連座する事になります。(連座制の適用は公選法251条の2にありますが、どうやら選挙メイル違反だけでは適用されないようです)


公選法の趣旨の推測

どうもと言うか「たぶん」ぐらいなんですが、選挙にメイルを解禁する時に問題となったのは、スパム化する選挙メイルの気がします。今は参議院選挙中ですが、私が有権者として投票できる候補は「選挙区候補者 + 比例区候補者」となり結構な数になります。診療所を開設している関係でメアドは公開されていますが、そこに候補者からの選挙メイルが無制限に舞い込めばハッキリ言って迷惑です。普段のスパムだけでも対応に難儀しているのに、その上にとなるとさらに困るです。

まだ私はメイルが業務に占める部分は比較的少ないですが、業務の比重が大きい人は無制限に選挙メイルが舞い込めば仕事に差し障る事も出てくるかと思います。そこで公選法の原則は、選挙メイルの受信権を有権者サイドに持たせたと考えます。有権者にしても選挙メイルを読みたい人もいるでしょうし、そこから候補者の主義主張を判断して投票先を決めたい人もいるでしょうからです。そこで、

  1. 有権者の選挙メイルの受信の諾否は自己申告制
  2. 有権者が受信の諾否を決める候補者も選択性
  3. 有権者が一度受信をOKしてもいつでも解除できる
たとえば選挙戦の最初は選挙区候補全員からの受信をOKとしても、途中から意中の候補が絞られてきたら不要な候補の選挙メイルはいつでも拒否できるです。有権者は常に必要とする候補者からのみの選挙メイルを受け取れるようになっていると私は条文を読みました。


公選法の拡大解釈

法は様々な規定を条文に謳いますが、一方で条文の解釈とか運用は実地に委ねられる部分は多々あります。つまり「こうとも解釈できる」みたいな主張です。その解釈が違反に当たるかどうかは端的には司法で判断され、それが広義の判例として条文解釈の基本となったりします。選挙メイル解禁は参議院選挙が国政選挙では初適用のはずですから、条文は条文として選挙に有利なように解釈運用する者が現れても不思議ありません。選挙は一種の戦争ですから勝つためには、あらゆる手段が駆使されます。

選挙メイル受信の諾否は有権者本人の意志にあるのが公選法の趣旨らしいは上述しましたが、出てきそうな拡大解釈は、

    結果的にOKすれば条文の「自ら」に違反しない
たとえばですが、選挙戦術で電話による選挙運動は可能なはずですから、その時にメイル受信の許諾を取るのは問題なさそうに思われます。説得の上でも最終的には有権者「自ら」の意志でメイル受信を承諾しているからです。街頭であっても同様じゃないかと考えます。ではでは、大量のメアドをかき集めて、そのメアドに対して選挙メイルの受信の諾否を「メイルで確認する」はどうなるかです。候補者側の解釈と言うか理屈は、
    諾否の確認メイルは選挙メイルとは別である
確認メイルで受信の許諾を得てから正式の選挙メイルを送信するので公選法違反に当たらないの解釈からの主張です。どうもそういう戦術を取っている候補が今回は存在しているようです。個人的にはメアドをどこからかかき集めて、無闇にメイルを送信する行為自体が迷惑メイルそのものに見えるのですが、これが公選法違反になるのか(なってくれないと実は迷惑ですが・・・)、なるとしても今回は条文に明確に謳っていないから罰則まで問われないのか、それとも罰則が適用されるのかが選挙後の楽しみの一つになっています。