高齢者数増加と病院医師数と医学部新設

私は小児科医なので高齢化より少子化の方が切実な問題なのですが、あえて高齢化のデータを出来るだけ(あくまでも「つもり」です)シンプルに示してみます。元ソースは諸般の事情によりe-statの平成22年国政調査からです。ここで高齢者の定義が必要なんですが、これも今日は65歳以上とさせて頂きます。医療にとって高齢者が増えるとは、

    高齢者数増加 ≒ 医療需要増加
青壮年層に較べると高齢者の方が病気になる率が格段に高く、なおかつ治療が長期化(下手すりゃ棺おけに入るまで)するのは説明の必要もないでしょう。この高齢者が1990年から2010年の20年間にまずどれだけ増えたかをグラフにして見ます。
たったの20年間に倍増しています。成人関係の診療科の医療需要も診療科に依るでしょうが、また倍増しているとしても良い気はしています。ここも本当に倍増しているかどうかはまた色んなエッセンスを入れての計算が必要かと思いますから「負担が相当増えている」ぐらいは言えるかと思います。最低限、高齢者のための医療の需要は増える訳です。

1990年起点で考えるとして実数でどこの都道府県が一番増えたのであろうかです。医療需要、医療負担が増えているのは実数が一番実感を反映していると考えます。1990年から実数が増えた分だけ医療需要は増えた事になるからです。後の都合で2000〜2010年の都道府県別で見てみます。

当たり前と言えば当たり前ですが、もともと人口が多い都道府県の方が高齢者の実数は増えています。だからどうしたと言われそうなところですが、増えた分だけの医療供給、ここも単純化すると医師が必要になります。高齢者人口の増加は他の年齢層の人口の増加より、医療需要をよりダイレクトに相関すとと見れるからです。2000年時点で全国の医療戦力が均一化されていたとはもちろん言えませんが、医療需要の増大(≒ 高齢者数の増加)に応じた医師数増加はあってもおかしくないと言うところです。そうでなきゃ1990年時点より医療供給は落ちる事になります。

では医師の分布がこれに伴ってどうなっているかですが、データと手間の都合で2000〜2010年の10年間の高齢者実数の増加と病院医師数の増加の関係で見てみます。これをシンプルに比較するデータを2つ定義します。

  1. 高齢者増加率
  2. 病院医師増加率
いずれも計算式は、
    10年間の都道府県毎増加数 / 10年間の全国増加数 × 100
つまり%表示です。でもってあえて東京を抜いたグラフで示します。
見難いのは都道府県グラフのサガですから御堪忍を頂くとして、これは結構相関してそうな気がします。前に都道府県毎の医師の偏在をやりましたが、あの時に基準にした指標は都道府県の総人口でしたが、これを高齢者人口に置き換えると都道府県単位ではありますが、
    病院医師増加率 ≒ 高齢者増加率 ≒ 医療需要増加率
こういう関係が成り立っているとも見えそうです。力瘤を入れて言うほどの話ではないのですが、都道府県人口に比例して高齢者数も多いはずで、多くなれば増えた医師数もそれに応じて分布するはずぐらいのお話です。そう考えると高齢者増加率と病院医師増加率の差を取って、これのマイナスが大きいところほど医療事情が逼迫している都道府県になっている可能性があります。本当にそうなっているかですが、これも東京抜きで表にしてみます。

都道府県 都道府県
沖縄 2.78 埼玉 -3.06
福岡 2.41 大阪 -2.15
岡山 1.34 北海道 -1.40
京都 0.91 福島 -0.92
宮城 0.56 茨城 -0.90
長野 0.53 千葉 -0.79
佐賀 0.42 神奈川 -0.79
石川 0.38 新潟 -0.76
長崎 0.32 岩手 -0.72
熊本 0.25 三重 -0.64
山形 0.23 兵庫 -0.64
和歌山 0.19 愛知 -0.63
福井 0.18 山口 -0.60
滋賀 0.16 広島 -0.58
大分 0.15 群馬 -0.54
徳島 0.14 青森 -0.48
山梨 0.12 愛媛 -0.48
栃木 0.10 静岡 -0.36
鹿児島 0.09 岐阜 -0.32
奈良 -0.29
高知 -0.23
富山 -0.22
宮崎 -0.22
香川 -0.16
秋田 -0.09
島根 -0.01
鳥取 -0.01

実に微妙で実感と言うか、これまでの情報に合っている様な合っていない様なです。もっともこの辺は2000年までの医療戦力の整備の差もあり、そこまで勘案するとどうだろうぐらいのところです。私とて47都道府県の医療事情どころか、のぢぎく県全体でも知識は怪しいところがありますから、ローカルの評価はお任せします。
東京事情と医学部新設
さて何故に東京を上の分析で抜いたかです。東京を入れたグラフを示します。
東京の2000年からの高齢者増加率は人口比にほぼ等しい10.1%です。この数値も実感し難いと思いますから実数で73万人で、おおよそですが高知県の総人口ぐらいの高齢者が10年の間に東京に増えた事になります。一方で病院勤務医数は18.2%の増加です。実数にして4800人にぐらいになります。ちなみに高知県の2010年の病院医師数は1532人ですが、その約3倍の病院勤務医が増えています。増加高齢者10万人対なら約660人になります。数字だけ見ると東京には十分な医師が配分されていると思うのですが東京方面からの情報では、
    東京こそ足りない!
だそうです。もちろん高知県の人口に近いと言っても、増えたのは高齢者であり若年者まで含む高知県との単純比較は出来ませんが、まだまだ足りない、もしくは足りなくなるそうです。「なぜ」についてはゴメンナサイ、その方面の研究をされている方にお任せします。ただなんですが、東京が本当に足りないのなら例の医学部新設は東京にゴソッと作るべきだと思ったりします。 現在の医師の流れはデータがどうであれ医療需要がある東京へ、東京へと流れています。それだけの需要とキャパシティがあり、さらには都市の魅力としてもダントツなのは言うまでもありません。そういう流れを現在は種々の地方括りつけ枠で対抗しようとしているわけですが、この施策が成功したら成功したで、今度は東京の医師が足りなくなるかもしれません。東京の医師数は地方からの流入部分によって支えられている面は大きいからです。 本当に東京に今後も巨大な需要が続くのであれば、いくら地方に医学部を作ろうとも巨大な吸引力で引っ張ってしまいます。制度で壁を作ろうとしても、なにせ東京ですから「東京が足りない事情」は「地方が足りない事情」を現実的には蹴散らしてしまいます。そうならば東京の医師は東京の医学部で賄う体制を作ってしまう方が合理的です。つまりは東京が地方から吸い込んでしまう要因を除去しようです。それこそ地方から東京に向かいたくとも、東京は東京の医学部出身者で埋められてしまう状態です。 東京であれば別に地方括りつけ枠がなくとも必要な医師数は東京の医学部卒で間に合いそうな気がします。また医学部を作るとなると手を挙げてくれそうな有力大学も目白押しです。逆に地方医学部出身者は東京に流れたくとも自然に弾かれてしまうです。さらにを言えば、そういう状況になれば東京で医師をやりたい人間は受験段階で東京の医学部入学にしのぎを削る事になります。地方で合宿免許なんて悠長な事は言っておれなくなります。必然的に地方の医学部はその地方の出身者が多くなり、さらに東京への行き場がなくなるので地方残留率が上るです。 ・・・てな意見は見向きもされないでしょうねぇ。