日医の会長直接選挙は永久に無くなりそう

ネタモトは平成23年3月付日本医師会 会長選挙制度に関する検討委員会「会長選挙制度の在り方について」からです。いちいち絡むとエントリーが終らなくなるので、内容はリンク先を先にお確かめ下さい。

とりあえず現在の制度を引用しておきます。

 日本医師会は、会員500名ごとに1名の割合で代議員を選出し、その代議員によって組織される代議員会において、役員選挙を実施している。代議員は都道府県医師会の代議員会において選出されるが、日本医師会員であれば誰でも立候補することができる。

 このように、日本医師会の代議員制度は、形式上は会員に権利と機会を平等に保障する設計になっている。しかし実際には、会員の代議員選出に対する意識の低さも相俟って、選挙自体が無投票で決着し、毎回決まった都道府県医師会・郡市区等医師会役職者が選出されるなど、本来期待される機能が十分発揮されずに、形骸化したと言わざるを得ない状況にあるところも多い。

 そもそも、代議員制度による役員の間接選挙を改めるべきとの意見がでてくること自体、代議員が会員500名分の意見を反映する形になっていないことの現れであろう。

 代議員構成を見ても、平成22年4月1日現在の代議員(定数357名)の平均年齢は65.1歳、都道府県医師会あるいは郡市区等医師会の役職に就いている者が320名(全体の約89%)にのぼる一方、勤務医たる代議員は41 名(平成22年8月1日現在)と、会員の約半数が勤務医であるという現状に比べて、明らかに少ないことがわかる。

こうやって改めて読めば本当に面白い制度です。選挙には選挙権と被選挙権があります。一概には言えないかも知れませんが、一般に選挙権を持つものには被選挙権が与えられます。選挙の基本は選挙権を有するものの互選が原則だからです。被選挙権の方は選挙権を有する者のなかで一定の制限(年齢とか)が加わったりしますから、大概は「選挙権 > 被選挙権」てな感じです。国政や都道府県、市町村議会ではそんな感じです。

ところが日医会長選挙は「選挙権 <<< 被選挙権」です。選挙権は357名の日医代議員に限定される一方で、被選挙権は17万人の一般会員全員に与えられると言う事です。当然ですが立候補は出来ても選挙権が無いなんてのは珍しくも無い事になります。もう少し言えば、あくまでも机上ですが選挙権を持つ人数より立候補者が多いなんて事もありうるわけです。1000人ほど立候補があればそうなります。

ちょっと喩えてみますが、日本の総理大臣の選出が、国会議員からではなく選挙権を持つ国民全員が候補になりうる状態みたいなものです。日本の総理は衆議院の多数を得ればなれますから、衆議院議員480人に選挙権は与えられます。ここで総理への被選挙権が国民全員(選挙権もしくは被選挙権がある者)にあるようなもので、総理なら1万人ぐらい立候補があっても不思議ありません。結構珍妙です。

「選挙権 <<< 被選挙権」の形態の具体例を考えると芸術系のコンクールでしょうか。選挙権を持つ者が審査員、応募者を被選挙権を持つ者とすれば近いような気がします。


そういう形態となれば一番重要になるのは日医代議員がどれほどオープンに一般会員の意向を表しているかになります。

  • 実際には、会員の代議員選出に対する意識の低さも相俟って、選挙自体が無投票で決着し、毎回決まった都道府県医師会・郡市区等医師会役職者が選出される
  • 代議員構成を見ても、平成22年4月1日現在の代議員(定数357名)の平均年齢は65.1歳、都道府県医師会あるいは郡市区等医師会の役職に就いている者が320名(全体の約89%)

ここは前にも書いたので簡略にしますが、日医代議員と言うのは実質として年功序列により与えられる役職・肩書きになり切っています。建前上は選挙があることになっていますが、日医代議員選挙なるものに投票経験がある一般会員を探す方が難しくなります。当然ですが私も未体験です。なぜにそうなるかですが、定員しか立候補せず、定員しか立候補しないから常に無投票で終ると言う事です。


もう一つ基本的な疑問があります。この日医代議員なんですが、仮に投票があったとすれば、選挙権は誰にあるのでしょうか。もっとあからさまに言えば一般会員に果たして投票権はあるのでしょうか。これが探しても実は不明です。たしか都道府県に選出法は一任されていたとどこかで読んだ事がありますから、統一した選出法が公表されていないのかも知れません。

ちょっと参考になるのが、「会長選挙制度の在り方について」についての中にある「代議員・予備代議員選出ガイドライン(案)」です。ここには、

会員であれば、だれでも代議員になることができます

 日本医師会員であれば、会費徴収上の区分(A、B、C)にかかわらず、だれもが、平等に、代議員(予備代議員)になる権利を有します。代議員(予備代議員)は都道府県医師会の代議員会で選出されますので、立候補する会員は、選挙公示で示された期間内に、都道府県医師会長に届け出ることが必要です(他の者を推薦する場合も同様です)。

コーヒーを噴きそうになりました。このガイドライン公益法人移行後の日医の改革案みたいなものと思っていますし、現在の制度を無難にすくいあげたものだとも思っています。これによりますと、被選挙権は一般会員全員にありますが、選挙権は都道府県代議員のみです。基本的に日医会長選と同じ構図です。ほいじゃ、この都道府県代議員なるものがどうやって選出されているかですが、日医代議員以上に良くわからない選出システムです。

ここは推測になりますが、都道府県代議員もまた同様のシステムで選出されていると考えても、そんなに間違っていないでしょう。もちろんですが、私も都道府県代議員選出選挙なんて投票どころか、そんな存在がこの世の中にある事さえ存じませんでした。


ちょっと眩暈がしてきました。どうやらですが、日医の会長選挙の投票権を得るには、形式上は都道府県代議会での投票に勝てれば良いみたいなのですが、実質としては、

  1. 市町村医師会で汗を流す(だいたい10年ぐらいが目安)
  2. なんらかの選出方法により都道府県代議員に選出される(選出方法は不明、おそらく都道府県医師会の役員就任と表裏一体)
  3. 都道府県医師会で日医代議員に推薦され、都道府県代議員が(殆んどは無投票)で承認する
日医会長選挙は「間接選挙」と表現されますが、半端な間接ではないのが良くわかります。国会ならば総理選出のための有権者(国会議員)は少なくともオープンな選挙が行われます。つまり有権者が直接選んだ議員が、間接的に総理を選びます。一方の日医は、間接選挙有権者の選出自体が不透明どころの騒ぎではなく、どこでどうなっているのか日医の一般会員でも蚊帳の外のシステムである事が改めて確認できます。

一般会員にはほぼ無制限の被選挙権は与えられていますが、選挙権を得るのは無茶苦茶難しいシステムであるのが判って頂けるかと思います。無制限の被選挙権を与えられても、これだけ「厳選」された選挙権保持者しか存在しないのですから、まじめに当選して頑張ろうと思う者ほど冷笑する制度であるのは明らかです。選挙権保持者の支持が無ければ当選しないのが選挙だからです。

ブラックジョークのような日医代議員選出システムですが、日医はこう自負しています。

日本医師会代議員選挙の適正な実施に向けて

 直接選挙によらない以上、代議員制度による間接選挙のなかで、いかにすべての会員の声を役員選挙に反映させていくかが問題となる。

 そのためにはまず、現行の代議員選挙の在り方から見直し、真に会員に権利と機会を平等に保障する形で、代議員選挙が実現されていくよう努めていかなければならない。

(中略)

 そこで本委員会では、代議員選挙における都道府県医師会の自主性を尊重しつつも、地域ごとの陋習を払拭していくため、『代議員・予備代議員選出ガイドライン(仮称)』を作成し、都道府県医師会をはじめ会員に広く公表することを提言する。

 このなかで、代議員の基本的職務や、望ましい代議員選挙の在り方等に関する事項をまとめて示すことで、都道府県医師会における適正な代議員選挙の担保を図り、もって勤務医会員や若手医師会員の登用にも繋げることを期待する。

 また、勤務医会員や若手医師会員の興味をより喚起していくためには、最も身近な存在である郡市区等医師会内での活発な議論が待たれることから、日本医師会ガイドラインを作成した後は、都道府県医師会でも同様のガイドラインを作成し、管内郡市区等医師会をはじめ会員にも公表するよう依頼するべきである。

ここの「ガイドライン」が上述した都道府県代議員が日医代議員を選出するシステムです。どこから選出されたか由緒不明の都道府県代議員のみに選挙権を与え選出する方法が、

  1. いかにすべての会員の声を役員選挙に反映させていくかが問題
  2. 現行の代議員選挙の在り方から見直し、真に会員に権利と機会を平等に保障する
  3. 地域ごとの陋習を払拭
  4. 都道府県医師会における適正な代議員選挙の担保

翻訳すれば「今までと何も変わらない」で宜しいのでしょう。



順番が逆になりましたが、日医が会長直接選挙を否定した理由を最後に引用しておきます。

 新公益法人制度では原則的に、理事は社員総会で選出し、代表理事や業務執行理事は理事会で選定することになる。また、日本医師会は新制度移行後も代議員制度を採用する予定であるため、法律上の社員は「代議員」のみとなる。すなわち、従来、法律上の社員であった会員は、新制度移行後は法律上の社員ではなくなり、法律上の社員総会となる「代議員会」において、理事選任の議決権を有さないことになる。

実に立派な理由で、

だからだそうです。もうちょっと付け加えれば、財団法人であれば一般会員も「社員」であったのが、公益法人では日医代議員のみが「社員」になり、「社員」のみが理事を選出する権利が与えられるからだそうです。つまりは公益法人に移行すれば、永久に日医会長直接選挙は行われないと晴れ晴れしく宣言されています。

言い換えれば従来は、一般会員が決起して社員総会を行えば日医の決定さえ覆す権利を潜在的に有していましたが、公益法人になれば一般会員は法人の「社員」より一段低い立場におかれ、一切の口出しが実質も出来なくなるぐらいに考えれば宜しいようです。実質としては変わりませんが、公益法人移行を機会に日医の体制は従来の体制をますます強化することになりそうです。

そりゃ日医代議員になれば法人の「社員」になるという新たな肩書きが増えますから、日医執行部は一般会員からすれば、ますます雲の上の存在になりそうです。いっその事、雲の上ではなく成層圏も突き抜けて、遥かアンドロメダ星雲まで飛んでいってくれないかと思わないでもありませんが、実に目出度いお話で理論武装されています。

まあ、どうでも良いといえば、どうでも良いお話ですが、これでも日医会員ですから、1回ぐらいは触れておいても良い話題ぐらいで御理解下さい。


あえて補足

日医の会長選出システムを酷評はしましたが、日医のようなシステムは決して特異なものではありません。むしろ普遍的とした方が良いかもしれません。たとえば名門ゴルフクラブみたいなところでは、会員になるだけで会員の推薦と理事会の審査なんてありふれたシステムで、その理事も年功序列で就任です。会社組織であっても重役会が認めたメンバーが会社の運営権を握ります。

むしろ会員なり所属員がオープンに参加しての運営が行われているところの方が珍しいと思います。国政はともかく市町村とくに小さいところほど、選挙は避ける傾向があるのも周知の事です。そして首長とかは前任者の御指名による事実上の禅譲方式であったりも珍しい風景とは言えません。

なぜにそういうシステムになるかと言えば、全員参加の選挙で激戦になれば後が大変と言うのがあります。選挙が終ればスッキリ融合とはまずならず、負けた方の勢力が大きいほど反主流派となって組織運営の妨げになるケースが多々あるからです。これが自治体であれば最低限分裂はありませんが、そうでなければ不満を持った少なからぬ少数派が分裂を起こしかねません。発展途上国の選挙なら内戦突入なんて幾らでもあります。

選挙と言うのは多数派の意見を受け入れるという見識が前提として必要なんですが、受け入れさせる何がしらかの強制力が無いと理念を越えた感情での根深い怨念闘争に容易に転化します。怨念闘争になれば組織はガタガタになるか、分裂細分化の道を歩む事になります。


日医も伝説によると、かつては勤務医と開業医の対立が深刻にあり、開業医サイドが結束して武見元会長を担いでクーデターを行ったとされます。その結果としてどうなったかも周知の通りで、日医は医師を代表する団体から開業医を代表する団体に変質します。端的には開業医派支配に嫌気を差した勤務医が日医から逃げ出したとしても良いかと思います。

現会長も年功序列をひっくり返しての会長就任です。なぜにそんな事が起こったのかは省略しますが、それだけで日医内部に深刻なシコリが残っているとされます(深い事情は知る由もありませんが・・・)。これが直接選挙なら、もっと深刻な状態になったと懸念するのは、一つの考え方です。


ほいじゃ、現在の体制でOKかと言えば、これはこれで問題があります。対立を避けるシステムは安定はしますが、今度は硬直化をもたらします。医師会出世階段と揶揄されるぐらい、新たな人材が出にくい構造が強固に形成されます。対立を避けるシステムでの人材養成の基本は、これまでの路線を継承してくれる人材のみの養成であり、選抜になります。

つまり対立を避けるシステムの到着点は、どこを切っても同じ金太郎飴的人材しか雁首をそろえない体制になると言う事です。そういう体制でも問題が生じなければ構わないのですが、なぜに会長直接選挙論が台頭しているかを考える必要があります。言うまでもなく日医が危機的状況に陥りつつあるからです。日医が危機的状況と言うより、医療崩壊と言う流れの中での日医の存在感の希薄化です。

日医ではダメだの声も高いですが、それでも日医になんとかの要求がまだあると言う事です。日医が存在感を高めるためには、日医の行動様式が変わる必要があり、行動様式が変わるためには人が変わる必要があり、人が変わる象徴が日医会長直接選挙と言う流れです。この声が日医の屋台骨を支えている一般会員から非常に高く出ていると言う事です。


そういう声を取り上げないと一般会員と幹部クラスの乖離はさらに大きくなります。今回も会長選挙を直接投票にするのを避けたのは、いきなり大きな改革を行うことによる混乱を避けたと言う意味ぐらいで最低限は容認したとしても、一般会員の選挙権の要求はもっと取り入れるべきだと考えます。日医は間接選挙と称していますが、間接であってもどこかで直接のエッセンスが必要です。

日医会長を日医代議員が選出するのなら、日医代議員を一般会員の直接投票で選ぶエッセンスぐらい取り入れないと意義が乏しすぎます。直接投票で選ばれた日医代議員による投票であってこそ本当の「間接投票」です。

ただし日医の理屈によると日医代議員の直接投票さえも公益法人の壁によって阻害されそうです。この法人問題も詳しくは無いのですが、三層構造の医師会もやがてすべて公益法人にたぶん変わると見ています。そうなれば公益法人が代表を選ぶ形態は、日医同様に法人の「社員」にすべて委ねられます。ちょっと単純化し過ぎかもしれませんが、市町村医師会、都道府県医師会のすべてが代議員と言う名の「社員」が決定権を持つことになります。

ちょっと煩雑なんですが、

  • 日医会長は日医代議員によって選ばれる
  • 日医代議員は都道府県代議員の投票によって選ばれる
  • 都道府県代議員は市町村代議員の投票によって選ばれる
  • 市町村代議員は・・・そういう制度が存在するのかな?
もし市町村代議員が存在したとして、一般会員の投票によって選ばれるかどうかになりますが、市町村医師会も大小の差が著しいところがあります。また大きいと言ってもたかが知れています。それこそ選挙制度があっても、年功序列の論理が一番幅を利かします。会員数が数十人とか100人足らずのところで、それほどオープンな選挙が行われるとは思えないからです。つまり形式だけあっても機能はしないと言う事です。

また市町村代議員の選出さえ、「社員」である代議員の投票によって選ばれるなんて形態も十分に考えられます。これは日医の答申で公益法人における「社員」の権利をやたらと詳細に解説している当たりに窺えます。それよりも都道府県代議員も都道府県代議員が選んでいると考えた方がありそうな形態です。


もう一度だけ言います。日医会長の直接選挙の要求の根本は、単に直接投票の是非ではありません。日医が現在の幹部登用育成体制ではジリ貧になるの懸念です。どんな理屈を立てようとも現在の体制を堅持する方針であるのなら、日医は「そういう選択をした」以外の解釈は成立しません。それがどういう意味を持つかを認識出来ないのであれば、それだけの事です。