報道機関とブログ

今日は軽い雑談系です。まずまずWikipediaから

報道機関(ほうどうきかん,the press)とは大衆に対し報道する機関の総称である。「マスコミ」はこの俗称で、新聞社・放送局・出版社・通信社等がこれに該当する。公共機関の一つ。

ここでは「等」としていますが、Wikipediaではさらに言葉を重ねて、

報道機関とは、上述の通り、新聞社、放送局、出版社、通信社を指す。

ここまで限定すればそれ以外は報道機関で無いことになります。wikipediaが記述している事は一般感覚としては間違っていませんし、私もそうだろうと感じてはいます。ただネット時代となりこの狭い定義で果たして良いのかにチョット疑問を感じています。例えばYahooのHPでも情報は提供され、ここから多くの人々が情報を入手しています。Yahoo以外にも同様の事を行なっているところはたくさんあります。もちろん元の報道の殆んどはwikipediaの定義の報道機関からですが、Yahoo自体は定義から漏れそうな気がします。

ネットでも「新聞社、放送局、出版社、通信社」が運用しているサイトはあり、そこから流される情報は報道機関からの情報であり、それ以外のサイトから流される情報は報道機関以外からのものであると定義してしまうのは大雑把すぎる様な気がします。また新聞社にしても何百万部の大新聞社もあれば、数百部程度のミニコミ紙みたいなところまであります。ミニコミ紙であっても立派な報道機関ですが、Yahooがそうでない言うのは少々違和感を感じます。

ここで報道機関には公的な位置付けがなされているのでしょうか。公的とは国が認証しているとかそういうレベルのお話です。ザッと調べたのですが、私の見る範囲ではどうも無さそうな気がします。おそらく報道機関とは国が登録して範囲を管理しているようなものではないと考えられます。放送局も微弱電波を使っての放送だけでも立派な報道機関になるとも考えられるからです。

これだけじゃ「そうだろう」の範囲の話にしかなりませんから、どこかで報道機関をあえて定義している法律は無いかと探して見ました。探したというと聞こえが良いのですが、たまたま前に調べたことがあるだけですが、個人情報保護法にそれらしきものがあります。まず、

第五十条

 個人情報取扱事業者のうち次の各号に掲げる者については、その個人情報を取り扱う目的の全 部又は一部がそれぞれ当該各号に規定する目的であるときは、前章の規定は、適用しない。

  1. 放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道を業として行う個人を含む。) 報道の用に供する目的
  2. 著述を業として行う者 著述の用に供する目的
  3. 大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者、学術研究の用に供する目的
  4. 宗教団体 宗教活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的
  5. 政治団体 政治活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的

ここは蛇足ですが、

    大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者、学術研究の用に供する目的
医師の学会などの発表は個人情報保護法の適用外になると考えられそうです。蛇足はともかく
    放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道を業として行う個人を含む。) 
ここの「報道」についてさらに50条2項に

前項第一号に規定する「報道」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること(これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。)をいう。

とりあえず「報道」の定義は物凄く広いことが分かります。もう一つ川田悦子衆議院議員が出した人権擁護法案(仮称)の大綱」に関する質問主意書があります。その中に

  1. 大綱・第3の2(1)エにある「報道機関」の定義を示されたい。また、「報道」と「機関」の定義を示されたい。
  2. また(二)の「報道機関」と、「個人情報の保護に関する法律案」(以下、個人情報保護法案という)の第五五条にある「報道機関」の定義の違いを示されたい。また、大綱でいう報道機関には報道に従事する個人(例:発表媒体を雑誌等を主としたフリーライターや、インターネットで報道活動を行う者等)も含まれるのか。含まれるとすれば、その範囲を例に従って具体的に示されたい。

これらも報道機関の国としての定義付けを窺えるものになるかと思います。政府からの返答なんですが、

  1. 大綱第3の2(1)エにいう「報道機関」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること又は客観的事実を知らせるとともにこれに基づいて意見若しくは見解を述べることという一般的な意味での「報道」を業として行う者を指すものである。
  2. 第百五十一回国会に提出された個人情報の保護に関する法律案第五十五条第一項第一号は、個人情報の適正な取扱いの確保を通じて個人の権利利益の保護を図るに当たって報道機関の報道活動を妨げることがないよう、同法案第五章の規定の適用を除外する対象として「報道機関」を挙げたものであり、特別救済手続の対象である人権侵害の主体として報道機関を掲記する大綱とは趣旨・目的を異にしているが、同法案においても、「報道機関」は、(二)についてで述べたような報道を業として行う者を指すものである。

     右のように報道を業として行う者であれば、個人であるか法人であるかにかかわらず、大綱にいう報道機関に含まれると考えるが、特定の者が右の報道機関に含まれるか否かは、個別具体的な事案の事実関係に即して判断されるものであり、あらかじめその例を確定的なものとして網羅的に挙げることは困難である。その上で、あえて一般論を述べると、御指摘のような個人は、通常は右の報道機関に含まれると考える。なお、人権擁護法案においては、過剰な取材という事実行為が問題となるので、個々の従業者の行為を問題とせざるを得ず、これについての法案の条文としての表現・内容については現在検討中である。

質問主意書への答弁は木で鼻を括った様なものであるのは常識ですが、それでもある程度政府が考えている「報道機関」が分かります。初めの質問に対する回答がかなり明快で、

    「報道機関」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること又は客観的事実を知らせるとともにこれに基づいて意見若しくは見解を述べることという一般的な意味での「報道」を業として行う者を指すものである。
お役所文は読みにくいのであえて分解すれば、報道機関とは、
  1. 不特定かつ多数の者に対して行なれるものである
  2. 客観的事実を事実として知らせることである
  3. 客観的事実を知らせるとともに、これに基づいて意見若しくは見解を述べることである
この条件を満たすものが報道機関であると思われます。ここで「不特定かつ多数」のとくに「多数」がどれほどの人数を指すかが分かりませんが、数百人単位であれば多数になるとどこかで聞いたことがあるのですが、どんなものでしょうか。もっとも
    特定の者が右の報道機関に含まれるか否かは、個別具体的な事案の事実関係に即して判断されるものであり、あらかじめその例を確定的なものとして網羅的に挙げることは困難である
境界線上にはグレーゾーンが含まれており、最終的にはその時々の判断(判例とした方が良いかも知れません)で具体例が決まっていくとしています。ここでの報道機関の定義は個人情報保護法及び人権擁護法案でのものですが、二つの法律での報道機関の定義は非常に近い、いや事実上同じであると考えてよいかと考えられます。この二つだけで一般化するのはやや危険ですが、定義している文言自体はさして変わった事を表しているわけではありませんから、国が考える報道機関の定義と考えても良いかもしれません。

そうなればですが、ブログも報道機関に入るのでしょうか。ブログも公称数千万、実働数百万の世界ですから書かれている内容はそれこそ千差万別どころではありません。それこそ「個別具体的な事案の事実関係に即して判断」されるとは思えますが、ブログの中には報道機関の定義を満たしているところがあると考えられます。先ほどの報道機関の3つの条件ですが、

  1. 不特定かつ多数の者に対して行なれるものである


      ユニークアクセスと考えても、少なくともPVが1000以上のところであれば数百人単位の「多数」に発信され、なおかつ対象は「不特定」です。


  2. 客観的事実を事実として知らせることである


      主観的記載(純日記形式とか)のブログも多いですが、広い意味での時事評論を行なっているところは、この条件を満たすと考えられます。


  3. 客観的事実を知らせるとともに、これに基づいて意見若しくは見解を述べることである


      当ブログなんかはこのスタイルが多いですが、これは現在の時事評論系のブログの基本スタイルと考えられます。
一般的な常識では「ブログは報道機関である」なんてすれば違和感アリアリでしょうが、「ブログの中には報道機関に匹敵するものがある」ぐらいは許されて良いかと思います。もっともブログ先進国であるアメリカでは立派にジャーナリズムの一つの分野として認知されていますから、日本のブログの中にも報道機関と見なされるところがあっても、そんなに飛躍した話ではありません。

ブログを書いている分には報道機関であろうがなかろうがあんまり関係ないのですが、報道機関として認められれば幾つかメリットが生じます。

  1. 情報源の秘匿を「法的」に主張できる
  2. 編集権の「大幅」な自由を主張できる
他にも問題が起これば「懲罰的昇進」なんて手も使えます。もっとも「懲罰的昇進」は報道機関であることとは関係なく、本来報道機関のお手本であるはずの大手新聞社が満天下に示した手法です。何か報道機関として認められた方がインチキ臭くなる様な気がしてしまうのがおかしいところです。「ただ」と言いますか、あれなんですが、一般常識として認められている「新聞社、放送局、出版社、通信社」以外はあくまでも「個別具体的な事案の事実関係に即して判断」ですから、今の日本ではグレーゾーンと考えた方が良いとしておきます。