御坊医療圏はどんなところにあるかです。成20年3月14日告示和歌山県保健医療計画によると面積は579.11平方キロです。地理的には、
番号 | 病院名 | 病院機能 | 病床数 |
1. | 北出病院 | 救急告示病院 | 182床 |
2. | 整形外科北裏病院 | 救急告示病院 | 100床 |
3. | 国保日高総合病院 | 救急告示病院、災害拠点病院 | 301床 |
4. | 独法国立病院機構 和歌山病院 | 救急告示病院、災害支援病院、地域医療支援病院 | 375床 |
病院はこの4ヶ所がすべてで、後は一般診療所が67ヶ所、歯科診療所が29ヶ所、薬局が22ヶ所となっています。どうでも良い事ですが、歯科診療所が少ないのにちょっと驚いています。人口分布は、
市町 | 人口 |
由良町 | 7540 |
日高町 | 7655 |
美浜町 | 8550 |
御坊市 | 27152 |
日高川町 | 11663 |
印南町 | 9800 |
中心になると考えられる御坊市で2万7000人程度で、残りは8000人弱から1万人余り程度である事がわかります。医療圏の人口は足し算してみると7万2000人程度です。
災害対策には災害予想が必要です。3月の震災から問題になっているのは地震とそれに引き続く津波となります。この地域も南海地震、東南海地震の発生が予期されるところですから、これへの予想はどうなっているかです。この予想の問題は震災以来微妙な色彩を帯びてしまいしたが、予想なくして具体的な対策は立てられません。
この予想範囲もあまり過大だと対策自体が立てようがなくなります。津波の世界最高(遡上高)は520mてのがありますし、日本最高は八重山で85.4mてなものがあります。八重山で85.4mだからさらに安全率を見込んで100mなんて想定で対策を行えば、費用が天文学的になるだけでなく、日本国内でそもそも居住できるかみたいな話に広がってしまいます。
和歌山県でもある程度現実的な予測は立てられています。和歌山県総務部危機管理局総合防災課「和歌山県の津波浸水予測図について」からです。
震災被害は地震と津波、さらには火事があります。どれも嫌なもので、私は地震とその後の火事は経験しましたが、それだけでも相当なものです。話は医療施設にある程度絞りますが、地震そのものによる被害は起こってみないとわからない部分は多々あります。あからさまにい言うと、地震で建物が壊れるか壊れないかは、その時にならないとわからないです。
激震地帯でも壊れた建物と、なぜか生き残った建物が混在しています。かなり立派そうなビルでも壊れている一方で、年代物の住宅が健在だったりはごく普通に見られました。公立病院も神戸で言うと、西市民病院はどこかの階が押し潰されるように壊れています。中央市民は上層階にあった水タンクが壊れて水浸し状態になったと聞いています。
火事も怖くて、水道設備が破壊されると消しようがなくなります。道路も瓦礫の山に塞がれたり、道路に大きな陥没が出来たりする上に、下敷きになった住民の救助に次から次へと呼び出されます。やっと火事現場に到着しても水が確保できずに、消防隊員が悔し涙に暮れた話が阪神では残されています。手のつけられない大火が延焼してくると、地震には耐えぬいても病院も炎上します。
そのうえに津波となれば、そこに水浸しの損害が加わる事になります。
とりあえず医療機関のうち診療所はあんまりアテには出来ないと思います。和歌山県も険しい山が海岸にまで迫る地形です。人は山と海の間の狭い平地に住んでいますが、そこは基本的に津波に弱いところです。逆に言うと津波に弱い部分に多くの人が住み、診療所は周囲の人口が多いところを選んで立地します。津波には安全だが交通不便の人が回りにいないようなところには通常作りません。
津波被害だけでかなりの診療所は機能不全に陥る可能性が高くなります。被害を免れても、診療所職員もまた被災者ですから、自然に当面は休診になります。やろうにも職員を動員し難い上に、ライフラインとしての電気・水道・ガスが途絶してしまえば診療は難しくなります。診療所に自家発電設備まで備えたところは少ないと思いますし、水となると絶望的になるからです。
それでも震災被害は斑になりますから、頑張って診療するところもあるでしょうが、これは計算できる戦力と言うより、計算外の戦力とみなした方が現実的と思います。診療してくれたらラッキーぐらいの期待です。
もう一つ診療所には院外処方の問題もあります。うちは小児科ですが、院内には小児用の薬剤はほぼ無いに等しい状態です。建物が残り、職員が集まってもクスリ無しでは事実上何も出来ません。調剤薬局もどれぐらい稼動してくれるかと言えば、これも診療所同様に計算外の戦力と考えた方が良いと思います。
そうなると急場は病院に頼らざるを得なくなります。病院職員だって被災者ですから、これに頼るのは心苦しいのですが、職員数も多く、入院患者がいるだけに診療所よりは薬剤の備蓄もあります。自家発電装置も備えている事が多いでしょうし、外部からの援助の手も、とりあえず病院に集まります。診療所で健在の医師や職員も救護所なり、病院の応援に行くほうがまだしものような気がします。
私は津波を経験していませんから、想像力としてはせいぜいこの辺りが目一杯です。
10/7付日高新報より、
御坊保健医療圏 医薬分業率が県内最低
大規模災害時、投薬が必要な患者を守ろうと、御坊保健医療圏健康危機管理協議会の医薬品・医療資機材連携専門会の第1回会議が、4日に御坊保健所で開かれた。県内の医薬分業率は約4割で全国ワースト2、中でも御坊管内はわずか20%台で、かかりつけ医が被災すると投薬歴が分からなくなる患者が多くなる問題が浮き彫りとなった。今後、関係機関が連携し、「お薬手帳」の普及を進めていくことを確認した。
東日本大震災では、津波によるカルテ流出、道路が寸断されたことで医薬品の供給不足が原因でいままで服用していた薬の特定が困難になり、処方までかなりの時間を要する問題があった。近い将来、南海地震の発生が懸念されていることを受け、今後どのような対応策ができるか検討しようと、同協議会内に専門部会を設置し、初めての会議を開いた。
メンバーの日高医師会、日高薬剤師会、管内4病院、各市町、医薬品企業など14機関の代表者が出席。保健所職員からは東日本大震災の被災地ではガソリン不足で医薬品配送に支障が出た、電話がかかりづらく医薬品発注ができなかったとの問題があったほか、岩手、宮城、福島は医薬分業率がいずれも7割を超えていたため、かかりつけ診療所が被災しても患者宅に残っていたお薬手帳(投薬歴を記入した手帳)をもとに処方できたり、調剤薬局での対応がスムーズだったことも報告された。
県内が巨大災害の被害を受けた場合、同様の問題が起こることに加え、医薬分業率が40・8%と全国ワースト2、とくに御坊保健所管内は24・7%と県内最低で、カルテが流失すれば薬剤の特定が困難になることが判明。さらに多くの病院や診療所、薬局、役場等が津波浸水想定区域にあり、事態をより深刻化させる可能性が高いことも分かった。これらを踏まえ、会議では、今後必要な対策として、病院での薬の備蓄、電子カルテ化とデーターのサーバー管理などハード面の整備を求める声があがったほか、東日本でも効果のあったお薬手帳の一層の普及に取り組んでいくことを確認。病院や診療所、薬局でのお薬手帳は全体で3割程度しか普及していないのが現状。専門会では関係機関が連携して100%の普及率を目指して力を合わせていくことを決めた。このほか通信手段の確保として衛星電話の導入や、空輸のためのヘリポートの整備が必要との意見もあった。
同協議会長で御坊保健所の野尻孝子所長は「患者にとっては命にかかわる問題。もしものときでも薬がスムーズに患者に届く態勢を整える必要があり、その第1弾として、関係機関と連携してお薬手帳の普及に全力で取り組んでいきたい」と力を込めていた。
この記事の内容を思いっきり短縮すると、
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震災の時にお薬手帳が有用だから、医薬分業を勧めるべし
今から考えてもよくトラブらなかったと冷や汗ものです。何が言いたいかなんですが、この対策会議で想定している状態はどんな状況なんだろうです。震災は被害程度、復旧程度で現地の状況は目まぐるしく変わります。たとえば水も、水道が復旧するまでは本当に大変で、超がつく節水生活になります。それこそ一滴の水も無駄にしないように創意工夫しますし、水を運んできてくれたら無邪気に喜びます。
ただ水道が復旧すれば状況が一変します。水道が復旧した分だけ、速やかに日常生活に回帰し、遅れてペットボトルの水を大量に送られても困惑してしまうと言う事です。水道が復旧した時点で、必要な物が一変すると言う事です。医療も似たようなところがあって、震災で底を尽きそうになっているものへの需要は強いですが、これが満たされるたびに医療状況は変わり、必要な物が変わっていくことになります。簡単に表現すると、
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何も無い → これしかない → これが足りない
どうも読む限り被害がさほどではない、もしくはある程度復旧が進んだ状態の対策のように思えてなりません。ま、震災直後の大混乱状態は何もしようがないの意見もある程度妥当で、いくら計画を立てても、超急場は生き残っているものが救援が来るまで耐え忍ぶ以外に選択はないと言えばそうです。そもそも震災被害の全体像を把握するのさえ超急場では困難だからです。
被害がさほどでない、もしくはある程度復旧が進んだ状態であれば、超急場では計算外の医療戦力であった診療所の復旧はかなり期待できる事になります。記事にある、
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かかりつけ診療所が被災しても患者宅に残っていたお薬手帳
もう一つですが、震災の超急場や急場段階では、医薬分業とそうでないのとではどちらが有用であろうです。医薬分業の診療所では、上述したように薬剤の在庫は非常に乏しい所があります。震災で施設や職員が健在で、やる気があってもお手上げ状態になると言う事です。調剤薬局がセットで健在でないと診療しようが無いという事です。
院内処方であれば、少ないとは言え在庫があります。長期の対応は無理でも数日程度は状況によっては対応可能です。超急場で数日でも診療所が対応できれば、小さいですが猛烈な負担がかかる病院の援護射撃にはなります。数日すれば援助状況がまた変わりますから、バカにならない医療戦力になってくれる期待は持てます。
これもいつの時期を見ているんだろうと思ってしまいます。「病院での薬の備蓄」とは言い換えれば過剰在庫を求めている事になります。今どきの病院経営でこれを求められたら、かなり厳しくなります。求めるのなら病院会計と別枠の予算措置が必要です。電子カルテも問題山積で、
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カルテが流失すれば
サーバー管理にしても、電子カルテには多数の規格があり、これを一元管理するのは技術的にどうなんでしょうか。また管理サーバの設置場所も問題で、1ヶ所ではそこが被災すれば根こそぎ吹っ飛びます。複数のバックアップが必要であり、普段の情報管理を含めての維持料は誰が支払うかの問題が出てきます。
記事なんで、書いた記者自身がどれほど会議の内容を把握しているのかは問題ですが、震災対応と言ってもステージで状況は変わります。病気に喩えると、
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超急性期 → 急性期 → 亜急性期 → 慢性期