6/22付岐阜新聞Webより、
未払い時間外手当計8千万円支給 羽島市民病院123人に
羽島市は21日、市民病院(同市新生町)が医師らの時間外勤務手当の支給に関して今年2月に岐阜労働基準監督署から是正勧告を受け、計約8162万円を追加支給した、と発表した。
同病院によると、追加支給されたのは、医師や看護師、薬剤師ら計123人。対象となったのは2010年2月〜11年2月分で、支給済み手当との差額8162万6128円。
同病院はこれまで、休日や夜間に救急業務として医療行為を行う職員に宿日直手当(医師は1回2万円、看護師・技師は1回1万200円)を支給。加えて、診察時間に応じて時間外勤務手当を支給していた。
だが、労基署は休日や夜間の業務についても医療業務を含むため、労働基準法に定める宿日直業務ではないとし、すべての勤務時間を時間外勤務として給与を支払うよう是正勧告した。
勧告を受け、同病院と市当局は新たな夜間勤務体制を検討している。
羽島市民病院をホームページから調べて見ます。病院の概要からまず規模は、
- 一般病床271床・結核病床10床・精神病床48床
- 診療科目 27
- 常勤職員数 316人
職種 | 正規職員 | 嘱託職員 | パート職員 | 委託職員 | 計 |
医師 | 37 | 0 | 2 | 0 | 39 |
臨床研修医 | 8 | 0 | 0 | 0 | 8 |
看護師 | 200 | 5 | 30 | 0 | 235 |
准看護師 | 4 | 3 | 3 | 0 | 10 |
薬剤師 | 9 | 0 | 0 | 0 | 9 |
常勤医師37人(非常勤を入れても39人)で27診療科と言うのも最近の流れかもしれません。でも研修医も8人いますから、そんなものかな?
この記事の重点は、
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労基署は休日や夜間の業務についても医療業務を含むため、労働基準法に定める宿日直業務ではないとし、すべての勤務時間を時間外勤務として給与を支払うよう是正勧告した。
* | 総数 | 1ヶ月平均 | 1日平均 |
外来患者数 | 24234 | 2027.0 | 66.4 |
入院患者数(7〜3月) | 1244 | 138.2 | 4.5 |
救急車搬入件数(7〜3月) | 1359 | 151.0 | 4.9 |
労基署の是正対象期間である「2010年2月〜11年2月分」の5年前の数値ですが、正直なところ5年前より減っているとは思いにくいところがあります。良くて横這い、むしろ増えていると判断するのが妥当かと思われます。それとこの統計は救急外来患者数であって、すべてが時間外診療とは限りません。病院HPにも、
受付時間
月曜日〜金曜日(休日を除く)午前8時00分〜午前11時30分。ただし、緊急・救急の場合はこの限りではありません。
とくに救急車搬送は時間内のものも多いとは考えられます。それでも外来患者数の多くは時間外診療の占める部分は多いと考えられ、これに対する病院の従来の対応は、
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休日や夜間に救急業務として医療行為を行う職員に宿日直手当(医師は1回2万円、看護師・技師は1回1万200円)を支給。加えて、診察時間に応じて時間外勤務手当を支給していた。
まず復習です。平成14年11月28日付基監発第1128001号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」にある「宿日直基準に関る許可基準(抄)」を引用しておきます。
- 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。即ち通常の勤務時間終了後もなお、通常の勤務態様が継続している間は、勤務から解放されたとはいえないから、その間は時間外労働として取り扱わなければならないこと。
- 夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、病室の定時巡回、異常患者の医師への報告あるいは少数の要注意患者の定時検脈、検温等特殊の措置を要しない軽度の、又は短時間の業務に限ること。従って下記(5)に掲げるような昼間と同態様の業務は含まれないこと。
- 夜間に充分睡眠がとりうること。
- 上記以外に一般の宿直の許可の際の条件を充たしていること。
- 上記によって宿直の許可が与えられた場合、宿直中に、突発的な事故による応急患者の診療又は入院、急患の死亡、出産等があり、或は医師が看護師等に予め命じた処置を行わしめる等昼間と同様態の労働に従事することが稀にあっても、一般的にみて睡眠が充分にとりうるものである限り宿直の許可を取り消すことなく、その時間について法第三十三条又は第三十六条第一項による時間外労働の手続きをとらしめ、法第三十七条の割増賃金を支払わしめる取扱いをすること。従って、宿直のために泊り込む医師、看護師等の数を宿直の際に担当する患者数との関係あるいは当該病院等に夜間来院する急病患者の発生率との関係等から見て、上記の如き昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものについては、宿直の許可を与える限りではない。
例えば大病院等において行われる二交代制、三交代制等による夜間勤務者の如きは少人数を以て上記勤務のすべてを受け持つものであるから宿直の許可を与えることはできないものである。
当直業務の基本は通達により、
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夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、病室の定時巡回、異常患者の医師への報告あるいは少数の要注意患者の定時検脈、検温等特殊の措置を要しない軽度の、又は短時間の業務に限ること。
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通常の勤務態様が継続している間は、勤務から解放されたとはいえないから、その間は時間外労働として取り扱わなければならないこと
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宿直のために泊り込む医師、看護師等の数を宿直の際に担当する患者数との関係あるいは当該病院等に夜間来院する急病患者の発生率との関係等から見て、上記の如き昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものについては、宿直の許可を与える限りではない
(2)宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合
宿日直勤務中に救急患者の対応等が頻繁に行われ、夜間に充分な睡眠時間が確保できないなど常態として昼間と同様の勤務に従事することとなる場合には、たとえ上記(1)の1.及び2.の対応を行つていたとしても、上記2の宿日直勤務の許可基準に定められた事項に適合しない労働実態であることから、宿日直勤務で対応することはできません。
したがつて、現在、宿日直勤務の許可を受けている場合には、その許可が取り消されることになりますので、交代制を導入するなど業務執行体制を見直す必要があります。
ここには「宜しくない」ではなく、はっきり宿日直許可を「取り消されることになります」と明記されています。これじゃ程度がわかり難いのですが、平成14年11月28日付基監発第1128001号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」には目安が設けられています。要点だけの表を示しておきますが、
1ヶ月の救急対応日数 | 1日の対応時間の上限 |
7日以内 | 規定なし |
8〜10日 | 3時間以内 |
11〜15日 | 2時間以内 |
16日以上 | 1時間以内 |
羽島市民病院の平成16年度実績で考えれば、どう考えても救急に応需した日数は「16日以上」になります。そうなれば1日の当直医1人当たりの対応時間は「1時間以下」である必要があります。この条件を満たしていないと通達に反する可能性が出てきます。労基署の判断も記事になっており、
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労基署は休日や夜間の業務についても医療業務を含むため、労働基準法に定める宿日直業務ではないとし、すべての勤務時間を時間外勤務として給与を支払うよう是正勧告した
記事には
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勧告を受け、同病院と市当局は新たな夜間勤務体制を検討している。
(4) 宿日直勤務の適正化のための方策としては、例えば次のようなものがあること。
- 救急患者への対応等が頻繁に行われる一部の時間帯(終業時刻に近接した夜間の早い時間帯等)の勤務については、法第41条に基づく断続的労働である宿日直勤務の対象から除外し、変形労働時間制の活用や始業・終業時刻の変更等により所定労働時間の中に組み込むか、これが難しい場合には法定の時間外・休日労働として取り扱い36協定の締結・届出、割増賃金の支払等を適正に行うこと。
- 救急患者への対応等が頻繁に行われる一部の診療科、職種等については、法第41条に基づく断続的労働である宿日直勤務の対象から除外すること。
- 輪番制等により救急医療を行う場合であって、当番日においては救急患者への対応が頻繁に行われるときは、当該日の勤務については、法第41条に基づく断続的労働である宿日直勤務の対象から除外すること。
- 宿日直勤務に従事する者の範囲を見直し、宿日直勤務に従事する者を増やすことにより、宿日直勤務に従事する回数を減らすこと
- 1回の宿日直勤務における勤務者の数を増やすことにより、勤務者1人当たりの救急患者への対応等の時間を減らすこと
- 交替制を導入すること
a.の変形労働時間は時間外の繁忙時間に準夜勤的なシフトを設けるシステムです。つまり時間外患者の多い時間帯は勤務でカバーし、残りの時間を当直でカバーするやり方と言えば良いでしょうか。現実にこれ方式で対応している病院はあると聞いています。
c.は輪番日など特定日のみ繁忙状態の時の対応かと考えられます。ただ羽島市民病院の救急患者数からして、輪番日のみの多忙と思いにくいところがあり、導入は難しそうに感じられます。
d.がよく判らない対応なのでアドバイス頂きたいのですが、「宿日直勤務に従事する者の範囲を見直し」でたとえば羽島市民病院の当直者の範囲を30人なり31人にし、当直を月1回にすれば、当直勤務中にどれだけ働いても労基法的にクリアなのでしょうか。私の知識では消化不能でした。
e.は当直者が増える事により、1日当たりの時間外勤務時間を減らす方法と解釈します。仮に羽島市民病院の1日当たりの時間外患者対応時間が5時間とすれば、5人ないし6人の当直者がおれば「1時間以内」に収まるとの考え方です。ただし通達は医師だけではなく看護師も同様としていますから、時間外対応時間によっては何チームも当直部隊を作っておく必要が生じます。設備的にもハードルが高くなりそうなところです。
b.とf.は基本的に交替制を意味していると考えます。f.は勤務体制ごと交替制を行うものであり、b.は特定診療科のみの部分的な交代勤務制の導入と考えます。部分的が果たして可能かですが、常勤医37人で27の診療科を維持していますから人数的にハードルが高そうに感じます。人数的を言い出すとe.でもf.でも同じで、e.なら当直回数の上限の問題が生じますし、f.なら日勤帯の戦力低下の問題が生じます。
なんとなく現実的な対応としてa.が多いのは良く理解できます。a.以外の方法は取ろうと考えても、人数の問題がすぐに壁となり、労基署の是正勧告への対応としては無理が生じると考えられるからです。ただa.で解消できるかです。なんと言っても労基署の判断は「すべての(宿日直)勤務時間」を時間外勤務として認定しています。準夜勤を設けた程度で解消するかどうかです。
そうなると別の方策が取られる可能性が出てきます。ひたすら時間外勤務でカバーする方式です。時間外勤務の上限は労基法の常識的(省令だったかな、告示だったかな)には1ヶ月45時間までですが、労使さえ合意すれば青天井です。たとえば奈良県立病院の36協定は、
- 協定では、医師の年間の時間外労働は、奈良が1440時間▽三室が1440時間▽五條が1300時間を上限
- 「特別な事情」があれば協議のうえさらに360〜460時間延長できる
なんのための時間外勤務の制限かと思いたくなりますが、こういう協定は可能だそうで、奈良県以外でも類似の協定を結ぶところが増えている情報があります。それだけ時間外手当を支払うのなら交替制にした方が良さそうに感じないでもありませんが、交替勤務と時間外勤務では相違する点を重視していると考えています。
交替勤務の場合、必然的に日勤帯に穴が生じます。日勤帯に穴が生じる問題は医療の現場では大きな問題で、現在でも蔓延する「当直と言う名の違法夜勤」の翌日の勤務を免除するだけで「勤務医の労働改善」のビッグニュースとして報じられた事もしばしばあります。それぐらい日勤帯の戦力もカツカツであるのが実情です。
時間外勤務であれば、日勤帯にすべての常勤医が出勤するのは当然の前提になります。人件費的に医師を増やして交替勤務制にするのと、日勤帯に匹敵する時間外手当を払うのとどちらが安上がりなのかは試算ができないのですが、雇用するのに較べて時間外手当の実際の支払い段階で事務的処理を行なえば、時間外手当を支払ってもオトクなのかもしれません。それ以前に医師を増やすのも大変ですし。
とりあえずの予想でした。