高校検診騒動

4周年記念をやっているうちに出遅れましたが、6/30付北海道新聞の記事です。この記事自体は各所で既に議論されていますので、7/3付の続報記事の方を取り上げたいと思います。

内科検診に足りない理解 道立高で女生徒から苦情 触診に抵抗感、偏見も 説明する時間学校側取れず

 札幌市内の道立高校で5月、内科検診を受けた女子生徒が「胸をつかまれた」などと訴え検診が中断となった問題は、誤解による医師へのクレームが増える一方で、突然死予防などのため丁寧な診察を求められる学校医のジレンマを浮かび上がらせた。男性の医師への偏見が高まれば、医師の善意で支えられている学校の健康診断制度が崩壊しかねないとの懸念も出ている。

 「ブラジャー付き検診を認めたことが失敗だった」。今回、検診中断が発覚した道立高の学校医(六月に辞任)は、騒動の原因をこう語った。

 同校では、一昨年までは上半身裸で診察していたが、女子生徒や親からの強い要請を受け「必要に応じて外すこともある」と事前に通知することを条件に下着付きを認めた。結果的に生徒に徹底されず「胸の大きい子だけ下着を外された」「下着の中に手を入れられた」という誤解を招いたという。

 内科検診には、女性にとっては抵抗感がある診察項目が並ぶ。胸郭のゆがみを発見するための触診をはじめ、心臓疾患の検査では乳房の下部にある心尖(しんせん)部に聴診器を当てるため、乳房が大きい場合はブラジャーを外させたり、乳房を持ち上げたりする。

 思春期の女性に多い脊柱(せきちゅう)側湾症発見には上半身裸にして両肩や肩甲骨の左右不均衡を観察した上で前屈させて背部や腰部の不均衡を診る。医学書にも書かれた診察方法だ。

 しかし、学校現場ではこうした検診の方法や意義について事前に生徒に説明することは、週五日制の導入もあり時間がとれないのが実態という。

 道教委は「嫌なことをされたら嫌と言える女子生徒が増えてきたのだろうが、今回の件に関しては知識がないための誤解」(学校安全・健康課)と分析する。

 札幌市医師会は養護教諭との協議の場で「内科検診は上半身裸が基本。下着付きだと病気を見逃す恐れが高まる」と理解を求めているが、実際には「下着付き」が増えているという。

 一方、道教委は学校医に対し、心臓疾患発見のため丁寧な診察を要請している。背景には二○○四年一月から○七年五月末までに、道内の公立小・中・高校で六人が突然死していることがある。

 札幌市学校医協議会の長谷直樹会長(はせ小児科クリニック院長)は「下着は着けさせろ、病気は見逃すなでは、学校医はどうすればいいのか」と危機感を募らせる。道内の女性医師は医師全体の約一割。「現在でも検診の応援に来てもらう医師のやりくりが大変。内科検診の医師を女性に限定したら検診は不可能」(道教委学校安全・健康課)なのが現状だ。

 道教委によると、学校医の報酬は月一万八千七百円。月に何度学校に出向いても定額だ。学校検診時は勤務先の病院の診療を休むことを考慮すると割に合わないといえる。長谷会長は「学校で『全員』『無料』で健康診断を行うのは日本独特。制度を崩壊させないためにも、学校が正しい知識を生徒や親に事前に伝え、男性医師への誤解をなくしてほしい」と話している。

元の騒動の経過を簡単にまとめれば、

  1. 男性医師が女子高生を内科検診した
  2. 女子高生の一部が「エッチ」と騒ぎ始めた
  3. 雪ダルマ式に同調者が増え、学校に抗議騒動となった
  4. 学校は女子生徒にアンケート調査を行なった
  5. アンケート調査も踏まえ臨時全校集会で校長が「医師が未熟であり、不適切であった」と謝罪した
  6. これを聞いた学校医が激怒して辞職
付け加えれば学校医はこの騒動を受けて、問題とされた男性医師(協力医)に事情を聞いて「問題なし」と校長に報告しているのを無視されています。続報記事には問題の背景がかなり詳しく調べられています。まず学校医への要請の大元は道教委から出ています。
    道教委は学校医に対し、心臓疾患発見のため丁寧な診察を要請している。背景には二○○四年一月から○七年五月末までに、道内の公立小・中・高校で六人が突然死していることがある。
検診で100%の予防は困難でしょうが、一人でも突然死を防ごうとの趣旨が「丁寧な」の表現に表れているかと思います。「丁寧な」の要請が根底にあれば、医師側の当然の要求として、
    内科検診は上半身裸が基本。下着付きだと病気を見逃す恐れが高まる
純粋に医学的な面から言えば、男子生徒に較べて下着を付けていれば女子生徒の方が精度の劣る検診を行う事になり、女子生徒が不利益を蒙る事になります。道教委の「丁寧な」の要請を受けた学校医が、上半身裸を検診の精度向上のために望むのに対し、学校側は
    女子生徒や親からの強い要請を受け「必要に応じて外すこともある」と事前に通知することを条件に下着付きを認めた
ここで学校は道教委の「丁寧な」の要請に反する行為を行なっている事になります。道教委の「丁寧な」より女子生徒や親からの要請を優先したことになります。また「必要に応じて外すこともある」の事前通知も不徹底であったようです。検診の性質上、乳房が大きい生徒ほど下着を外したり、乳房を持ち上げたりの必要が高くなり、女子生徒側から見れば、「胸の大きいものばかりが、選んで触られたり、下着を外された」と感じ「エッチ」だとの騒動に拡がったと考えられます。

内科検診が女子生徒にとって羞恥を招く行為があることは認めます。問題は羞恥と検診のどちらを優先すべきかの問題に集約されると考えます。もちろん優先ではなく両立できないかの検討も必要です。両立を望んだときの最善の対処法は、女子生徒はすべて女性医師が検診するという方法はあります。それに対して道教委学校安全・健康課は、

    内科検診の医師を女性に限定したら検診は不可能
女性医師の比率は増えつつありますが、一律に女子生徒を女性医師に検診させるだけのマンパワーは無いと言う事です。女性医師が足りないのなら、次善として男性医師が必要な検診行為を行なっている事を事前に教育周知徹底すればよいという事になりますが、
    学校現場ではこうした検診の方法や意義について事前に生徒に説明することは、週五日制の導入もあり時間がとれないのが実態という
話が混乱しそうですが、学校検診は学校医や学校が趣味で行っているものではなく学校保健法第6条に則って行なわれています。
    学校においては、毎学年定期に、児童、生徒、学生(通信による教育を受ける学生を除く。)又は幼児の健康診断を行わなければならない。
さらに道教委からは「丁寧な」の要請が学校医に下っています。それに対する学校の対応は、
  1. 女子生徒や親からの強い要請は受け入れる
  2. 検診の方法や意義の説明は時間が無いからできない
  3. 騒ぎが起これば検診医が悪かった事にして事態の収拾を図る
学校検診を何のためにするのかの出発点にまず戻るべきでしょう。少なくとも今回の騒動直後に学校側が話したとされる対策法では解決は難しいかと考えます。
    今後は女子生徒の感情に配慮するよう学校医から協力医に事前に話してもらう
学校側は女子生徒や親からの要請は受け入れるし、時間が無いから検診の意義や方法の説明もしない。するのは学校医に「女子生徒の感情に配慮せよ」と命じるだけだそうです。そうなれば「配慮せよ」と命じたのに「女子生徒の感情」に触れた時は検診医の責任と言う理屈が成立します。

この学校に次の学校医が就任するかどうか真剣に心配します。