上野原市立病院

まず上野原市ですが、これは山梨県にあり市のHPによると人口は平成17年時点で2万8986人となっています。市とは言うものの人口3万足らずの小都市であることがわかります。この市にも市立病院があり、現在の規模は病床数150で、

内科・循環器科・小児科・外科・肛門科・整形外科・脳神経外科・皮膚科・泌尿器科・眼科・耳鼻咽喉科リハビリテーション科・放射線

こんだけの診療科があります。次に気になるのが医師数ですが、詳細なスタッフ紹介がありますからまとめておきます。

診療科 常勤 非常勤 備考
内科 5 11 常勤のうち、院長・副管理者・顧問各1名
小児科 0 6
脳神経外科 1 2 常勤は副院長
外科 0 4
胸部外科 0 1
皮膚科 0 2
整形外科 1 3
眼科 0 3
耳鼻咽喉科 0 2
泌尿器科 0 2
内科(透析) 0 3
合計 7 39


HPをパッと見たときには「ぎょうさんいるなぁ」と感心したのですが、よくよく見ると殆んどが非常勤で、常勤は7名で、さらに常勤のうちに院長・副院長・副管理者・顧問と重職が4名おられます。正直な感想として、非常勤医の換算で定員は満たしているかもしれませんが、常勤医がチト少ないような気がします。最近の地方公立病院のバランスとしてはこんな感じなのでしょうか。さらにこの上で附属秋山診療所と附属西原診療所の2ヶ所に出張診療を行っているようです。

これ以上は目ぼしい情報がないのですが、この病院が建設されたのは昭和45年(1970年)で、老朽化による建て替え工事が計画されているようです。この辺はいつも感じるのですが、鉄筋の建物の寿命は40〜50年ぐらいしかないんですね。建て替え関係の話題を何回か扱いましたが、だいたい同じようなサイクルのように感じます。

この建て替えなんですが、基本的には2007年末頃から計画され、計画中には近隣の大月市立中央病院、都留市立病院との再編統合計画も検討されたようですが、結局のところ独自新築の路線に落ち着いたようです。市長の意気込みも残っており、

山梨県東部医療圏で住民が安心して出産できる医療施設のバースセンターを目指している

結構な意気込みではありますが、今どきのご時世から「どうだろう」ぐらいの感想としておきます。最終的にどうなったかは確認できませんでしたが、新築計画はどうやら現在の規模と同じの150床程度のようです。それでもって建設計画は、公募型プロポーザル方式なるもので行なわれているようです。なんじゃらホイなんですが、説明によると、

「プロポーザル方式」とは、建築の設計に係る業務の設計者を選定する場合において、一定の条件を満足する候補者から、当該設計業務にかかる実施体制、実施方針、プロジェクトに対する提案等に関するプロポーザルの提出を受け、必要な場合には、ヒアリングを実施した上で、当該プロポーザルの評価を行い、当該設計業務に適した者を選定する方式をいいます。

もう一つよくわからないのですが、完成した設計案によるコンペではなく、設計案の段階から意見を取り入れながら建築計画を進めようぐらいの方式と理解しておきます。当然の事として、そのプロポーザルを判定する機関が必要です。手順としてはプロポーザル案を最終審査して、どこかを選び、市に答申する機関になり、事実上の最終決定機関ともいえます。その名も、

    上野原市立病院建設基本設計及び実施設計者選定委員会
長ったらしいので、ここでは単に選定委員会としておきます。この選定委員会の人事を巡ってこの小さな街が大紛糾しています。ソースは4/5付CBニュースなんですが、紛糾の構図は、
    地元医師会 vs 市当局
そして紛糾の大元は、選定委員会の

メンバーの過半数が市外在住者

具体的にはどういうメンバーになっているかですが、

氏名 肩書き
小幡 尚弘 上野原市副市長
清水 博 上野原市福祉保健部長
長田 喜巳夫 上野原市議会病院建設促進委員会委員
岩堀 幸司 特定非営利活動法人医療施設近代化センター常務理事
長  隆 東日本税理士法人代表
伊東 紘一 社会福祉法人恩賜財団済生会常陸大宮済生会病院
遠藤 誠作 福島県三春町保健福祉課長 総務省地方公営企業経営アドバイザー


こんなところにも長氏が列席されているのが微笑ましいのですが、CB記事が伝えるとおり、7名のうち4名が市外と言うか外部の人間としても良いと思われます。上野原市側は市当局から2名と市議会から1名と言う構成と言うのも確認できます。このメンバー構成でもめたの主因は、どうやら外部の人間が多いというのもあるでしょうが、地元医師会のメンバーが入らなかったというのもあるようです。

私も詳しいとは言えませんが、地方公立病院の新築ならスローガンは地元の医師会との連携を掲げるでしょうし、地元医師会の顔を立てるためにこの手の委員会のメンバーに加えておき、後で医師会の了解も得られているのアリバイに使いそうなものですが、上野原市では断固拒否したようです。そうなると医師会サイドにすれば

    外部委員を過半数も入れるのに、医師会から入らないとはケシカラン
これぐらいの感情のもつれが出ても不思議はないかと思います。7名が8名になっても、また医師会代表が入ったからといって、そんなに病院新築に影響するのかよくわからないのですが、そんな事も含めて断固拒否です。



さてここからなんですが・・・書くのが本当に気が進まないのですが、毎度毎度の利権沙汰に思えてなりません。言うまでもなく人口3万人足らずの地方都市にとって病院新築はビッグプロジェクトです。新築計画が具体化した時点から、様々な思惑がはびこっても誰も不思議に思わないでしょう。プロポーザル方式がどういう経緯で決まったのか不明ですが、この方式での利権の鍵は選定委員会になるのは一目瞭然です。

利権をより多く獲得するためには選定委員会での多数派を形成するのが重要です。ところが市の代表はわずかに3人で、それも行政サイドの委員が2人も入っています。このままでは、外部委員が公平な選定をやってしまうと懸念されたんじゃないでしょうか。もう少し捻れば、市長派の利権が優先になってしまうと懸念したのかもしれません。

市議会が利権の代表者の巣窟であるのはどこも同じですが、本当に動いたのは医師会ではなく市議会議員と考えます。記事で表に立っているのは医師会ですが、正直なところちょっと強硬すぎるような印象があります。CB記事から引用しますが、

 山梨県上野原市の市立病院建て替えをめぐり、江口英雄市長と地元の任意団体「上野原医師会」(渡部一雄会長)が対立している問題で、市内の小中学校や幼稚園では4月1日から学校医が不在となっている。医師会側は2月下旬、新病院の設計業者を決める市の「選定委員会」の在り方に抗議する書面を市長に提出。新年度から市の医療行政への協力を辞退するとの強硬姿勢を見せたものの、同委員会は3月28日に設計業者を決定し、市長は医師会側の要求を事実上はねつけた。小中学校では4月6日に入学式が開かれるため、市教育委員会では「これから健康診断もあり、1日も早く解決したい」としているが、事態は泥沼化の様相を呈している。

選定委員会に医師会代表が入れなかったのはご機嫌を損ねる理由に十分にはなりますが、その事が学校医総辞退につながったり、学校検診の拒否をおこしたりはチトやり過ぎではないかと言う事です。基本的に選定委員問題と学校検診は別次元のお話であり、こういうものをリンクさせる発想が医師会には基本的に乏しいと言う事です。

それと絶対とは言えませんが、医師会には面子以外にさして得る物のないもめ事です。私が世間知らずなだけかもしれませんが、病院建築に絡んでの医師会の利権などさほどのものと思えません。せいぜい親しい業者(医療機器屋)とかを推薦するぐらいで、それで得られる利権も医師会と言うより委員個人の利権に過ぎないように思います。

つまり委員個人の利権のために、医師会自体が血相変えて学校医総引き揚げとか、学校検診拒否でにらみ合いにまで発展するのは、いささか違和感を感じます。ましてや面子だけならなおさらです。

この辺は外部のものにはわからない長年の怨念の蓄積があるのかもしれませんが、たとえば札幌の高校生検診騒動の時とは異質の問題と思います。つうか、よくこの程度の問題で、医師会が結束したものだと逆に感心します。ですからこの問題には裏があり、裏は市議会議員ないし市の有力者じゃないかと考えるわけです。

たとえば、

医師会側は同月下旬、市外在住の委員を外さなければ、新年度から学校医の派遣や予防接種の窓口業務などを行わないとする抗議文を市長に提出。これに同調する形で3月9日には、市議14人も同様の趣旨の要望書を提出した。

この市の市会議員の定数は22で、議長と副議長がこれに含まれます。市議14人が団結すれば強固な勢力になります。それだけの勢力が提出した要望書が外部委員の排除です。これはどうも違う感触があります。何が違うかといえば、医師会の要望としては本来、外部委員を外す事ではなく、医師会の代表を選定委員会に入れることのはずです。

医師会が他の委員の任命まで口出しするのは異常と言う事です。そこまでは市政の領域であって、出すのは市議会議員が主体でなければならないはずです。それなのに医師会の要望書に同調と言うか、付和雷同する形式で市議サイドは要望書を提出しています。これは医師会と市議サイドが示し合わせての行動ではありますが、イニシアチブを取ったのは先に要望書を提出した医師会ではなく市議側と考えます。



構図を見直してみたいのですが、市長側の選定委員会の人選の目的は何かになります。これは市長にあんまり腹黒い思惑が無いという前提にしておきますが、地元利権関係者を極力排除するではなかったかと思います。一律排除の排除の方針の中で、地元医師会もその一員として扱われたと考えます。

ここはそう扱ったと言うよりも、比較的利権色の薄い医師会まで排除する事によって、他のあからさまな利権団体を排除するのが真の狙いであったようにも考えます。医師会すら排除されたのだから、他の団体はなおさらみたいな関係です。

当然医師会は反発するでしょうが、病院新築なんてそうそうはありませんから、そこは形として謝罪でもしておいて、以後は十分配慮するみたいな落としどころを思い描いていたと考えています。場合によっては委員ではない別の形で参加させる便法だってあります。ただし、そのための根回しは高を括ってやっていなかったと思います。

選定委員を外された医師会は面子を潰されたとばかりに怒るところまでは計算内だったのでしょうが、誤算が生じたのはまさか医師会が市議とタッグを組むとは思いもしていなかったと推測します。市長側にしてみれば、医師会単独が相手なのと、市議とタッグを組んだ医師会が相手なのでは話が違います。医師会だけならそれなりの妥協案を出せたとしても、市議とタッグを組まれると妥協の余地はなくなります。

経緯を推測してみると、選考委員を外された医師会側が憤懣やるかたなく、地縁血縁でつながる市議にでも不満をぶちまけたら、病院建設利権から除外されていた利権市議として「オレもそう思う」と同調され、見る見るうちに利権勢力が結集してしまっと考えます。市議側の思惑は市長側とは逆で、医師会を選考委員に送り込む事によって、従来の慣例どおり利権関係者が選考委員に名を連ねる算段です。

外部委員排斥は、外部委員が市外の業者に利権を誘導する懸念の排除と見ます。誰かが甘い汁を吸うのなら、市内の業者がより多く吸うのが権利であるとの発想ぐらいでしょうか。医師会の判断ミスはそういう強力そうな担ぎ手に、担ぐ事を許してしまった事だと考えます。

市長側にすれば医師会の参加で妥協すれば芋づる式に他の本当に排除したい利権団体が雪崩れ込むと考えますから、断固拒否の姿勢を硬化せざるを得なくなります。医師会は一旦市議側とタッグを組めば、今度は単純な利権関係だけではなく、またぞろ地縁血縁の関係が絡みつきますから、紛糾すれば紛糾するほど一蓮托生の関係が深まってしまいます。

挙句の果てが学校医総辞退なんて暴走にまで発展したと思われます。やはり医師会は地方であっても政治との距離感を取るべきだと痛感します。下手に一方に加担すると当然のように反対勢力から敵視されますし、地方政治であっても政治家は機を見て簡単に裏切りますから、独りで正義感に酔って頑張っても、取り残されてさらし者の危険性も十分あります。

地方の医師会は日医なんかに較べて、一般的にはるかに賢明なところが多いと思っていましたが、必ずしもそうではないところもあると改めて確認した次第です。


今回はさしての根拠があるわけではなく、前提として市長側の腹はあまり黒くないとしましたが、市長の腹が白いという証拠もまたありません。医師会も利権色が薄いと仮定していますが、これもあくまでも「だろう」程度で、実は少なからぬ利権が転がり込むのかもしれません。これは地縁血縁は複雑に絡み合っていますから、医師会が利権ダイレクトでなくとも、回りまわってなんていくらでも想像できます。

ついでなんですが、選考委員の人選なんですが、よく見れば実際に病院を使う当事者が委員に入っていません。選考委員会の議事録を読むと動線がどうだとか、手術室を1階におくか2階におくかとか、当直室をいくつにするかみたいな議論が白熱していますが、たとえ意見だけであっても直接のユーザーが委員に入っていないのもいつもながら珍妙です。

どこかで病院の当事者の意見が入ると話がまとまらないの説を聞いた事がありますが、完全排除はどんなものかと思ってしまいます。これまで勤めた病院でも「なんでこんな配置なんだ」とか「なんで、ここは妙に使いにくいんだ」の感想を抱いた事があります。これも誰かに聞いた話ですが、病院は使う人間が施設・設備に合わせるものであるみたいな発想だそうです。

もっとも医師なりに構想の大半を委ねると診療科エゴがむき出しになり、特定の診療科だけが使いやすい結果になったりしますから、どの診療科も使いにくい方が公平であり、誰も設計には直接関与していないから、後でもめる事が少ないのかもしれません。