ツーリング日和27(第24話)イッチ

 イッチって苗字が一畑だからそう呼ばれていたのか。明文館で一緒だったらしいけど、

「勉強はよう出来とったはずや」

 入学して早々に実力試験があって、イッチはベストテンに入ってたのか。コータローは?

「下から数えた方が早かった」

 コータローでもか。ただ成績の発表法があれこれあって変わったみたいで、

「名前で出たのはそん時だけで・・・」

 代わりに一点刻みの得点の分布表が貼りだされたのか。それを見れば学年なり、クラスで自分が何番なのかわかるシステムか。この方式なら自分の順位はわかっても他人の順位はわかんないのよね。

 あの頃って、どっかの高校で名前入順位表でショックを受けて自殺したのが出たのが問題視されて、そういう順位付けの公表を廃止するのが流れだったのよね。千草の高校では完全に無くなってたけど、明文館はそんな形で残されてたみたいだ。

「イッチはエエように言うたら向上心に富んどるねんけど」

 なんか聞いてるとヘビのように執念深いと言うか、人を羨むと言うより妬む面が強かったみたいだな。

「オレは人から妬まれる星の下に生まれて来とるからな」

 それわかる。千草もそうだから佳澄にライバル視されたのよね。この辺はコータローの思い込みもあるとはしてたけど、入学早々の実力試験でコータローを格下認定したのじゃないかって。学力カーストの世界だ。でもコータローも頑張ったんだよね。

「とにかく理系科目が苦手で、苦手で・・・」

 アホか。どこの世界に理系科目を苦手にする医学部志望がいるんだよ。

「そやからやと思うけど・・・」

 それって開業医の息子だから裏金入学を狙ってると思われただって! その話はよく聞くけど実際のところはどうなの。

「私学やったら、あるとこはあるはずや。そやけどオレらの時には浪花医大事件があったんを覚えてへんか」

 あったあった、裏金入学をどこかの週刊誌がすっぱ抜いて、マスコミが取り上げまくった果てに、国会質疑に出るぐらいの大騒ぎになったもの。だからじゃないけど、コータローが受験の時にはなかったんじゃないかって。だからコータローの合格は実力だ。

「実力なんはウソとは言えんけど・・・」

 コータローはいくつか受験してるのだけど、本命に入学してるとはさすがだ。

「試験問題見てビックリしたわ」

 難しくてビックリしたのじゃなくて、コータローの限られた得意分野だけが出たのだそう。だからじゃないけど他は全滅だったのか。イッチはどうだったの、

「あいつも医学部やってんけど、オレも受験があるまで知らんかった。いつ医学部志望になってんやろ」

 どうもぐらいの話だけど、コータローが医学部だからそうしたのかもだって、

「そやけど落ちた」

 実力と試験の成績は長期的には連動すると思うけど、受験のような一発勝負では運不運はどうしても出るのよね。受験当日にインフルエンザになったりもあるし、試験問題だってコータローのように相性があったりする。

「ようあるんやったら、一問目で躓いてパニックになってもたも聞くで」

 学校の定期試験でもあるよね。コータローはラッキーの団体さんが来てくれて合格になったのだけど、イッチは落ちたのかもだ。落ちたら浪人して再チャレンジになるけど、

「イッチは京阪大医学部を今度は受けたらしいんや」

 京阪大医学部だって! 京阪大自体が難関校も良いところだけど、医学部なんて偏差値八十がカットラインとかって言われる超難関校じゃないの。浪人してる間に努力したのだろうけど、

「また落ちた」

 そうなれば二浪になるけど、

「また落ちた」

 そんなのを良く知ってるな。

「千草やったら竹芝知ってるやろ。あいつがイッチと予備校が一緒やったから・・・」

 知ってるよ。竹芝君も明文館だし、二浪したけど京阪大に入ったよね。イッチの話は竹芝君から聞いたのか。でさぁ、どうしてそこまで京阪大にこだわったの。医者になるだけだったらどこの医学部でも良いはずよね。

「医者になるだけやったらな。そやけどやっぱり京阪大卒のブランドは大きいねん。もっともやが、この辺はどんな医者になりたいで変わって来るんやけどな」

 医者の中の学歴自慢みたいなものかも。別に医学部じゃなくとも京阪大に入れるものなら誰でも入りたいとは思うけど、

「先にオレが医学部に入ってもたんはありそうやねん」

 そういうことか。浪人するって双六なら一回休みって感じのはずなんだ。その休んでる間に合格した連中は駒を先に進めちゃうよね。だから休みが終わった時にコータローより上の大学に進んでやろうって感じだったのかも。

 それが悪いとは言わないけど、もう二浪もしてるじゃない。いつまでも浪人してられないと思うんだ。千草に浪人経験はないけど、ずっと高校の勉強で足踏みし続けるは辛いのじゃないかな。

「オレも浪人の経験はないからわからへんねんけど・・・」

 浪人生活も楽しかったとか、後で役に立ったとかいう人も知ってるけど、それってあくまでも念願の志望校に合格したからだと思うんだ。苦労した末の合格だから、辛かった浪人生活さえ輝いて見えるぐらいの感じ。

「最後のところはわからんけど、浪人中は街を歩くのも辛い気がするわ」

 他人の目はどうしたって気になるだろうし、先に合格した友だちとかは大学生活を謳歌してるもの。それもあったんだろうってコータローはしてるけど、

「西宮学院に合格して入っとる」

 三浪は回避したのか。でも西宮学院には医学部はないから、

「他の医学部受験がどうやったかまで知らんけど、医者になるのはあきらめたんやろ」

 西宮学院も良い大学なんだ。千草だって憧れるだけは憧れてたもの。もっとも千草じゃ、到底無理だったけどね。

「ああエエとこや。別に医者にならんでもかまへんやんか」

 佳澄とイッチで二人が知ってるのはこれぐらいなんだけど、コータローも感じたよね。どうしてあの二人が敦賀に一緒にいるのかって。敦賀というより、どうして二人で旅行してるんだって話だ。