ツーリング日和15(第22話)富山横断

 ここで健太郎が口を挟んできた。

「ここからですが・・・」

 わたしたちは東に進むよ。

「そや。悪いけど富山は通り抜けて新潟まで行くで。ほんであんたらどうするんや」

 一瞬だけ間を置いて、

「御一緒に」

 ついて来ない訳ないか、あの二人の悲願は日向湖でも、千里浜でも、珠洲でも叶えられてないもの。わたしたちがいないとまた糸の業の脅威に襲われるもの。

「出発するで」

 後はバイクで話そうか。能登島から脱出するのは能登島大橋を渡る。この渡ったところが和倉温泉ぐらいと思えば良いと思う。和倉の温泉街を抜けたら、

「国道二四九号の方に曲がるで」

 今日もちゃんと人間音声ナビが働いてくれている。

「誰が人間ナビじゃ」

 しゅっちゅう間違うのが欠点だけど、あれも愛嬌だと許すことにしてる。

「文句あるんならユッキーが先導せい」

 無理よ。わたしはナビじゃないもの。

「腹立つやっちゃな」

 国道二四九号は自動的に県道十八号になるみたいだ。どこが境目だったのかな。

「あの信号は左やで。県道十八号走るからな」

 あそこか。うっかりしてると直進しそうなところだ。それにしてものどかなところだ。家があって、田んぼがあっての田舎道だよね。気分は、

「country road,take me home,to the place,I belong・・・」

 歌は下手だけど気分は認めてあげる。

「うるさいわ。突き当たったら左やからな」

 この辺も広々して気持ちイイな。走って気持ちの良い道の条件は色々あるだろうけど、左右の視界が広がってるのはあるのよね。

「ブラインドカーブの連続は気疲れするもんな」

 常に前からクルマとかが来ないか張り詰めなきゃならないものね。

「あのローソンとこの信号左や。芹川って方で県道十八号やからな」

 えっと、ケーズデンキが見える方じゃなくて、ニトリが見える方だな。市街地ぽいところを過ぎると峠道か。

「能登と越中の国境や」

 峠道を下って来たのだけど、

「次の信号は右や。広域農道を走って氷見市内は迂回する」

 氷見のブリは食べないの。

「時間があらへん」

 まさにザ広域農道だ。広いし、カーブは少ないし、クルマは少ないしで快適、快適。

「下ったとこの信号右や。高岡に向かうで」

 四車線の国道になってるじゃない。その代わりに混んで来たな。そしてついに国道八号だ。この辺は高岡市街の南側ぐらいだから、産業道路になるんだろう。

「国道八号は富山県を東西に貫く大動脈や」

 高岡から射水を挟んで富山だ。今渡っているのが神通川か。これも昭和の教科書に必ず出ていた川だけど今はどうなっているのだろう。それにしても、これだけトラックにお付き合いさせられると草臥れた。コンビニでジュース休憩しようよ。

「そやな」

 さすがに混んでたね。もう三時だよ。

「ほいでも、これで富山の二大都市の高岡と富山抜けたからラクになるはずや」

 アテになるのかな。

「なるに決まっとるやろが」

 珍しくコトリの予言は当たり、

「うっさいわ」

 東に進むほど道は空いてきた。富山平野も広いよ。ここは南側には立山連峰が聳えて、北側には富山湾だ。雪さえ除けば良いところだと思うけど、いまいちイメージ湧かないな。思い付くのは氷見のブリと、富山湾のホタルイカと、魚津の蜃気楼ぐらいだけど、

「あのなぁ、医薬品製造やったら日本一や」

 あれっ、大阪の道修町じゃなかったんだ。

「富山の置き薬忘れたんか。他にもアルミサッシ製造も日本一やし、チューリップの球根も日本一や」

 砺波のチューリップは思いだしたけどアルミサッシはなんか意外だ。他は、他は、

「見てわからんもんは聞いてもわからん」

 逃げやがったな。だけどイメージ的には地味なのは確かだ。若狭の観光もあれこれ考えたけど、富山も売りになるところが乏しい気がする。それに若狭より不利なのは京阪神からも首都圏からも同じぐらいに遠いことだ。

「まあな。首都圏からやったら新潟か富山飛ばして金沢やろ」

 気の毒だけどそうなってしまいそう。コトリとあれこれ考えたのだけど、高岡城や富山城も、あのコトリでも乗り気じゃなかったぐらい。

「瑞龍寺ぐらい寄りたかったけど、そんなんしたら一泊伸びてまうからな」

 つまりは一泊伸ばしてまで寄る価値を見出せなかったぐらい。

「ツーリング動画がああなっとるのがようわかったぐらいや」

 北陸ツーリングの動画も多いけど、能登の次は富山を飛び越えて親不知まで走っちゃうのよね。富山でツーリングコースとして出て来るのは、

「高山や白川行くやっちゃもんな」

 でも来てみると理由がわかる気がする。富山湾も綺麗だと思うけど海岸線沿いは都市が数珠つなぎなんだよ。爽快なシーサイドロードを楽しめる感じじゃないもの。そりゃ、あるんだろうけど、

「地元ライダーの穴場やろ」

 神戸のライダーが江井ヶ島に行くようなものかもしれない。それでも新潟県境が近づいてくると家も減り、シーサイド気分になってきた。線路が見えるってことは北陸本線だ。

「いつの時代の話をしてるねん。北陸新幹線が出来た時に金沢から直江津の間はJRが見捨てよったわ」

 それはなんとなく聞いてたけど、かなりどころでないほど長くない?

「それぐらいの赤字路線やってんやろ」

 ローカル線はどこも厳しいよ。