ツーリング日和15(第21話)七尾

 八時の朝食で二人と顔合わせたけど、やってない。あの状況でロストヴァージン出来たら逆に尊敬できるもの。食事が終わって八時半に出発。評価が微妙な宿だけど、

「値段がな」

 高いと思うか、そんなものだと思うか、安いと思うかの差は大き過ぎる宿だと思う。サービスも同様。あのスノブぶりが合うか合わないかだろうな。

「逆に気を遣う感じでコトリはシンドかった」

 そういう宿もあるよ。さてまず目指すのは見附島だ。宿から十分ほどだけど、これは奇勝だよ。浜から程近いところにあるのだけど、周囲が切り立った断崖に囲まれていて、陸地に向かっている方が船の舳先みたいになってるから。

「軍艦島や」

 島なのはわかっているけど、そのまま迫って来そうに見えるもの。そこから国道二四九号をひた走り七尾へ。そろそろ七尾市内も近いってあたりで、

「長浦って方に行くで」

 左折ってことだな。一旦はシーサイドに出てから、

「ちょっとストップ」

 これはコトリに同情する。道路案内がなんにもないんだもの。引き返して右に曲がり、見えて来た、見えて来た、あれがツインブリッジのとだ。斜張橋の高い塔が迫力あるよ。

「正式には中能登農道橋や」

 日本一立派な農道じゃないかな。橋からの景色も素晴らしく能登島上陸だ。能登島の北側を走っているのだけど、

「なるほどな」

 わたしもそう思った。海に近いところを走っているのだけど、海が見えるところが少ないのよ。だからツーリング動画でも橋の次がのとじま水族館になるんだろうって。

「あそこやな」

 左だね。曲がっても林間ロードだったけど、チラチラと海が見えだすとパッと開けてくれた。あの建物だろうけど駐車場はこっちか。へぇ、ここは駐車料金は無料とは嬉しいな。ここの楽しみは青の世界。

「ここにもいたんだ・・・」

 そうジンベエザメが泳ぐ大水槽があるんだよ。

「初めて見たんは海遊館やった」

 それはわたしも同じ。というか、ずっと海遊館の専売特許と思ってた。次が本館ののと回遊回廊。プロジェクションマッピングとの融合がおもしろい。

「トンネル水槽もおもろいな」

 陳腐だけど海の中にいるみたいだ。ここまで見たら定番だけどイルカショーやアシカショーも見たいじゃない。でも腹減った。

「時間も押し取るさかいショーはパスにしてメシにしょ」

 水族館のレストランにするのかと思ってたら、水族館から出て五分ぐらいのカフェに。

「海鮮ばっかりやったからな」

 たしかに、これだけ続いたら変化球が欲しくなる。メインがカフェだけど、

「オムライス」
「能登の恵みパスタ」
「能登島ピザも」

 食後は、

「海辺のハーブティーにイルカのぷるるん」
「お花畑のハーブティにベークドチーズケーキ」

 テラスからの眺める七尾湾が素晴らしい。さて後の予定はコトリの事だから七尾城は絶対よね。なにしろ、

 霜満軍営秋気清
 数行過雁月三更
 越山併得能州景
 遮莫家郷憶遠征

 これの舞台だもの。

「見たない言うたらウソやけど、今回はパスや」

 七尾城の遺構は良く残っているらしい。七尾城の規模は壮大で、その名の通りに七つの尾根に城塞を構え、さらに城下町も惣構えで囲い込んでいたそう。

「その気になったら一乗谷クラスの復元施設も可能やそうや」

 だけど現実としては土の下、木の下で見れる部分は少ないのか。もったいないとも思うけど、

「七尾城には歴史ロマンが乏しいわ。あの漢詩一つじゃ無理がある」

 和倉温泉とセットで名所にはなりそうだけど、真剣に採算を考えると、

「条件悪いわ」

 でもやる価値はあるとあるとは思う。能登半島も良いところだけど、実際にツーリングして感じたのだけど、目玉がないのよね。パーツ、パーツは魅力あるけど、どれも脇役クラスなのよ。

「それは言えてる。出雲風土記の国引き神話に出て来るぐらい歴史のあるとこやで。他のとこやったら名所にしてもそれなりに謂れがあるやんか」

 それはあるあるだ。なんとか神話とか、なんとか伝説ゆかりみたいなもの。そういうのが名所や旧跡の隠し味になるもの。そういう意味で歴史的な有名人の関与が乏しい国だったと言えなくもない。

「北陸担当が勝家やのうて秀吉やったら変わっとったかもしれん」

 そうなれば中国大返しはどうなるかにもなるけど、言わんとするところはわかる。戦国のスーパースターの秀吉の古戦場なら知名度もあがるものね。そうなると賤ケ岳で勝家が勝っていたら、

「勝家の器量で天下を取れたかの問題が出て来るわ」

 能登にも戦国期で輝いた時代はあったそう。それは畠山義総の時代で、七尾城を築き、その城下町は小京都と呼ばれるぐらい繁栄していたそうなんだ。この畠山氏も室町時代の名家で本家が越中、紀伊、河内の守護。分家が能登の守護として君臨してる。

「そりゃ畠山氏いうたら三管領の一角や」

 三管領とは細川、斯波、畠山だものね。その分家だけど間違いなく名門。だけど戦国大名に脱皮出来なかったのかも。

「その辺はあれこれ見方はあるけど、戦乱の時代は人物依存がすべてやろ」

 それに尽きてしまうか。いわゆる英雄がその家に産まれるかどうかがすべてみたいなところがあるものね。