結腸癌 stage 2 high risk groupの謎を追う(前編)

謎のキーワード

 これでも医者です。さらに言えば血液腫瘍科だって5年ぐらいやってます。もっとも大昔の話の爺医ですから自慢出来るようなものじゃありません。それぐらいの経歴ですから結腸癌の知識は医学生、それも昭和の医学生レベルに留まります。

 理由は消化器系の腫瘍なんて滅多に遭遇しなかったからです。滅多どころか記憶をたどっても直接担当したのはゼロで、当時の上級医が1例だけ胃癌を受け持っていたのを横目で見ていただけです。それぐらい小児分野では少ないものなのです。

 あの時も大騒ぎになったので妙に覚えています。入院時の触れ込みは悪性リンパ腫だろうと誰もが予想していたのですが、なんとなんと胃癌とわかってビックリ仰天。笑ったらいけませんが知識がまだしも新しいのは研修医で、小児外科医のベテランクラスなんて、

    「胃癌はボールマン分類になるけど、えっと、えっと?」
    「子どもにもビルロートよな」
 こんな事を言い出すぐらい小児ではレアな症例でして、担当した上級医が症例報告のために調べたら、とにかく大昔の話で記憶に怪しいところがありますが、20例ぐらいしかなかったとか言ってたはずです。それでも子どもの胃癌は接近遭遇ぐらいありましたが結腸癌となるとゼロです。

 蛇足ですがよくそんな状態で小児外科も手術したものだと思わないでもありませんが、他に回せるところなんてあるはずもないですから、なんとかなったはずです。かくして結腸癌の知識はアップデートもされず古色蒼然状態になり果てています。

 とはいえ我が身に起こった一大事ですから遅まきながら泥縄式のアップデートに走ります。そこで出て来た謎のキーワードが術後診断で下された、

    stage 2aですがhigh risk group
 実はこの時点から私の知識を越えていまして、結腸癌のステージ分類ぐらいはおぼろげながら覚えていましたが、stageにaとかbとかcの細分化まで初耳も良いところでした。とりあえず理解したのはstage 2にもstage 3にも3段階ずつの細分化があることでした。

 ちなみに術前予想はstage 3bぐらいだったはずで、これがstage 2aになったと言うことは4段階良くなっている事にはホッとしました、そりゃ、術前予測より悪くなるより嬉しいに決まってるじゃありませんか。ですがオマケのように引っ付いているhigh risk groupは気色が悪いものです。だって、だって日本語にすれば、

    高再発群
 再発必発グループみたいな印象しか抱きようがありません。患者心理ってそんなものです。それぐらい怖そうな代物です。ほんじゃ、これは何者だなんだと知りたくなるのは当然でしょう。


TNM分類とステージ分類

 固形腫瘍の進行度の基準は私が医学生になる前から同じで今も基本は変わっていません。まずTNM分類がありますが、これは、

  • Tは原発巣の状態
  • Nはリンパ節転移の状態
  • Mは他臓器への遠隔転移の状態
 癌の進展度の経験則から出来たぐらいに考えていますが、まず癌が体のどこかに原発巣を作り、そこからリンパ節転移を行い、さらに他臓器への遠隔転移に至る段階に進んでいくぐらいのお話です。もうちょっとシンプルにはTからN、NからMに進むほど予後が悪くなるぐらいの理解で宜しいかと思います。

 TNMも腫瘍によりそれぞれに状態があれこれありますから、それを腫瘍ごとに組み合わせで進展度を整理したのがステージ分類になります。これも基本は4段階でstageが上がるほど予後が悪くなります。結腸癌で言えば、

  • stage 1・2は原発巣(T)だけのもの
  • stage 3はリンパ節転移(N)があるもの
  • stage 4は遠隔転移(M)があるもの
 ちなみに結腸癌にはstage 0までありますが省略します。ここなのですが、stage1とstage 2の差ですが、原発巣の評価になります。Tで重視されるのは腫瘍の腸管壁への深達度になり、腫瘍は腸管壁の筋層部分に発生しますがTでは腸管壁の外側への深達度を基準とします。

 これが筋層部分に留まるT2までならstage 1になり、筋層を越えればT3以上になりstage 2になります。ですが現在のステージ分類はさらに細分化し、

  • stage 2a:筋層を越えてもさらに外側にある漿膜内に留まるT3のもの
  • Stage 2b・2c:漿膜を越えたT4のもの
 T4は腸管壁から原発巣が飛び出したものになります。ちなみに私の場合はT3/N0/M0ですからstage 2aに分類されます。少し長めの解説になってしまいしたが、ここで覚えておいて欲しいのはstage 2でもT3であるのかT4であるのかでかなり違いがあるのと、さらにこれがstageに関係なくT2であると大きな違いがありそうだぐらいです。


ムンテラへの違和感

 担当してくれた外科医も腫瘍科医もhigh risk groupに該当する事の説明はキチンとされています。こうこうの条件があるから該当するです。それはそれでその時は納得したのですが、知りたいのはhigh risk groupなら同じstage 2でも予後がどう変わるかです。stage 2でもstage 3ぐらいに良くないのかの聞いたのですが、

    あくまでもstage 2ですから・・・
 どうにも口を濁して流してしまう印象だったのです。当時は術後でフラフラでしたし、それよりも術後の回復とこれから始まる術後化学療法に頭が一杯で、とにかくスケジュールをこなすこなす事に専念していました。

 ケモは1クール目からトラブル発生でしたが、とにかく泥縄式に知識を拾っていました。参考にしたのは医療施設のHPです。本業なのに笑われそうですが、あれは参考になりました。そりゃ、患者のために書かれていますからわかりやすいのです。

 だって、だって医者用のペーパーは「ここまで来い!」で書かれていますから、疲れた頭で読むにはなかなかの苦痛です。医療機関のHPの内容も差がありますが、患者にもわかってもらえるように書いてくれておられるのでわかりやすいのです。

 かなり親切な内容で、使われる化学療法剤の投与スケジュールとか、それぞれの化学療法剤で起こりやすい副作用の説明だけではなく、発生時期とかその予防法や対応法、さらには副作用の重症度のグレードまで書いてあったりします。

 そのレベルからのアップデートが必要な状態なのはお恥ずかしい限りです。ですから今回のお話も、消化器科の医師どころか、研修医でもそんなものは常識だと言われると思います。あくまでも医学知識がそれなりにある患者ぐらいの立場で知った話ぐらいで読んで頂けると幸いです。

 そんな説明ですが治療成績の話もあります。ここに患者なら注目するですが、定番のステージ分類の解説があり、それぞれのstageの5年生存率の成績なんかも書かれています。ついでに言うなら、各stage毎の治療方針も書かれており、例のhighn risk groupについても、

    stage 2のうちhigh risk groupに該当するものは術後化学療法を行う
 ここぐらいまでは書かれています。ですが、ですがなんです。stage毎の成績の紹介はなぜかstageまでに留められ各stageの更なる細分化されたものへの記述がありません。もちろん同じstage 2でもhigh risk groupに該当すればどう違うのかの説明も共通してありません。

 そうなんです。私が病院で受けた説明以上の情報はどこも提供していないのです。ですが患者心理として一番知りたいのはそこじゃありませんか。stage 2aのhigh risk groupの予後はどうなっているんだです。これも腫瘍科医に聞いてはみたのですが、どうにも上手くはぐらかされてしまうのです。仕方がないので自力で調べれる事にしたのが今回のムックです。

 やってみるとかなりの分量になってしまったので、ここまでを導入部の前編して中編は明日にさせて頂きます。こんなに長くなるとは思わなかったものですみません。