スキルスの続編

今日は胃癌としてのスキルスの話ではなく、1/18に取り上げたスキルスにまつわる医療訴訟の続編です。前回の話を要約しておくと、

  1. 70歳の女性が病院を受診し、内視鏡検査を受けたが癌は見つからなかった
  2. 2ヵ月後に他の病院でスキルスが見つかった
  3. 遺族が検査が不十分と訴え360万の賠償請求を行ったら、220万円が認められた
  4. 判決理由はその病院が「精度の高い検査」を行わなかったとした
前回の焦点になったのは「精度の高い検査」とは何かでした。私はPET説をあげましたが、前回の論議の中ではほぼ否定されています。ただ「それでは」については、寄せられたコメンテーターの意見でも「???」です。とりあえず結論らしきものとして、
  1. 上部消化管造影を頻回に繰り返す
  2. 内視鏡検査の頻度を上げる
これもどこまでそんな頻度で検査を続けるかと言うか、否定できるかについては「???」で、結局のところ「精度の高い検査」についてはやっぱり「???」になった次第でございます。目覚めが悪い話でしたが、xxx様より新たな情報を提供して頂きました。1/13付中日新聞より、

名古屋地裁「経過観察は漫然」

 進行の速いスキルス胃がんで死亡した愛知県一宮市の女性=当時(70)=の遺族が、転院前の旧尾西市民病院で初めから適切な治療を受けていれば延命の可能性があったとして、編入合併で病院の負債を継承した一宮市に360万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が12日、名古屋地裁であった。永野圧彦裁判長は「すみやかに精度の高い検査を実施すべきで、不可能ならこうした検査が可能な病院に転院させるべきだった」と過失を認め、一宮市に220万円の支払いを命じた。

 判決によると、旧尾西市民病院は2006年12月、腹と背中の痛みを訴えた女性への内視鏡検査でスキルス胃がんの疑いと診断。しかし組織検査などではがんと特定できず、07年3月に紹介した一宮市民病院が、より精度が高い超音波内視鏡検査などでスキルス胃がんと診断した。女性は翌4月に胃の全摘手術を受けたが、08年5月に死亡した。

 市側はほかの疾患との判別のための検査や経過観察に必要な期間だったと主張したが、永野裁判長は「(判別の)方針が当初から定まっていたとは思われず経過観察は漫然としていた」と指摘。女性の延命との関係については「早期転院ならより早く診断や適切な治療が行われ、死亡時点において生存していた相当程度の可能性があった」と判断した。

 一宮市財政課の話 担当医師は「全く非がない」と主張していたので意外な判決だ。判決文を精査した上で対応を検討する。

中日記事は前回引用した産経記事より情報量が増えています。前回では患者が受診した理由が不明でしたが、

    腹と背中の痛みを訴えた
具体的な症状があった事が確認できます。また2006年1月に最初の病院で内視鏡検査を行った後に、別の病院で3月に再び検査を行った理由も不明でしたが、

言葉の綾もあるでしょうが、最初の病院の内視鏡検査でスキルスの可能性を疑い、病理検査では否定されていたが3月に別の病院に紹介した経緯のようです。ここは前回の謎の一つであった、どこでスキルスの話が出てきたかを推測できるところと考えます。中日記事を信じるならば、最初の内視鏡検査の後にスキルスの言葉が出てきたと考えられます。

さて前回最大の焦点であった「精度の高い検査」ですが、

どうも具体的には超音波内視鏡が「精度の高い検査」に該当するようです。はてさて、また困りました。私は超音波内視鏡は使った事はもちろんの事、見た事さえありません。ここは是非、消化器関連の前線に従事する医師の方々の助言を頂きたいところなんですが、基本的な知識だけ提供しておきます。病院の検査の基礎知識の超音波内視鏡検査(EUS)とは?からまず引用しておきます。

内視鏡に、超音波検査のプローブ(探触子)がついているものを超音波内視鏡(EUS)といいます。エコー検査と違って、胃や腸の中の空気や腹壁、腹腔の脂肪、骨が画像化の障害になることもなく、観察目的の近くから高い周波数の超音波をあてることができるため、高い分解能の超音波観察が可能になっています。

鉗子(かんし:組織を把持する器具)と同じように内視鏡の内部に装着されている「細径超音波プローブ」や、超音波検査専用のラシアル型内視鏡などがあります。

超音波内視鏡(EUS)で何がわかるのか?

食道、胃・十二指腸、大腸、胆嚢、膵臓など消化管の腫瘍などを詳しく調べる際に利用されています。消化管の内腔から超音波検査を行えるため、表面には見えない粘膜下の腫瘍の位置と大きさ、浸潤の度合い、悪性の程度、周囲の臓器との位置関係、周囲のリンパ節の状態を知ることができます。

胆嚢ポリープの良性・悪性のおおよその判断が可能で、検出能力の最も優れた検査となっています。また、胆石、総胆管結石、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がんが疑われる場合にも行われます。

特に、診断が難しいとされている慢性膵炎と膵臓がんの診断には欠かせません。

全然詳しくないので、お恥ずかしい限りですが、

    粘膜下の腫瘍の位置と大きさ
これがわかるのであれば、スキルスの診断も可能かと考えられます。ただ説明にスキルスについての言及はあまり為されていないようです。もうひとつ、四谷メディカルキューブ様の〜超音波内視鏡 (EUS) というのはどういう検査ですか?〜から引用しておきます。

超音波内視鏡は英語ではEndoscopic ultrasonographyと呼ばれ、EUSと略されることがあります。内視鏡装置の先端部分が超音波プローブになっている器械を用いて、消化管や周辺臓器の断面像を描出する検査です。これにより、病気の性状の診断や癌の広がりの状況、リンパ節腫大の状況を調べることが可能です。

超音波の画像は使用する周波数が高いほど、精度の高い画像が得られますが、遠くまで届かなくなるため、病変の近くで検査を行う必要があり、プローブと病変の間には超音波を通しやすい物質が必要です。

このため内視鏡で病変を確認しながら、水を入れてプローブを水没した病変に近づけて検査するか、プローブを薄いゴムで巻いてその内部を水で満たした状態で検査をします。通常の内視鏡検査よりやや時間がかかることと、やや太い内視鏡を用いることが多いため、鎮静剤を用いて検査いたします。

胆嚢ポリープなどの病変は、通常の腹部超音波検査で診断されますが、胆嚢をすぐ近くの十二指腸から観察するとよく見えるため、詳しく検査するときには、超音波内視鏡もあわせて用いられることがあります。また、膵臓の病変も胃を介して観察可能です

原理的にはスキルスの発見にも威力を発揮しそうな感じがするのですが、たまたまピックアップした2つの説明にはスキルスはもちろんの事、胃癌についての言及も妙に乏しいのが少しだけ気になります。そこで、ググり方を少し変えてみます。キーワードを「超音波内視鏡 スキルス」にしてみました。検索結果なんですが、なんとも言えない感じです。

スキルス診断にも有用の記述はあるにはありますが、非常に素っ気無い記述ばかりです。スキルス診断の難しさは私のような小児科開業医でも常識ですから、超音波内視鏡が有用なら、もう少し派手にどこかに書いてあっても不思議なさそうなものですが、力説してあるサイトは残念ながら見つかりませんでした。

診断の名人が伝授する検査画像の見方、読み方なるページがあり、

監修:森山紀之 国立がんセンターがん予防・検診研究センター長

本文は長いので引用しませんが、「胃がん(スキルス型)/内視鏡&腹部エックス線検査」について解説されていますが、そこには超音波内視鏡はまったく登場せず、上部消化管造影での診断の有用性を強調しています。

この辺の分野は日進月歩ですから、この程度の情報で私が結論できるようなものではありませんが、超音波内視鏡はどれぐらいスキルス診断に威力を発揮するのでしょうか。知見をお持ちの方は是非情報をお願いします。