ちょっとした記事比較

遺憾なんですが、食欲の出そうな医療ネタがなかった(準備が間に合わなかったと言い訳しておきます)ので、軽い時事ネタで穴埋めします。まずは2/2付産経新聞より、

「百貨店にふさわしくない」と苦情メール 西武渋谷店のサブカル展が中止

 東京都渋谷区の百貨店「西武渋谷店」で開かれていたサブカルチャーの展示会が、客の苦情を受け、会期途中で中止されていたことが2日、分かった。

 同店8階の美術画廊では、1月25日から2月6日までの日程で美術展「SHIBU Culture〜デパートdeサブカル」を開催。国内アーティスト二十数人による絵画や写真、人形など約100点が展示されていた。しかし、「百貨店で開く展示会としてはふさわしくない」といった趣旨の苦情メールが数件寄せられたため、同店は「不快だと思われる方がいるのであれば中止すべきだ」と判断し、1日に展示を中止した。

 同店の担当者によると、「メールの送り主の年齢などは不明だが、特定の団体からの抗議ではないようだ」と説明。「中止に対する問い合わせは数件あったが、目立った苦情はない」としている。

なんて事は無い記事なんですが、ネット時代は面白いもので、この記事に対する批判が出ていました。批判を読むと本当に「ごもっとも」で、そこからのつまみ食いなんですが、素直に読むとサブカル展中止の理由は、

    苦情メール
デパートが苦情を受けて催し物を中止にする事自体は、対応として間違っているとは必ずしも言えませんが、記事には見事に苦情の内容が抜け落ちています。あるのは、
  • 「百貨店で開く展示会としてはふさわしくない」
  • 「不快だと思われる方がいるのであれば中止すべきだ」

情報の受け手としては「何故にふさわしくないのか」「どこが不快なのか」の理由が必要と考えますがありません。産経記事はメイルに注目していますが、
    同店の担当者によると、「メールの送り主の年齢などは不明だが、特定の団体からの抗議ではないようだ」と説明。
ここは誰がどう読んでも匿名メイルであるとしか考えられません。ここも匿名メイルであっても、苦情の指摘が正しければデパートが対応しても差し支えないのですが、誰でも考えるのは、
  1. 苦情の内容は具体的にどんなものであったのか
  2. 苦情はどれほど来たのか
  3. やっぱり「特定団体」からの圧力では無いのか
特定団体からの圧力に関しては「特定の団体からの抗議ではないようだ」と、わざわざ断りをしているあたりが怪しいの憶測さえ出てきます。どれほどについても、
  • 「中止に対する問い合わせは数件あったが、目立った苦情はない」としている。
  • 苦情メールが数件

これも特定団体の話に絡んでくるのですが、「目立った苦情はない」のに、数件の苦情メイルにそこまで対応する理由はなんだろうになります。よほどの重みのある苦情メイルではないかと邪推する人は少なくないと思います。こういう風に苦情メイルについての憶測が広がるのは、苦情メイルの内容がどこにも記されていないからです。

話は膨らんで、匿名の苦情メイル数件に、そこまでデパートがいちいち対応するのであれば、「店を閉めろ」とか「値下げせよ」の苦情メイルが多数あればデパート側はどう対応するのかに話はつながっていきます。私も脅迫に近い苦情メイルの可能性を妄想したりしていました。



デパート側の説明は記者会見なりの情報提供で行なわれたと考えられますが、苦情メイルの内容をデパート側が伏せたかどうかは関心が向うところです。デパート側が伏せたのならば、マスコミ側も報道しようがない(つうか、質問しないとは思えない)のですが、2/3付読売新聞に苦情メイルの内容らしきものがありました。

渋谷西武「性的に過激」サブカル系展覧会中止

 西武百貨店渋谷店(東京都渋谷区)は2日、同店B館8階の美術画廊で今月6日まで開催予定だった展覧会「SHIBUCulture〜デパートdeサブカル〜」を中止した。

 同展は1月25日に開幕、サブカルチャー系の国内作家25人の絵画、写真、フィギュアなど99点を展示していた。しかし、来場者から「百貨店の展覧会として、(内容が)ふさわしくないのではないか」との指摘が数件あったといい、2日の開店から別の日本画展に切り替えた。同百貨店は「見る方に性的な面で不快感を与える、過激な作品が数点あったと判断した」(渋谷店販売促進部)と説明している。

産経と読売のどちらが真実を伝えているのか検証する材料はありませんが、読売記事を読む限りデパート側はサブカル展中止の理由を具体的に説明したようです。中止理由は、

    同百貨店は「見る方に性的な面で不快感を与える、過激な作品が数点あったと判断した」
これも方向性を考えると表現の自由とか、美術館の裸婦像はどうなんだの意見もあるでしょうが、デパートも余計なもめ事を回避した判断ぐらいで理解は可能です。サブカルチャーはあくまでもメインカルチャーに対してのものですから、デパートの立ち位置として芸術として突っ張るほどの価値を認めなかったと考えます。これはこれで問題ですが、今日は置いておきます。

読売記事は「デパートのサブカルに対する見識はこの程度なんだ」の議論を呼ぶとしても、事実関係は非常にわかりやすくなっています。ただ気になるのは同じ題材を取材したにも関らず、読売と産経では事実関係にかなり相違があることです。簡単に対照表にしておきますが、

項目 産経記事 読売記事
苦情をした人 メイル 来場者
苦情数 数件 数件
苦情内容 なし 性的表現


実際のところは来場者からもメイルからも苦情があったとしても無理はありません。そういう説明の中で産経はメイルを重視し、読売は来場者を重視したと考えます。ではどちらがデパートにとって重かったかです。やはり来場者の方が重い様な気がします。来場者の苦情も程度によるでしょうが、苦情の強さによってはデパートの苦情処理係にまで回る事になります。

これは憶測が入りますが、デパートがサブカル展を行うに当たって、上層部の異論があったのではないかと考えています。「当デパートの品位として、このようなものを展示するのは如何なものか」式のものです。開催に当たってもともと異論があったので、来場者から苦情処理係に回った苦情が重視されて中止になったぐらいの経緯を考えています。

もちろん最終決定に当たって、苦情メイルの存在も補強材料にはなったとは考えますが、直接の原因としては来場者の苦情と考えるのが妥当です。そこまでデパート側がマスコミに説明したかどうかは不明ですが、読売記事はそういう文脈になっていると考えられます。

産経記事は一種の迷路に入り込んでいる記事の様に感じます。これも読みようですが、「サブカル展が苦情により中止」になった事よりも「サブカル展がメイルによって中止」された事に重点を置いている様に感じます。そのため苦情メイルについての説明に多くが割かれ、何故にサブカル展が中止になったかの説明が抜け落ちてしまったと見れます。お蔭でまるで苦情メイルだけでデパートが右往左往しているような記事になっているとすれば良いでしょうか。


産経記事だけ批判する結果になっているので、もうひと捻りしてみます。デパート側の説明が実際には非常にメイルを重視していた可能性です。メイルをするような人間はネットでも活動をしている可能性を憂慮したとの判断は如何でしょうか。ネットで「デパートのサブカル展は許せない」式の話題が盛り上がるのを重視した結果が中止になったの説です。

その趣旨に従ってデパート側が説明したので、産経はメイル説を重視してその説明に重点を置き、読売はそういう説明があったにも関らず、通俗的なテンプレ記事にしかしなかった可能性です。ちょっと捻りすぎて苦しいですが、バランス上は必要ですから挙げておきます。まあ、これ以上、調べる気がする程の話でも無いので、こんなもので十分でしょう。

ちなみにデパートのHPには、

『SHIBU Culture 〜デパート de サブカル〜』 終了のお知らせ

 1月25日(火)〜2月6日(日)にB館8階 美術画廊にて開催を予定しておりました「SHIBU Culture 〜デパート de サブカル〜」は、都合により2月1日(火)をもちまして終了させていただきました。

 お客さまにはご迷惑をおかけいたしますが、何とぞご了承くださいますよう、よろしくお願い申しあげます。

取り上げるほどの内容の記事ではなかったかとも思いますが、ネタに困る日もあると言う事で御了承下さい。