おもろいネタやけど訂正必要

shy1221様のメガホスピタルにネタとして笑ったので私も続いてみます。あらかじめお断りしておきますが、マスコミ批判というレベルの話ではなくあくまでも「ネタ」として笑おうという趣旨ですからそこのところをお間違いないようにお願いします。

問題の記事は10/25付読売新聞・関西発からです。ひょっとして訂正されたり削除される可能性もありますからウェブ魚拓も残しておきます。本当にそんなネタみたいな記事を掲載されたかの信憑性も大事ですから。では記事です。

妊産婦100%受け入れ…和歌山・橋本市民病院、24時間体制で 

■県立医大も協力、1日平均28人誕生、昨年度2倍に

 和歌山県橋本市橋本市民病院の産婦人科で、2007年度の一日平均の出産数が28人と、06年度(15人)の2倍近くになった。24時間の診療体制で、妊産婦の100%受け入れを維持。周辺の病院で産婦人科がなくなるなか、橋本・伊都地方だけでなく、奈良県南部からの利用も相次いでいる。

 同病院は2004年12月、現在の橋本市小峰台に移転してから、患者数が年々増加。05年度、産婦人科の患者は、外来6884人、入院4920人だったが、07年度には、外来は1・82倍の1万2563人、入院は1・36倍の6724人となった。そうしたなか、外来患者は、100%の受け入れを続ける。

 産婦人科医は、県立医科大の協力で常勤2人、非常勤2人を確保。副院長でもある古川健一医師ら常勤医は、月に7〜8度の宿直をこなし、非常勤の派遣医も3日に1度は宿直勤務をする。今年7月からは、産婦人科の経験がある乳腺外科医が外来診療に協力し、24時間体制を維持している。

 京奈和自動車道の整備が進んで便利になったことで、奈良県南部の妊婦が受診するケースも増加。ナースステーションの前には、生後2時間以内に撮影した赤ちゃんの写真がずらりと張り出され、見舞いに来た家族らの笑顔が絶えない。

 搬送先を探していた東京都内の妊婦が8か所の病院で受け入れを拒否され、出産後に死亡するなど、産科医療の充実が課題となるなか、石井敏明・同市民病院管理者は「受け皿としての期待を感じる。県立医科大の協力と医師らの頑張りのお陰です」といい、山本勝廣院長は「紀北の拠点病院として安心して出産できる現体制を維持したい」と話している。

記事自体は頑張っている地方病院産科の紹介です。こういう事を紹介する意図についての意見があるかもしれませんが、サブタイトルにどうしても目が向きます。「目が向く」というより「目を剥き」ます。

1日平均28人誕生

記事本文中の冒頭にももう一度使われ、

2007年度の一日平均の出産数が28人と、06年度(15人)の2倍近くになった

去年のデータまで参照にされているのでこの記事では橋本市民病院が間違い無く

    1日平均28人出生する病院
こう紹介されている事になります。1日28人生まれる橋本市民病院ですが、どれほどの規模の病院になるかになります。

病室、病床数

  • 個室:75室、4床室:54室、 特別個室:3室
  • 感染個室:6室(計300床)

とりあえず全部で300床の規模がある事がわかります。記事に関る産婦人科スタッフは、

 産婦人科医は、県立医科大の協力で常勤2人、非常勤2人を確保。副院長でもある古川健一医師ら常勤医は、月に7〜8度の宿直をこなし、非常勤の派遣医も3日に1度は宿直勤務をする。今年7月からは、産婦人科の経験がある乳腺外科医が外来診療に協力し、24時間体制を維持している。

月の当直回数に対する労基法違反問題も気になる人は気になるでしょうが、人員的には、

  • 常勤2名(うち1名は副院長)
  • 非常勤2名
  • 外来への非常勤がさらに1名
こういう陣容である事がわかります。当直回数から非常勤2名も常勤並みの勤務内容なのかもしれません。さらにと言うほどのものではありませんが、橋本市民病院産婦人科のPRの一部です。

■診療内容
 婦人科腫瘍、子宮内膜症、炎症性疾患、性器脱、妊娠、分娩、不妊症、更年期障害など

■検査・処置・手術
 検査・処置:超音波、CT、MRI、細胞診、コルポスコピー、ヒステロスコピー、HSGなど
 手術:卵巣癌や子宮癌などの悪性腫瘍に大しては徹底的な手術による病巣切除に努めております。
    良性卵巣腫瘍、子宮内膜症、子宮外妊娠に対しては腹腔鏡下手術を行っています。
    子宮筋腫の治療はおもに膣式子宮全摘術を行っています。
    子宮温存が必要あるは希望する症例には腹腔鏡下子宮筋腫核出術あるいは
    子宮鏡下子宮筋腫摘出術などの内視鏡下手術を行います。
    性器脱に対しては従来の脱手術にparavaginalrepairやshull法を追加し、
    性器脱の再発を予防しています。
    内視鏡下手術及び性器脱手術は特に関心を持って行っています。

大した事を指摘したいわけではなく、分娩だけではなく婦人科疾患も熱心に手がけていると思って頂ければ必要にして十分です。それとこれも産婦人科の紹介ページにあるのですが、

分娩室は2室となり、1室はLDR仕様です。

LDR仕様の分娩室の意味が少しわかり難いのですが、とにかく分娩室は2室である事がわかります。これだけで笑ってもらえたでしょうか、医療関係者ならこれだけで必要にして十分なのですが、そうでない方のために蛇足を付けておきます。

1日28分娩という事は年間にして10220分娩になり、和歌山県の平成19年度出生数7689人を軽く上回ります。奈良県南部の妊婦さんも来られるとなっていますが、橋本市民病院は少なくとも3495人以上の奈良県から妊婦さんを受け入れなければなりません。3495人といえば奈良県の出生数(平成17年で11184人)の3割以上にもなります。

また1日28分娩で平均入院日数を5日間とすれば、常時140人以上の産科入院患者がいることになります。さらに産科以外の婦人科の入院患者も積極的に手がけているとなれば、産婦人科の入院患者が150人ぐらいいても不思議ありません。300床の病院ですから約半分が産婦人科入院患者になります。医師は4人ですから、1人平均40人弱の受け持ちがあることになり、さらに毎日7人以上の新入院患者を受け入れ、7人以上の退院患者を見送る必要があります。1週間で50人以上の退院サマリーなんて気が狂うほどの作業になります。

28分娩に対する分娩室は2室ですから、1室で1日14人の分娩(全員自然分娩として)を行なう必要があります。おおよそ1時間40分に1人のペースで365日回し続ける必要が出てきます。分娩自体が50分に1人のペースで無限に続く上に、婦人科手術、外来、病棟業務、もちろん分娩でも帝王切開もあります。そもそも1日28分娩とは1人平均7分娩で、一ヶ月にすれば210分娩、年間にして2555分娩になります。

産科医1人が2555分娩も取り扱うとはどういう事かと言えば、まず適正な年間分娩数が120分娩ぐらいとされ、かなり忙しい産科で200分娩、猛烈に忙しい産科で300分娩ぐらいとされます。また年間の日本の出生数を110万人としても430人の産科医で賄える事になり、産科医不足が瞬時に解消してしまう事になります。

さらにさらに2555分娩も行なえば1件あたりの分娩料を35万円としても、年間売り上げは8億9425万円になります。産科トータルでは分娩料だけでで35億7700万円と言うまさに莫大な売り上げを記録している事になります。その他合わせるとラクに1人10億円、産婦人科全体で40億円以上の売り上げを残していても不思議ありません。ちなみに平成17年度の橋本市民病院事業会計は医業収益31億8237万円、その他を全部含めても35億6579万円となっています。

これぐらいの説明でおもしろさの意味がわかって頂けたでしょうか。もちろんそんなウルトラ怪物産科は存在しません。橋本市民病院の助産師募集には、

分娩件数 30件/月平均

オチと言うほどではありませんが、「1日」ではなく「1ヶ月」の誤報というわけです。つまり1/30の規模であるという事です。これだけ絡みつくように書いたのはこんな記事でも事情を知らない方なら「誤報」と思わず「そうなんだ」と信じ込んでしまう方がいるかもしれないと思ったからです。マスコミの影響は強いですから、この記事を読んだ方の中に産科医4人で毎日28分娩する事は「頑張れば可能なんだ」なんて誤解を持って欲しくないからです。

医療情報は知られていない事が多いので、大手新聞社でも「1ヶ月28分娩」を「1日28分娩」とかなり豪快に間違ってサブタイトルにしても、記者だけでなくデスクも誰も気がつかないが起こっています。当然読者の人の中に鵜呑みされる方も出てくるでしょうから、謹んで誤報として訂正させて頂きます。それと橋本市民病院が記事情報よりも1/30の分娩数であっても非常に頑張っておられることは明記しておきます。