結腸癌 stage 2 high risk groupの謎を追う(後編)

high risk groupの範囲

 これはACHIEVE-2のhigh risk groupの条件ですが、

  1. 壁深達度 T4
  2. 検索リンパ節数 12 個未満
  3. 組織型/低分化腺がん
  4. 腸管穿孔(臨床的)
  5. 腸管閉塞(臨床的)
 他の治験や施設毎の報告では脈管浸潤やリンパ管浸潤もリスク因子として良く上がっています。ここで注目して欲しいのは壁深達度のT4です。T4とは原発巣が腸管壁の漿膜を突破している状態を指します。ステージ分類で言えばこれだけでstage 2bと2cは自動的にhigh risk groupに入る事になってしまいます。

 つまりって程ではありませんが、stage 2 high risk groupの適用が検討されるのはstage 2aのみになります。これが具体的にどれぐらいになるかですが、

本邦でも Stage 2の結腸がんの約 50%が該当すると考えられる。

 JSCORには症例数も上がっていますから、概算ぐらいは出来ます。stage 2の全症例数が4772例ですから、その50%の2386例がhigh risk groupになるはずです。ここからstage 2bと2cの1574例を引くと812例になり、stage 2aが3198例ですから約25%ぐらいになるはずです。

 JSCORのデータは術後化学療法を行っていないデータのはずですから、ここからstage 2a high risk groupの5年生存率も概算が可能のはずなのですが、肝心の治療効果がはっきりしません。辛うじて参考になるのが、

2007 年に報告された Stage2/3大腸がん(Stage 2:91%)を対象として 5-FU/LV±Levamisol 療法群(術後補助化学療法実施群)と手術単独群を比較検討した QUASAR 試験(n=3,238)では、術後補助化学療法実施群で無再発率、全生存率が良好であり、5 年生存率で 3-4%の上乗せ効果が認められた

 3%から4%の上乗せ効果か・・・これを3.5%とすればstage 2a high risk groupの術後化学療法無しでの5年生存率は90%弱ぐらいになるかもしれません。と言うのもhigh risk groupの定義とか評価もまだまだ確立していない部分が多いようで、

再発危険因子に関しては、どの再発危険因子が術後補助化学療法下における予後不良因子となるのかの議論が現在もなされている状況であり、海外および本邦での一致したコンセンサスが得られていないため、再発危険因子を前向き臨床試験において特定するのは急務である。

 幾つか上がっている再発危険因子のどれが重いとか、複数の重複はどうなのかとかはなかなか結論が出せない状況もあるのが現状のようです。


素人の素朴な見方

 これはあくまでも医者であっても非専門家の患者から見た素朴な見方であり、専門家の間では既に決着が着いている話の可能性も十分にあるのは先にお断りしておきます。ステージ分類で混乱を起こしているのはstage 3aの異常な治療成績の良さです。

 治療成績が良いのは患者にだって治療者にとっても大歓迎なのですが、ステージ分類の矛盾を解消して整合性を取り戻したいと医療者なら考えます。そこでhigh risk groupを考えstage 2への術後化学療法の適用拡大を行ったで良いはずです。

 ARCHIVE-2 Traialの結果も出ています。ここも注意なのですが、この治験の目的はstage 2 high risk grouopでの3か月と6か月の比較試験もありますが、おそらく結果が出ていると言っても中間報告的なものと見て良さそうです。

 これもstage 3では既に3か月でも6か月と変わらないデータが既に出ていますから、stage 2 high high risk groupでも同様かどうかの治験と見て良いかと考えます。まだ観察期間が十分でないためと考えていますが5年生存率の結果は示されてないようですが、

T因子によるサブグループ解析では、T3の3年DFS割合は、3ヵ月投与群95.0%、6ヵ月投与群92.5%(HR=0.83、95% CI: 0.36-1.92)、T4の3年DFS割合は、3ヵ月投与群76.2%、6ヵ月投与群79.7%であった(HR=1.28、95% CI: 0.68-2.43)。事前に計画されたサブグループ解析では、治療期間と患者背景間で有意な交互作用は認めなかった。

 評価が5年生存率ではなく3年DFS(Disease-Dree Survival)でのものになっています。予後の指標としてポピュラーな5年生存率ですが、あれは5年間の無病を意味しているものではなく、再発して治療中の者も当然含まれます。要するにどんな状態であれ生きていれば生存しているとカウントされます。

 これに対してDFSは無病息災状態と思ってもらえれば良いかと存じます。3年でも意味はあって、再発する時期としてstage 2のデータで3年以内に86,0%となっています。ここもstage 2Aそれもhigh risk groupの再発データが見つからなかったのですが、stage 2a non high risk goupに近いものではないかと推察されます。ここの結果をまとめると、

  • T3:3ヵ月投与群95.0%、6ヵ月投与群92.5%
  • T4:3ヵ月投与群76.2%、6ヵ月投与群79.7%
 stage 2でT3とはstage 2aになりT4とはstage 2bおよび2cになりますから、stage 2aである私は3か月投与の方が6か月投与より治療成績が良いことになります。なおかつ3年時点のDFSではありますが、術後化学療法無しの時代に較べても5年生存率の向上も期待出来そうな感じもします。

 一方でstage 2bと2cの成績はやはりstage 3aを確実に下回るのも確認できます。そりゃ、stage 3aの5年生存率は95%もあります。このstage 3aのTNM分類なのですが、

  • T:T2(癌が固有筋層まで浸潤し、これを越えていない)
  • N:N2a(腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移個数が4から6個)
  • M:M0(遠隔転移無し)
 このstage 3aの予後ですが、術後化学療法に有効なものがなかった時代は表面化していなかったはずです。有効な術後化学療法が無かったと言うより、当時は治療は手術がすべてで、後はこれが再発するかしないかがすべてだったはなんです。そういう時代ではstage 2cの下にstage 3aが続いていたはずです。

 ところが化学療法が効果的であったため、stage 2cや2bどころかstage 2aを上回る5年生存率を叩き出してしまったと見て良いはずです。この矛盾を解消するためにstage 2bと2cに術後化学療法を適用しても解消していません。

 理由はなにかについてhigh risk groipの設定を現在はされていますが、これも良く考えなくともstage 2にのみ現れるものではなく、stage 3以降にも普遍的に存在しているはずです。さらに言えば化学療法を行えばhigh risk groupの悪条件を打ち消してしまっているのも治験の結果から伺えます。

 ここでなんですがstage 3の症例数も偏りが大きいのです。stage 3はJSCORで3933例ありますが、3aは1割程度の362例しかありません。stage 3aはステージ分類のピットフォールというか、ラッキーステージみたいな感じと見るのも一つかもしれません。stageの例外みたなものです。

 そうしてしまうのも一法ではありますが、個人的に注目したいのはstage 3aがT2である点です。stage 3aとはT2であるのにリンパ節転移がある特異ステージと見るのも一つですが、それよりそもそもT2であるのが大きいのじゃないでしょうか。

 stage 2でもstage 3でもbやcはT4になります。一方で予後の良いstage 2aや3aはT3までです。予後への最大の影響はT分類に大きく依存している可能性です。もっとも上述したようにその程度の分析は専門家の間では既に決着済みでしょうから、あくまでも専門外の患者の立場からの素朴な見方であると念をもう一度押させて頂きます。


ムックを終わるにあたって

 謎のキーワードの秘密を追ってみましたが、まさかこんな展開になるとは思いもしませんでした。道理で腫瘍科医も消化器外科医も病状の説明に慎重になるはずです。医療の進歩による過渡期とか混乱期とでも言えば良いのでしょうか。

 もちろん良い方の過渡期であり混乱期です。結腸癌の治療成績の向上は誰もが大歓迎ですからね。医療としては、その理由の追及と新たな事態に対応して新たなステージを作り上げるだけのささいな問題です。

 ふと思ったののはTNM分類が成立したのはまだ化学療法が微弱だった時代だったはずです。癌治療とは切除できるかどうかがすべての世界だったはずです。そこに後から化学療法が台頭したてきたのですが、結腸癌の世界ではTNM分類を越える事態を引き起こしているとも言えそうな気がします。

 そうなると新たな不良因子の分析とそれに対する治療の開発が求められます。時代こそ違いますが、若き日にはその一端を経験させてもらった日を思い出させて頂きました。もっともあの頃はEBMなんて言葉なんて聞いたことすらなく、ひたすら経験だけでやってましたけどね。以上、爺医の感想でした。