ツーリング日和8(第17話)雑談

 部屋に戻ったら結衣が爆睡。コトリらに付き合って飲んだらそうなるわ。

「どうもちゃうな」
「心配しすぎたかな」

 あんにゃろの手先かと疑うとってんけど、ちゃうわ。

「でも何者だろうね」
「堅気の商売とは言い切れんな」

 タダのOLが小豆島のライハのダーツ勝負であそこまでの度胸を据えられへんもんな。問題は聞くほどのことかや。

「言いたくないのなら良いんじゃない」

 人も、いや神かって色んなもん背負うて生きてるからな。コトリやユッキーが初対面の相手にかなり注意を払うのもそうや。舌先三寸で騙そうとしたのは数えきれんぐらいおったからな。

「ガチの詐欺師もテンコモリ」

 痛い目にも遭ってるのは白状しとく。そやけど結衣はその手の類やないぐらいはわかった。それやったっら、結衣が今の顔でコトリと付き合いたいんやったら、それでかまへんねん。

「でも、あの体は・・・」

 エエ体しとった。スタイルもエエんやけど、それよりあの筋肉や。ムキムキやないで、あれは鍛え上げられた鋼のように引き締まったもんや。褒め言葉になってへんかもしれんが女戦士みたいやった。

「武術でもやってるのかな」

 そっち系にコトリにも見える。それも柔道やないな。柔道もやってるかもしれんが、柔道オンリーやったらああはならんやろ。ダーツ勝負の時の余裕も最後は叩きのめせるの自信やったからかもしれん。そやけど武術だけであそこまでは無理があるかもな。

「元自衛隊とか」

 自衛官にはなるには二つのコースがある。

 ・士官コース・・・防衛大学校
 ・兵卒コース・・・自衛官候補生、一般曹候補生

 自衛官候補生と一般曹候補生の違いは、自衛隊を腰掛けにしたいのが自衛官候補生で、自衛隊に本気で就職しようと思うのが一般曹候補生ぐらいかな。他にも違いはあれこれあるけど、長くなるから置いとく。

「今は自衛官じゃ無さそうだから、もしそうだったとしたら自衛官候補生だろうね」

 陸上自衛隊をモデルにしとくが、自衛官候補生になれば三か月の基礎教育を経て二等陸士に任命される。そこから順調に昇進したら九か月後に一等陸士になり、さらに一年後に陸士長になるのも可能やそうや。

「基礎教育も含めて二年が任期なのよね」

 応募資格は十ハ歳以上、三十三歳までになっとるけど、これもおおよそ高卒の十八歳を想定しとるかな。一任期は専門学校の二年間ぐらいの位置づけかもしれん。様々な資格を取れるのが魅力ともされとる。もちろん任期は希望で継続できる。

「二期ぐらいが多いそうね」

 十八歳から入隊して二十二歳ぐらいになるな。日本で一番体を鍛え上げられるところかもしれんな。

「ひょっとしてレンジャーまで取ってるとか」

 それやったら化物やで。レンジャー受験資格を取るまでも大変やし、レンジャーになるための試験かって過酷なんてもんやない。体力も化物級が必要やし、メンタルも怪物級が求められる。つうか女性レンジャーなんかおったかな。

「レンジャーじゃなくても空挺はあるよ」

 どこの国の軍隊でも空挺部隊は最精鋭部隊や。自衛隊でも空挺言うだけで何目も置かれるぐらいや。レンジャーでも空挺レンジャーともなればレンジャーの中でもさらに別格扱いやもんな。

 そやけど結衣の自信がそこから来てるんやったら、あの度胸は説明可能や。あんな学生なんてゴミ虫ぐらいにしか見えんやろうからな。結衣にしたら完全な座興にしか過ぎんやろ。

「まさか外人部隊まで入ってたとか」

 それはないやろ。あそこの最低任期は五年や。それよりなにより女性兵士は募集しとらん。外人部隊にも女性士官がおるが、あれはフランス陸軍からの派遣や。

「女性兵士は体力面以外でもハンデはあるものね」

 体力面だけでも圧倒的や。レンジャーなんか典型で人に要求するにはムチャクチャなレベルやもんな。それとやけど女性やからいうての配慮はゼロや。やっとる仕事が殺し合いやからや。女やからって相手も遠慮してくれへんし、味方かって足手まといになれば生死に直結する。

 女性特有のハンデは女やと言う点や。ごく単純に襲われるってことや。これは敵側からもそうやけど、味方にもありえるのが軍隊や。これは過酷な部隊ほど容赦があらへん。それぐらい荒々しいメンタルにしとかんと戦場の役に立たんからな。

「だからこそ軍隊は規律が厳しいのよね」

 戦場は日常生活とはまったく違うとこや。そこにあるのは敵を殺して生き残るか、殺されるかや。一瞬の判断の過ちが生死を簡単に分ける。そんなとこをまともな神経で暮らせるかい。

 朝飯を一緒に食べた戦友が戦いが始まれば即座に撃ち殺されるのが日常なんよ。そんな日々が来る日も来る日も続くのが戦場や。そんなとこで正気なんか保てるかい。女を見れば敵であろうと味方であろうと襲う事しか考えへんわ。

「生き残ってもトラウマが残る兵士が多いのよね」

 ああそうや。二度と戦場に立つ前の感覚に戻れへんと思うで。見た目は順応してるように見える奴でも、心の傷が癒されるもんやない。だから戦争なんか大嫌いや。あんなとこ狂気しかあらへんとこや。

「でもまあ、同じ軍隊でも自衛隊は平和で良いよ」

 そやな。実戦経験皆無やもんな。その点は自衛隊の弱味でもあるけど、世界に誇れる勲章や。抑止力のみで存在し続けとるからな。そやから自衛官上がりでも一般人に近い感覚としてエエやろ。

「二度とあんな時代は要らないよ」
「ああ、コリゴリや」

 コトリとユッキーの永遠に残るトラウマや。世の中はな、もっとハッピーに生きるもんやで。