宇宙をかけた恋:四度目の神戸

 クレイエール・ビルから神戸空港に向かいましたが、警察・自衛隊が物々しい警備についています。神戸スカイブリッジの入口で、

    「これは小山代表、空港への立ち入りは禁じられています」
    「それは誰の指示なの」
    「はい警備本部です」
    「警備本部に指示したのは」
    「ECOです」
    「では通ります」

 空港の中も緊張感が高まっています。窓ガラスにはすべてテープが張られ、宇宙船が爆発した時に備えているようです。

    「屋上に上がります」
    「あそこは危険です」
    「ECOの要請です」

 屋上にも迷彩服にヘルメット姿の自衛隊員が詰めています。その中にスーツ姿の三人は異様と言えば異様です。

    「ミサキちゃんはウェディング・ドレスにするべきだったかも」
    「そうですね。目立ちますものね」

 自衛隊員の顔にも緊張感が強いのがわかりますが、どこ吹く風で三人はおしゃべり。

    「そういえば、無事着陸した後の会見はしないのですか」
    「するよ。でも空港ビルではやらない。クレイエール・ビルでする。その後はランチ・タイムよ」
    「今日のメニューは」
    「洋風のオードブルの予定」

 横で聞いていた自衛隊員が変な顔をしています。ここで小山社長が、

    「警備隊長を呼んでくれる」

 すぐさまやってきたのですが、

    「屋上は三人だけにしてくれる」
    「そ、それは」
    「要請じゃなくて、地球全権代表でありECO代表の命令よ」

 すぐさま自衛隊員は撤収。一時間ぐらいしてから、

    「来たわ」

 空に黒い一点が見えたかと思ったら、見る見る降下してきます。見間違い様がありません。エランの宇宙船です。でもどうもフラフラしているような、

    「かなりダメージがあるみたいね」

 やがて逆噴射なのですが、バランスが・・・

    「コトリ!」
    「もうやってる」

 二人の顔が真っ赤です。女神の力を以てしてもさすがにエランの宇宙船は巨大です。

    「ユッキー、重すぎるで」
    「わかってる」

 ぐらぐら揺れる宇宙船ですが、地表までもう少しです。ミサキの手にも汗がビッショリ。

    「コトリ、もうひと踏ん張り」
    「キツイ・・・」

 後十メートル、後五メートル、もう少し、もう少しで着陸です。その時に、

    「うわぁ」

 二人がひっくり返りました。途端に宇宙船はバランスを崩します。そのまま落下、

    『ドッスーン』

 不時着です。着陸するや否や、宇宙船の扉が開きます。扉が開くと煙が吹き出します。その煙の中から人が飛びだして来ます。その数は十人ほど。ひたすら空港ビルを目指し走っています。立ち上がったユッキー社長は、

    「行くよ」

 階段で空港ビルの一階に駆けつけます。その時です宇宙船の方から、

    『ボン』

 こんな音が響きます。続いて、

    『ドカン』

 爆発音が鳴り響きます。一階まで駆け下りて宇宙船を見ると炎に包まれています。ミサキは夢中になってディスカルの姿を探します。その時に、

    「私はエラン代表大使のディスカル。小山代表はおられるか」

 生きてたんだ。ディスカルは生きてたんだ。服は煤だらけでしたが、

    「ディスカル、ミサキよ」
    「おぅ、ミサキか、小山代表も。エラン政府の命を受け、浦島夫妻をお届けしました・・・」

 それだけ言うと崩れ降り、気を失ってしまいました。すぐさまバイタルを確認したユッキー社長は、

    「救急隊、急いで。命には別条はなさそうだ」

 待機していた救急車で次々にエラン人たちは病院に搬送されます。ふと見るとユッキー社長も、コトリ副社長も顔が土気色。

    「ミサキちゃん悪かった。最後のところは二人でも・・・」

 そこまで言ったところで、二人もまた崩れ落ちます。ミサキは、

    「救急隊、小山代表と月夜野副代表も急いで」

 後始末を警備隊長に任せ、ミサキは記者会見に臨みます。

    「エラン宇宙船は着陸したものの爆発炎上。空港に降り立てたエラン人は病院に搬送され治療に当たっています。なお、これに巻き込まれ小山代表も負傷入院。地球全権代表並びにECOの指揮は副代表である霜鳥が当面代行します」

 記者からは詳細を求める質問が相次ぎましたが、

    「現時点で答えられるのは以上です。続報が入り次第、逐次報告します」

 なんとか三時間ぐらいで記者会見を打ち切り病院に、

    「ユッキー社長、意識が戻られたのですね」
    「だいじょうぶだよ。三日もすれば元通り。それにしても重かった。もうちょっとだったのにゴメンナサイ」

 ミサキは感謝しています。ここまでフル・パワーで宇宙船を支えてくれてから、なんとか着陸出来たようなものです。コトリ副社長のところにもお見舞いに行ったのですが、

    「どうも着陸装置も傷んでたみたいで、途中から二人で支えなアカンかってん。最後のところはホンマにゴメン」

 二人とも入院になり、ミサキはECO代表代行、エラン語通訳でフル回転状態になりました。それでも三日後にはお二人とも元気で退院。その夜からビール飲んでました。

    「ミサキちゃん、ご苦労様。大変だったでしょ」
    「もうイイのですか」
    「そんなに休んでられないし」
    「そや、そや、これぐらいやったら、ユッキーとやった時や、クソエロ魔王戦に較べりゃ軽いもんやで」

 う~ん、女神はタフでなければ生き残れないのかも。

    「ディスカルたちは」
    「まだ面会謝絶です」
    「浦島夫妻は?」
    「一番重傷のようです。それと残念ながらジュシュルもアダブもいませんでした」

 二人は顔を見合わせて、

    「どうして、わたしたちって、いつも売れ残るのかな」
    「一緒にせんといてくれるか」
    「じゃあ、一度ぐらい結婚して見せなさいよ」
    「なにを」
    「やるか」

 たくなにを今さら、

    「シャラップ、永久女神懲罰官の目の前で喧嘩をするとはイイ度胸です」
    「喧嘩ちゃうで」
    「そうよ、じゃれてるだけ」

 たしかにエランの宇宙船を支えるのに比べたら、女神の喧嘩はじゃれあってるだけの気がしてきました。

    「明日から後始末で大忙しや」
    「そうね、ミサキちゃんの式の準備もしなくちゃいけないし」

 式の準備って、まだ地球に来たばっかり。

    「こういう時にすぐに赤くなるのは昔から変わらへんわ」