ツーリング日和6(第7話)男鹿観光

 なまはげ伝説ゆかりの九九九段の石段と赤神神社五社堂を堪能したで。石段を下りてパーキングに戻り、

「まだ時間があるけど」
「こればっかりはしょうがあらへん」

 次にやりたいのは海からの観光や。門前漁港から遊覧船が出てるんよ。おったおった、あれみたいや。救命ジャケットを装着していざ出航。

「西海岸周遊クルーズよ」

 見どころも多いんよ。ゴジラ岩、門前大滝、舞台島、白糸の滝、大桟橋と見て最後は孔雀の窟に船ごと入ってくれるやんか。一時間ばかりやったけど、待ってまで乗った甲斐はあったで。

「思った以上に掘り出し物のクルーズだったね」

 たまたま目に付いたんやけど当たりやった。さて十時も回ったから次は入道崎や。基本シーサイドやし、二車線あって、適度なワインディングもあって、クルマも少ないから最高のツーリングコースやで。

 見えて来た、見えて来た、入道崎や。とにかく駐車場が広いと言うよりバカでかいから助かるで。まずはゼブラの縞々の入道崎灯台や。

「ここ登れるんだよね」

 日本で十六か所しかない登れる灯台や。エレベーターはあらへんで。

「ここも素晴らしい」

 入道崎も有名なツーリングスポットやねん。灯台もそうやけど、灯台の回り草原になってるんよ。なんかイギリスの灯台みたいに見えてまうわ。それに海岸線はここも荒々しくて、これぞ日本海って感じや。

「夕日の名所でもあるのよね」

 日本海は西向きやからそうなるわ。さすがにそこまで待ってられへんけど綺麗そうなのは想像できるもんな。日の沈む西方に浄土があると思うても自然やろ。もっとも対岸は大陸やけどな。

 広々した草原って、ありそうであんまりないんよな。そりゃ、維持するのが大変やからな。ほっといたら草の巣窟にすぐなってまう。

「記念写真、記念写真」

 これか。入道崎は北緯四十度が通ってるんよ。こういうモニュメントを見ると跨いだ記念写真を撮りたくなるのが人情や。ホンマに気持ちのエエとこやから、ツーリングで寄ってみたい気持ちになるのがようわかるわ。

「ちょっと早いけどお昼にするで」
「朝、早かったものね」

 ここには名物料理があるねん。石焼料理言うて、鍋料理の一種やけど煮方が変わってると言うか、

「漁師料理だろうね」

 木桶に材料突っ込んで焼石放り込むんよ。名物料理なだけあって人気やから予約はしといた方が無難や。出てきた出て来た、

「天然真鯛の石焼定食よ」

 秋田杉の木桶やろな。そこに魚や野菜が入ってダシ汁に浸かってるけど、そこに焼石が入ると、すぐに沸騰しよった。鍋が煮えるまでにお刺身頂いたけどこれもなかなかや。

「ご飯の盛り方がおもしろいよ」

 バタバタ盛って言うらしいけど、この辺も漁師料理の気がするわ。すぐに鍋も出来上がったけど、トロトロわかめにしょうがで食べるんか。

「野趣にあふれて最高!」

 こういうのを食べると旅行気分が盛り上がるんよね。生きててよかったは大げさとしても、来て良かったを実感するで。腹いっぱい鯛を食べたら出発や。

「あの店良かったよ。オマケがごちゃごちゃしてなかったもの」

 それ言えるな。名物料理の店は全国各地にあるけど、メインの料理以外にゴテゴテと他の料理を並べ立てるとこも多いんよ。これが良し悪しで、一緒に他の名物料理を楽しめて嬉しい時もあるけど、オマケが多すぎてメインの料理がボケてまうこともあるからな。

 さて次は寒風山や。そのために岬を回って、県道五十五号から右に曲がるはずやねんけど、あったあった

「次の信号右や」
「なまはげラインね」

 どこがなまはげやと思うような田舎道やけど、突き当たるとこがあるはずやねん。あれか、あれを左に曲がるんやな。ほいでもって、この辺ややこしいな。

「次の角を左や」
「そう書いてあるものね」

 突き当たって右に曲がって、

「山の上に見えるのが展望台じゃない」

 見える、見える、もうすぐやな。この辺から草原になっとって見晴らしエエやんか。ほいでも草原のままってことは、畑にも出来へんかってんやろな。そやけど、こういうとこもあってもエエやん。

「まさに爽快よ」

 妻恋峠って艶な地名や。

「右に駐車場が見えるとこを左や」
「回転展望台ね」

 さすがに最後は登るな。寒風山観光パラダイスって書いてある建物があるけど営業してへんのかな。言うてるうちに回転展望台や。

「あれ、展望台に行けないよ」

 ホンマや。とりあえず左に行ってみよ。なるほどロータリーになっとるねんな。それはエエけど展望台の回りに駐車場があらへんやんか。そやから、あんだけ路駐がおったんか。

「この辺に停めよ」
「らじゃ」

 回転展望台も減ったよな。神戸なら鉢伏に健在やけど、

「ポートタワーにも健在じゃない」

 あれまだあったんか。それでも回る十国展望台は無くなってもたからな。

「回転展望台だけど、別に回らなくても歩けば済むからじゃない」

 そやと思う。ゆっくり回って景色を楽しむより、せかせか歩いて見て回ってまうもんな。そんなことはともかく雄大な景色や。展望台のエントランスの向かいの看板に世界三景とあって、あれはさすがに言い過ぎと思うけど、これもそうは見れん景色や。

「八郎潟が残ってたらね」

 残っとったら日本で二番目の湖やから、さらにパワーアップ間違いなしやもんな。戦後の食糧難対策やから仕方ないと思うけど、今となったっら惜しいことをしたもんや。まあ、まさか米が余って減反政策をする時代が来るなんて想像も出来へんかったやろ。

「お昼の石焼料理だけど、〆が欲しかったと思わない」

 そうやなくて、稲庭うどん食べたいんやろ、コトリも食べたいからここで食べよ。こういうとこやから、あんまり期待は・・・

「これ美味しいよ」
「さすが天下の稲庭うどんや」

 讃岐うどんも美味しかったけど、稲庭うどんもタメ張れるで。さてうどんも食えたし下ろか。さっきの分岐点まで戻って、下りの道も快適や。

「見て見て、パラグライダーよ」

 ホンマや。こんなとこで飛んだらさぞ気持ちエエやろな。結構飛んでるやんか。寒風山も堪能したから、ここからはひたすら北上や。