運命の恋(第15話):悪だくみ

 今泉と諏訪さんの関係は相変わらず続いている。もう三か月になるかな。さすがにこれだけ長くなると、二人の関係を疑う噂が出始めた。舞台がいくら地味な歴研であっても今泉は目立つからどうしてもな。

 二人の距離だけなら疑われてもしようがないとは言え、どう見たって今泉が諏訪さんにアプローチしているようにしか見えないのが問題。好きな女に男がアタックするのは良いようなものだけど、

「どうして諏訪さんなんや???」

 ここで誰しも考え込んでしまうぐらいだ。これもクラス内で温度差がある。たとえば今泉の属する陽キャ男子グループでは何故か無関心。話題にも出ている様子はない。ここもわからないところで、今泉が誰を好きなろうが関心がないのか、今泉と諏訪さんの恋を後押ししているのかはボクにはわからない。

 その一方で明らかに反感を募らせているグループがいる。女子グループだ。この辺は今泉を狙っているのが多いから仕方がないかもしれない。女子グループの諏訪さんへの反感も温度差があるが、その最右翼がギャル・グループ。

 ギャルはヤンキーじゃないが、位置づけとしてヤンキーと普通の中間的なポジションかな。ヤンキーみたいに暴力に走らないけど、その代わりに遊びと男に走っている一団ぐらいとボクは見ている。

 このギャル女どもには取り巻きがいる。うちの学校にはヤンキーはいないが、ヤンキーぶってる連中と言えば良いだろうか。そうだなイキリとかチャラ男ぐらいだ。瀬田がそのリーダー的な存在で良さそうだ。

 瀬田たちとギャル女どもの関係は、瀬田たちはギャル女にお熱だ。しかしギャル女どもは瀬田たちに興味はない。それぐらいは見ているとわかる。ギャル女どもは瀬田たちを適当な遊び相手にしているだけだ。おそらくギャル女どもからしたら、取り巻きに『してあげてる』ぐらいの関係で良いはずだ。

 このギャル女どもだが、今泉と諏訪さんに噂があるだけでも許せないようだ。まったく、人の恋路を邪魔するとロクな目に遭わないと思うが、ギャル女どもにしたら、陰キャブス、地縛霊ブスと見下し切っている諏訪さんにそんな噂が出る事さえ許せないと見て良いだろう。ギャル女どもから見れば陰キャは底辺カーストの人間の屑みたいなものだろうからな。

 そうなると出てくるのがイジメだ。諏訪さんをイジメても今泉と付き合えるわけではないが、恋敵の排除と言うか、気に入らないブスを叩きのめそうぐらいで良いだろう。イジメの理由なんて、それで十分すぎるからだ。

 定番の陰口、悪口から始まり、小突いたり、すれ違い様にイヤミを言ったりが始まった。これも今泉には聞こえないように、見えないようにやっている。諏訪さんは無視と言うか無関心だが、そんな態度を取るとエスカレートする。この辺は、そんな態度じゃなくともエスカレートするのがイジメだけどな。

 次のステップも始まっていた。ギャル女どもが諏訪さんを取り囲み教室の外に連れ出したのだ。ボクも心配になって、つけていった。屋上に諏訪さんを連れ込んでギャル女どもは、

「あんた調子に乗ってんじゃないわよ」
「今泉君だって迷惑してるのがわからないの」
「鏡見ろよブス」

 これは拙いと思い、わざと大きな音を立てて屋上のドアを開き、

「こちらにいたのですか。香取先輩が諏訪さんを探してましたよ」

 ミエミエの遁辞だったが、なんとか諏訪さんを屋上のギャル女から連れ出した。ギャル女どもは舌打ちしていたが、香取先輩が絡むと歴研につながり今泉も関係してくる点を懸念してその場は終わってくれた。

 今のところは、それ以上はエスカレートする様子はない。次のステップは物を隠したり、壊したり、盗んだりになり、机に落書きなんてパターンが多いが、そこまでやれば今泉にバレるから自制しているぐらいだろう。

 今泉は諏訪さん相手でなくとも、そういう陰湿なイジメを嫌うのはギャル女も良く知っている。ギャル女どもの目的は今泉だから、今泉に嫌われたら本末転倒ぐらいはわかっているようだ。そんな時に嫌な話が聞こえてきた、

「あの女を泣かせようよ」
「思いっきり赤恥をかかせてやりたい」
「やっちゃお、やっちゃお・・・」

 諏訪さんの反応が悪いから、次にどんなイジメをするのかの相談で良さそうだ。狙っているのは諏訪さんに恥をかかせて、今泉に嫌われるように持っていくはずだが、

「ひん剥いて写真を撮ってバラまくのは」
「それエエやんか」

 まさか高校生にもなっているのにカイボウをやる気か。あれは中学生相手でも大問題になるが、高校生相手にやるとモロ犯罪だぞ。

「犯罪は拙いで」
「そやね。あんな女のためにそこまでするのはアホみたいやし」

 さすがに高校生でやると拙いぐらいの常識はあるようだ。そうなると出てくるのは、

「だったら誰かが告白するってのはどうや」
「罰ゲームはイイかもね」

 嫌なものが出てきた。とにかく罰ゲーム告白は実行されてしまうと諏訪さんに逃げ場がなくなる。少なくとも諏訪さん一人では、どう足掻いても笑い者、さらし者にされてしまう。

 それを阻止するには誰かが白馬の騎士として助けに出ないと無理だ。だがボクがしゃしゃり出たところで、ボッチの陰キャのポジションでは無力すぎる。もし諏訪さんを救えるとしたら今泉だけだ。仕方がないのでマナに相談した。

「罰ゲーム告白に対抗して先制告白をさせようってプランね」
「これが一番効果的だと思うんだけど」

 ここでずっと付いて回る疑問は、どうして今泉が諏訪さんが好きなのかの理由だ。

「それにしてもジュンちゃんは理子のことになると熱心ね」
「バカ言うな。同じ研究会の仲間だから助けたいだけだ」
「どうだか」

 先制告白作戦の問題点はいくつかあるが、最後まで捨てきれない疑念は今泉が本気なのかどうかだ。経過を見る限り本気だの見方に傾いているが、それでも疑念が残るのが二人の接点。

 これは前にもやったけど、中学から二人の立ち位置が同じで、諏訪さんの裏の顔を今泉が知っているとは思えないぐらいにしか言えなかった。

「それを言えば理子が今泉君をどう想っているのかも不明だよ」

 言われてみれば。二人の関係は恋愛小説的にはあり得るパターンではある。イケメンが地味の権化の陰キャ女に惚れて、告白したら突然美女になり周囲が驚かされるぐらいの話だ。そうなれるエッセンスは諏訪さんにあるのは知ってしまったが、

「そのパターンって、実は今泉が諏訪さんの本当の姿を知ってないと成立しないよ。マナだって今の諏訪さんじゃ無理だって言ってたじゃないか」
「まあ、そうだけど、そこまで恋はシンプルじゃないよ」

 恋は複雑なのはボクでも理解できるけど、恋が始まるには相手に異性としての好意を持たないと無理だ。好意を持つ理由は様々とされてるが、見た目が九割は常識だろう。

「まあね。そこは否定しない。でもね、一割があるじゃないの」

 見た目が九割はボクも知っているが、残りの一割の意味がわからない。ボクに言わせれば始まりは見た目がすべてだろう。一割は、えっと、えっと、見た目で足りないところの補足分じゃないのか。

「そうでもないのが恋愛だけど、ジュンちゃんにはまだ難しいかな」
「どうせボクはオクテですよ」

 一割問題はさておき、先制告白作戦が成功するには、

 ・今泉が諏訪さんを好き
 ・諏訪さんが今泉の告白を受け入れる

 この二つが成立しないといけない。だが、二つとも、はっきりしない部分が残る。

「そうなんだけど、二人の過去がだいぶわかったよ」