運命の恋(第19話):お礼奉公

 諏訪さんと今泉の問題がハッピー・エンドで解決したことを報告したらマナも喜んでくれた。マナもかなり心配していたようだ。

「マナツもこの問題に協力したのだから御褒美頂戴」
「タピオカ奢ったじゃないか」

 でもまあ、マナがいなければ何も出来なかったかもしれない。

「そうでしょ、そうでしょ、だからデートに連れてって」
「はぁ?」

 デートって恋人同士が行くものだろう。恋人でもないマナと、どうしてデートに行かにゃならん。それにだぞ、孫娘を猫かわいがりしている爺さんに知れたら、間違いなくオカマにされる。あの爺さん、あの歳なのに道場に立てばどれだけ強いか。

「そんなに大袈裟に考えなくと、神戸に一緒に遊びに行くだけじゃない」
「二人でか」
「そうよ。だってマナツへの御褒美だもの」

 その日のマナとの組手はいつも以上に気合が入っていたみたいだ。マナの電光のような攻撃を辛うじてかわし続けていたが、結局、渾身の膝蹴りを鳩尾に喰らう羽目になった。そりゃ、息は止まるし、膝から崩れ落ちて失神した。

 強烈だった。これはまさにマナからの警告。御褒美を実現しないと、より強烈なのを喰らわせる意思がビンビンと伝わってきた。命の危険を感じたボクは、春休みに入ってから神戸へのお出かけを了承せざるを得なくなった。これってパワハラじゃないのか。


 当日は駅で待ち合わせ。一人暮らしになってからロクな服を買っていないが、せめて一番マシそうななのを選んだ。ボクだって最低限の礼儀は心得ているつもりだ。

「お待たせ♪」

 マナは・・・いつもは道場着とジャージぐらいしか見ないんだよね。唯一違ったのは駅前のカフェでお茶した時だけど、あの時だってTシャツにジーパン。そんな恰好かと思ってたらスカートとは驚いた。そんな服も持ってたんだ。

 どこに行こうと思ったが、まずはハーバーランドに向かい港巡りをしてみた。これは、子どもの頃に一度行ったことがあるけど、マナは、

「今でもあったんだ。昔とはかなり変わったけど」

 でも楽しそうに付き合ってくれた。お昼はポートタワーに登って回るレストランでランチ。

「こんなのも残ってたんだ」

 そこからハーバーランドに回り『BE KOBE』の前で記念写真。マナがどうしても乗りたいと言うから観覧車に。行く前は気乗りがしない部分もあったけど、こうやってマナと時間を過ごすうちに、こっちも楽しい気分が伝染したみたいだ。


 嬉しそうなマナを見ながらボンヤリ考えていた。マナだって女なんだよな。だが申し訳ないけどマナは美人じゃない。でも性格は悪くない。いや、良いと思う。稽古で情け容赦なくぶん殴るのを除けば明るいし、活発だし、優しいし、世話好きだものな。

 小説でもこういうキャラの子が出てくる事があるけど、顔より性格が評価されてモテたりする話はあるんだよな。でも実際はどうなんだろう。性格だけで本当に惚れられるのだろうか。ボクなら友だちぐらいならともかく、マナを恋愛対象に考えるのは無理ありすぎるもの。

 それでも小説にあるように、マナの性格の良さに魅かれている男はいるかもしれない。なにしろ、世の中の半分は男だから変わった趣味のやつがいても不思議無いかも。

「マナには付き合っている彼氏はいないのか」
「いたら、ジュンちゃんなんかと来てないよ」

 『なんか』はひどいけど、そりゃ、そうだよな。

「なら告白をされたことは?」
「そりゃ、あるよ。ジュンちゃんとは違うからね」

 いちいちボクを引き合いに出すな。それはともかく、やはり告白した男がいたのか。物好きなんて言ったらマナにぶん殴られるだろうけど、マナの性格を好きになる男って実在するんだ。昔から、あばたもエクボって言って、惚れたらブスでも美人に見えるってことかも。

 でもわからないな。性格で好きになったら、顔まで美人に本当に見えるようになるのだろうか。顔で惚れて性格にウンザリして嫌いになるのはまだわかるけど、

「ジュンちゃんを見直したかな」
「なにをだ」

 するとマナは悪戯っぽく笑って。

「男らしくなったよ」

 ああそういう意味か。体つきは入学した頃に比べたら変わったものな。あれだけ鍛え上げられたらそうなるだろうけど、去年の今ごろとは大違いだ。

「強くなったし」

 マナに殴られ、蹴られ続けているから自覚に乏しいところがあるけど、爺さんの師範に言わせるとマナぐらいじゃないと組手の相手にさえならないとか。

「そうだよ。簡単には当たらないもの」

 さらっと言うな。当たったらどれだけの目に遭わされることか。平気で金的蹴り上げる流儀はとにかく恐ろしい。何発喰らったことか。それでも、まだ男として生き残っているのが不思議なぐらいだよ。とにかくマナには敵わない。

「マナツもここまでジュンちゃんが頑張ってくれるとは思わなかったもの。こうなってくれて嬉しいな」

 だからだ。強引に道場に引き釣り込んで問答無用で特別強化コースに放り込み、あれだけガチガチに監視して稽古させた張本人はマナだろうが・・・でも結果として感謝してるかな。あれだけマナが鍛え上げてくれたから今のボクがいるようなものだ。

「今泉君の話でさぁ・・・」

 ああ、あれか。今泉もデブのボッチだったが、テニスで自信が付いて変わったって話だろ。あれも考えたら差があるような。変身した今泉は爽やかイケメンでモテモテ。さらにだ、陰キャ女の仮面を脱ぎ捨てた諏訪さんが彼女だぞ。それに比べてボクは未だにボッチの陰キャ。

「もうボッチじゃないじゃない。今泉君も理子もいるでしょ。マナだっているじゃない」

 なりゆきで二人の恋の後押しをした格好になったから、エライ感謝してもらってる。あの二人は友だちとして良いと思う。マナは言うまでもないか。

「ジュンちゃんはね、変わったんだよ。去年のジュンちゃんじゃないの」

 そんなに変わったとは思えないが、

「う~ん、オクテのところは変わってないけど、ボッチじゃなくってるよ。それだけじゃない、もっと、もっとね。そんなジュンちゃんを・・・」

 ボクがどうだって言うんだ。

「なんでもない」

 マナは何が言いたかったのかな。それはともかく、このデートは満足してもらえたようだ。ボクにとっては初デートか。これも正確にはデートじゃないよな。デートは恋人同士が行くもので、マナとはあくまでも幼馴染の友だち。デートもどきと言うのが正しいはず。

 いや、やっぱりデートだ。途中からデート気分になってたものな。ボクの初デートの相手はマナとしてやろう。友だち同士でも二人で、こうやって出かけて楽しい時間を過ごせれば、それは間違いなくデートだ。

 それにしても、いつの日か本当の彼女とこんな甘い時間を過ごしたいものだ。ありゃ、もうこんな時間か、

「そろそろ帰ろうか」
「そうだね」