どうやって今泉を呼び出そうかと考えていたら、なんと今泉から呼び出された。それも二人っきりで話がしたいとのことで、校舎裏で会った。ボクが呼び出すならともかく、今泉が何の用事かと思った。顔を合わすといきなり、
「氷室、確認しておきたいことがある」
なんの話だ。
「理子の事をどう思てる」
やはり今泉は諏訪さんの事が好きだ。それも以前からの関係がある。そうでなければ名前呼び、それも呼び捨てに出来るものか。それならば、はっきりさせておいた方が良い。
「クラスメイトであり、歴研の仲間だ。それだけでしかない」
「ほんなら、なんで理子は氷室を歴研に誘たんや」
どうしてって言われても困るけど、
「何が言いたいんだ」
「歴研の帰りはいつも理子と二人やんか」
「自然とそうなっただけだ」
これ、他人が聞いたら笑うだろうな。良く言えば諏訪さんを巡る三角関係みたいなものだけど、ボクと諏訪さんが陰キャのボッチで、陽キャイケメンの今泉が血相を変えてボクに詰め寄ってるんだから。
「もう一度言う、諏訪さんとは何もない。それとだ、諏訪さんに関して今泉にどうしても頼みたいことがある」
そこで瀬田たちが企んでいる罰ゲーム告白の話をした。今泉の顔色が見る見る怒りに満ちて来るのがわかったよ。
「瀬田の野郎、許さへんぞ」
今にも瀬田のところに怒鳴り込みそうな今泉を宥めるのに往生した。たとえ瀬田のところに言ったとしてもシラを切られるだけだ。
「今泉は諏訪さんを奪いに行け」
「それって告白せえってことか」
やはり今泉は諏訪さん気持ちを確認できていないのか。三か月も駅から二人で帰って何やってんだ。
「それを言われると面目ないわ。あまりにも理子の心がわからへんかったから、氷室を疑ってもた。謝るわ」
この際だから聞いてみた。どうして今泉は諏訪さんに魅かれたのかを。マナとあれこれ考えた話をしたら今泉は驚いていた。
「そんなところまで調べてとったんか。だいたい合うてるで。幼稚園の時に優しくしてくれた理子が好きになったんよ。もちろん幼馴染としてやで。クラスで一緒になったのは小二の時だけやったが、理子のことは忘れへんかった」
今泉がダイエットに励みだし、テニス・スクールに入ったのは諏訪さんとは直接関係なかったよう。それぐらい当時の今泉の肥満は深刻で、親に問答無用でやらされたぐらいが真相で良さそうだ。
「ほいでもな。なにか一つでもやり遂げると自信が付くもんでな・・・」
テニスの才能もあったんだろうが、大会の活躍とかもあって、他の事も前向きに取り組めるようなったとか。
「五年の大会の時に理子が応援に来てくれたんや・・・」
今泉が招いたらしい。この大会では惜しくも三位だったそうだが、その時に今泉は諏訪さんに告白したと聞いて驚いた。五年生ぐらいになれば、そういう話もあるとは聞くけど、
「その時の返事が、ボクが一人前の男になったらやった。あははは、今から思たら振られたんやろな。ほいでもやで、まだ子どもやんか、原因は大会で優勝できへんかったからぐらいに思てもたんや」
今泉のテニスの成績は素晴らしいものだけど、なぜか優勝には縁がなかったそうだ。同じ地区に手強いのが何人かいたからだそうだけど、
「優勝したら理子にもう一度挑もうと思とってんけど、どうしても勝てへんで、中学の時は告白できへんかった」
だが、ちょっと待て。今泉が諏訪さんを恋愛対象として意識していた時には、すでに陰キャ女に変わっていたはず。
「ああそれか。ボクも不思議やってんけど、理子には変わりあらへんから気にならへんかった。あれでライバルが湧いて来いへんやろから安心してたぐらいや」
そこまでサラっと言い切れるのかよ。
「さっきの告白の話やが、理子の気持ちがわからへんから怖いんよ」
「でも、瀬田たちはいつ動くかわからんぞ」
今泉は少し考え込んで。
「氷室がボクと理子の事を、ここまで真剣に心配してくれたことを感謝するで。妙な誤解をした事はもう一度謝っとく。堪忍な」
「そんな事はどうでもよいが、どうする気だ」
今泉はニコッと笑って。
「ボクが理子を守るわ。瀬田ごときに指一本触れさせたりさせへんよ」
そう言って戻って行った。道場でマナに報告と相談をしたんだけど、
「今泉君がそういうなら、後は任せるしかないわね」
マナが言うには、ボクたちが出来るのはここまでとした。情報の提供と対策の提示だ。それを受け入れるか、受け入れないかは、あくまでも今泉の判断とした。
「冷たいようだけど、これは今泉君と理子の恋だからね。マナたちは最後のところでは他人だもの」
そりゃ、そうだけど。
「たとえば今泉が告白して玉砕したら」
「心配ないと思うよ」
はぁ。どういう事だ、
「恋のイベントで告白は大きなステップよ。そこで断られて終わる恋もある」
「それ以外なんてあるのか」
マナが言うには、たとえ断られても続く恋もあると言う、
「それってストーカーじゃないか」
「ちょっと違うよ。ジュンちゃんには難しいかな」
本当に相手を好きになるとは、相手のすべてを受け入れることだって。その中には相手が恋人にしてくれないのまで含まれるって言うんだよ。
「恋人になれなくても、友だちとして、仲間として守るって意味か」
「ちょっと違うけど、そう考えても良いかな。恋って色々あって面白いのよ。とにかく、今泉君はきっと理子を守ってくれるよ」
なんだこの毎度毎度の根拠の無い自信は。でも、今泉の気概はボクに伝わってきた。やはりマナの言う通り、この恋はあの二人のもの。後は見守るのが正解の気がした。それより何より今泉はイイ奴だ。諏訪さんが断るはずがない。
「どうだろ。今泉君の話からする五分ぐらいじゃない。後はその場の空気と流れ次第かな」
「どういう事だ」
「ジュンちゃんは現場にいるから見れるよ」
マナはなにを考えているのだろう。