運命の恋(第20話):帰りの電車にて

 行きもそうだが、帰りも電車は長い。一時間は余裕でかかる代物。ただ空いていると言うか、空き過ぎていて廃線の話も出ているのも困りもの。せめて高校卒業まで残ってくれないと通学に困るよな。

「理子から聞いたわよ。実はジュンちゃんにお熱だったって」
「冗談だろ。そんな訳ないだろうが」
「今泉君はさすがに見てると思ったよ」

 はぁ、どういう事だ。

「理子の陰キャはコスプレなんだよ。本当の理子が違うのはクラスで見てるだろ」

 凄かった。翌日に登校してきた諏訪さんが誰だかわからなかったぐらい。あの野暮ったさは綺麗さっぱり消え去り、洗練され尽くしたまさに輝くような美少女がそこにいた。キャラも陽キャにチェンジ。今泉たちのグループと楽しそうに過ごしている。

「そういうこと。理子も本当は陽キャなんだよ。陰キャでもボッチは辛いだろうけど、陽キャがボッチするのはもっと辛かったってこと。そんなボッチを救ってくれたのがジュンちゃんじゃない」
「救ったなんて大げさな。声かけただけじゃないか」

 マナはしんみりと、

「理子は感心してたよ。あれだけ陰キャ女を極めたつもりだったのに、それでも声をかけてくれたジュンちゃんにね。それだけじゃないよ、あれだけ陰キャ女で対応したのに友だちになろうとしてくれた強い心にも」

 普通に話をしただけだけど、

「陰キャだからボソボソ話さないといけないし、ジュンちゃんの青痣だらけの体が心配だったけど、あまり気にする素振りを見せられないってね」

 どうでも良いが青痣を作りまくったのはマナだろうが、

「話題だって理子から振れないし、せっかくジュンちゃんから振ってもらっても、出来るだけ素っ気なく答えないといけないじゃない」

 それは陰キャ同士の会話だからそんなもの。

「だから理子は陽キャだって。こんなに優しい人がいたんだってジュンちゃんに魅かれて惚れたのよ。だから歴研に誘ったんじゃない」

 えっ、

「そりゃ、そうでしょ。すべてはジュンちゃんに近づくため。帰りの電車が二人になるのも当然計算してたの」

 そうだったのか。

「だから理子を釣り落としたのよ」

 そこまで・・・ウソだろう。

「通じなかったのが悔しかったって」
「なにを?」
「イラスト」

 文化祭の時の、

「マナツもジュンちゃんが作った冊子を見せてもらったけど、あれでわからないかなぁ。そういうところがジュンちゃんらしいけど」

 あの時に諏訪さんがモチーフにしたのはユニコーンの一族。古代ローマ貴族に転生した娘たちの恋と冒険を描いたもの。

「あのアニメは様々なモノグラムに呪文を吹き込むのだけど、あれだけ『貴方を愛してます』のモノグラムが散りばめてあったのに気づかなかったの?」

 気にはなったけど、あれがボクに対してのメッセージだと、

「その辺は理子も無理はあったと言ってたよ。さすがに陰キャ女のままじゃ、ジュンちゃんは振り向いてくれないってね。だから理子は最後の手段を取るか取らないかで悩み続けていたのよ」

 最後の手段とは陰キャ女を脱ぎ捨てて、本来の諏訪さんに戻るのだそうだけど、

「それも今泉が入会するまでだろう」
「今泉君は危機感を募らせてたのよ。だってだよ、理子はジュンちゃんを歴研に誘って、帰りのデートを積み重ねていたじゃない」

 今泉にはそう見えたのか。

「見えるに決まってるでしょ。あきらめきれない今泉君は理子の彼氏に立候補する決断をしたのよ」

 そして諏訪さんはすんなりと納まるべきところに、

「すんなり行ってないよ。行ってたら、トットと陰キャ女やめてるよ」

 そう言えば今泉は三か月経っても諏訪さんの心はわからないって言ってたものな。となると駅から二人になっても陰キャ女のままだったんだ。そうなると今泉がボクを呼び出したのも、あの時にあれほど諏訪さんとの関係を問い詰めようとしたのも、

「今泉君も感じてたんじゃないかな。理子の心がジュンちゃんに傾いてるって」

 諏訪さんは今泉の告白を受け入れるのを決断したのは、あの罰ゲームの日だと言ってたけど、心を揺るがせていた他の男はまさかのボクだって!

「だったら今泉の勝ちだよ。ボクは諏訪さんの本当の魅力に気づかなかったからな。マナにあのコスプレ姿を教えてもらって惚れるようじゃ話にならないよ」

 そう、ボクは陰キャ女のコスプレの諏訪さんに恋愛感情を抱けなかった。一方で今泉は陰キャになった諏訪さんをモノともせずに愛し続けた。この差は埋めようがないほど大きいよ。

「そこまで卑下しなくても良いと思うけどな。たしかに今泉君は理子が陰キャになっても、その愛は変わらなかったかもしれないけど、陰キャになる前の理子を知っているのよ。ジュンちゃんはボッチの陰キャ女の理子でも友だちになろうとしたじゃない」

 そうも言えない事もないだろうけど、それでも、それでもだ。諏訪さんんは陽キャ、ボクは陰キャ。交わりようがないよ。マナはちょっとだけ真顔になり、

「それは違う。ジュンちゃんは真性の陰キャじゃない。陽キャを無理やり陰キャにさせられただけ。だってマナツの記憶の中のジュンちゃんは陽キャだし、マナツと話している時は陽キャに戻って来てるもの。理子もそう感じてたはずよ」

 そうなのかな。あんまり自覚症状ないけど、

「マナツが言いたいのはジュンちゃんはもっと自信を持つべきだと思うのよ」

 さっと快活な表情に戻ったマナは、

「どう学校一の美少女に惚れられた感想は」

 マナの話を信じればだけど、諏訪さんは声を掛けてくれたボクに好意を持ち、もっと近づくために歴研に誘った事になる。さらに諏訪さんはボクに好意を示すために文化祭のイラストにも積極的に協力したって事だよな。それもボクへの愛のメッセージまで含ませて。

 そうなると草津が罰ゲーム告白をした時に、今泉に予備知識がなければ、陰キャ姿を脱ぎ捨てて、ボクへの愛の告白をしていたとか。でも、ありえないない。今泉なら、間違いなく立ち上がったはずだ。ボクの出番はないよ。

 じゃあ、今泉が学校にいなかったらになるけど、今度は罰ゲームが起こらない。あの罰ゲームは今泉の諏訪さんへの接近があったから起こったものだ。罰ゲームがなければ、諏訪さんは素性を隠すために陰キャ女を続けてるだけで、ボクでは諏訪さんの魅力に気づかない。

「そうじゃなかったって言ったでしょ。理子は真剣に陰キャ女をやめるつもりだったのよ。自分が惚れた男を振り向かすためにね。陰キャ女のままじゃ、ジュンちゃんを振り向かすことは出来なかったじゃない」

 それは申し訳ないけど、そうだった。

「今泉君がいなければ、理子はジュンちゃんの彼女にきっとなっていたはず。それだけはウソじゃない。忘れないで欲しいな」

 だったら、ボクは自分の恋を能天気に放り捨てながら、ライバル今泉のサポートをしてただけのピエロだったとか。でも後悔していないよ。やはり諏訪さんは今泉の長年の想いに応えるのが正解だ。ボクへの想いは長すぎた春に生じた気の迷いに過ぎない。良い恋を実らせるサポートが出来て満足しているもの。

「ホント、ジュンちゃんらしいよ。女の子も見た目に魅かれるけど、理子みたいに内面の優しさや、強さに気づく子は増えて行くよ」
「マナもか」
「当然よ。見た目だけに振り回されるお子様じゃないよ」

 ボクはどうだろう。相手の内面の美しさに気づけるようになって・・・ないよな。だってだよ、諏訪さんとあれだけ一緒にいて、あれだけ話をし、あれだけ時間を過ごしたのに、諏訪さんの本当の魅力には気づかずじまいだ。

 というか、諏訪さんを魅力的に思ったのも、マナに諏訪さんのコスプレ姿を教えてもらって、その外見だけで判断してるだけだよ。諏訪さんがボクを想っている気持ちなんか、わかりもしなかった。諏訪さんをなんとか助けようと思ったのも、あくまでも仲間としてだものな。そこに恋愛要素はなかったもの。

 大人の恋は外見より内面を重視することもあるって書いてあるし、それこそ本当の恋とかになってるけど、本当にそうなんだろうか。そこがわからないようじゃ、まだまだ、マナの言うお子ちゃまだな。