運命の恋(第14話):諏訪さんの秘密

「ジュンちゃんの言う、彼女と勘違いさせる罰ゲームだけど、そこまで手が込んだ罰ゲームはそうはないよ」

 これはわかるところがある。理由はまず時間がかかる点。お付き合い付きの告白罰ゲームも時間はかかるが期間限定。これに対し彼女と勘違いさせる方は、いつになったら勘違いしてくれるかは不定だ。

 それと中間過程が楽しみにくい。お付き合い付きなら、イヤイヤ付き合う様子を見る事が出来るが、勘違いゲームではそうはいかない。そりゃ、口説いてるのだから、これを全部公開でやるわけにはいかないからだ。

「まだあるよ。口説き落としたと思って告白して断られたらモロに恥かくよ」

 罰ゲーム告白は突然のサプライズとして起こるが、勘違いゲームでは準備段階のうちに告白する方が本当に惚れていると周囲も勘違いする可能性が出てくる。

「だから短期で人目が付かないところで勘違いさせないとリスクがあるよ。それだったら普通に罰ゲーム告白すれば良いじゃないの」

 加えてマナは、もし長期の口説き落としの勘違いゲームが行われたなら、それは告白する方へのイジメになってるとした。そこまで今泉がされる理由はないよな。

「じゃあ今泉は本気だとか」
「人の好みは様々だけど、さすがに理子となると・・・」

 マナでもそうか。諏訪さんは良い人だと思うが、今泉が諏訪さんを選ぶ必然性となると考えこまざるを得ないものな。最近では地縛霊なんて悪口を言う奴が出てくる始末だ。ココロは自分の席から休み時間でも殆ど動かないし、暗くて存在感が薄いからだ。

「そこが謎だよな。罰ゲームでないとしたら、今泉は諏訪さんのどこに惚れたんだろう」
「可能性として理子のあの姿を知ってるぐらいだけど」
「なんだそれ」

 とにかく諏訪さんの姿はベールに包まれている部分が多い。顔はあの長すぎる前髪とドデカイ瓶底黒縁メガネだ。制服もそうで、まるで自分の体の線をわからせないような着こなしをしてるとしか思えない部分がある。

 ボクはファッションに疎いけど、たとえ制服であっても着こなしがあるぐらいはわかる。中学でもそう感じたけど高校ならなおさらな感じ。ギャル風の子がわかりやすいけど、五十鈴さんみたいな清楚風の子でも確実にあるし、並べば全然違うもの。

 諏訪さんはギャル風では間違ってもないし、清楚風とも違う。あえて言えば野暮ったい風。同じ制服なのにどうしてこれだけ差があるか理解不能ぐらいだ。あれをあえてそうしているのか、着こなしセンスが欠如しているのかわからないけど、

「でも今泉君が知ってるとは思えないし」
「なんだよそれ」

 マナはしばらく考え込んで、

「これは秘密よ」

 心配ない。バラしたくとも相手がいない。

「理子ってアニメ・オタクなのよ」
「知ってるよ」

 文化祭の時のイラストは見事だったけど、あれがアニメ絵ぐらいはボクにもわかる。

「実はマナツもアニメ・オタクなんだけど・・・」

 アニメ・オタクも色々だけど、イベントとかフェスティバルみたいなものに参加する者が多いそうだ。その最大級がコミケなのかもしれない。そこでは各種のマンガ本や、ビデオ、ポスター、グッズが販売され、たいていは限定グッズの販売も行われオタクたちの垂涎物だそうだとか。オタクと言うから色目で見られるけど、コレクターと思えば十分理解できる。

「コスプレって知ってる?」

 実際に見たことはないけど、アニメのキャラの扮装をするぐらいは知ってる。

「マナツが中学の時に梅田のフェスに行ったとき」
「えっ、マナもオタクなの?」
「さっきも言ったじゃないの」

 ボクはそこまでのアニメ・オタクじゃないけどスリー・シスターズ伝説は知っている。家の血筋として受け継がれてきた不思議な能力を持つ三姉妹が、蘇ってきた宿敵ダーク・デーモンと戦うぐらいの話で良いと思う。アニメだから当然のことだけど三姉妹は超絶美人になっているけど、

「マナツはシスター・サファイアを見たのよ」
「コスプレだろ」
「そりゃそうだけど、目に入った瞬間にシスター・サファイアが三次元になって現れたとしか思えなかったもの」

 冗談だろ。あれは二次元だから可能な美しさだぞ。あんなものが三次元で出現するわけないだろうが。するとマナは画像を見せてくれた。もう絶句するしかなかった。まさにシスター・サファイヤそのものだ。

「でしょ、でしょ」

 それにしても衣装も凝ってるな。アクセサリーも含めて完璧すぎる。下手すりゃ二次元より美しいかもしれない。マナも見惚れていたそうだけど、なんとシスター・サファイアから声を掛けられたそうだ。

「理子だったのよ」
「なんだって!」

 マナが気が付いたと言うより、諏訪さんが気が付いて声をかけてくれたらしい。どうも学校にバレると拙いとの判断で良さそうだ。コスプレが校則違反とは思えないけど、とはいえ大っぴらに自慢して良くなさそうなものじゃないというのもわかる気がする。つまりはマナの口止めのためだった。

 それにしても美しすぎる。それにこれってまだ中学生の時のコスプレだろ。それなのに、何と言えば良いか大人の色気みたいなみたいなものまで漂ってる気がする。

「これが諏訪さんの素顔なのか」
「素顔じゃないよコスプレよ」

 マナは別の会場で今度はシスター・ダイヤモンドのコスプレをした諏訪さんに出会ったというか、見に行ったみたいだけど。

「怖いぐらい綺麗だけど、さっきのとだいぶ感じが違うね」
「そりゃそうよ、シスター・サファイアは慈悲キャラだけど、シスター・ダイヤモンドは誇り高きシスターのリーダー。これを演じ分けるのがコスプレの醍醐味よ」

 それにしてもメイクでこれだけ女って変わるもんなんだ。並べて比べたら同一人物とわからないでもないけど、知らずに見たら別人だろこりゃ。それとそのスタイルの素晴らしさ。モデルだってここまでなかなかいないぞ。

 それとしつこいようだけどまだ中学生だ。そりゃ、こんな姿を知っていれば今泉が惚れるのはわかるけど、

「今泉もアニメ・オタクか?」
「隠してる可能性も残るけど、違うと思う。そんな話は聞いたこと無いもの」

 ボクも知らないし、歴研に入ってからもアニメの『ア』の字も聞いたことがないものな。それでもこれで一つわかったことがある。

「今と言うか、中学からの諏訪さんの陰キャ女もコスプレしてるのじゃないか」
「ジュンちゃんの意見に賛成よ」

 シスター・サファイアや、シスター・ダイヤモンドに完璧になれるのなら、陰キャ女なんて朝飯前かもしれない。毎日のように諏訪さんには会ってるけど、あのコスプレ姿を思い浮かべるのは絶対に不可能だよ。

 それと諏訪さんのコスプレには熱狂的なファンも多く、ファン・クラブまであるそうだ。だからこそ普段の姿とコスプレ姿が、間違っても結びつかないようにしているのかもしれない。

「理子のイラストも有名なのよ」

 投稿サイトを見せてくれたけど、ものすごい数のイイネがついてるじゃないか。コメントもどこまで続いているかわからないぐらい。諏訪さんのイラストは既に素人の領域を越えているらしく、

「ほら、これ見覚えない?」

 これは知ってる。旅行会社の夏のキャンペイン広告だ。

「まさか諏訪さんの?」
「そうだよ。他にも・・・」

 えっ、そうなの。道理であれだけ上手いわけだ。単にが絵が上手いじゃなくて、プロの絵師として認められてるんだものな。これも伏せておきたいはずなのに歴研の文化祭の時によく協力してくれたものだよ。

 ボクの中で諏訪さんのイメージが音を立てて崩れ、そこから新たな諏訪さん像が出現した感じだ。だが謎は解決していないじゃないか。あれだけ丹念に陰キャ女としての諏訪さんと、コスプレイヤー・イラストレーターとしての諏訪さんを分けているからだ。

 マナも自信はないとしていたが、そういう別の顔を持っている諏訪さんを知っている者はマナしかいないとしてた。少なくともマナはそんな噂も聞いたことがないそうだ。

「そうなると可能性は三つだな、

 ・やはり罰ゲーム
 ・今泉は華麗な諏訪さんを知って近づこうとしてる
 ・陰キャ女の諏訪さんに今泉が惚れた

他はあるか」
「そう結論したいのはわかるけど、わざわざ陰キャ女に惚れるなんて想像もつかないよ」

 そこなんだよな。それは諏訪さんに申し訳なく思うけど、あまりにも無理がある。

「それと罰ゲームなら今泉君も危険だよ。理子を罰ゲームでからかったなんて、もしネットでバレたらタダでは済まないよ」

 なんか話がエライところに広がった気がする。最初は諏訪さんを罰ゲームからなんとか救おうだったが、これじゃ、今泉の方を心配しなければならないぐらいだ。とはいえ手が出しようがないのも実は同じ。

「とりあえず理子の小学生時代を知ってる子に少し聞いてみる」
「悪いな」
「タピオカ奢ってね」