運命の恋(第13話):マナへの相談

 諏訪さんの件について相談するにも思いつくのは一人だけ。そうマナしかいない。つうか気軽に話せる友だち自体がマナしかいないようなもの。それはともかく、まず罰ゲームが起こってそうなことを話すと、

「罰ゲームは危険なゲームなのよ」

 危険と言うより残酷なゲームだろうとしたら、

「わかってないね」

 これでも経験者だぞ。

「そうだったよね。だけどね罰ゲームの本当の危険さはゲームが終了した後に発生するんだよ。ジュンちゃんみたいなお人良しばかりじゃないってこと」

 どういうことだ。

「ジュンちゃんは恥しい思いをさせられたし、悔しい思いもさせられたじゃない。でも、グッと堪えて終わってるじゃない」

 結果的にはそうなるけど、

「その恥しさや、悔しさは恨みになるじゃない」

 ボクだって恨んでいる気持ちはあるけど、

「それを爆発させる人もいるのが危険だって意味だよ」

 なるほど人を踏んづけた奴はすぐに忘れるが、踏んづけられた奴は忘れないってことかもな。でも爆発させたって陰キャはボッチが多いし、陽キャのグループの返り討ちに遭うだけじゃ、

「ジュンちゃん、戦って本当に怖い相手って誰だかわかる?」
「そりゃ、マナだろ」
「どうしてマナツなのよ」

 マナが言うには手段を選ばない相手だそう。

「そういう連中は、刺し違える前提で来るからね」

 マナなら正面切って誰に戦いを挑まれてもまず負けることはないと思うけど、マナの考えている相手は怖すぎた。

「どんなに強い人でも、自爆テロをされたら終わりだよ。マナもよく知らないけど、五メートル、いや十メートル以内に近づかれてドカンとやられたらお陀仏になる」

 さすがに日本で爆弾が手に入ると思わないが、包丁を振り回すぐらいは可能だよな。そういう場合は自爆テロと違って自分は死なないけど、刑務所に入る覚悟で来るぐらいはあるかもしれない。

「それに時と手段を選ばないのよ」

 なるほど闇討ちもありだし、何年にも渡るストーカー行為だってあるのか。それを言えば放火だって、

「そういうこと。おちおち寝てられなくなり、まともな暮らしが出来なくなる。だから人は無用の恨みを買う行為をやるものじゃない」

 マナが言うには罰ゲームが行われても、ほとんどの場合は座興に終わることが多いけど、あれは被害者が堪えてくれる事で収まってるとしてた。しかし、いつも必ず堪えてくれる訳じゃなく、

「マナツに言わせると、地雷原でダンスしているようなもの」

 一つ踏み抜いたらドッカンか。おっそろし。

「ところで誰なの?」

 これもマナに相談した理由だ。今泉も諏訪さんも中学が違う。と言う前にボクがこの街に引っ越して来たのが中三の時だ。あの二人の過去の経緯について知識が乏しすぎるんだ。

「今泉君と理子だって・・・」

 やはりマナは知っていた。小学校は違っていたが、中学校では同じクラスになったこともあったようだ。今泉は考えようによっては今以上の学校のスターだったみたいで、テニス部のキャプテンで活躍してたらしい。そう言えば学年初めにテニス部が執拗に勧誘に来てたものな。

「モテてたよ。スポーツが出来てイケメンだし、誰にだって優しいし」
「マナも好きだったの」
「マナツだけじゃなく、憧れていない女の子なんていなかったんじゃないのかな」

 無意味なジェラシーを感じてしまうのは置いとく。それでも隠れた一面とかないかと聞いたけど、

「そりゃ今泉君のすべてを知ってるわけじゃないけど、聞いたことは無いね」

 絵に描いたような爽やかイケメンか。そういう人生は楽しいだろうな。その上だぞ、今泉産業と言えばこの辺では有名な会社だそうだ。そう、社長のボンボンでもある。なんでそこまで恵まれていやがるんだ。

「彼女とかは?」
「それは聞いたことはないね。何人か告白したって噂は聞いたけど、すべて断られて付き合った彼女はいないって話だよ」

 まだ中学生だから部活に打ち込んだのかもしれないけど、ボクからすればもったいない話だよ。

「理子は・・・」

 諏訪さんも基本的に今と変わらないそうだけど、そうなると、

「ああ、イジメはあったよ」

 マナと諏訪さんが同じクラスになったのは中二の時だそうだけど、中一の時はかなりだったらしい。定番の小突いたり、バカにしたりだけでなく、持ち物を捨てたり、壊したり、盗まれたりまであったそう。

「マナツはそういうのが嫌いだから・・・」

 マナは叱りつけてイジメ・グループを追い払い、

『文句があるなら相手になってやる』

 こう啖呵を切ったそう。するとイジメ女のボスみたいなのが兄貴に泣きついたんだ。この兄貴と言うのが高校生で不良グループのリーダーだったそう。

「マナツが呼び出されて行ってみると、いかにもって金髪や、スキンヘッドや、モヒカンの連中がいたんだよね」

 マナが空手道場の娘である事は知っていたみたいだから、不良グループも気合入れて来たらしいけど、

「笑っちゃったよ。たった十人ぽっちで、なにをしたかったのやら」

 マナはあの手裏剣技をいきなり繰り出したようだ。マナの本気のビー玉を額にでも受けようものならタダでは済まないよ。それも正確無比にこめかみを直撃する。こめかみも人体急所の一つで平衡感覚を奪われ、間違いなく気絶する。ボクも経験したからよくわかる。でもそれで気絶した連中はラッキーかもしれない。

 拳を交えようとすれば急所攻撃が炸裂するからな。マナがその気になれば素人の玉を粉砕するぐらいは遊んでいるようなもの。瞬く間に急所を蹴り倒されて残っていた連中は悶絶したそうだ。

「武士の情けで潰さなかったはず」

 ボクは聞きながら背筋が寒くなった。マナはボクとの組手の時にも急所攻撃を行うけど、あれはあくまでも稽古のため。それぐらい手加減してるはずだけど、悶絶なんてレベルじゃなかった。薄れゆく意識の中で、

「男として終わった」

 こう何度思ったことか。不良との喧嘩も最低限の手加減こそしてるけど、ボクの時より強烈だったはず。

「男の急所の痛みなんてしらないけど、しばらくはガニ股歩きになったんじゃない。機能はたぶん大丈夫のはずだけど」

 以後はイジメ女たちも静かになったと言うか、マナの姿を見ればコソコソと逃げ回るようになり、学校からイジメがなくなったとか。

「それってスケバンだったってことか」
「失礼ね。お淑やかなお嬢様に決まってるじゃない」

 つるむ必要すらないのがマナの強さだものな。中学はそうなるだろうけど高校の不良グループは、

「お礼参りに来たけど、面倒だから二度と来ないようにしておいた」

 詳細は聞かない方が良いだろうな。男子の不良グループがオカマのレディースになったとしても驚かないよ。とにかくその時以来、マナの姿を見ただけじゃなく、マナの名前を出しただけで、高校生の不良グループが一目散に逃げだすようになったらしい。マナの勇名は轟き渡り、

「道場の入門生が増えて爺ちゃんも喜んでた」

 寄り道が長かったけど、中学で諏訪さんと今泉の関係は、今とさほど変わらないで良さそう。というか、マナは諏訪さんと中二で、今泉と中三で同じクラスだったけど、

「あの二人が同じクラスになったことはないはずだよ」

 そう中学時代の接点がないんだよな。