ツバル戦記:観光開発

 コトリ社長からの報告はノンビリしたもので、

「獲れたてのピンクダイヤモンドはたまらんで。醤油を使ったら、大うけしてくれた」

 あのサイズのエビの踊りとは羨ましい。

「ついでに鮨にしたら大人気」

 画像を見たら、本当にあの大きいのを握ってました。

「天ぷらも大人気や」

 それにしても大きなエビ天です。とにかく大きい天ぷら鍋を送れと指示があったのですが、あの天ぷらを作るためだったとは。もちろん米も炊飯器も酢も送ってます。それだけでなく、

「シドニー空輸のテストも成功したで」

 フナフティの礁湖に新明和の巨鯨を着水させて輸送しています。

「日本でもエエ値で売れた」

 テストついでと言って、グアム経由で成田まで運んでいます。この辺はヴァイツプ島空輸のついでみたいなものですが、

「関空へのテストは断られたけどな」

 コトリ社長も見方として、オーストラリアより日本の市場の方が有力とみています。ツバルのピンクダイヤモンドの価値は活けであることですが、オーストラリア人は基本的に生の魚介類は好みません。というか、日本人が生で食べたがり過ぎるところがあります。

「茹でたり、フライにしても活けの方が美味しいやろけど、活けの真価は生にあるからな」

 成田で行われた試食会も大成功で、気の早いバイヤーからの問い合わせも増えています。並行して価値を高めるためのブランド化計画も進行中です。

「観光やけどヴァイツプ島をセットにするのはありや」

 ヴァイツプ島は周囲が美しい砂浜に囲まれていますが、とくに北東部のオラサワビーチは美しいようで、

「リゾートホテルを作れるで」

 これはオーストラリアにしろ日本にしろピンクダイヤモンドを運んだ後の復路問題にからんできます。帰りも荷物を運ぶのもありですが、とにかく一万人しかいませんから、何を運んでも購買力は知れています。それであれば観光客を乗せたらの案が再浮上しているぐらいです。

 しかしツバルにはそういう観光客を宿泊させる施設も乏しいところがあります。これもフナフティに作るとなれば、さすがに手狭なのです。だからヴァイツプ島を活用しようぐらいですが、従来はフナフティからヴァイツプに渡るのがネックでした。

 現在は国営フェリーを利用するか、漁船に毛の生えた程度のチャーター船を自分で探して交渉して使うしかありませんが、新明和の巨鯨があればヴァイツプ島まで直行できます。

「でもさすがに日本からプロペラ機では時間がかかり過ぎるのじゃありませんか」
「それはある。ほいでも飛行艇に乗れる経験は売り出し様の気もするで」

 そりゃ飛行艇に乗れたり、ヴァイツプ島の礁湖に着水するのは魅力にはなるでしょうが、グアムでの給油時間も考えれば二十時間で到着するかどうかです。座席だって良く言えば簡素、悪く言えばチープで、そこまで長時間の旅を想定していないのです。

 さらにツバルからの帰りをどうするかもあります。そちらにはピンクダイヤモンドを載せないといけませんし。

「帰りはフィジー経由にしてもらうぐらしかないけど・・・」

 この辺はフィジーから巨鯨を飛ばすのもありますが、日本からフィジーの便となると今のところプアすぎますし、それ用の巨鯨の調達も出てきます。とにかくツバルからどこに行くのも遠いですから、この辺はまだ構想中として良さそうです。というか、ピンクダイヤモンド計画も準備段階ですしね。

「まあ、そういうこっちゃ。いずれにしても、かさ上げ事業が終了せんとエレギオン財団もきついからな。時間はなんぼでもあるし」

 コトリ社長の口にする時間も要注意で、十年や二十年でないことが多いのです。平気で五十年とか下手すりゃ百年単位を待ってられますから。

「観光を考えたら料理もポイントやが・・・」

 カツオ、マグロ、カマスサワラ、ツムブリのような大型魚も獲れるようで、

「ツバル人はシャコガイが好物なんよ」

 コトリ社長は片っ端から刺身にしたようですが、

「シャコガイなんて刺身に出来るのですか?」
「日本でも沖縄で食べてるで」

 刺身じゃ和食風ですが、コトリ社長が狙っているのは新たな調味料を持ち込んで新たなツバル風料理を作らせるのが狙いで良さそうです。やっぱり旅と言えば名物料理ですものね。

「ココナツミルクとパンダナスの味付けも悪ないけど、バリエーションは多い方がエエやんか」

 ツバルの代表的な農産物はココナツ、パンノキ、タロイモ、パンダナスぐらいになります。このうちパンノキはお菓子代わりぐらいで、パンダナスも香りづけが主要用途になります。

「そんなことないで、丸焼きにしたら焼きいもみたいやった。ついでにパンダンケーキを作ってみたら受けた」

 他にもバナナも獲れますし、

「案外やけど豚も美味かった」

 角煮を作ったら奪いあいになったとか。他にも定番の椰子の実もあり、

「ツバルの出来る男の条件は、漁で魚が獲れて、椰子の木に登って実を獲ることが出来て、豚を世話できて、タロイモを育てられることなんよ」
「そんな男が出来ましたか?」
「そりゃ、もう堪能したで」

 やっぱりね。それでも聞いていると観光開発の余地はありそうです。コンセプトは天国に一番近い島での夢のリゾートぐらいでしょうか。飛行時間だって百年もすれば新明和の巨鯨がジェットになっていても不思議ありません。

「今かってべりエフがあるやんか」

 ロシア製ですが飛行艇というより水陸両用機に近いもので、座席も百席クラスです。ただし静水面じゃないと離発着できませんし、航続距離も四千キロ程度。

「速度も最高で七百キロで巡航速度で六百キロたから、巨鯨よりちょっと早いぐらいや」

 ツバルでの休日を満喫しているようなコトリ社長ですが、

「中国軍対策ですが・・・」
「こうやって、ノンビリするのも作戦のうちや」

 そんな作戦あるのかな。