セレネリアン・ミステリー:人類創生

 「ギガメシュの宇宙船は地球に着陸したのよね」
 「それもアフリカでエエやろ」

 当時の地球人類はトバ・カタストロフで気息奄々状態やったで良さそうや。地球人類はホモ・サピエンス・サピエンスで、二十五万年前に生れたとなっとるけど、ホンマのところはかなり様相が異なっていたみたいや。

 「それでも神の悪戯は起ったのね」
 「骨格は近かったんだけは、そうやから」

 ほいでも中身はホモ・サピエンス・プアサピエンス状態ぐらいやった。ぶっちゃけ知能はたいしたことはなかったぐらい。そやから誕生してから二十万年してもあれぐらいしか発達してへんのや。

 ギガメシュからの亡命船やけど、あれはあれでかなり計画的やったでエエやろ。ポイントは地球人のサンプルを研究しとったことや。

 「だから出来るってわかって地球に来たんだね」

 ギガメシュの遺伝子操作技術はおそらくエラン史上でも最高クラスやなかったかとディスカルも見てた。というか、改造種がエランの支配者になった時点で単一種となり、ヒトへの遺伝子操作は禁止され衰退してもたぐらいのようや。

 ギガメシュから地球の移住者の数も百人ぐらいの推測もあるけど、ホンマのところは、はっきりせえへんねん。五万年前時点ではギガメシュの宇宙旅行技術はエランでも飛び抜けていて、他の国は宇宙ステーションの偵察なんか無理やったみたいでエエようや。ギガメシュが作り上げていた宇宙ステーションの規模も桁外れで、ディスカルでさえ、

 「いくらエランでも五万年前にこれだけの宇宙ステーションを作っていたとは信じがたい」

 そやから宇宙ステーションに避難していた人数も千人ぐらいはおった可能性が残るんよ。それと地球移住者の構成やけど、男性の比率がかなり高いと見て良さそうや。これは兵士をかなり乗せていたからでエエみたいやけど、

 「やったのね」
 「間違いないで」

 連れて行った兵士がやったのは、先住地球人類狩り。

 「男は殺され、女はさらわれ」
 「そう遺伝子改造された」

 そうやねん。エラン人種に改造できるホモ・サピエンスのどれかの種が選ばれてギガメシュ人兵士にあてがわれたんや。

 「そうやって子孫を増やす目的もあったから、兵士が多かったと見ても良さそうね」
 「ああ、ギガメシュ女性もおったやろけど、改造種になった地球人類とはやりたなかったんやろ」
 「男は・・・やりたがるか!」

 この時に他の地球人種も撲滅されていったと見てええやろ。ギガメシュ人も人種間戦争ばっかりやってきたようなものやから、不要な人種は邪魔と見たって不思議あらへん。エゲツナイ話やけど地球人類の価値はそれぐらいかしかあらへんし。

 「Y染色体アダムが生き残ったのは偶然じゃなく必然ね」
 「そやろ。当時の地球人口言うてもわずかやから、根こそぎやられても不思議あらへん」

 Y染色体アダムをギガメシュ人が持っていたのは間違いあらへん。ギガメシュ人も一遍に皆殺しには出来んかったとしても、時間を懸ければそのうち他の遺伝系統は根絶してまうわ。

 「ギガメシュ人は五万年前に人為的にボトルネック現象を起こしたってことね」
 「それだけやあらへんで」

 改造種は知能も飛躍的に上がったはずや。改造された初代は教育もできへんけど、子ども世代はエラン人に近いものになったと見てええはずや。これも嫌な想像やけど、最悪で言えば子どもが出来たら用済みで処分されたかもしれん。どれぐらいの地球人類の女をかき集め、どれぐらい産ませたかなんて調べようもあらへんけど、

 「何年維持できたのかなぁ」
 「どんなに頑張っても二十年もしたら電気もなくなるやろ」

 先進エラン文明を五万年前の地球で維持するのは無理や。宇宙船のエネルギーが尽きただけでもガクンと水準が落ちる。とにかく新たな補充が出来へんから、故障したら終りや。

 当然文明は退化するけど、あがった知能はゼロに近いとこから再び文明を興隆させることになったんは歴史が事実して示しとる。

 「だから五万年前だったんだ」
 「そういうこっちゃ」

 ホモ・サピエンスが高度な社会にスタートしたのが五万年前ぐらいになってるけど、なぜそうなったは謎やねん。色んな仮説が立てられてるけど、帯に短し襷に長しで、無理がありありやもんな。

 「それにしても現在の人類がエラン種の末裔とはね」
 「まったくや。こんな事は知らぬが仏が一番や」

 どうもダンリッチ教授は勘付いとった部分もあったみたいやけど、証拠があらへんもんな。最終報告で伏せたんもそやからやろ。

 「でも笑っちゃうよね。人類がエラン人の末裔で、わたしとコトリの意識もエラン人の意識分離技術の産物じゃない」
 「そうなるな。エランの技術と地球の技術は水準の差こそ巨大やけど、どこか類似性があるもんな」
 「社会だってそうじゃない。偶然かもしれないけど、DNAが共通だから、そうなったのかな」
 「本能ちゅうやつか」

 それでもやけど、

 「地球人類の男系の遠祖はギガメシュ人になるけど、女は改造されたと言っても地球のオリジナル人類の末裔なんは間違いないで」
 「そう、だから地球は女のもの」
 「でも男は欲しい」
 「エランの純血種の末裔と知っても?」
 「別に改造種でも恋できたから問題あらへん」
 「わたしも」

 この話はかなりどころでない推測がテンコモリ入っとるねん。そりゃ、ムティの記録しか資料はあらへんし、ムティも気が狂って月に途中下車してるやんか。ムティの記録でさえ、どれぐらい信用できるかわからんとこもあるし。

 そやからギガメシュの宇宙船がホンマに地球にたどり着いたかどうかも確認しようがあらへんねんよ。

 「残ってないかな」
 「五万年やからな」

 ムティの記録は月やから残ったけど地球上じゃな。宇宙船にしても朽ち果てて土に返ってもたとしか考えられへん。まあ、あっても産業廃棄物としか見えへんやろし。


 それでも、それでもや。エラン人と地球人の種があれほど酷似している説明として、これほど有力な説明はあらへん。元が同じ種である上に、強烈なボトルネック現象が起きてもたから、五万年前のままだったの説明は可能やねん。

 「でもそうなるとディスカルは地球人類の敵ね」
 「ギガメシュのエラン純血種を滅ぼした末裔やからな」
 「だからミサキちゃんには誤魔化しといて」
 「任せとき、そんなんわかったらミサキちゃんの怒りが爆発するもんな」
 「そう、そう」

 歴女が調べるムックとしては満足したわ。