隣にはシンディがいる。これは日本に来る時から、フォート・デメリックの時から、エドワーズ空軍基地の時から同じ。でも今は隣にいる意味が違います。ボクが命を懸けて愛し、守るべき者になってるのです。
シンディは素晴らしい、ベッドでも夢中になるしかありません。あのメモリー・ナイトから幾度燃えた事か。シンディはそのすべてに応じてくれたし、ボクももちろんそうです。もう離れられないよ。いや離す気なんて微塵もない。シンディに出会うためにボクの人生のすべてがあったに違いないもの。
シンディは綺麗だ。もう眩いばかりに輝いている。これからどこまで輝くかわからないぐらい。それでも、そろそろフォート・デメリックに帰らないといけません。この役得の観光旅行の最後を神戸にしたのも理由があります。シンディは現金なもので、
「東京もあるかと思ってた」
「さすがに事務局も疑い始めてるみたいだよ」
「それは大変ね」
ちっとも大変と思っていないのも丸わかり。
「レイ、任せといて。リー将軍を丸め込むぐらいなら朝飯前」
それでも明日には神戸空港から成田に飛びフォート・デメリックに帰る予定です。神戸でシンディを案内したのは、
「レイ、神戸にも立派な教会があるんだね」
「聖ルチア教会っていうんだよ」
ここは驚いたことに正式のカテドラル。興味深そうに見て回るシンディを控室に、
「お待ちしていましたハンティング様」
今日はシンディへのサプライズ。エレギオンHDに相談したら二つ返事で手配してくれました。
「レイ、これはなんなの」
「今日は二人が恋人ではなくなる日だよ」
「えっ、それって・・・」
「でもレイは英国国教会じゃないの」
「スコットランド系でカソリックなんだよ、シンディもアイルランド系のカソリックだから問題ない」
驚くシンディを残してボクも別の控室に。準備が整ったところでパイプオルガンの演奏。シンディはウェディング・ドレスでバージン・ロードを。これが輝く天使モデルのウェディング・ドレスか。シンディに良く似合ってる。
牧師が出てきて誓いの言葉から、誓いのキス。誰も参列者はいないけど、これが二人の結婚式。
「レイ、シンディは、シンディは・・・」
「さっき誓ったばっかりじゃないか。シンディはボクの妻であり、ボクはシンディの夫だよ」
神に誓ったからには正真正銘の夫婦、そして記念写真。
「ニッコリ笑ってください」
これも驚いた。カメラマンの手配もお願いしたら、現われたのは麻吹つばさ。ボクだって知ってる世界一のフォトグラファー。でもシンディには相応しい。すっきりしない部分は残ったけど、これ以上セレネリアンの謎を追うのは難しいとシンディと結論したんだ。そんなことより、二人の将来を考える方が百倍大切だよ。
フォート・デメリックに帰ってから最終報告書をシンディと共に書き上げ、記者発表。これはこれで大きな反響を呼びましたた。この報告をもってセレネリアン計画から身を引きました。
そこからボストンでシンディの両親に挨拶。シンディがアンダーウッドの一族と言っても端っこだというから油断していたら、あまりの豪邸に内心仰天しました。さらに驚いたのは、
「こちらがマリー大叔母様よ」
マリーCEOも、かなり月夜野社長にあれこれ頼み込んでたらしいのだけは察することができました。そして、
「お似合いよ。シンディを幸せにしてね」
ロンドンのボクの両親の家はコンバージョン・フラット。シンディの家の後でちょっと恥しかったけど、シンディは気にもしてなかったので助かっています。式は思い出の神戸で挙げた点に文句は言われましたが、それでも祝福してくれています。そこから新婚旅行に出発。シンディの希望で南欧に。
「レイ、結局伏せたのね」
「ダンリッチ教授の意見もあったしね」
最終報告書の骨子は、
・セレネリアンは五万年前に存在したエランのギガメシュと言う国の下士官でムティと言う名である
・ギガメシュはエランの大戦で敗れ地球への亡命を試みている
・ムティはなんらかの理由で月に取り残されたが、理由については不明である
・もしエランのギガメシュ人が地球に着陸できていたら地球人と混血した可能性がある
エラン人が地球人の祖先になっている可能性については激しい議論も引き起こしましたが、セレネリアンが地球人類と種として同じ点は揺るぎない事実であり、エランと地球の間に起された神の奇跡としか言いようがないぐらいになっています。
「レイやシンディの血の中にもエランの血は流れているのかしら」
「もし地球人相手に子孫を増やしたのなら可能性はあるね」
残された謎はY染色体アダムだけど、
「そこまで神の奇跡は起こったのかしら」
「ダンリッチ博士も残念そうだったけど、セレネリアンが明白にエラン人とわかってしまったから、これ以上の混乱は避けたいとしてる」
シンディと来ているのはティレニア海にあるリゾート地のカプリ島。シンディは、はしゃいじゃって大変。でもこれでボクのセレネリアンへのチャレンジは終了。業績的には大したことないですが、手に入れたものは計り知れません。
「見て見て、レイ」
シンディは神戸でまた綺麗になっています。これほどの女性がボクの妻なんです。今でも信じられないぐらいです。素敵で、優しくて、賢くて、思いやりがあって、何よりボクを心の底から愛してくれています。これ以上の成功がこの世にあるでしょうか。
「ところでレイ。エレギオンの女神を見て動揺しなかった。シンディはそっちが心配で、心配で」
「ああ実に美しかったけど、ボクにはシンディの方がもっと素敵で綺麗に見えたよ」
「あら嬉しい。信じてイイよね」
「もちろんさ」
しばらくはシンディとの時間を思う存分味わいたい。そして次のチャレンジに挑みたい。いくつか来てるのは来てるけど、
「シンディはどこまでも付いてきてくれる」
「当たり前じゃない、レイが行くところならどこでも一緒だよ。シンディを置き去りにしたら許さないから。レイが月に行くと言うのなら月に行くし、エランに行くと言うのならエランだって行くに決まってる」
それなら次に挑むべきチャレンジは一つだ。
「シンディ、愛してる」
「シンディも」